2022年11月30日水曜日

避難計画絵に描いた餅 宮城・女川差し止め訴訟結審で原告が批判

 東北電力女川原発の過酷事故を想定した広域避難計画の実効性を争点に、東北電力を相手に石巻市の住民17人が再稼働の差し止めを求めた訴訟の第5回口頭弁論が28日仙台地方裁判所であり、結審しました。
 原伸雄原告団長は意見陳述で、避難計画の実効性確保は住民の命にかかわる問題だと強調し、放射能汚染を調べる検査は、殺到する住民のの大渋滞で開設できず、高齢者などの避難用バスは確保も手配もできないと指摘し、「避難計画は絵に描いた餅だ」と批判しました。
 小野寺信一弁護団長は記者会見で、裁判では最終的に「検査場所が開設できず、バスも来ない」の2点に論点を絞ったと語りました。
 司法が避難計画に実効性がないとして再稼働を認めなかった例としては唯一東海第2原発の再稼働差し止め訴訟があります。実効性のない机上の空論の避難計画のまま原発を再稼働することは、住民の健康を守るためにあってはならないことで、これまでの訴訟で司法が問題にしてこなかったのは大問題と言えます。5月の判決が注目されます。
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避難計画絵に描いた餅 宮城・女川差し止め訴訟結審で原告批判
                      しんぶん赤旗 2022年11月29日
 東北電力女川原子力発電所(宮城県女川町、,石巻市)の過酷事故を想定した広域避難計画の実効性を争点に、東北電力を相手に石巻市の住民17人が再稼働の差し止めを求めた訴訟の第5回口頭弁論が28日仙台地方裁判所であり、結審しました。判決は来年5月24日。
 原伸雄原告団長は意見陳述で、避難計画の実効性確保は住民の命にかかわる問題だと強調。放射能汚染を調べる検査は、殺到する住民のの大渋滞で開設できず、高齢者などの避難用バスは確保も手配もできないと指摘し、「避難計画は絵に描いた餅だ」と批判しました。
 原告の主張に反論しない東北電力に対し、「責任感の欠如を感じる」と訴え、「明確な判断を」と裁判所に求めました。
 裁判後の報告集会で小野寺信一弁護団長は、東北電力は事故発生の具体的危険性を立証する必要があるとの主張だが、原子力規制委員会も事故を前提とした避難計画が必要との立場だと指摘。裁判では最終的に「検査場所が開設できず、バスも来ない」の2点に論点を絞ったと語りました。
 女川原発をめぐっては、村井高浩知事が2020年11月に再稼働への同意を表明し、東北電力は24年2月の再稼働を目指しています。

政府が原子力政策大転換 「現実味のない話が暴走」と辛坊治郎氏が批判

 岸田首相の指示に基いて経産省は28日、廃炉が決まった原発の建て替えとして、従来型より安全性を高めた次世代原発の開発建設を進めることや、現在は最長60年とされている運転期間の延長を認めることする今後の原子力政策の行動計画案を示しました
 これに対してキャスターの辛坊治郎氏は29日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」で、「現実味のない話が暴走している」として以下のように述べました
 岸田政権1基の出力が30万キロワット規模と現行の100万キロワットの標準型より小さいものを考えていることについては、それでは従来の3倍以上の基数が必要になるので、現在の国内環境を見渡せばまず無理である。そして安全対策のコストを考えても原発は圧倒的に経済的に見合わないので、トータルのコストで安い再生エネ(自然エネ方に切り替えるべきであり、岸田政権のやり方は政権がなぜ駄目かを端的に象徴している
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政府が原子力政策大転換 「現実味のない話が暴走。岸田政権がなぜ駄目かを象徴している」辛坊治郎が批判
                          ニッポン放送 2022/11/29
キャスターの辛坊治郎が11月29日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。政府が示した今後の原子力政策の行動計画案について、「現実味のない話が暴走している。岸田政権がなぜ駄目かを端的に象徴している」と批判した。
経済産業省は28日今後の原子力政策の行動計画案を示した。廃炉が決まった原子力発電所の建て替え(リプレース)として、従来型より安全性を高めた次世代原発の開発、建設を進めることや、現在は最長60年とされている運転期間の延長を認めることが柱となっている

