2021年4月30日金曜日

中国はなぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか

 ジャーナリスト姫田小夏氏が「中国はなぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか、専門家が指摘する5つの理由」とする記事を出しました。
 これまで政府側の人たちが安全のみを強調し、トリチウムがDNAを破壊する性質に全く触れていない中で、キチンとそのことに触れています。この件は1974年に日本放射線影響学会が警告を発しているところです。
     ⇒4月14日)菅政権「原発汚染処理水の海洋放出」はゴマカシだらけ
 またこれまで、IAEAも海洋放出を容認したという報じられ方しかされませんでしたが、「独特で複雑な事例」なのでしっかりとこれを監督し、“すべての利害関係者”との調整が必要だ、との条件付きであることが明らかにされた点も重要です。
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中国はなぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか、専門家が指摘する5つの理由
              姫田小夏 ダイヤモンドオンライン 2021年4月30日
 日本政府が4月13日に発表した「処理水の海洋放出」の決定は、中国にも波紋が広がった。中国の専門家らも反発の声を上げているが、中国の原発も放射性物質を排出している。それでも、なぜ日本の対応は不安視されているのか。複数のレポートから客観的にその不安の原因を探った。(ジャーナリスト 姫田小夏)

中国の専門家らも批判する5つの根拠
 福島第一原発におけるデブリの冷却などで発生した放射性物質を含む汚染水を処理し、2年後をめどに海洋放出するという決定を日本政府が発表した。これに、中国の一般市民から強い反対の声が上がった。
 中国の原発も環境中にトリチウムを放出している。にもかかわらず、日本政府の決定には、中国の政策提言にも関わる専門家や技術者も声を上げた。その主な理由として、下記の要因を挙げている。

 10年前(2011年3月)の福島第一原発事故が、チェルノブイリ原発事故(1986
    年4月)に相当する「レベル7」の事故であること
(2) 排出される処理水が、通常の稼働下で排出される冷却水とは質が異なること
(3) 事故の翌年(2012年)に導入した多核種除去設備(ALPS)が万全ではなかった
    こと
(4) 日本政府と東京電力が情報やデータの公開が不十分であること
(5) 国内外の反対にもかかわらず、近隣諸国や国際社会と十分な協議もなく一方的に処
    分を決定したこと

 さらに、復旦大学の国際政治学者である沈逸教授はネット配信番組で、国際原子力機関(IAEA)が公表した2020年4月の報告書(*1)を取り上げた。
*1 Review Report IAEA Follow-up Review of Progress Made on Management of ALPS Treated Water and the Report of the Subcommittee on Handling of ALPS treated water at TEPCO’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station Vienna, Austria 2 April 2020

 報告書によると、IAEAの評価チームは「『多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)』の報告は、十分に包括的な分析と科学的および技術的根拠に基づいていると考えている」としている。しかし、同教授は「それだけで、IAEAが処理水の海洋放出に対して“通行証”を与えたわけではない」とし、この報告書に記載されている次の点について注目した。
 「IAEAの評価チームは、ALPS処理水の処分の実施は、数十年にわたる独特で複雑な事例であり、継続的な注意と安全性に対する再評価、規制監督、強力なコミュニケーションによって支持され、またすべての利害関係者との適切な関与が必要であると考えている」(同レポート6ページ)
 つまりIAEAは、ALPS技術が理論上は基準をクリアしていたとしても、実践となれば「独特で複雑な事例」なので、しっかりとこれを監督し、“すべての利害関係者”との調整が必要だとしている。IAEAは原子力技術の平和的利用の促進を目的とする機関であり、「原発推進の立場で、日本とも仲がいい」(環境問題に詳しい専門家)という側面を持つものの、今回の海洋放出を「複雑なケース」として捉えているのだ。
 同教授は「果たして日本は、中国を含む周辺国と強力なコミュニケーションができるのだろうか」と不安を抱く。
 他方、日本の政府関係者は取材に対し、「あくまで個人的な考え」としながら、「中国のネット世論は以前から過激な部分もあるが、処理水の海洋放出について疑義が持たれるのは自然なこと」と一定の理解を示した。

放射性物質の総量は依然不明のまま
 今回の処理水放出の発表をめぐっては、日本政府の説明もメディアの報道も、トリチウムの安全性に焦点を当てたものが多かった。東京電力はトリチウムについて「主に水として存在し、自然界や水道水のほか、私たちの体内にも存在する」という説明を行っている。
 原子力問題に取り組む認定NPO・原子力資料情報室の共同代表の伴英幸氏は、取材に対し「トリチウムの健康への影響がないとも、海洋放出が安全ともいえない」とコメントしている。その理由として、海洋放出した場合に環境中で生物体の中でトリチウムの蓄積が起き、さらに食物連鎖によって濃縮が起きる可能性があること、仮にトリチウムがDNAに取り込まれ、DNAが損傷した場合、将来的にがん細胞に進展する恐れがあること、潮の流れが複雑なため放出しても均一に拡散するとは限らないこと、などを挙げている(*2)。
ちなみに中国でも「人体に取り込まれたトリチウムがDNAを断裂させ、遺伝子変異を引き起こす」(国家衛生健康委員会が主管する専門媒体「中国放射能衛生」の掲載論文)ため、環境放射能モニタリングの重要な対象となっている。
 国際的な環境NGOのFoE Japanで事務局長を務める満田夏花さんは「トリチウムは規制の対象となる放射性物質であるにもかかわらず、日本政府は『ゆるキャラ』まで登場させ、処理水に対する議論を単純化させてしまいました」と語る。同時に、「私たちが最も気にするべきは『処理水には何がどれだけ含まれているか』であり、この部分の議論をもっと発展させるべき」だと指摘する。
「ALPS処理水には、除去しきれないまま残留している長寿命の放射性物質がある」とスクープしたのは共同通信社(2018年8月19日)だった。これは、東京電力が従来説明してきた「トリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回る」との説明を覆すものとなった。
 このスクープを受けて東京電力は「セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和1(*3)を上回っている」と修正し、「二次処理して、基準以下にする」という計画を打ち出した。
*3 それぞれの放射性物質の実際の濃度を告示濃度限度で除し、それを合計したもの。排出するときは1を下回らなければならない。
 現在、東京電力のホームページ(*4)には、トリチウム以外の放射性物質が示されているものの、公開データはタンクごとに測定した濃度(中には1万9909倍の濃度を示すタンクもある)にとどまり、いったいどれだけの量があるのかについては不明、わかっているのは「トリチウムが860兆ベクレルある」ということだけだ。

