Yahoo!ニュースが。山梨県富士山科学研究所の藤井敏嗣所長の解説を中心にした掲題の特集記事を出しました。
藤井所長は、「過去5600年間で平均すると、富士山はおよそ30年に1度のペースで大小さまざまな噴火をしていた計算になる。しかし江戸時代の1707年以降約300年間噴火を休んでいることから、いつ噴火を再開してもおかしくない」と話します。
一般に噴火時には噴石や溶岩流、火砕流などが起きるとともに、大量の火山灰が風に乗って広範囲に降下します。
火山灰は鉱物質の重い物質で濡れると通電性を帯びるため、降雨時に電柱上の碍子絶縁体が漏電して火事を起こすなどのトラブルの他、0.5ミリ等の極めて微量な堆積量でも地上の電車の安全運転が阻害され、3センチ以上になると自動車のタイヤが滑って走れなくなどの支障が生じます。自動車エンジン用の空気フィルターが目詰まりして動けなくなるトラブルも起きます。
要するに降灰によるトラブルで所員が発電所にアクセスできなくなるという事態が生じるため特に原発では重大な支障が生じます。これまでは規制委は近傍の火山からの「降灰量が10センチあっても問題はない」と安易に判断するのが通例になっていましたが、大いに見直す必要がありそうです。
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“300年沈黙”の富士山が大噴火したらー停電、断水、交通機関ストップ。火山灰がもたらす被害 #災害に備える
オリジナル 特集 2026/4/11
国内外の人を魅了する日本最高峰の富士山。富士山の噴火は絵空事ではないと、国などが対策を加速させている。都市にとって懸念されるのは、火山灰による被害。それ自体が命に直接危険を及ぼすわけではないが、降り積もるなかでじわじわと影響が広がり、首都圏の交通機関や電力といったインフラの機能をマヒさせるとされる。私たちが備えなければいけない「灰色の悪夢」とは何か、実像と対策に迫った。
(NHKスペシャル「富士山大噴火 迫る“灰色の悪夢”」取材班/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
300年間の“沈黙”「いつ噴火してもおかしくない」
「極端なことをいうと、例えば来週、突然地震が1日に10回、20回起こり始めたら、数日以内に噴火することも十分にあり得る」
こう指摘するのは山梨県富士山科学研究所の藤井敏嗣所長だ。
富士山で大規模噴火が起きた際、都市にどのような影響が出るのか。NHKスペシャル「富士山大噴火 迫る“灰色の悪夢”」では、ドラマとドキュメンタリーで描くにあたって、噴火の実像や起こりうる被害について国や専門家、自治体、電力会社、鉄道会社、通信会社などへの取材を重ねた。
富士山研究の第一人者である藤井所長は、長年、富士山の大規模噴火によるリスクを訴えてきた。今も研究グループの一員として、山頂などで噴火の履歴を明らかにする調査を進めている。
先の発言の背景にあるのは、約300年間の“沈黙”だ。
過去5600年間で平均すると、富士山はおよそ30年に1度のペースで大小さまざまな噴火をしていた計算になるという。最後の噴火は江戸時代の1707年。藤井所長は、「火山学からみると富士山はまだ“若い”火山で、活動が活発な期間は終わっていない。数百年休んでいるところで、いつ噴火を再開してもおかしくない」と話す。300年は人間の時間スケールで見れば長いが、数十万年にも及ぶとされる火山の寿命のなかでは一瞬に過ぎない。
2004年、富士山噴火への対策として、噴石や溶岩流、火砕流、火山灰などが到達する可能性のあるエリアを示す「ハザードマップ」が初めて公開され、富士山の周辺地域で避難計画づくりなどが進んできた。一方、首都圏における大量の火山灰への対策はそれほど進んでこなかったのが実情だ。現代の大都市圏に大量の火山灰が降り積もるような事態は、日本のみならず世界でも経験していない。
かつて1707年の富士山の「宝永噴火」で、江戸の街におよそ2週間にわたって火山灰が降った。下の図はもし同じ規模の噴火が起きた場合、どの程度火山灰が積もりうるかを示したシミュレーションである。首都圏にとって影響が大きい風向きだった場合、東京23区で10センチ程度、神奈川県の一部の地域では30センチ以上積もるおそれがあるとされ