辛坊)日本で原子力発電所の運転期間は2011年に発生した東日本大震災の後、「原則40年、最長60年」と規定されてきました。国内の既存原発33基のうち再稼働は10基で、運転期間の上限60年だと残りの23基が再稼働しても、2070年に原発はゼロになります。ただ、こうした見通しは震災後から見通せていたことです。そのため、不足分の電力は別のエネルギーで補うことが考えられてきたわけです。
この方針は安倍政権でも菅政権でも変わりませんでした。しかし、岸田政権になって突然、変わりました。岸田政権は、老朽化して廃炉が決まった原発を対象に、安全性の高い次世代型原発への建て替えを進めようとしているのです。これは、現在の国内環境では、新しい立地に新しい原発を造るのは無理だろうと分かっているからです。岸田政権はまた、1基の出力が100万キロワット規模の標準型より小さい30万キロワット規模の原発への建て替えを考えています。事故を起こした際のリスクも念頭にあるのでしょう。
東日本大震災に伴う津波で、東京電力福島第1原発は原子炉の冷却に必要な電源を失いました。その結果、炉心が溶融して原子炉建屋の爆発につながりました。そこで、岸田政権が建て替えに想定している次世代型原発は、電源を失っても冷却できる空冷式のタイプです。こちらも安全対策を考慮してのことでしょう。
しかし、建て替えはそう簡単なことではないと思いますよ。なぜなら、かつて建設の同意を得られた住民だからといって、同じように同意を得るにはかなりハードルが高いだろうと考えるからです。また、出力を小さくするといっても、例えば100万キロワット相当の出力を確保しようとすれば、少なくても3基は造らなければなりません。そうなれば、結果的に小さな出力の原発をあちらこちらに建てることになります。さらに、核廃棄物処理の課題も残ります。現在の国内環境を見渡せば、まず無理でしょう。

安全対策のコストを考えても、原発は圧倒的に経済的に見合わないことが明らかになってきています。自然エネルギーのほうがトータルのコストで安いです。そうしたことがはっきりとしてきている状況の中で、岸田政権は建て替えを言い出しています。
このように、現実味のない話が暴走している感じがしますね。仮に「現実味はある」と言うのであれば、論理的な説明が必要ではないでしょうか。そうした論理的な説明がなく、岸田政権は安倍政権や菅政権がしなかった方針転換を突然、しようとしています。岸田政権は、原発の建て替えを進めたい思惑を持つ一部の人たちから、政治的な支持を得たいのでしょうね。この岸田政権のやり方は、岸田政権がなぜ駄目かを端的に象徴している事象だと感じます。

政府の原発活用方針 急がれる「バッグエンド」の議論

  産経新聞が掲題の記事を出しました。岸田首相は原発再稼働の推進や次世代型原発の新増設の方針を打ち出しまし。それは大きな問題ですが、使用済み核燃料や、それを再処理した後に残る核のごみをどう処分するのかという、「バックエンド」と呼ばれる原発後処理の議論は、原発稼働後 既に半世紀に及んでいますが遅々として進んでいません。

 このまま処分地が決まらなければ、行き場を失った核のごみが積み上がり、いずれ原発運転できなくなります。原子力ムラはこの面で総力を上げるべきです。
 一方、処分地選定に向けた第1段階の文献調査が進む北海道寿都町では、調査の受け入れをめぐって賛成派と反対派の対立が深まり、ほぼ月に1度のペースで国や原子力発電環境整備機構(NUMO)の担当者を交え「対話の場」が開かれて、住民への理解を求める活動が続けられていますが、溝が埋まる気配はなく分断が進んでいるということです。
 これに対して、村議会で誘致請願を採択し神恵内村では、対照的村民の理解が進んでいるということです。
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政府の原発活用方針 急がれる「バッグエンド」の議論
                           産経新聞 2022/11/29
電力需給の逼迫(ひっぱく)を克服するため、岸田文雄首相は原発再稼働の推進や次世代型原発の新増設の方針を打ち出したが、原発で使い終えた使用済み核燃料や、それを再処理した後に残る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)をどう処分するのか。「バックエンド」と呼ばれる原発後処理の議論は遅々として進んでいないのが現状だ。
再び原発が動き出せば、使用済み核燃料は確実に増える。国は原発活用に方針転換した以上、最終処分についても同時並行に議論を深める必要があるが、とりわけ核のごみについてはこれまでも議論が先送りにされてきた経緯がある。
資源エネルギー庁によると、日本には現在、約2500本の核のごみが青森県六ケ所村と茨城県東海村に一時保管され、全国の原発敷地内にも再処理前の使用済み核燃料が約1万9千トン保管されている。国の法律によって貯蔵期限は30年から50年と定められており、既に貯蔵能力の8割に達したという試算もある。
もし、このまま処分地が決まらなければ、行き場を失った核のごみが積み上がり、将来的に原発を運転できなくなる可能性もある。日本で商用原発の運転が始まってから半世紀余り。いまだ最終処分のメドさえつかない状況を「トイレのないマンション」と揶揄されるゆえんでもある。