海洋放出以外の代替案が選ばれなかった理由
 一方、海洋放出以外の代替案には、(1)地層注入、(2)海洋放出、(3)水蒸気放出(4)水素放出、(5)地下埋設、の5案が検討されていた。ALPS小委員会の報告書(2020年2月10日)は、それぞれが必要とする期間とコストを次のように説明している。

地層注入 期間:104+20nカ月(n=実際の注入期間)+912カ月(減衰するまでの監
        視期間)  コスト:180億円+6.5n億円(n=実際の注入期間)
(2)海洋放出  期間:91カ月(*5)コスト:34億円
(3)水蒸気放出 期間:120カ月  コスト:349億円
(4)水素放出  期間:106カ月  コスト:1000億円
(5)地下埋設  期間:98カ月+912カ月(減衰するまでの監視期間)コスト:2431億円
*5 91カ月を年換算すると8年未満となる。2020年2月10日の報告書にはこの数字が残っているが、2018年の説明公聴会では「1年当たり放出管理基準の22兆ベクレルを超える」という指摘が上がった。現在の政府の基本方針では、年22兆ベクレルが上限であり、年22兆ベクレルを放出すると、東京電力の試算では放出に要する期間は30年以上となる。

 上記からは、(2)の「海洋放出」が最も短時間かつ低コストであることが見て取れる。これ以外にも、原子力市民委員会やFoE Japanが、原則として環境中に放出しないというスタンスで、「大型タンク貯留案」や「モルタル固化処分案」の代替案を提案していた。
 これについてALPS小委員会に直接尋ねると「タンクが大容量になっても、容量効率は大差がない」との立場を示し、原子力市民委員会やFoE Japanの「タンクが大型化すれば、単位面積当たりの貯蔵量は上がるはず」とする主張と食い違いを見せた。この2つの代替案は事実上ALPS小委員会の検討対象から除外され、(2)の「海洋放出」の一択に絞られた。

日中の国民の利害は共通
環境問題と中国問題は切り離して
 対立する米中が気候変動でも協力姿勢を見せたこともあるのか、今回の取材では「中国に脅威を感じているが、海洋放出をめぐっては日本の国民と中国の国民は利害が共通する」という日本の市民の声も聞かれた。
 実は中国側も同じ意識を持っている。海洋放出について、中国の国家核安全局の責任者は「日本政府は自国民や国際社会に対して責任ある態度で調査と実証を行うべき」とメディアにコメントしていることから、中国側が“日本の国民と国際社会は利害が共通するステークホルダー”とみなしていることがうかがえる。
 原子力市民委員会の座長代理も務める満田氏は、「海洋放出についての中韓の反応に注意が向き、論点がナショナリスティックかつイデオロギー的なものに傾斜していますが、もっと冷静な議論が必要です」と呼びかけている。
 そのためには、国民と国際社会が共有できる自由で開かれた議論の場が必要だ。日本政府と東京電力にはよりいっそう丁寧な対応が求められている。

30- 子どもの心ケアの新拠点が福島市に

 福島県は原発事故の影響などで心の不調を抱える子どもを支援するため「ふくしま子どもの心のケアセンター」を29日福島学院大内に開設しました。所長「最低あと20年はケアが必要だ。センターは重要な役目を担う」と強調しまし

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子どもの心ケア新拠点、福島県 「あと20年は支援必要」
                             共同通信 2021/4/29
 東京電力福島第1原発事故の影響などで心の不調を抱える子どもを支援するため、福島県は「ふくしま子どもの心のケアセンター」を29日に新設した。所長に就いた福島県立医大の矢部博興教授は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故被災者の心理的研究を例に挙げ「最低あと20年はケアが必要だ。センターは重要な役目を担う」と強調した。
 センターは福島市の福島学院大内に設置。学校や市町村からの要請を受け、常勤の公認心理師ら専門家が、支援を必要とする子どもや保護者を訪問し、相談に応じる。
 原発事故が心の病の原因かどうか分からない子どもにも効果的に支援できるようにした。

2021年4月29日木曜日

つれづれ語り(エネルギー政策の抜本的転換を)(湯沢平和の輪のブログより転載)

