2025年4月7日月曜日

憲法カフェ~県民投票Ver.~ (田中淳哉弁護士)

「憲法カフェ」で湯沢町でもおなじみの田中淳哉弁護士が、ご自身のホームページに掲題のブログを掲載されました。
 これまで同弁護士は、原発関連でも原発を再稼働するかどうかは県民投票をやってから決めて欲しいということで署名を集めています24年11月5日)」をはじめ、いくつかのブログを発表しておられます。
 柏崎刈羽原発の再稼働問題については、ご存知の通り16日~18日の臨時新潟県議会で住民投票条例制定の審議が行われます。
 なお、原記事には下記でアクセスできます。
     憲法カフェ~県民投票Ver.~24年4月5日)
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憲法カフェ~県民投票Ver.~    上越中央法律事務所2025年4月5日


県民投票をテーマに

4月3日(木)、上越市内で憲法カフェの講師をしてきました。オファーをして下さったのは、これまでに何度も主催して下さっている「未来へたねまき隊」のみなさん。

今回のテーマは、原発再稼働の是非を問う県民投票条例についてです。新潟県内では、県民投票の実施に向けて条例の制定を求める署名が取り組まれ、集められた14万3000筆余が提出されました。今月16日から、臨時県議会で条例案が審議されることになっており、今回の憲法カフェは、最良のタイミングで開催されることになりました。

小学生にもわかるように

主催者の方からは、「小学生も参加するので、高学年くらいの子にもわかるようにお話しください」との要望も事前にいただきました。

たとえ話ではなく、本当に小学生が参加するのだとすると、その子たちにも理解してもらえるようにするには、枝葉をできるだけ取り払い、本質部分をしっかりかみ砕いて伝える必要があります。とはいえ、言うは易し行うは難し。かなり頭を悩ませながら、どうにか全体の構成を決めました。

いつもそうなのですが、中学生も投票できるようにした住民投票(長野県平谷(ひらや)村)の例など、準備の過程で私自身も初めて知ったこともたくさんありました。

幅広いメンバーが集う

当日は、小学生、中学生、高校生、さらには幼稚園児や赤ちゃんも来てくれました。現職の県議会議員さんや、市議会議員さんもご参加下さり、憲法カフェらしい幅広い顔ぶれが揃いました。

原発って、いまどうなってるの?

まずは、原発の再稼働に向けた準備がいまどこまで進んでいるのかということを確認しました。

住民投票は、再稼働に必要な「地元の同意」に関わるものであること。住民投票の条例案がいつ、どのように審理される予定であるのか等々。

住民投票って、やった方がいいの?

次に、それらを踏まえて、住民投票の意義について確認しました。

ごくごく素朴に考えると、住民の意思を確認するための住民投票には重要な意義がありそうです。ただ、実施するべきではないと主張している人たちもいます。そこで、その方々が主張している反対理由について2つの視点から考えてみることにしました。

1つめの視点は、29年前に実際に住民投票を行った旧巻町の経験に照らしてどうかというもの。

旧巻町の住民投票については、『UX新潟テレビ21』が3月27日放送の『スーパーJにいがた』で特集を組んでいます。また、『毎日新聞』(3月15日付朝刊)には、当時の町長へのインタビュー記事が掲載されています。時系列で事実経過を確認しながら、これらの報道内容のポイントをお話しました。ぜひリンク先から、番組や紙面そのものもご覧いただければと思います。

2つめの視点は、憲法の規定に照らしてどうかというものです。

憲法92条や95条も紹介しながら、国と地方の関係、地方自治体の中での住民と首長や議会との関係などについて説明しました。小学生にもわかるようにと、オリジナルの図を使ってお話しました。

まとめとして、反対理由に対応させながら、2つの視点から分析した内容を確認しました。

みそバーでランチしながら懇親

終了後は、「みそバー」でランチをしながら懇親しました。主催者の方が、「どうやったらみんなで楽しく、安心して話せる場が作れるかな~」ということを考えてご準備下さったおかげで、ゆったりとくつろげる、和やかな雰囲気の中で楽しく感想を交流することができました。

