2017年2月28日火曜日

原子力人材は“枯渇”の方向に 就職希望学生は年々減少

 原子力関連企業への就職に関心を示す大学生の数は、2011年の福島原発事故を境に4分の1に激減し、さらに年々減少しているということで、合同企業説明会に参加する学生は2010年度1903人であったものが、2015年度は337人にとどまりました。1970年代で採算性がなくなったために新規原発の建設を止めたアメリカでは、学科そのものがなくなったと言われます
 東芝の巨額損失も学生たちの原子力離れにさらに拍車をかけることになります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
原子力人材“枯渇”の危機
東芝の米原発事業の巨額損失がイメージ悪化に追い打ち 
産経新聞 2017年2月27日
 原子力関連企業・機関と原子力産業への就職に関心を示す大学生をマッチングさせる合同企業説明会「原子力産業セミナー」が3月に東京と大阪で催される。
 福島第1原発の廃炉や原発再稼働を担う原子力人材の確保は急務だが、平成23年の福島事故以降は来場者が激減。東芝の米原発事業の巨額損失も原子力離れに拍車をかける恐れがあり、大手電力は「人材が枯渇しかねない」と危惧する。
 
 セミナーは日本原子力産業協会(東京)などが18年度から開催しており、今回が11回目。30年春卒業の学生らを対象に3月4日に東京で、同11日に大阪で開く。大手電力や原発関連メーカーなど東西で延べ58の企業・機関が一堂に会する。原発の再稼働が進む中、企業の採用意欲は高まっている。
 一方、来場者数のピークは福島事故前の22年度で東京、大阪両会場で計1903人に達した。ところが、事故後の23年度は496人と約4分の1に。27年度も337人にとどまった。
 
 国内では原発新設が見込めず、学生が原発関連産業の先行きを不安視しているためだ。2月中旬には、経営再建中の東芝が米原発事業で約7千億円の巨額損失を抱えていると公表し、原発イメージがさらに悪化する恐れもある。
 「原子力技術を若者に伝承しなければ、30~40年かかる福島廃炉や原発再稼働は立ちゆかなくなる」(大手電力)
 
 3月11日で福島事故から6年。原子力人材回復の兆しはみえない。(古川有希)

28- 民進 原発ゼロ前倒し「年限こだわらず」 議論は継続

 民進党の蓮舫代表は、原発ゼロの目標時期前倒しを3月17日のの党大会後に先送りすることにしました。
 当初、原発ゼロの目標時期を現行の「2030年代」から「30」に前倒しし、党大会で発表したい考えでしたが、支持団体の連合が反対し、党内でも賛否が割れてまとめることが出来ませんでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
蓮舫氏、原発ゼロ年限明示先送り 連合反発、党内でも賛否
夕刊フジ 2017.02.26
 民進党の蓮舫執行部は「2030年代」と掲げてきた「原発稼働ゼロ」の目標を前倒しする案を巡り、3月12日の党大会で前倒し年限を示すことを見送る方針を固めた。実現のための目標年を明確にすることに、電力総連を傘下に抱える支持組織の連合が反発。党内も賛否が割れているため、結論を先送りする。関係者が25日明らかにした。
 
 党幹部は「党大会あいさつで、蓮舫代表は具体的な数字までは示さない」と強調した。執行部は6月18日の通常国会会期末をめどとして意見の集約を図りたい考えだが、難航する可能性もある。
 前倒しを巡っては、次期衆院選に向け、原発政策を一つの柱として安倍政権との違いを明確化し、独自色をアピールしたいとの思惑がある。

2017年2月27日月曜日

原発処理費 40兆円に拡大 すべて国民の負担に

 東京新聞が政府推計や予算資料を集計したところ原発処理の経費は最低40兆円に上ることが判りました。原発の立地自治体への補助金なども1970年代半ばから2015年度までに17兆円に達しています
 40兆円は国民1人当たり32万円に上ります
 大島堅一立命館大教授によるとキロワット時当たりの原発の発電費は安全対策強化で上昇した原発建設費も算入すると17・4、水力(政府試算110円)を割、液化天然ガス火力(同13.7円)を3割上回ります
 原発の発電コストが安いという政府の説明根拠は完全に破綻しました。
 
 こうして膨らみ続ける原発費用はすべて国民の家計にのしかかっていますが、政府の決めた仕組みは複雑で、家庭の負担の実額はなかなかつかめません。東京新聞は電気メーターの検針票を読み解く連載を近く始めるということです
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
原発処理費 40兆円に拡大 税金・電気代転嫁、国民の負担に
東京新聞 2017年2月26日
 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から間もなく六年。福島第一をはじめとする廃炉や使用済み燃料再利用など原発の後始末にかかる費用が膨張している。本紙が政府推計や予算資料を集計したところ国内の原発処理の経費は最低四十兆円に上ることが判明。原発のある自治体への補助金などの税金投入も一九七〇年代半ばから二〇一五年度までに十七兆円に達した。すでに国民が税などで負担した分を除き、増大する費用は電気代や税で国民が支払わねばならず、家計の重荷も増している。 (原発国民負担取材班)
 