 28日付『上越よみうり』掲載された田中弁護士のつれづれ語り(エネルギー政策の抜本的転換を)を紹介します。
 10月26日の所信表明演説で菅首相はいきなり「2050年までに脱案素社会を実現する」と格調高く打ち出して驚かせました。
 曰く 「わが国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)の実現を目指すことをここに宣言する。もはや温暖化への対応は経済成長の制約ではない。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要(要旨)」という具合です。
 官僚が書いた文章なので首相がどれだけ理解して話したのかは疑問です。しかしまだ大いに先のこととだからと気楽に話したのであればそれこそ大間違いです(原発を再稼働する上で好都合だからというのもそうです)。
 しかし喫緊の課題である新型コロナ対策では、いつも「確実に収束させる」かのように実行すべき対策を羅列しながら、その実何もしないことの繰り返しで現在に至っている実態を見るとその疑問は拭えません。

 今回のつれづれ語りの記事でも、限られた紙面の中でエネルギー政策の抜本的転換」の必要性が、広い視野から簡潔に分かりやすく論じられています。
 安倍首相が敢えて2013年を基準にして46%」削減すると謳った理由も明らかにされています。(^○^)
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つれづれ語り(エネルギー政策の抜本的転換を)
                   田中弁護士のつれづれ語り 2021年4月28日
         『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」
 2021年4月28日付に掲載された第108回は、「エネルギー政策の抜本的転換を」です。先日開催された気候変動サミットを受け、地球温暖化問題の現状と今後求められる対応策について書きました。

エネルギー政策の抜本的転換を

気候変動サミットの成果
バイデン米政権が主催する気候変動サミットが、先日閉幕した。「二大排出国」である中国とアメリカがこの問題についての危機感を共有し、ともに積極姿勢を示したことは大きな成果と言えるだろう。
また、参加した各国が温室効果ガスの排出削減目標について引き上げを表明するなか、日本も従来のものから大幅に引き上げた目標数値を掲げている。

温暖化による影響
地球温暖化による影響は多岐にわたるが、現時点でもっとも身近にあるのは「気候危機」だろう。フランスで46.1度(2019年)、シベリアで38度(2020年)など、異常な高温が各地で度々計測されている。ドイツのシンクタンク「ジャーマンウオッチ」は、2018年の気象災害でもっとも深刻な被害を受けた国は日本であるとの報告書を発表している。相次ぐ豪雨や台風によって重大な被害がもたらされたことは記憶に新しいが、熱中症による死者数も年間で1000人を超えている。
温暖化がさらに進めば、陸や海の生態系が損なわれ、農業・漁業に深刻な影響が出て、世界的な食糧危機が到来することが懸念されている。また、永久凍土の融解により、人類にとって未知の細菌やウイルスが放出されるおそれもある。感染症を媒介する蚊などの生息域が広がることと相まって、新たなパンデミックが起こる危険も高まる

なぜ1.5度なのか
2015年に採択された「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて「2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすること」が目標とされた。
気温上昇がこの目標値を超えると、永久凍土の融解により温室効果ガスの一種であるメタンガスが放出されたり、大規模森林火災の頻発により熱帯雨林が焼失するなど、地球温暖化が進展する方向で複合的な連鎖反応が加速度的に発生して、制御不可能な状態に陥るおそれがあると指摘されている。

近づく臨界点
現在の世界の平均気温は、産業革命前との比較で既に1度上昇している。気温上昇を抑えるためには、過去分も含めた累積排出量を一定以下に抑えることが必要である。しかし、気温の上昇幅を「1.5度」以内に留めるための上限累積量を100とした場合、そのうちの92%は既に排出されてしまっている。「臨界点」はすぐそこまで近づいている
目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量を削減し続け、2030年までに2010年比で45%減らすとともに、2050年までに実質ゼロにすることがどうしても必要だ。

        ↑ 朝日新聞デジタル2021年3月29日から

主力電源の切り替えが不可欠
実は、日本が新たに掲げた「46%」という削減目標には、ちょっとしたからくりが潜んでいる。基準とされた2013年度は、ここ30年でもっとも温室効果ガスの排出量が多かった年度なのだ。EUのように1990年比で計算すると「39%」程度となり、2010年比で計算すると「41~42%」程度となる。


    全国地球温暖化防止活動推進センターのサイトから

しかし、このように「水増し」した目標ですら、達成することは容易ではない。報道によれば、政府関係者は「(46%というのは個別の対策による効果を)積み上げた数値ではない」と述べているとのことであり、対策の具体化が急務だ。
「電気・熱配分」を経ない純粋なCO2排出量でカウントすると、発電事業者等が行う「エネルギー転換」による排出が全体の約4割を占める。目標達成のためには、主力電源を石炭火力等から再生可能エネルギーへと切り替えることが不可欠だ。政府は今夏にも新たなエネルギー基本計画を策定する方針を表明している。そこで抜本的な見直しがなされることを期待したい。

福島第二原発4基の廃炉計画、規制委が認可

 原子力規制委は28日、東電福島第二原発1〜4号機の「廃止措置計画」を認可しました。東電は今後、福島県など地元の了解を得た上で廃炉作業を始めます。期間は44年で、費用は約2800億円を見込んでいます