ている。
火山灰は直径2ミリ以下と細かい。噴火の規模がそれほど大きくなければふもとにとどまるが、規模の大きな噴火で上空高くに大量の火山灰が放出されれば、風の強さや向きによって遠くまで飛び、降り積もる。富士山の場合は関東のほか、東北、北陸、東海、近畿まで飛ぶ可能性があるとされている。
電気や水道、交通機関にも“ミリ単位”で出る影響
2004年に出された想定では、宝永噴火と同等の規模の噴火が起きた場合、経済被害は最大およそ2兆5000億円だ。しかし藤井所長は、これをはるかに上回る可能性があると指摘する。
「噴火の継続時間にもよるが、交通も電力もダメージを受けることを考えると、2兆5000億円ではとても済まないだろう。さまざまなサプライチェーンも分断されうる」
火山灰はわずか数ミリ積もっただけで現代都市に深刻な影響を与えるという分析や実験の結果も、そろいつつある。積もる量によって、以下のような影響が出るとされている。
▼0.5ミリ以上…地上を走る電車は運行停止。鉄道会社は、レールと電車の間を流れる電気から電車の位置を把握しているが、わずかな量でも灰がレールに積もると位置がわからなくなるおそれがある。
▼2ミリ以上…空港では灰の除去が必要になり、作業が終わるまで滑走路が使えなくなる。
▼3センチ以上…雨が降ると、二輪駆動車はタイヤが滑って走れなくなる。スリップ事故やスタックが起きる可能性がある。
▼10センチ以上…灰が乾燥した状態でも、二輪駆動車は走れなくなる。
住民が移動できなくなるのはもちろん、トラックなどが行き来できなくなれば、物資の輸送も滞る。
また、断水のおそれもある。川などの水に火山灰が混ざって浄水施設の処理能力を超えると、飲み水に適さなくなることも考えられる。停電が長期化した場合、浄水場や配水施設が運転できなくなる可能性もある。下水道も、雨などで流された火山灰が入り込むと詰まるおそれがあるほか、下水処理場に火山灰が流れ込めば処理能力が落ちる可能性も指摘されている。
そして、交通機関やインフラの復旧に打撃を与え、社会に大きく影響を及ぼす可能性があるのが、停電だ。今回、取材班は、火山灰がインフラに与える影響を検証するため、さまざまな実験を行った。その中の一つ、電力中央研究所の協力による実験を紹介する。
電柱を模した柱に、電線や「碍子(がいし)」など実際に使われている部品を取り付け、住宅街などにある「配電線」を再現した。「碍子」は電線以外に電気を通さないための「絶縁体」として設置される。この部品があるおかげで、電気が柱などへ流れる漏電が起きずに済む。
停電は、火山灰に加えて「雨が降る時」に起きるという。そのため、この「配電線」セットに火山灰をかけ、その上から雨に見立てて水を注いだ。すると2分後、碍子から火花が散り始めた。
火山灰は水分を含むと電気を通す性質があるため、火山灰と雨が重なることで碍子が「絶縁体」として機能しなくなり、漏電が起きた。さらに、灰は空気中で水分を吸い寄せる「雨粒の核」の役割を果たすため、火山灰が噴出されると雨が降りやすくなると考えられている。
電力会社は漏電を検知すると、感電事故などを防ぐためにその地域への電気の供給を止める、つまり停電が発生するのだ。
停電を引き起こすおそれのある火山灰の深さはわずか3ミリとされる。実際に、2016年に熊本県の阿蘇山で噴火が起きた時、およそ2万7000戸が5時間以上停電した。
首都圏とその周辺ではおよそ40万世帯が停電するおそれがあるという試算があり、噴火が長引けば、停電の長期化も懸念される。
藤井所長は、都市機能のマヒや停電といった状況が重なると深刻な事態を招くと警鐘を鳴らしてきた。
「碍子に積もったものは人力で取り除かなければいけない。その人員を派遣するにしても、道路・鉄道が使えなければ復旧までに時間がかかる。火山灰そのもので人が亡くなるということはおそらくないけれど、交通網が途絶えた場合は病院に行きたい人が行けなくなる。二次災害と呼ぶべきかもしれないが、命を失う方が出てくるおそれもある。被害を長引かせないために、あらかじめどういう手順で対策を取るかを決めておくことが重要だ」
消えてなくならない火山灰 どう除去するか
火山灰が都市にもたらす影響を直視した対策の動きが行政・民間ともに始まりつつある。