一方、処分地選定に向けた第1段階の文献調査が進む北海道寿都町では、調査の受け入れをめぐって賛成派と反対派の対立が深まり、分断が進む。昨年10月には任期満了に伴う20年ぶりの町長選が行われ、受け入れを決断した片岡春雄町長が再選したが、村議会で誘致請願を採択し、村民の理解が進む神恵内村とは対照的だ。
寿都町ではほぼ月に1度のペースで国や原子力発電環境整備機構(NUMO)の担当者を交えた「対話の場」が開かれ、住民への理解を求める活動が続く。ただ、溝が埋まる気配はなく、片岡町長は調査終了後に住民投票を実施し、再び民意を問う意向を示している。
分断の溝を埋める手立てはないのか。この問題の技術的な部分に長年関わってきた北海道大大学院の佐藤努教授(廃棄物処分工学)は「文献調査は対話活動の一環であり、対話は双方にとってメリットがないと成り立たない」と指摘。「NUMO側のメリットだけではなく、今住んでいる土地の地下がどうなっているのか、どんな成り立ちで町ができたのか、わが町に鉱物資源はあるのかなど、多くの住民が知りたい情報を提示して関心を持ってもらうとともに、その情報を得るメリットを感じてもらえるように努めるべきだ」と提言する。

自主避難者に退去と約150万円支払い命じる「公務員宿舎」明け渡し訴訟

 無償提供終了後も国家公務員宿舎に住み続けている住民に対し、福島地裁は29日、住民の女性に対して退去を命じ19年以降から退去するまでの家賃約151万円と明け渡しまでに1か月あたり約3万9千円の支払い命じました。

 自主避難者の全員がこの女性と同じ行動を取ったわけではないことには、それぞれの事情があったのだと思われます。福島県が契約違反を盾に訴訟を起こせば司法は結局こういう裁定をすることになるのでしょうが、高線量で居住できない地域から避難した人たちを自主避難者として「避難者の権利」を認めず、一貫して非人道的に差別してきた行政に基本的な非があります。
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原発事故の自主避難者に退去と約150万円支払い命じる「国家公務員宿舎」明け渡し訴訟
                         テレビユー福島 2022/11/29
原発事故による自主避難者のうち、無償提供終了後も国家公務員宿舎に住み続けている住民に対し、福島県が住宅の明け渡しなどを求めている裁判で、福島地裁は29日、住民の女性に対して退去を命じました
県は、2017年に自主避難者への住宅の無償提供の終了後、東京都の国家公務員宿舎に避難する住民に対して、同額の家賃を支払うことで、2019年3月末まで期限付きで入居が継続できる契約を結んでいました。
判決によりますと、福島県広野町からこの宿舎に自主避難した女性は、契約が切れた2019年3月末以降も退去を拒み、住み続けたとして、県は住居の明け渡しと損害金として、2019年以降から退去するまでの家賃の支払いを求めていました。
住民の女性はこれまで事実関係は認めつつも、県の訴えは、国際的に定められた避難する権利を侵害しているとして、請求の棄却を求め、争う姿勢を見せていました。
29日、福島地裁の小川理佳裁判官は、女性が口頭弁論に一切出頭しなかったことに加え、県の請求事実は全て認められるとして、請求通り女性に退去を命じる判決を言い渡しました。また、約151万円と明け渡しまでに1か月あたり約3万9千円の支払いも命じました。


原発事故の避難者に宿舎退去命令 福島地裁、貸し出し終了で
                            共同通信 2022/11/29
 東京電力福島第1原発事故の自主避難者への貸出期間が終了した後も、東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲住宅」に住み続けているとして、福島県が居住者の女性に退去と損害賠償を求めた訴訟の判決で、福島地裁(小川理佳裁判官)は29日、請求通り退去を命じた。約150万円と明け渡しまで月約3万9千円の支払いも命令した。
 訴状によると、女性は、国の避難指示はなかった福島県広野町から避難し東雲住宅に入居。応急仮設住宅としての無償提供終了に伴い、2017年4月から2年間は家賃を支払ってきた。19年3月末で賃貸契約が切れた後も退去を拒み、住み続けたとしている。