 福島県には福島第一原発と福島第二原発の二つの原発があり、10年前に過酷事故を起こしたのは福島第一原発の方で、通常当ブログで「福島原発」と称するのはこちらです
 福島第二原発は敷地の標高が高かったので津波の被害はありませんでしたが、地震で原子炉の下部構造ー核分裂制止板の出入れ機構部ーが破損しました。
 それらは比較的早期に修復されメディアに公開されました。東電は福島第二原発の再稼働にこだわりましたが、県民の再稼働への忌避感は極めて強く最終的に断念したという経緯があります。
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福島第二原発4基の廃炉計画、規制委が認可…期間44年・費用2800億円
                         読売新聞 2021年4月28日
 原子力規制委員会は28日、東京電力福島第二原子力発電所1〜4号機(福島県)の「廃止措置計画」を認可した。東電は今後、福島県など地元の了解を得た上で廃炉作業を始める。期間は44年で、廃炉が認可された商業炉の中では最長。費用は約2800億円を見込んでいる。
 計画によると、10年かけて除染や汚染状況の調査を実施した後、原子炉建屋内の設備の解体・撤去に着手する。約9600本の使用済み核燃料は、14年後をめどに再処理事業者への引き渡しを始める。
 福島第二原発は2011年の東日本大震災で被災。建屋が津波で浸水し、一時は原子炉を冷却できなくなった。東電は当初、再稼働も視野に入れていたが、被災地に配慮して19年に廃炉を決めた。

九電 稼働40年に近づいた川内原発の「特別点検」を検討

 九州電力の池辺和弘社長は28日の記者会見で、運転開始から40年が近づく川内原発1、2号機について、運転延長を申請するために必要な「特別点検」「実施を検討していきたい」と述べました。

 運転延長の申請を前提とはしていないということですが、多額の費用を要する特別点検なので俄かには信じられません。
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九電40年超の原発運転視野 川内「特別点検」検討
                            西日本新聞 2021/4/29
九州電力の池辺和弘社長は28日の記者会見で、運転開始から40年が近づく川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)について、原子力規制委員会に運転延長を申請するために必要な「特別点検」について「実施を検討していきたい」と述べた。ただ、運転延長の申請を前提とはしていないという。
原発の運転期限を40年とするルールは、福島第1原発事故後の法改正で導入された。規制委の認可を受ければ、1回だけ最長20年の運転延長が認められる。特別点検では、原子炉圧力容器などの劣化状況を詳細に調べて安全性を確認する。通常の定期検査よりも、厳格で費用も多額とされる。
九電は、将来的に玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)を含めた4基体制を維持する方針。川内1号機は2024年7月、同2号機は25年11月にそれぞれ40年の運転期限を迎える。運転延長申請は期限の1年前までに必要なため、1号機は遅くとも23年7月までに申請の判断を迫られる。運転延長申請については「点検結果を見て判断したい」と述べた。
この日、関西電力の美浜原発3号機(福井県美浜町)と高浜原発1、2号機(同県高浜町)の計3基が40年を超えて稼働する見通しとなった。池辺社長は「非常に意義深い」と肯定的な考えを示した。 (山本諒)

29- 中国は北斎の模倣画を削除せずと

 中国外務省の趙立堅副報道局長は28日、葛飾北斎の浮世絵を模倣した絵で東京電力福島第1原発の処理水放出問題を皮肉った自身のツイッター投稿に対し、日本外務省抗議削除を要請したことに応じないとし、記者会見で「日本の誤った決定が先で、われわれの抗議が後だ。日本は悪いことをして、さらに他人に発言もさせないのか」と非難しました

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中国、北斎の模倣画を削除せず 原発処理水「謝るべきは日本」
                             共同通信 2021/4/28
【北京共同】中国外務省の趙立堅副報道局長は28日、葛飾北斎の浮世絵を模倣した絵で東京電力福島第1原発の処理水放出問題を皮肉った自身のツイッター投稿について「絵は正当な民意と正義の声を反映している。日本政府は誤った決定を撤回し謝るべきだ」と正当化した。また、投稿が目立つように最上位に固定したと説明し、日本外務省の抗議や削除要請に応じない姿勢を示した。
 趙氏は記者会見で「日本の誤った決定が先で、われわれの抗議が後だ。日本は悪いことをして、さらに他人に発言もさせないのか」と非難。中国だけでなく多くの国の人々が懸念と反対を表明していると強調した。


中国報道官が原発処理水放出を皮肉ったツイート、日本は削除要求
                           ロイター通信 2021/4/28
[北京 28日 ロイター] - 東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する日本政府の決定を巡り、中国外務省の趙立堅報道官がこれを皮肉ったイラストをツイッターに掲載した。日本側は反発している。
趙報道官は26日、中国のイラストレーターが描いた葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を模倣したイラストを掲載。防護服を着た人物2人が船から廃棄物を流す様子が描かれている
茂木敏充外相は投稿について会見で、「報道官レベルの人物」のツイートには個別にコメントしないとする一方、外交ルートを通じて中国に厳重に抗議し投稿の削除を求めていると述べた。

2021年4月28日水曜日

老朽原発再稼働で国から50億円も 描けぬ立地自治体の将来

 福井県の杉本知事は4月28日にも、運転期間が40年を超えた関西電力の原発3基(美浜1基・高浜2基)の再稼働に同意する見通しです。美浜、高浜の40年超運転が現実になると、国から県に入る交付金は計50億円に上るということです。原発再稼働に誘引する手立てに怠りはないということです。