ライフラインや物資の輸送をはじめとした、生活の維持に向けた具体的な対策を議論するため、国や東京都、鉄道、電力、通信会社などが参加する新たな協議会が2026年に立ち上がった。
水道事業者や電力、鉄道会社などでも対策が進んでいる。このうち東京都は、水道局が管轄する富士山に比較的近い浄水場で、水中の不純物を沈めて取り除く「沈殿池」をシートで覆えるようにするなど、水質を維持するための対策を講じている。また、インフラ施設や医療機関への通行を確保するため、優先的に灰を除去する道路を指定。路上の灰の除去訓練も行うなど、備えを進めている。
大きな課題は、火山灰を捨てる方法だ。
火山灰は雪と違い、消えてなくならない。富士山噴火に際して、住宅や道路に降り積もり、除去が必要な火山灰の総量は「4.9億立方メートル」にのぼるとされる。これは、東日本大震災の災害廃棄物のおよそ10倍に相当する量だ。
国は集めた灰を仮置き場へ運び、その後、最終的な処分をするという流れを想定している。しかし、想定される火山灰の総量があまりに多く、仮置きできる場所の確保が課題だ。
2025年の国の報告書では関東と山梨県、静岡県の1都8県を対象とした試算で、風向きによっては、東京都と神奈川県、山梨県では火山灰の量が仮置き場で受け入れ可能な容量を上回る可能性があることが示された。また、最終処分方法も報告書では、再利用や埋め立て、海への投入などさまざまな手段を組み合わせて処理する必要があるとされている。
前述の協議会では、仮置き場の選定も検討テーマとなっている。また、最終処分については国が引き続き検討するとしている。
「原則、自宅で過ごす」求められる備えは
富士山の火山灰に見舞われた時に、住民はどう行動すべきか。国は2025年の報告書で「原則として自宅等での生活を継続」としている。
富士山で噴火が起きた時、火山灰が多く出るのか、溶岩が流れ出るのかといった、噴火のパターンを事前に把握するのは難しいだろうというのが専門家の見解だ。深刻な影響が出る場所の予測も噴火が始まるまでは難しい。
そのため避難の基準は、雨が降った時に木造住宅が倒壊するおそれがある「30センチ」とされた。30センチ以上灰が降った場合は原則避難とされている。また、灰が3センチから30センチ降った場合も、基本的には自宅で過ごすことを求めているが、停電が長期化するなど生活への影響が大きくなれば、人工透析や介護サービスなどが欠かせない人は原則、避難が必要だとした。この指針をもとにして、今後それぞれの自治体は計画を立てていく予定だ。
自宅で生活を続けることが基本ということは、自宅での備えが必要になる。
まずは水と食料の備蓄(1週間分以上が望ましい)や懐中電灯や予備のバッテリー。これは、地震などほかの災害への備えにもなる。また、火山灰特有の備えとして、防塵マスクやゴーグルも挙げられる。粒径が細かい火山灰を吸い込むと肺や気管支に入る可能性があり、ぜんそくなどの持病がある人は症状が悪化する場合も。国は、火山灰が降っていても「徒歩での移動は可能」としているので、外出が必要な時はこうした備えがあるとよいだろう。
火山のハザードマップを確認することが第一歩
「NHK全国火山ハザードマップ」に掲載の富士山の火山灰の分布シミュレーションの一例。風向きの変化によってはさまざまな方角へと火山灰が広がる可能性がある
地震や大雨などと比べ、火山灰への備えが必要だという認識はまだ広がっていない。まずは、自分たちの地域にどういったリスクがあるのかを知ることが重要だ。NHKは、富士山のほか、全国で噴火警戒レベルを導入している火山のリスクをWEBでまとめて確認できるようにした。富士山の場合、火砕流などのデータのほか、火山灰のシミュレーション結果を複数見ることができる。火山灰の深さもわかるので、先ほどの国が示した目安と比較可能だ。ただ、火山灰の広がり方は、風向きや風の強さによって無数に変化する。そのため、「色が塗られていないから安全」とはいえないことに注意したい。
現代都市がいまだ経験したことのない「灰色の悪夢」。リスクを知り、備えの一歩を踏み出してほしい。
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