30- 福井県の原発事故想定して京都府宮津市などが広域避難所開設の訓練

 福井県の原発事故を起こしたことを想定した、京都府福知山市と宮津市による合同訓練が27行われ、福知山市三和町の三和荘体育館に、宮津から福知山への広域避難に備えた避難所開設する訓練をしました。

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福井県の原発事故想定して京都府宮津市の職員が広域避難所開設 福知山市で合同訓練
                         両丹日日新聞 2022/11/28
【写真】↓協力して簡易ベッドを作る福知山、宮津両市の職員
  https://news.yahoo.co.jp/articles/cf9c399d4a720fb36e2433bf5dd8d5aceb709213/images/000
 大地震による原発事故を想定した、京都府福知山市と宮津市による合同訓練が27日、福知山市三和町寺尾の三和荘体育館であった。宮津から福知山への広域避難に備えた避難所開設訓練をした。
 与謝野町を主会場とする府原子力総合防災訓練の一環。 宮津市は、福井県の高浜原発に近く、有事の際には福知山市などへの広域避難が必要で、宮津市職員は各地で避難所運営に加わることになる。
 避難所開設訓練に宮津市から参加したのは防災担当以外の職員が多く、福知山市危機管理室の職員らに教わりながら段ボールベッドやパーティションを組み立てて配置した。
 福知山市危機管理室長と宮津市総務部消防防災課長は「有事の際の協力に向けて、一緒に訓練ができて良かった」と話していた。

2022年11月29日火曜日

原発の最大限活用へ経産省が行動計画案 政府方針明確に転換

 経産省は28日、オンラインで開かれた経済産業省の審議会で、次世代型の原子炉の開発を、廃炉となる原発の建て替えを念頭に進めることや、福島第一原発の事故を受けた法改正により導入され最長60年との運転期間上限は維持しつつ、審査などによる停止期間を除外するなどとした、行動計画の案を示しました。
 これは11年前の原発事故後歴代の政府がとってきた方針を明確に転換する内容で、原発の新設や増設、建て替えに踏み込む内容です。政府が方向転換した理由は、原則40年、最長60年というルールに従うと国のエネルギー基本計画で脱炭素社会の実現に向けて30年時点で電源構成のうち原子力発電の占める割合は20から22%程度を目指すとしていることから大きく外れるためですが、それは30年時点で原発30基を稼働させるという基本計画に元々無理があったからで、それを維持するためというのは本末転倒です。
 原発が脱炭素に資するというのは欺瞞であり、再生エネを拡大するしかありません。太陽光発電などは夜間に発電できないからというのを口実にしていますが、それは海外のように十分な容量の蓄電基地を要所に設ければ済むことで、その費用は原発の再稼働にトータル4兆8000億円を投じていることに比べれば容易に実行できることです。
 原子力政策に詳しい長崎大学教授の鈴木達治郎委員は、今回の行動計画の案について「明らかに『原子力回帰』で、2050年までは原発を間違いなく使い続けるという宣言だ。長期的に見てすべて必要なことかというと説明ができていないと思う。なぜいま維持、拡大するのか説明が必要だ(要旨)」と指摘しています。
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原発の最大限活用へ経産省が行動計画案 政府方針明確に転換
                    NHK NEWS WEB 2022年11月28日
政府が掲げた原子力発電の最大限の活用に向けて、経済産業省は、次世代型の原子炉の開発を、廃炉となる原発の建て替えを念頭に進めることや、最長60年と定められている運転期間から、審査などによる停止期間を除外するなどとした、行動計画の案を示しました。11年前の原発事故のあと政府がとってきた方針を明確に転換する内容で、大きな議論を呼ぶことが想定されます。
これは28日、オンラインで開かれた経済産業省の審議会で示されました。
この中では、安全対策などに新たな技術を取り入れた次世代型の原子炉の開発を、廃炉となった原発の建て替えを念頭に進めるとしています。
これは、原発事故のあと政府が繰り返し「想定しない」と説明してきた、原発の新設や増設、建て替えに踏み込む内容です。
また、現在の法律で最長60年と定められている原発の運転期間については、上限は維持しつつ、原子力規制委員会による審査や裁判所による仮処分命令などで、運転を停止した期間を例外として除外することで、実質的に60年を超えて運転できるようにするとしています。
原発の運転期間の制限は、福島第一原発の事故を受けた法改正により導入されましたが、それを再び見直す案です。
経済産業省は、審議会の議論や与党との調整などを踏まえて、正式な行動計画を近く取りまとめ、年内にも開かれる脱炭素社会の実現に向けた政府会議に報告することにしています。
ただ、いずれも11年前の原発事故のあと政府がとってきた方針を明確に転換する内容で、必要な法改正などに向けて大きな議論を呼ぶことが想定されます。