 四十兆円は国民一人当たり三十二万円に上る。原子炉や核燃料処理費がかさむのは危険な核物質を処理する必要があるため。自治体補助金も「迷惑料」の色彩が強い。原発の建設・運営費も事故後は安全規制強化で世界的に上昇している。
 政府は福島事故処理費を一三年時点で十一兆円と推計したが、被害の深刻さが判明するにつれ、二一・五兆円と倍増。本来は東電が負担すべきものだが政府は原則を曲げ、電気代上乗せなど国民負担の割合を広げている。
 被災者への賠償金は、新電力会社の利用者も含め全国民の電気代に転嫁され、福島原発廃炉費も東電管内では電気代負担となる方向だ。除染も一部地域について一七年度から税金投入(初年度三百億円)する。
 一兆円を投入しながら廃止が決まった高速増殖炉「もんじゅ」についても政府は昨年末に後継機の研究継続を決定。税金投入はさらに膨らむ方向。青森県の再処理工場などもんじゅ以外の核燃料サイクル事業にも本紙集計では税金などで十兆円が費やされた。核燃料全般の最終処分場の建設費も三・七兆円の政府見込みを上回る公算だ。
 
 自治体への補助金も電気代に上乗せする電源開発促進税が主な財源。多くの原発が非稼働の現在も約千四百億円(一五年度)が予算計上されている。
 
 大島堅一立命館大教授によると一キロワット時当たりの原発の発電費は安全対策強化で上昇した原発建設費も算入すると一七・四円と、水力(政府試算一一・〇円)を六割、液化天然ガス火力(同一三・七円)を三割上回る。原発を進める理由に費用の安さを挙げてきた政府の説明根拠も問われている。
 
◆東日本大震災6年 家計の痛みは? 連載始めます
 膨らむ原発費用はわたしたちの家計にのしかかっています。しかし、政府の決めた仕組みは複雑で、家庭の負担の実額はなかなかつかめません。手掛かりは、電力会社から毎月届く「検針票」。直前1カ月の使用電気量と代金を家庭に知らせる通知です。
 この小さな紙切れのあちこちに実は原発のための負担もちりばめられています。取材班は検針票を読み解く連載を近く始めます。ご自宅の検針票と見比べながら、一緒にエネルギー政策を考え、ご意見と疑問をぜひお寄せください。
  
       原発処理のための費用
 
 福島第一原発関係
 
 
 
 
2013年時点
 
最 新
 
廃  炉
2
兆円
8
兆円
 
賠  償
5・4
兆円
7・9
兆円
 
除  染
2・5
兆円
4
兆円
 
中間貯蔵施設
1・1
兆円
1・6
兆円
 
11
兆円
21・5
兆円
 
 
 
 
 
 
 
 
予定より早める原発の廃炉費
0・2
兆円
 
その他の廃炉(一部積立済)
2・9
兆円
 
最終処分場(一部積立済)
3・7
兆円
 
もんじゅ・常陽(廃炉を除き支出済)
1・6
兆円
 
燃料サイクル(支出済)
10
兆円
 
総    額
40
兆円
 
 
 
 
 
 
 
 
自治体への補助金など政府予算
17
兆円
 
  (1974年度~2015年度支出済み分)

27- 浜岡原発運転停止 仮処分申し立て取り下げへ 弁護団方針

 中部電力浜岡原発1~5号機の運転停止を求めて行われた仮処分申し立てについて、弁護団が近く全て取り下げる方針だということです。
 浜岡原発1~4号機については、2002年4月の静岡地裁に仮処分申立以降10回の審尋が行われ、07年に却下されたので東京高裁に即時抗告しましたが、それ以降は審尋が行われておらず、今月行われた進行協議で高裁の裁判長が「審理に慎重を期すため、適合性審査の結果を見てから判断したい」と発言しました。
 5号機については12年12月に静岡地裁に申立て、これまで20回の審尋が行われましたが結論が出ていません。
 
 こうした現状を受け仮処分を求める申し立てを一度取り下げ現在新規制基準の適合性審査が先行しているる3、4号機で仮に国が再稼働を認めた場合、弁護団は即座に静岡地裁に対する仮処分申し立てで対抗する意向だということです。その方がいざというときに機動的に動けるという考え方があるようです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
浜岡原発運転停止、仮処分申し立て取り下げへ 弁護団方針
静岡新聞 2017年2月26日
 中部電力浜岡原発1~5号機の運転停止を求めて行われた仮処分申し立てについて、代理人を務める弁護団が近く全て取り下げる方針を固めたことが25日までに分かった。申請から約15年が経過し審理が間延びしている上、二つの裁判所に分散している手続きを将来原発に近い静岡地裁に集中させ、有利な結論を導きたいとの戦略もある。
 最初の仮処分申し立ては、2002年4月以降、1~4号機について1846人(1~3次)が静岡地裁に対して申し立てた。計10回審尋が行われ、07年10月に却下された。
 即時抗告以来、東京高裁で審尋は行われていないのが現状だ。
 一方、5号機については、12年12月に776人が同地裁に申し立てた。これまで計20回の審尋が行われたが、結論は出ていない。
 東京高裁と静岡地裁でそれぞれ並行する本訴では、今月行われた同高裁での進行協議で裁判長が「審理に慎重を期すため、適合性審査の結果を見てから判断したい」と発言するなど、仮処分でも審理長期化が予想される
 