 国は今年2月に「立地地域の将来へ向けた共創会議(仮称)」の構想を打ち出しました。たくさんの原子炉を抱える福井県が次の時代をどう考えていくか、胸襟を開いて話し合いたい」梶山経産相は会議の狙いをこう説明しています。
 原発廃炉後の関係自治体の在り方を検討することは大事です。野瀬豊・高浜町長は「原発関連収入で町財政に比較的余裕のある10年間に、その次の10年を考える」と話しますが ・・・ 
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老朽原発再稼働で国から50億円も、描けぬ立地自治体の将来 福井県知事が再稼働同意へ
                          東京新聞 2021年4月27日
 福井県の杉本達治知事は4月28日にも、運転期間が40年を超えた関西電力の原発3基の再稼働に同意する見通しだ。福井県内にある運転開始40年を超えた関西電力の原発3基は、1度に限り20年の運転延長が認められたとしても「60歳」になれば運転を終える。美浜原発3号機(美浜町)は2036年。高浜原発1、2号機(高浜町)は34年と35年だ。原発と関連産業に依存してきた立地地域はその後どうなるのか。立地の未来図を描こうと、国は今年2月に「立地地域の将来へ向けた共創会議(仮称)」の構想を打ち出した。
 「産業の複線化を図らないと地域の経済が成り立たない。たくさんの原子炉を抱える福井県が次の時代をどう考えていくか、胸襟を開いて話し合いたい」。4月2日の衆院経済産業委員会で梶山弘志経産相は、斉木武志議員(立憲民主党福井県連代表)の質問に会議の狙いをこう説明した。
 国が原発立地地域の20~30年後の未来の姿を描く取り組みは全国で初めて。メンバーには福井県知事、立地自治体首長、資源エネルギー庁長官、関電などの電力事業者が並ぶ。5月に第1回会議を開き、年内にも結論を取りまとめる。実現までの工程も示すという。
 原発の一本足打法からどう脱却するのか。国は原子力関連の研究、廃炉ビジネス、新エネルギー産業育成などを「検討例」として挙げる40年超運転を進めたい国が、福井県のために用意した地域振興策を、再稼働是非の判断を控える杉本知事は評価する立場だ。

◆原発マネーに強く依存 高浜町は予算の5割以上が原発関連収入
 しかし、共創会議への期待は、原発関連以外の産業を見いだせていない地域の現状の裏返しでもある。
 高浜町の「原発の次」はほぼ白紙と言っていい。21年度の一般会計予算の歳入に占める原発関連収入は64億500万円と全体の5割以上を占める。町は今年2月に高浜1、2号機の40年超運転に同意する際、廃炉後を見据えた地域の将来像の明確化を国に要望した。野瀬豊町長は「(原発関連収入で町財政に)比較的余裕のある10年間に、その次の10年を考える」と話す。残された時間は、決して長くはない。
 国内の原発立地のパイオニアだった福井県では、商業用原発8基のうち最も若い大飯4号機(おおい町)でも運転開始から28年がたった。自民党県議の一人は高浜3、4号機が今後5年間のうちに運転開始から40年を超えることを踏まえ「申請さえ通ればもう20年動かすというのは、国も含め電力業界の誰もが考えていることだろう」と延長運転の広がりを見通す。
 原発の次を描けていない立地地域が、延長運転を拒否することは容易でない。美浜、高浜の40年超運転が現実になると、国から県に入る交付金は計50億円に上る。地元が重い課題を抱えたまま、将来への不安を一時忘れさせる再稼働が進もうとしている。(浅井貴司、鈴村隆一、尾嶋隆宏)

関電の使用済み核燃料受け入れの「可能性はゼロ」 青森県むつ市長

 福井県の杉本知事は、関電23年末に候補地を示せなければ、運転40年超の3基の運転を停止すると伝えているのに対して、関電の森本孝社長は今年2月、杉本知事に「選択肢の一つ」としてむつ共用案を報告し、23年末を期限として確定させるとしました。
 杉本知事は「一定の回答があった」としてそれを受け入れました。
 青森県むつ市の中間貯蔵施設は、東電日本原電が出資して建設したもので昨年12月、電気事業連合会(電事連)が施設の共同利用を検討するという関電の救済策を示しました。
 しかし宮下・むつ市長は施設設置を受け入れた経緯について「私たちの意思で誘致したものだ。使用済み核燃料が要らないから押しつけられるのとは圧倒的に違う」と述べ、「電事連の同市の未来を自分たちで決める権利をないがしろにするやり方はあり得ない」と語気を強めたということです。
 東京新聞が、宮下市長オンラインでインタビューしました。
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関電の使用済み核燃料受け入れの「可能性はゼロ」 青森県むつ市長が本紙インタビューに明言
                         東京新聞 2021年4月27日
 福井県に立地する関西電力の原発から出る使用済み核燃料を巡り、関電が搬出先の「選択肢の一つ」とする中間貯蔵施設のある青森県むつ市の宮下宗一郎市長(41)が26日、オンラインで本紙のインタビューに応じた。宮下市長は関電などの使用済み核燃料を受け入れることについて「可能性はゼロだ」と明言し、協議の余地はないとの姿勢を強調した。(今井智文、高野正憲)
 むつ市では東京電力ホールディングスと日本原子力発電(原電)が出資して中間貯蔵施設を建設している。昨年12月、大手電力でつくる電気事業連合会(電事連)が施設の共同利用を検討すると表明。関電の使用済み核燃料の搬出先が決まっていないことに対する事実上の救済策だが、宮下市長は反発姿勢を示してきた
 宮下市長は2005(平成17)年に市が東電などの施設設置を受け入れた経緯について「私たちの意思で誘致したものだ。使用済み核燃料が要らないから押しつけられるのとは圧倒的に違う」と強調。11年の東京電力福島第一原発事故を経たことで「原子力を担う重さは、誘致した当時とは変わった」と指摘し、電事連から提示された共同利用案を「私たち自身で誘致したのとは決定的に違う。市の未来を自分たちで決める権利をないがしろにするやり方はあり得ない」と語気を強めた。
 インタビューはむつ市役所の宮下市長に、本紙記者が福井県内からオンラインで行った。