次世代型の原子炉とは
政府は今よりも安全性や経済性が高い次世代型の原子炉として、大きく5つのタイプの原子炉の開発や建設を検討するとしています。
このうち、最も早い2030年代の実用化を目指しているのが、今ある原発をベースに安全対策などの技術を改良した「革新軽水炉」です。
三菱重工業と大手電力会社4社は、共同で開発を進めていて基本設計の8割ほどは完了しているとしています。
また、日本原子力研究開発機構は「高温ガス炉」を開発しています。
燃料の冷却に水ではなくヘリウムガスを使うことで、950度の高温の熱を取り出すことが可能で、発電のほかに熱利用や水素の製造を目指しています。
このほかの次世代炉には「小型軽水炉」や「高速炉」、夢のエネルギーとされる「核融合炉」が挙げられていますが、タイプによって開発段階はまちまちです。
実際に導入するには、技術的な面だけでなく、開発や建設にかかるコストを誰がどう負担するのかなど、社会的な合意が必要な課題も多く残されています。

背景に原発の規模維持へ懸念
経済産業省が、原発の運転期間の延長や建て替えの推進を検討する背景には、現在の設備と法制度のもとでは、中長期的に必要とされる発電規模を維持できるかどうか不透明だという事情があります。
去年策定された国のエネルギー基本計画では、脱炭素社会の実現に向けて、2030年時点で電源構成のうち、原子力発電の占める割合は20から22%程度を目指すとしています。
これを賄うには、おおむね30基前後の原発が必要で、国内に33基ある原発がすべて稼働すれば実現可能とされています。
しかし、半数を超える17基は、すでに運転開始から30年以上が経過し、40年を超える原発も4基あるため、仮に建設中のものも含めすべての原発が60年まで運転したとしても、2030年代から設備容量は減り始め、2040年代からは大幅に減少していくことになり、2050年の実現を目指す脱炭素社会への貢献は限定的になります。
このため政府は、既存の原発を実質的に60年を超えて運転できるようにすることや、廃炉になる原発を次世代原子炉に立て替えることで、原発の発電規模を維持したい考えです。

原発廃炉の現状は
行動計画の案では、次世代型原子炉の開発にあたって、廃炉になった原発の建て替えを念頭に置くとしましたが、国内では東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、原発への依存度を下げる政府方針や、新たな規制基準への対応などを背景に廃炉の決定が相次ぎました。
原発事故の前、国内には54基の原発がありましたが、事故のあと、福島第一原発の6基と福島第二原発の4基をはじめ、運転開始から40年を超えていた福井県にある日本原電・敦賀原発1号機や、関西電力・美浜原発1号機など合わせて21基の廃炉が決定されました。
現在、国内の原発は33基となっていて、別に3基が建設中です。

原子力の課題への対応は
行動計画の案では、長年積み残されてきた使用済み核燃料の取り扱いや、放射性廃棄物の処分といった課題についても、対応を加速させるとしています。
国は使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムを、再び原発の燃料として使う「核燃料サイクル」を推進していますが、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は完成時期が見通せず、プルトニウムを含む燃料を一般の原発で使うプルサーマルも計画どおり進んでいません。
さらに、再処理工場が稼働しないため、全国の原発では使用済み核燃料がたまり続けていて、貯蔵プールがいっぱいになり運転できなくなるおそれも指摘されています。
行動計画の案では、再処理工場の完成に向けて国が指導し、産業界を挙げて支援するとしたほか、プルサーマルの実施に協力する自治体を対象に、新たな交付金を設けるなどとしています。
また、北海道の2町村で文献調査が進められる高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの処分地選定については、シンポジウムを開くなどして全国での理解活動を強化するとしています。
しかし、長年積み残されてきた課題をこうした取り組みで解決できるかなどについては、これまでの審議会でほとんど議論されていません。