いろいろな食材で味噌をディップしながら味わい気に入った味噌を使って味噌汁にできます

自家製のものも含めて本当にいろんな種類の味噌をご準備くださいました

  • 憲法の話を聞いて感動した。「国策だから」と言われてもやもやしていたが、話を聞いて「やっぱりそうだよね」となった。頭の中がぐちゃぐちゃになっていたけれど、分かりやすく整理してくださったのでストンと落ちた。
  • 正規の手続きで正面から意思表明の機会を求めているのが、すごくかっこいい。子ども達の未来が自分達にかかっているのだと思った。ニュースなど全部を追えている訳ではないので、事実経過も含めてダイジェスト的に大事なところを確認できて、すごくよかった。
  • 難しさを感じて、なかなか自分事にしきれていなかったけれど、今回すごくわかりやすく整理してもらって、資料もあるので何回も見返せるのがありがたい。何度も何度も読み返して、自分の中にしっかり落とし込みたい。

参加してくれた小学生が、「ねぇねぇ、あのさぁ」と質問しに来てくれたり、中学生が「学校で○○の取り組みをしたいと思ってるんですけど、どうやって進めたらいいかアドバイスをいただけますか?」と相談に来てくれたりしました。直接やりとりしながら、なんだかとても幸せな気持ちになりました。

おみやげ

主催者の方の呼びかけで、知事や県議さん宛のメッセージカードを作成しました。最後は、県議会での質問を担当する予定になっている県議さんを「がんばってください!」と拍手で送り出して終わりになりました。

おみやげに、手作りのケーキとクッキーをいただきました。みそバーの準備、機材の手配、さらには広く参加を呼びかけるなどなど、本当に大変だったかと思います。素晴らしい学びと交流の場を設けていただき、ありがとうございました!

柏崎原発再稼働県民投票条例案審議へ 民意とずれ 解決の手段

 新潟日報に掲題の記事が出ました。
 柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問う県民投票条例案の審議は、臨時新潟県議会で16日から3日間の日程で行われる予定です
 福島第1原発の大事故以降、原発の再稼働の是非を問う都府県条例の審議はこれまで東京都、浜岡市、新潟県、女川市、川内市などで行われましたが、残念ながらいずれも各議会で条例案の制定が否決されています。
 原発誘致の段階でその可否を求める住民投票は、東北電力新潟県)巻原発建設計画に関して旧巻町で1995年に自主管理により実施され、投票数の95%が反対しました。
 引き続き1996年8月には全国初の住民投票が行われ、6割が反対を示しました。

 新潟日報は政治者の小原隆治早大教授(地力自治)に住民投票の歴史や意義などについて聞きました。
 また旧巻町の原発住民投票を主導した町長 笹口孝明氏に当時の反対運動や住民投票の経過などを聞きました。
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柏崎原発再稼働県民投票条例案審議へ 民意とずれ 解決の手段
 電力消費地の問題提起も
                          新潟日報 2025年4月6日
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問う県民投票条例案の審議が16日から、県議会で始まる住民投票の仕組みや意義などについて地方自治が専門の早稲田大の小原隆治教授(66)に聞いた。                (報道部・天谷友紀)

政治学(地力自治)小原隆治教授=早大
   小原隆治 こはら・たかはる
     1959年、長野県生まれ。早稲田大大学院修了。成跳火教授などを経て、2010
    年から早大政治経済学術院教授。著書に共編「震災後の自治体ガバナンス」(東
    洋経済新報社)など。

-全国では、どのようなケースで住民投票が実施されてきましたか。
 「原発や基地、産業廃棄物処分場に関する是非を問う場合だ。『Not In My Back Yard』の頭文字を取った、NIMBY(ニンビー)施設と呼ばれ、必要かもしれないが『わが家の裏庭にはお断り』というものが多い」
 以前は1996年の旧巻町の東北電力巻原発計画を巡る住民投票のように特別な例として10年間で数件程度だった。その後、平成の大合併で全国的に実施された。現在でも公共施設の建設に間するケースなどで年に数件ほどある。沖縄県では米軍飛行場の辺野古移設を巡る県民投票など、県レベルで2回行われている

ー住民投票の結果で政策は変わるのでしょうか。
 「住民投票には、投票結果が議会の議決結果と同じとする 『決定型』と、投票結果を尊重する『諮問型』がある。柏崎刈羽原発再稼働の是非を問う県民投票は諮問型と聞く。諮問型であってもこれまで投票結果が放棄された例は少ない」