◆搬出先決まらぬまま…福井県知事の再稼働同意判断大詰め
 関西電力などが青森県むつ市の中間貯蔵施設を共同利用する案は、運転開始から40年を超えた関電の原発3基について、関電が立地の福井県から再稼働の同意を得るための回答だった。だが、宮下宗一郎市長はインタビューで「引き受けることはあり得ない」と一蹴。杉本達治福井県知事の同意判断が迫る中、「むつ共用案」が空約束に終わる懸念がぬぐえない。
 福井県は1990年代から、原子力事業者に使用済み核燃料を県外搬出させる方針を打ち出している。関電は搬出先として県外の中間貯蔵施設を「2010年ごろに稼働」「18年に計画地点を示す」などと約束してきたがこれまで果たせず、県は20年末までの回答を求めていた。
 関電の森本孝社長は今年2月、杉本知事に「選択肢の一つ」としてむつ共用案を報告。23年末を期限として確定させるとした。これを杉本知事は「一定の回答があった」と受け入れた。県議会では「むつ共用案は見通しがつかない」などの批判もあったが、今月23日に自民会派などの賛成で40年超原発の再稼働に事実上同意し、杉本知事の最終判断を残すのみとなっている。
 3基が再稼働して県内の関電の原発7基がフル稼働した場合、各原発の核燃料プールは5~9年分の余裕しかない。関電23年末に候補地を示せなければ、3基の運転を停止すると杉本知事に伝えている。 (今井智文)

いわき市漁協の集会で海洋放出に漁業者の反対相次ぐ

海洋放出に漁業者の反対相次ぐ 福島・いわき市漁協が集会

                         東京新聞 2021年4月27日
 福島県のいわき市漁業協同組合は27日、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を政府が決めたことを受け、国の担当者を招いた対話型の集会を開いた。江川章組合長によると、出席者からは海洋放出への反対意見が相次いだ。集会終了後、江川氏は「このままでは福島の漁業が衰退してしまう。風評対策について今後も国としっかり話し合いたい」と述べた。
 集会は非公開。漁協幹部や各地区の代表者ら計約40人が出席した。江川氏によると冒頭、内閣府の担当者が「海への放出しか方法がなかった。申し訳ない」と陳謝した。出席者からは反対意見のほか「具体的な風評対策を説明して」との声が出たという。 (共同通信)

28- 韓国学会、原発汚染水の「影響は微々」

 韓国原子力学会は26日、日本政府が福島原発のトリチウム汚染水を海洋放出する方針を決めたことに関し、仮に現在の貯蔵状態のまま全量を1年間海に放出したとしても、韓国国民の被ばく量は人体に許容される放射線量に比べて「微々たるもの無視していい水準という見解を発表しました。
 福島県沖から韓国沿岸に直行する海流はないので、韓国近海に到達するまでにはほぼ完全に放射能は希釈されるという意味と思われます。
 現在韓国では男女の若者が丸刈りになるなどして、日本の海洋放出に対する抗議運動が過激化しているので、その沈静化を狙ったものと思われます。
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韓国の原子力学会 処理水の海洋放出「韓国への影響はわずか」
                     NHK NEWS WEB 2021年4月27日
政府が東京電力福島第一原発のトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を国の基準を下回る濃度に薄めて海に放出する方針を決めたことをめぐり、韓国の原子力学会は韓国の国民への影響はわずかだとする見解を発表しました。
東京電力福島第一原発で増え続けるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、政府は今月、国の基準を下回る濃度に薄めて海に放出する方針を決めました。
これについて韓国の原子力学会は26日、見解を発表し、このなかで仮に現在、福島第一原発に貯蔵しているすべての量を1年間放出しても「韓国の国民の被ばく線量は無視できる水準だ。影響はわずかだ」と指摘しました。
学会では「韓国の大半のメディアは放射能の恐怖をあおる報道をしている。学会は過度な放射能への恐怖と水産物への不信感が解消されることを望む」としています。
また、学会は韓国政府に対し政治的、感情的な対応を自制し科学的な事実に基づいて問題を解決するよう求める一方、日本政府には韓国側に十分な情報と説明を提供しないまま一方的に放出を決めたとして遺憾の意を示しました。
韓国ではメディアや市民団体から懸念の声があがっていて、韓国政府は「国民の健康と安全などを最優先の原則とし、国際社会との協力のもと必要な措置をとっていく」としています。

2021年4月27日火曜日

WEB特集 なぜ反対? 処理水放出決定に福島からは

 NHKが「なぜ反対? 処理水放出決定に福島からは」とするWEB特集を出しました。

 以下に紹介します。
 原文には多数の写真が添付されていますが省略しました。ご覧になりたい方は、下記から原文にアクセスしてください。
         なぜ反対? 処理水放出決定に福島からは
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WEB特集 なぜ反対? 処理水放出決定に福島からは
                     NHK NEWS WEB 2021年4月26日
今月、ネット上でも盛んに話題に上っている“処理水”という言葉。東京電力福島第一原子力発電所で発生した汚染水から大部分の放射性物質を取り除く“処理”をした後に残るトリチウムなどの放射性物質を含む水のことです。
政府は今月13日に、処理水を国の基準を下回る濃度に薄めた上で、2年後をめどに海への放出を始める方針を決めました。これに対し福島県の漁業者などは強く反発しています。
政府は、放出にあたっては、トリチウムの濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1程度に薄めるとしています。なぜ、納得が得られていないのか。福島放送局の記者たちが取材しました。
※トリチウムについて詳しくは文末で説明しています。
(福島放送局記者 吉田明人 高須絵梨 後藤駿介)