審議会委員の意見は
経済産業省が示した案に対して、審議会の委員からは、脱炭素社会の実現や電力の安定供給の観点から、おおむね理解を示す意見が多く出た一方で、具体的な政策の実現には国民の理解が前提になるとして、丁寧な説明を行うべきとする意見や、現時点では国民の理解を得るだけの議論や、コミュニケーションが足りていないとして、案の取りまとめに反対する意見も出されました。
このうち、経団連から参加している、小野透委員は「停滞してきた原子力政策を前に進める点では大きく評価したい。ただ、どの政策も国民への理解が大前提になるので、運転期間の延長が必要なことや、安全性が規制機関によって確保される点について明確な説明が必要だ」と述べました。
また、廃炉を決めた原発や運転期間が40年を超える原発が立地する福井県の杉本達治知事は「原子力の将来の規模と、それを確保するための道筋を明確にするよう求めてきたが、具体的にどのように次世代原子炉の開発や建設を進めるのか示してほしい」と述べました。
原発に批判的な立場から政策提言を行っているNPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「福島の教訓を放棄する内容で到底賛同しかねる。エネルギー基本計画で定めているとおり、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、原発依存度を可能なかぎり低減する方法を考えるべきだ」と述べました。
このほか、消費生活アドバイザーでつくる団体から参加している村上千里委員は「時間をかけて議論していくべき問題だとの指摘が出ている中、拙速に結論を出そうとしていると見える。『国民とのコミュニケーションの深化』を掲げるならば、1年程度は時間をかけて議論するべきだ」として、現時点での取りまとめに反対する意見を述べました。

専門家「明らかに原子力回帰」
原子力委員会の元委員長代理で、原子力政策に詳しい長崎大学の鈴木達治郎教授は、今回の行動計画の案について「明らかに『原子力回帰』と言っていい、原子力をさらに維持拡大していく2050年までは間違いなく使い続けるという宣言だ。脱炭素とウクライナ情勢を踏まえた電力危機への対応として説明されているが、長期的に見てすべて必要なことかというと説明ができていないと思う。一般の国民は原発の依存度を少しずつ縮小していくイメージを持ってきていると思うが、今回の案はそれと逆行していると思われ、なぜいま維持、拡大するのか説明が必要だ」と指摘しています。
また、今回の案に原子力政策が抱える使用済み核燃料などの課題への対応が盛り込まれた点についても、「高レベル放射性廃棄物や福島第一原発の廃炉で出る廃棄物をどうするのかなど、国レベルできちんと議論しなければいけないが、全くされていない」と話しています。

松野官房長官「まずは審議会での議論に期待」
松野官房長官は、午後の記者会見で「現時点で経済産業省として何らかの方向性を決定したものではなく、引き続き審議会で議論が続けられると聞いている」と述べました。
そのうえで「原子力政策については『GX=グリーントランスフォーメーション実行会議』での岸田総理大臣の指示を踏まえ、年内を目途に専門家に議論していただき、政府の今後の方針を明らかにしていくこととしており、まずは審議会でさまざまな観点から議論が深められることを期待したい」と述べました。

全原協会長 “安全確保を大前提に要請に沿った議論を”
原発が立地する自治体で作る全原協=全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を務める福井県敦賀市の渕上隆信市長は、28日に示された行動計画の案についてコメントを出しました。
この中では、「全原協として既存の原発の最大限の活用や次世代革新炉の開発・建設などについて安全確保を大前提に検討を行うよう求めてきたところであり、我々の要請に沿った議論が進められていると認識している。引き続き、立地地域の意見を踏まえて議論を進め、国として明確で力強い原子力政策が示されることを期待する」としています。