首長と議員を住民が直接選挙で選ぶ二元代表制の下、住民投票はどのような際に行われるべきですか。
 「みんながハッピーになるわけではなく、アンハッピーな人も出てくる難しい問題には、議会だけで判断するより住民の声を聞いた方がいいこともあり得る。だが、何でも住民投票をやればいいということではない。スイスでは移民労働者を認めるか認めないか、宗教施設建設の是非など憲法で保障されているようなものを住民投票で上書きすることが行われてきた」

-なぜ住民投票制度があるのでしょうか。
 「私たちは選挙をし、選ばれた人が、いろいろなことを決めいく。だが、選挙時点では予されなかった争点が出てきた思うような行動を政治家がてくれなかったりするなど民と政治のずれが出る。その際、住民投票で解決しようという発が出てくる」

―今回の条例案は賛成か反対かを選ぶ方式を想定していますが、原発再稼働問題は二者択ーでは諮れないという意見もあります。
 「原発再稼働問題は究極的に稼働をするかしないか二つの選択だ。素人には判断できいとの主張もあるが、実際に住民投票をやるのであれば、素だからこそ勉強する機会を提供し、意味ある住民投票にしてくことが大事だ」

-県民投票を求める有効署名14万3千筆に達しました。
「身近なエネルギー問題について考える重要な機会になったは大きい。再稼働を巡る新潟県の動きについてどう考えるか、東京など電力消費地の人たちへの問題提起にもなる。仮に今後、原発再稼働派の知事が当選したとしても、原発再稼働問題に対しては慎重に判断しないいけないというブレーキにもなる

全県民が関わるべき 旧巻町の原発住民投票を主導 元町 笹口孝明氏
 原発を巡る県レベルの住民投票は2011年の東京電力福島第1原発事故以降、これまで本県を含む6都県の議会で採決されたが、いずれも否決されている。市町村では、1996年8月、旧巻町(現新潟市西蒲区)で東北電力巻原発建設計画の是非を巡り全国初の条例に基づく住民投票が行われ、投票数の6割が反対の意思を示した。
 旧巻町で住民投票を求める運動が起きたきっかけは、原発に慎重姿勢だった当時の町長が、94年8月に一転して原発推進を掲げ、町長選で3したことにある。その2カ月後、住民らによる「巻原発住民投票を実行する会」が発足した。
 会の立ち上げに携わった元巻町長の笹口孝明氏(77)は「原発問題は生命や健康、財産に関わるもので、子や孫に影響するかもしれない。原発に焦点を絞り、町民の判断を仰ぐべきだと考えた」と語る。
 95年には同会が中心となり、自主管理による住民投票を実施。住民投票に隨成、反対敵司方のチラシが飛び交う「チラシ合戦」も繰り広げられたが、結果は投票数の95%が反対の意思を示した。
 96年1月には、住民投票の早期実施を公約にした笹口氏が町長選で初当選。同年8月に行われた条例に基づく住民投票では、反対が61%を占め、原発建設に再び「ノー」を突きつけた。
 その後、町は投票結果の尊重を求める住民に原発建設予定地内の町有地を売却。原発推進派の町民が住民訴訟を起こしたものの敗訴し、03年に東北電が巻原発計画を白紙
撤回した。
 96年の住民投票では投票率が88%を超えるなど住民の関心が高かった。笹口氏は「町民は原発について、長きにわたり考えてきた下地があった」とみる。

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問う県民投票条例案の審議は、県議会臨時会で16日から3日間の日程で行われる。笹口氏は「原発再稼働は重大な問題なので、全県民が関わって当然だ。こうした運動が起こったことを知事や議員も正当に受け止めて判断してほしい語った