“風評対策を徹底” 本当にできるのか 
「全国的に議論も全く行われておらず、処理水の安全性も全く理解されていない中で海への放出に納得できるわけがない。そもそも政府はこの10年間もこの問題を放っておき、全国に議論も呼びかけず何をしてきたんだって怒りもわいている。そんな状況で風評対策しますと言われても誰が納得するんですかと問いたい」
相馬市の漁師・高橋一泰さん(42)の言葉です。
高橋さんは県内の若手漁師でつくる県漁協青壮年部連絡協議会の会長を務めています。
高橋さんたちが強く懸念しているのは“風評被害”です。
福島県の農林水産物は、原発事故の後、「危険だ」というイメージから売れ残ったり、安く買いたたかれたりする“風評被害”に悩まされてきました。
実際には、出荷前に放射性物質の濃度を測定し、入念に安全性を確認しているのに、いまだに買い控えの傾向や全国との価格差が残り、海外にも輸入規制を続けている国があります。
それでも、おととしには東京の市場で扱われる福島産のヒラメの鮮魚の価格が全国平均に並ぶなど少しずつ回復してきています。
そんな中で処理水が放出されれば、たとえ安全だとしても、それを知らない消費者などからはまたも避けられてしまうのではないかというのが漁業者の懸念なのです。
こうした懸念に対し政府は、放出前に次のような風評対策を講じるとしています。

▼農林水産業者や地元の自治体なども加わって放出前後の濃度などを監視
▼IAEA=国際原子力機関の協力も得て国内外に透明性の高い客観的な情報を発信
▼漁業関係者への支援や観光客の誘致、地元産品の販売促進なども実施

それならば安心かというと、そうは見ていない専門家もいます。

筑波大学の五十嵐泰正 准教授が指摘するのは、風評被害を生んでいる構造的な問題です。

筑波大学 五十嵐泰正 准教授
「処理水の安全性について科学的な理解を醸成していくことは非常に重要だが、風評被害の構造的な問題として流通の各段階で取引先が気にするかもしれないという過度な忖度(そんたく)が発生することで需要そのものが減退し、消費者の理解以前に買えなくなるという状況がある」
ただ、政府は生産・加工・流通・消費の各段階での対策の必要性も盛り込んでいて、この点については評価できるとしています。
10年かけても達成されていない風評の払拭(ふっしょく)が、これから放出までの2年の間に実現するのか。
処理水の処分方法を検討する国の小委員会の委員も務めた福島大学の小山良太教授は、より幅広い立場の人が参加できる議論の必要性を訴えています。
福島大学 小山良太教授
「放出を強行することが風評を拡大してしまうので、そうならないよう政府と国民の間の信頼関係を築く取り組みができるかどうかが重要だ。そのためには汚染水と処理水の違いなどを理解してもらうための国民的議論が必要だ」

“被害は東京電力が賠償” 過去に遺恨も 
もう一つの懸念が賠償です。
政府は対策を取ってもなお生じる風評被害には賠償を行うよう東京電力に求めています。
その上で、期間や地域、業種を限定せず被害に見合った賠償を行うことや、放出までの間に関係者に賠償の方針を説明し、理解を得ることなども求めています。
しかし、原発事故の損害賠償を巡っては、過去に東京電力と住民で軋轢(あつれき)が生まれる事案もありました。
賠償額に納得できない人と東京電力の和解を国の原子力損害賠償紛争解決センターが仲介する“ADR”では、平成26年から去年までに手続きが終わった1万9163件のうち、東京電力が和解案を拒否したケースは、東京電力の社員や家族による申し立てを除いて55件あったということです。
中には訴訟にまで発展しているケースもあります。
中でも浪江町では、震災前の人口の約7割にあたる1万5000人余りの住民が申し立て、センターが慰謝料を増額する和解案を示しましたが、東京電力が拒否を続け、2018年4月に手続きが打ち切られました。
吉田数博町長は、今月19日に対応方針を説明に訪れた東京電力の小早川智明社長に対し「理不尽なことが過去にあった。そのようなことがないように誠実な対応を求めたい」と述べ、不信感を伝えました。
原発事故の賠償に詳しい、大阪市立大学の除本理史教授は、こうした過去の賠償の経緯への疑問も拭えない中では、処理水の放出後に風評被害が生じた場合にも、適正な賠償が支払われるのかは不透明だとしています。