関西電力は革新炉開発を計画 懸念は中間貯蔵候補地

 全国で現在稼働している原発7基のうち4基は関電が福井県に設置したもので、さらに別掲の記事の通り、高浜原発3、4号機についても運転延長を申請する予定です。

 また関電が三菱重工業と新型原子炉「次世代型軽水炉」の開発で合意しているのは、経産省の行動計画案「次世代革新炉の開発・建設」に合致するものと意を強くしたということですが、それは、原発全体を岩盤内半地下構造にして、原子炉格納容器の上部を強靭化することで耐震性と耐兵器攻撃性を向上させ、カーボンキャッチャーを設置し、安全装置を多重化・多様化するものであって、安全性の改善は図られるもののむしろそれは現行の原発(発電設備の基本構造は不変)に本来適用されるべきものであって、「革新炉」と呼べるものではありません。国はいたずらに言葉を弄ぶべきではありません。
 なお関電の悩みは、福井県とは令和5年末までに使用済み核燃料の貯蔵施設又は処分地の県外候補地を確定できなければ「運転開始40年を超えた原発を停止する」と約束していることで、その候補地はまだ見つかっていません。
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関西電力は革新炉開発を計画 懸念は中間貯蔵候補地
                           産経新聞 2022/11/28
経済産業省が示した原発利用に関する行動計画案は「次世代革新炉の開発・建設」などの方針を明記した。全国に先駆けて原発の再稼働を進め、新型原子炉の開発を検討する関西電力にとっては国の後押しを得た格好だ。ただ、原発地元の福井県と約束した使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外候補地が見つからず、稼働の継続には大きな課題もある。
全国で28日現在稼働している原発7基のうち4基は関電が同県に設置する原発。関電は「定期検査中の大飯原発3号機(同県おおい町)が稼働すれば、計5基で今冬の電力の安定供給を確保できる」とし、火力の燃料費高騰で他社が軒並み値上げを迫られる中でも値上げを表明していない。

また、安定した電力供給の基軸に原発を据えている関電は9月までに、三菱重工業と安全性が高い新型原子炉「革新軽水炉」の開発でも合意している。
ただ、稼働中の原発敷地内でたまり続ける使用済み核燃料が懸念材料になっている。稼働状況によっては最短で約5年半でプールが満杯になるが、日本原燃が青森県六ケ所村で建設を進める使用済み核燃料再処理工場は完成が遅れている。このため使用済み核燃料を一時保管する中間貯蔵施設が必要だが、まだ計画地は決まらない。。候補地確定を急がなければ政府方針で弾みがついた原発活用も難しくなる。(牛島要平)

高浜原発3、4号機 40年超運転認可申請へ 全国で7、8基目

 関西電力は運転開始から37年が経過している高浜原発3、4号機について、40年超運転に向けた運転期間延長認可を申請すると発表しました。申請すれば全国で運転延長の7、8基目となります

 関電は、原子炉格納容器など交換することが難しい機器や、安全上重要な機器について点検を実施40年超運転が可能と評価したとしていますが、肝心な原子炉の耐久力をどういう根拠で判断したのでしょうか。九電のケースでは県の評価委員会にも明確な根拠が提示されませんでした自信を持って根拠を呈示できないのであれば20年間もの長期延長は論外です。
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高浜原発3、4号機 40年超運転認可申請へ 全国で7、8基目
                           毎日新聞 2022/11/25
 関西電力は25日、運転開始から37年が経過している高浜原発3、4号機(福井県高浜町、いずれも出力87万キロワット)について、40年超運転に向けた運転期間延長認可を申請すると発表した。関連する工事の認可申請準備などが整い次第、原子力規制委員会に申請する。申請すれば全国で7、8基目となる。
    【写真】高浜原発に到着したMOX燃料 反対派も
 関電は、高浜原発3、4号機について、原子炉格納容器など交換することが難しい機器や、安全上重要な機器について点検を実施11月17日までに40年超運転が可能と評価した。また、さびなどが固まった「スケール」による伝熱管の損傷が多発していることを受け、蒸気発生器を交換する方針だ。現在使用中の蒸気発生器の処分場が決まっていないため、保管施設も設置する。これらの工事について25日、福井県と高浜町に事前了解願を提出した。

 関電が原発の40年超運転を申請するのは、高浜原発1、2号機(いずれも出力82・6万キロワット)と美浜原発3号機(同県美浜町、同82・6万キロワット)に続き4、5基目。現行ルールでは、原発の運転期間は原則40年で、規制委が認めれば1回に限り20年の延長が可能となる。【高橋隆輔】

29- 東電 老朽火力や揚水発電を活用 冬の需給対策に

 送配電大手の東京電力パワーグリッドは28日、今冬の電力対応方針を発表した。電力の安定供給に向け、老朽化で止めている火力発電設備や揚水式水力発電を活用すと明らかにしました。もしも揚水用の電力が再生エネ発電であるなら合理的なことです。

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東電、老朽火力や揚水発電を活用 冬の需給対策、節電呼びかけも
                            共同通信 2022/11/28
 送配電大手の東京電力パワーグリッド(PG)は28日、電力需給の逼迫が見込まれる今冬の対応方針を発表した。電力の安定供給に向け、老朽化で止めている火力発電設備や揚水式水力発電を活用するほか、家庭や企業に無理のない範囲での節電を呼びかける。
 電力の安定供給には、供給余力を示す予備率が最低3%必要とされる。東京電力管内は来年1月が4.1%、2月が4.9%で3%を上回るが、東電PGの岡本浩副社長は「冬は1日の中で需要が高い時間が長く続く。安心できない」と危機感を示した。
 東電PGは節電の呼びかけのほか、今冬は「でんき予報」で3日先までの需給見通しを公表する。