原子力規制委員が島根原発視察 原子炉の構造などを確認

 原子力規制委の長﨑委員が3日、中国電力島根原発3号機を視察しました。
 改良型沸騰水型軽水炉ABWRの3号機はすでにほぼ完成していて、今後の運転開始に向けては規制委の審査が焦点となります。今回は原子炉の構造の把握などが目的です。
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原子力規制委員が島根原発視察 原子炉の構造などを確認
                           BSS山陰放送 2025/4/4
国の原子力規制委員会の委員が、3日、島根県松江市にある中国電力島根原子力発電所の3号機を視察しました
3号機はすでにほぼ完成していて、今後の運転開始に向けては、規制委員会の審査が焦点となりますが、今回は原子炉の構造の把握などが目的だとしています。
島根原発を視察したのは原子力規制委員会の長﨑晋也委員と原子力規制庁職員の合わせて7人です。
3日は、ABWR=改良型沸騰水型軽水炉と呼ばれ安全性を向上させたとされるタイプの3号機を視察しました。
まだ核燃料が入っていないため、委員たちは特別な防護服などなしに原子炉の中心部である圧力容器の外壁部分や、発生した蒸気を発電タービンに送る主蒸気配管などを間近で確認していました。
原子力規制委員会・長﨑晋也委員
「実物の大きさ、このサイズ感と言いますかね、そういうものをやっぱり、しっかりと理解しておかなければいけない。将来的な核燃料サイクル施設への応用というのにも、使えるんじゃないか。」
視察は4日も行われ、去年12月、13年ぶりに運転再開した2号機で運転検査や試験に立ち会ったほか、事業者としての中国電力の取り組みなどを確かめたということです。

例会のおしらせ

 下記により「原発をなくす湯沢の会」4月の例会を行います。

 どうぞお出でください。

   と き  08日(火) 19:00~21:00
   ところ  湯沢公民館 1階 研修室1
          (場所は事務室前の表示板でご確認ください)

 学習会のテキストは下記です。

 「新潟から問いかける原発問題ー福島事故の検証と柏崎刈羽原発の再稼働」
             池内了  明石書房 (24.4.20 2400円+消費税) 

07- 燃料デブリ取り出しへ…カメラ交換 東電 今月中には2回目着手

 福島第1原発2号機に溶け落ちた核燃料(デブリ)の2回目の試験的取り出しに向け東電は4日、取り出し装置に装着しているカメラなど交換に着手しました。その後手順の確認を経て4月中に試験的取り出しに着手する予定です
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燃料デブリ取り出しへ…カメラ交換 東電 今月中には2回目着手
                            福島民友 2025/04/04
 東京電力福島第1原発2号機に溶け落ちた核燃料(デブリ)の2回目の試験的取り出しに向け、東電は4日、取り出し装置に装着しているカメラなどの交換に着手する。交換には2週間程度かかる見通しで、終了後に手順の確認を経て試験的取り出しに着手する。東電は「予定通り4月中に着手できるよう準備を進める」としている。
 東電が3日、発表した。現在、装着しているのは1回目の取り出しの時に使用したカメラで、故障予防のために交換する。神戸市で交換作業の訓練をするなど準備を進めてきたという。
 装置先端にある爪形器具も交換し、爪部分の長さを5ミリから7ミリに変更する。遠隔で操作する際に、デブリの大きさを把握しやすくする狙いがある。取り出すデブリの大きさは3グラム以下で変更ないという。

2025年4月3日木曜日

『原子力深考 絡み合う思惑』 上・中・下(新潟日報)

 柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問うため、市民団体が実現を目指す県民投票について、花角英世知事は2日の定例記者会見で、「判断に悩んでいる県民もいる。考えていることを調べるにはマルかバツかの投票では難しい」とし、賛成、反対の二者択一で意思を示す方法に懐疑的な見方を示したうえで、条例案に付ける意見の内容については「検討中」としました。知事が県民投票の在り方について公式の場で発言するのは初めてです。

 新潟日報が3月31日~4月2日の3日間、「原子力深考 絡み合う思惑」(上・中・下)という記事を連載しました。再稼働問題について全般的に論じたものですが、県民投票を巡っての知事や県議会の意向などについても、(記者の想定も含めて)記されているので紹介します。
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柏崎刈羽原発巡る県民投票…花角英世知事「マルかバツかの投票では難しい」二者択一に懐疑的な見方
                             新潟日報 2025/4/3
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問うため、市民団体が実現を目指す県民投票について、花角英世知事は2日の定例記者会見で、県民の意見を聞く方法として「判断に悩んでいる県民もいる。考えていることを調べるにはマルかバツかの投票では難しい。そこは考えどころ」とし、賛成、反対の二者択一で意思を示す方法に懐疑的な見方を示した。県民投票の在り方について公式の場で発言するのは初めて。ただ、知事が条例案に付ける意見の内容については「検討中」とした。

県民投票条例制定を審議する新潟県議会臨時会、4月16日から3日間 「県民投票で決める会」が事と面会、条例案賛成の意見を付記するよう要望
・市民団体の条例案では、柏崎刈羽原発の再稼働に賛成、反対のいずれかを選んで投票する方式を盛り込んでいる。市民団体は...