大阪市立大学 除本理史教授
「東京電力は、字面や口では『適正に賠償をします』と言っているが、過去に賠償の打ち切りなども相次いでいる中で、信じて良いのか不安に思う人が多いのは当然だと思う。処理水の影響を受ける地域や業種も幅広い中、個別のケースで損害が出ていることを立証するのも難しい。因果関係の厳密な立証を求めすぎずに、地域や業種などに分けて賠償の枠組みを作り、当事者と丁寧に議論を交わして了解を得ることが大切になってくるのではないか」
そして、賠償に関してはもう一つ忘れてほしくないことがあります。
福島で取材している中で、多くの漁業者から聞くのは、『自分たちが願っているのは賠償を受けながら暮らし続けることではない』という声だということです。
彼らが願うのは、原発事故前と同様に大漁を目指して海に出て自分の力で稼ぐ、そんな当たり前の漁業の姿を取り戻すことです。
漁業者や水産業者だけではありません。
ホテルや飲食業など観光に携わる人たちが願っているのも、福島を訪れた人たちが地元を好きになってくれることであり、観光客が減ったら賠償金をもらえばよいということではありません。
その意味で、政府と東京電力の対応が、決して賠償ありきにならないことが求められているのです。

信頼は取り戻せるか 問われる“約束”への対応 
「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」よう求める県漁連
そしてもっとも大きな課題と言えるのが、地元との信頼関係です。
6年前、政府と東京電力は福島県漁連に対し、処理水について「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」という約束をしています。
しかし政府は、漁業者からの理解が得られないまま放出の方針を決定しました。
これに対して漁業者からは「約束をほごにするのか」と怒りの声が上がっています。
福島県漁連の野崎哲会長は、今月16日に政府の担当者が説明に訪れた際、「この件に関してちゃんとした説明がなければ、これからの施策も反故(ほご)にされる懸念がある。しっかりとした説明をしてほしい」と話していました。
これに対して政府と東電は、これから放出までに理解を得ていく考えです。

梶山経済産業相
「実際の放出が始まるまでに約2年あるし、それまでの期間を最大限活用して懸念を払拭して理解を深めていただくべく全力で取り組んで行く。福島県漁連、全漁連ともに対話の窓口は続いていると認識している。色々な対策を打った上で説得を続けていく」

東電 小早川社長
「原発事故から10年間、漁業者の皆様にご迷惑をおかけし、心から申し訳なく思っているし、県漁連と交わした約束は遵守して参りたいと考えている。1人でも多くの関係者から理解と信頼を得られるよう説明を尽くしていきたい」
しかし、これまで一貫して放出に反対してきた漁業者の理解を得るのは容易ではありません。
そもそも放出の方針を先に決めてから「理解を迫る」構図になっていることに憤る人は少なくありません。
菅総理大臣は今月22日、福島県の内堀知事との非公開の会談で「福島県民や、特に漁業者の思いを真摯(しんし)に受け止める。できることは全部やる、その覚悟で臨む」と話したといいます。
地元では「菅総理大臣自身が、漁業者らと膝をつき合わせ話すべきだ」と言う声すら上がっています。
「約束を守る」覚悟、その実行が問われています。

“福島の復興を止めることだけは…” 
福島は原発事故という未曽有の経験から復興の歩みを進めています。
福島県沖では先月末で試験操業が終わり、段階的に水揚げを増やしながら、元の漁の形に戻していこうとしています。
観光面でも、新地町と南相馬市でおととし9年ぶりに海水浴場が再開するなど、ようやく海のレジャーも復活してきていて、かつて盛んだったサーフィンなどをまちづくりに生かそうという取り組みも始まっています。
これは地元の人たちが10年間、血のにじむような努力を続けてきた証しです。
今回の方針決定で、その努力が水の泡にならないよう、政府や東京電力には「風評」「賠償」そして「信頼関係」といった課題を、具体的に解決していくことが求められています。

処理水とは 
福島第一原子力発電所で発生した汚染水をALPS(アルプス)と呼ばれる放射性物質の除去装置にかけて、大部分の放射性物質を取り除く処理をした後に残るトリチウムなどの放射性物質を含む水。
トリチウム(T)は日本語で「三重水素」と呼ばれる放射性物質で、水素の仲間です。
環境中では通常の水素と置き換わる形で酸素と結びついて水(H2O→HTO)として存在しています。
そのため、水中から分離して取り除くのが難しく、福島第一原発にある放射性物質の除去装置を使っても取り除く事ができません。
トリチウムは原子力発電所では核分裂に伴って作られますが、自然界でも宇宙から飛んでくる高エネルギーの放射線(宇宙線)によって生成され、大気中や雨水、海水、それに水道水にも含まれているほか、私たちの体内にも微量ですが存在しています。
ただエネルギーが弱く、水と一緒に体から排出されるため、基準以下なら影響はほぼないとされています。
福島第一原発では1000基余りのタンクに125万トンがたまっていて、現在も1日140トンのペースで増え続けています。
タンク内のトリチウムの総量は780兆ベクレルあり、建屋内にあるものも含めると、2000兆ベクレルにのぼると推定されています。
国と東京電力は、しばらく年間22兆ベクレルを下回る水準で海に流すとしていますが、状況を見ながら徐々に増やすことを検討しています。
また、タンク内の水にはトリチウム以外の放射性物質もALPSで十分処理されずに排出基準を超える濃度で残っているものがあり、東京電力はこうした水は放出前に繰り返しALPSにかけて基準を下回るように処理するとしています。

福島放送局記者
吉田明人 平成22年入局 青森局、松山局で原子力取材を経験。3年前から福島局で福島
     第一原発の廃炉や避難地域の取材を担当。福島放送局記者
高須絵梨 平成27年入局 奈良局を経て福島局。現在は、原発と県政を担当し、原発事故
     からの復興や課題を取材。福島放送局記者
後藤駿介 平成28年入局 警察担当を経て南相馬支局で震災・原発事故からの復興を取材。