2022年11月28日月曜日

“実態に合った賠償基準に” 全ての被害者救済を 22原告団が国会要請

 福島第1原発事故により全国に避難した被害者の訴訟原告団全国連絡会が開いた24参院議員会館とオンラインの集会に22原告団の50人が集まり、訴訟への支援や、高濃度のトリチウム(3重水素)の海洋放出に反対するほか、原子力損害賠償紛争審査会で見直し議論中の賠償基準「中間指針」を被害の実態に合ったものに改め、原発事故被害者全員を救済するよう与野党の国会議員に要請しました。

 福島原発訴訟の馬奈木厳太郎弁護士は中間指針の見直しについて、「自主的避難地域やその外側の地域は救済される議論にはなっていない。被害者の中に新たな分断を持ち込んではならない」と指摘しました。
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“実態に合った賠償基準に” 全ての被害者救済を 原発避難者訴訟 22原告団が国会要請
                      しんぶん赤旗 2022年11月25日
 東京電力福島第1原発事故により全国に避難した被害者の訴訟原告団全国連絡会は24日、与野党の国会議員に岸田政権がねらう原発の新設反対などを要請しました。参院議員会館とオンラインの集会に22原告団の50人が集まり、日本共産党など野党議員が参加しました。
 連絡会は訴訟への支援や、福島第1原発で発生する放射能汚染水を処理した後の高濃度のトリチウム(3重水素)を含む汚染水を薄めて海に放出する計画に反対するほか、原子力損害賠償紛争審査会で見直し議論中の賠償基準「中間指針」を被害の実態に合ったものに改め、原発事故被害者全員を救済するよう求めています
 「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の馬奈木厳太郎弁護士は中間指針の見直しについて、「自主的避難地域やその外側の地域は救済される議論にはなっていない。被害者の中に新たな分断を持ち込んではならない」と指摘しました。
 馬奈木氏は岸田文雄政権が打ち出した原発の新設や運転期間の撤廃について、現行のエネルギー基本計画にはなく容認できないと批判。オンラインで福島県から参加した武藤類子さんは「(新設などは)事故の被害者として驚愕(きょうがく)と憤りを抑えられない」と述べました。
 日本共産党の岩渕友、紙智子、吉良よし子、仁比聡平各参院議員が参加しました。

規制委の態度不可解 「きょうの潮流」

 経産省が、原発の運転期間についての規制をなくそうとしていることに対して、山中規制委員長が「利用政策の判断なので、規制委は意見を申すところではない」と容認していることはどう考えても理解できません。経産省は新委員長の登場を待ってそうした政策に踏み切ったようにも思われます。
 しんぶん赤旗が「きょうの潮流」で取り上げました。
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きょうの潮流
                      しんぶん赤旗 2022年11月25日
 原子力規制委員会が発足したのは東京電力福島第1原発の過酷事故がきっかけです。事故の教訓として原発の推進と規制の分離をうたい、規制委は上級機関の指揮監督を受けない「三条委員会」として設置されました。「事故の防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」とされています
 発足から10年余になります。その規制強化の柱の一つが「原則40年、最長60年」という原発の運転期間のルールができたことです。規制委が所管する「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に明記されました
 ところが、原発の運転延長をねらう経済産業省は、運転期間について別の法律に移して変えようとしています。同省の言い分はこうです。原発の運転制限が再稼働の妨げになるようなら「よろしくない話」だと。邪魔な規制だとあけすけです

 解せないのが規制委の姿勢です。みずからが所管する規制に関する法律が問題になっているにもかかわらず、同省の動きを「利用政策の判断で、規制委は意見を申すところではない」と容認しています
 しかも、どんな運転延長案が出てきても対応できるよう、安全規制の見直し案を先回りして提示しています。山中委員長は「利用政策側のアクションに対する反応」と説明しますが、「推進側に規制が従属しているようにみえる」との指摘が広がるのも当然です
 事故の教訓を踏まえたルールを推進側の理由で変えていいのか。ルールを厳格に運用し、変更に反対するのが規制委の役割では。