   (以下は会員専用記事のため非公開 残り369文字 全文:645文字)


原子力深考 絡み合う思惑 上
柏崎再稼働「読後破棄」の青写真 県会の4月採択「幻」に
                         新潟日報 2025年3月31日
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を巡って、複数の本県関係者は今年に入り、政府筋からある青写真を示された。紙には「読後破棄」の文字。政府が目指す今夏の7号機再稼働に向けた工程表が記されていた。
 関係者によると、政府が照準を定めたのは、4月の県議会臨時会。市民団体が再稼働の是非を問う県民投票条例制定を直接請求したことで招集される機会だ。
 県民投票条例案の審議に加え、経済団体が柏崎刈羽原発の再稼働を求める請願を提出する。これを県議が採択することで、花角英世知事の決断を後押しして同意を得る-。そんなシナリオが描かれていた
 請願提出者は経団連や東京商工会議所などとする案が浮上していたという。電力消費地である東京の経済界が県議会に再稼働を求める構図だ。これに符合するように、昨秋には経団連の十倉雅和会長が柏崎刈羽原発を訪れ、早期の再稼働への期待感を表明していた。
 柏崎刈羽原発の再稼働を巡っては、立地する柏崎市と刈羽村がおおむね同意する意向を示している。焦点となるのは花角知事の意向だ。事態を動かすため、県や県議会に働きかけを強める環で、政府がシナリオを示したとみられる。
 しかし、思惑通りには進まなかった。県議会最大会派の自民党県議団には早期再稼働に慎重な意見も多く、夏に控える参院選への影響を懸念する向きもある。
「最初から無理筋なのは向こうも分かっていた」と自民関係者。結局、政府が描いた青写真は「夢のスケジュール」のまま終わったという。
   ×   ×
 地震による被災、福島の事故、絶えぬ不祥事-。柏崎刈羽原発1号機の運転開始から40年がたとうとしているが、この間、原発の存在意義や信頼感は変容している。今あらためて原発について深く考える新企画
 「新潟・原子力深考」。初回シリーズは、再稼働問題を巡る水面下の攻防から。

「短期間でも」焦る政府 自民慎重 夏再稼働難しく
 政府は昨年3月、県や柏市、刈羽村に対し、東京力柏崎刈羽原発の再稼働に同意するよう求めた。東は7号機の原子炉に核燃料を装填し、同6月には技的に再稼働できる状況が整った
 この間、霞が関や永田町ではいくつものプランが浮んでは消えていった。
 最初は昨年の6月定例、難しければ9月定例会、れも駄目なら12月定例会ー。年に4回ある県議会の定例会ごとに、再稼働の同意を得る構想がささやかれてきた。
 そうした中で示された、経済団体が今年4月の臨時会に請願を提出するシナリオは「これまで以上に詳細だった」(自民関係者)という。

■ラストチャンス
 政府や東電が夏までに地元同意を得ようと急ぐのは、7号機が10月中旬以降に動かせなくなるからだ。
 2月下旬、東電は7号機のテロ対策施設の完成が従来の今年3月から4年以上先の2029年8に遅れると公表した。設置期限の今年10月13日を過ぎると再稼働はできなくなる。今夏を「ラストチャンス」と位置付け、短期開でも稼働させたいとの焦りがにじむ。
 異例のシナリオが浮上した背景には、夏の参院選もあるとみられる。
 参院選は7月3日公示、20日投開票の日程が有力視される。これに対し、県議会の次の定例会である6月定例会は、7月7日が最終日となるスケジューールが濃厚となっている。
 つまり、6月定例会まで待っていると参院選に日程が一部重なり、与党自民党にとって不利になりかねないとの見立てだ。政府関係者の人は、電力需要が高まる夏までに再稼働させるには「参院選より前に決着させることが必要だ。そのためには臨時会で勝負する」と解説してみせた。

自民慎重 夏再稼働難しく

■「絵に描いた餅」
 臨時会シナリオは、政府からごく限られた自民関係者にされたとみられる。
「こんなの無理だ」。本県のある自民関係者は、内容を見てそう感じたという。自民県連幹部の人は、シナリオの存在を「記憶にない」とはらかしつつ、「そんなものは絵に描いた餅」と切り捨てた。県議会最大会派の自民県議団の中では早期の再稼働に慎重な県議もおり、一枚岩では決してない
 14日、県議会連合委員会に参考人として出席した経済産業省資源エネルギー庁の村瀬佳史長官らは、県議の質問に対し、従来通りの説明に終始した。昨年夏に自民県連が政府に要望した「立地地域への経済的メリット」などについても明確な回答はなかった。
 再稼働を急ぐ政府を向こうに、自民のベテラン県議は「参院選までは休戦だ」とけん制する。
 一方、花角英世知事は、再稼働の是非について「県民の意見を聞き、判断・結論を示した上で県民の意思を確認する」としてきた。県民の意思を確認する手法については「信を問う方法が最も明確で重い」と繰り返し、再稼働問題を知事選で決着させる可能性もにじませている。
 臨時会のシナリオを調整してきた政府関係者はこう漏らす。「再稼働のスケジュールを考える上で、最大のファクターである知事の意向が分からないんだ」


原子力深考 絡み合う思惑 中
再稼働「県議会で」 東電、経済団体が援護射撃
                          新潟日報 2025年4月1日
政府のお願い
「エネ庁はとにかく早く県議会で決めてくれと思っている」
 経済産業省資源エネルギー庁との間で調整役を担った自民関係者は、実感を込めてそう語る。
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題は地元同意が焦点となっているが、その鍵を握る花角英世知事は、慎重に事態を見極める姿勢を崩していない。焦りを募らせたエネ庁が働きかけを強めたのが、県議会最大会派の自民県議団だった。
 今年1月、自民のベテラン県議は、エネ庁幹部らと地元で酒席を囲んだ。この場でエネ庁側は、あるお願いを切り出したという。
「再稼働是非の判断は、県議会に任せる流れをつくってもらえないでしょうか」
 ベテラン県議は、再稼働を急く国側をけん制しつつ、「県議は県民の代表だ。まずは県議会でしっかり議論する」と応答。県議会での議論自体は否定しなかったという。

■道 筋
 3月14日。その県議会では、エネ庁の村瀬佳史長官はじめ、国の関係機関が出席して原発再稼働問題を議論する連合委員会が開かれた。形式上は県議会が長官らを参考人として招いた格援護射撃好だが、実際はエネ庁側の強い要請によるものだ。
 関係者によると、エネ庁は昨年秋頃から「県議会で説明する場を設けてほしい」と打診していた。東電福島第1原発事故後に再稼働した他県の原発の先例にならい、県議会で再稼働の機運を高めて地元同意への道筋を付ける狙いが透け
た。
 これに対し、自民県議団では、避難道路の整備方針など議論の材料がそろっておらず、「まだ早い」と首を縦に振らずにいた
 ところが、年明け以降、にわかに公の場で県議会を意識した発言が出始めた。年始のあいさつで来県した東電の小早川智明社長が「県議会に議論していただくことも重要」と述べると、新潟商工会議所の福田勝之会頭も別の場で「県民の代表が集まる県議会で議論し、県民に発することが重要だ」と呼応した。
 3月の参考人招致は、こうした援護射撃にも押される形で実現した。

■不 満
 しかし、参考人招致では県議側の不満が渦巻いた県民の間で不安の声が多い避難対策や屋内退避の実効性などについて、国側は従来通りの説明に終始。元自民県連幹事長の柄沢正三県議が「人ごとだ」「答弁になっていない」とヤジを飛ばした。
 終了後、同じく元幹事長の小野峯生県議は「当面、再稼働は難しい」と突き放した。ある県連幹部は「参院選後の秋に仕切り直しだ」と再度の説明を求めた。
 32人を擁する大所帯の自民県議団の考えもまだら模様だ。再稼働に理解を示す議員もいれば、厳しい姿勢を崩さない議員もいる。
 若手議員の1人は「国策の原発再稼働について、なぜ県議会に責任を押しつけようとするのか」と拒否感を抱く。無理に決めようとすれば党派を割ることになりかねず、2年後の県議選に影響するとの声もある。
 野党会派も同様だ。国政野党系で9人が所属する第2会派の未来にいがたは、立憲民主、国民民主、社民の3党の党籍を持つ県議らが集まり再稼働への考えには温度差がある。大淵健代表は「再稼働については個々の判断。会派で決めるものではない」とする。
 県議会が今後、どう動くのかはまだ見えない。自民県連の岩村良一幹事長は現状をこう表現した。「再稼働の議論を深めてはいるけど、深まっていない」


原子力深考 絡み合う思惑 下
揃う材料 変わる局面 知事「存在懸け」覚悟にじむ
                          新潟日報 2025年4月2日
信を問う
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非について、花角英世知事は自らの結論を示した上で、県民の意思を確認するとしてきた。その手法を問われると、決まってこう笞えてきた。
「信を問う方法が最も明確で重い」
 ただ、「信を問う」が何を指すのか、核心までは過去一度も踏み込んでいない。記者会見では「決めているものはないが、字義的には存在を懸けるというニュアンスになる」と説明。進退を想起させる言葉を用いて覚悟を示してきた。
「自らの進退と原発をリンクさせる発言はとにかく控えてください」。自民党関係者の人は、かつて開かれた同党国会議員や県議との会合で花角知事にくぎを刺したと明かす。再稼働問題を争点に知事選をすれば、厳しい戦いが予想されると踏んでいるためだ。
 これに対し、花角知事は「慎重には言います。ただ、もう記者会見で言っちやっている」と答え、再稼働問題に自ら決着を付ける意思をにじませたという。

■要 望
 花角知事が置かれている状況を象徴する出来事が最近あった。
 3月28日、花角知事は主張が相反する2団体からの訪問を相次いで受け、それぞれの要望に耳を傾けた。県民投票条例の制定を直接請求した市民団体と、県議会による再稼働判断を求める柏崎刈羽地域の経済団体だ。神妙な面持ちで要望を聞き終わると、いずれの団体にも「私なりの考えをまとめたい」と短く笞えた。
 県議会は16日から3日間の日程で県民投票条例案を審議する臨時会を開く。条例案の成否は不透明だが、仮に否決されれば、知事選以外で「信を問う」選択肢が一つ減ることになる。自民県連幹部は「知事にばかり責任を取らせるわけにはいかない。議会が動かないといけない時期がいずれ来る」と、その先の対応に思いを巡らせる。

■環 境
 これまで「再稼働の議論を深め、県民の受け止めを見極める」としてきた花角知事だが、判断に向けた環境は徐々に整いつつある。
 柏崎刈羽原発の安全性を確認してきた県技術委員会は2月、知事に報告書を提出した。3月下旬には、原子力規制委員会の検討チームが屋内退避の運用見直しに関する最終報告書をまとめている。いずれも花角知事が議論の材料として例示してきたものだ。
 県幹部は「判断する時期は着実に近づいているとは思う。材料がそろってしまえばえば、いつまでもというわけにはいかない」と語る。
 一方で、現段階では明確になっていないが、立地地域への経済メリットもポイントの一つだ。花角知事は周囲に、「県にとって何にもプラスにならないのに再稼働は受けられない。そんなにお人よしではない」とも語っている。
 花角知事の2期目の任期満了は来年6月。自民県議団の中には「任期満了に伴う知事選が『信を問う』機会になる」(ベテラン県議)との見方がある。一部には、今夏の参院選と同時に花角知事が出直し選挙に臨むとの臆測もあるが、複数の県幹部は「今の状況では難しいだろう」とみている。
 2012年3月に柏崎刈羽原発が全基停止してから13年がたった。政府や東電は「悲願」の再稼働に向けて動きを強めている。地元同意の行方はなお見通せないが、一つ、またーつと議論の材料が示される中、花角知事自身の判断が問われる局面へと向かいつつあ
る。
          (この連載は報道部・遠藤寛幸が担当しました)