 こうした現状を受け、「緊急事態のための制度」としての側面が強い仮処分を求める申し立てを一度取り下げる。25日に県弁護士会館で行われた会議では、5号機について取り下げの方針が了承された。1~4号機も3月半ばに開かれる会議で、撤回の方針を決めるとみられる。
 
 現在新規制基準の適合性審査が先行する3、4号機で仮に国が再稼働を認めた場合、弁護団は即座に静岡地裁に対する仮処分申し立てで対抗する意向を固めている。静岡市内の弁護士は「一度整理し、いざそのときに機動的に動けるようにしたい」と話す。
 取り下げには「『私の故郷をどうするつもりだ』との思いに、地元の裁判官なら共感できるはず」という期待もある。1~4号機の仮処分申し立てで代理人を務める海渡雄一弁護士は「地元の静岡地裁で浜岡原発を止める、との意思の表れだ」と解説した。
 
 <メモ>仮処分 訴訟の目的である権利などの保全のために、裁判所によりなされる暫定的な措置。申立人に生じている現状への不安や危険の除去を図るのが目的。放っておくと財産の隠匿や、建築物が着工してしまうことが危惧される場合など、申請から数日で認められることも多い。浜岡原発を巡っては、東京高裁と静岡地裁で運転停止や廃炉を求める本訴が係争中で、仮処分に関する手続きは並行して審理されている。

2017年2月26日日曜日

柏崎原発免震棟強度不足問題 規制委「東電はかなり重症」

 柏崎刈羽原発67号機の再稼働に向けた審査が終盤を迎える中で、重大事故時の対応拠点である免震重要棟について、平成26年に耐震不足を示すデータが社内にあったにも関わらず東電が公表してこなかった問題で、産経新聞がやや詳しい記事を載せました。
 なお他所の原発では免震棟はこれから作るものであるため柏崎刈羽原発も同様と思いがちですが、同原発では2007年の中越沖地震で大きな被害があったために、当時の泉田知事の提案等があってすでに免震棟を建て終わっているものです。
 
 その免震棟が、建物上屋変位量75センチを超える地震力に対しては強度が持たないというもので、それまでは耐震計算条件7ケースのうちの5ケースがそれに当たるとされていて、対応拠点として免震棟と既設の5号機原子炉建屋内の一画をどのように使い分けるかが議論になっていたのでした。
 2月14日の審査会合で東電は、7ケースとも地震に持たないことを、
「・・・どういった地震までもつ設備かは免震重要棟につきましては建物上屋変位量75センチ未満の地震力に対し機能を喪失しない設計といたします
という一度聞いただけでは理解できないような(あるいは聞き流してしまいがちな)説明で、初めて明らかにしたのでした。
 
 それにしても水平振幅が75センチとはただならぬ変位量で、よくそんなところに原発を建てたものです。
 それこそが識者たちが「豆腐の地盤のうえに建てられた原発」として再稼働に反対している所以です。
 建設済の防潮堤の地盤の一部が地震時に流動化することも先般規制委は認めています。要するに柏崎刈羽原発建ててはいけないところに建てられた原発なのです。 
 
 規制委の田中委員長が珍しく、「東電の(審査に)出すものが信用できるか疑義がある。それを確認しないとそれ以上先に進めない」と明言しましたが当然のことです
 東電は社内的には情報共有化の徹底を、対外的には隠蔽体質からの脱皮を図るべきです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
規制委も「かなり重症」と危惧する東電の悪しき体質 
柏崎刈羽審査終盤で蘇った福島の“悪夢”
産経新聞 2017年2月25日
 東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた審査会合が終盤を迎える中で、東電が再び信用を落とす事態に陥っている。重大事故時の対応拠点である免震重要棟について、平成26年に耐震不足を示すデータが社内にあったにも関わらず公表してこなかったためだ。背景を取材すると、東電に隠そうという悪意はなかったようだが、代わりに悪しき体質が露見。再稼働への影響も懸念される。
 
突然示された調査結果
 問題は14日の審査会合で発覚した。
 「これまでの説明とは著しく異なる。これを知ってて、これまでの説明をしてきたのか」
 規制委の更田豊志委員は、東電の担当者にそう詰め寄った。
 
 更田委員が指摘した「これまでの説明」とは、東電が25年に実施した調査結果だ。7パターンある地震想定で調べたところ、5つのパターンで免震棟の耐震性の不足が確認された。
 耐震不足が確認されたため、東電は重大事故の対応拠点には耐震性の高い5号機原子炉建屋内と免震棟を併用して使う案を規制委に提案。審査では両施設をどう使い分けるかなどが焦点となっていた。
 
 そんな審査の最中、東電が突然、14日に示したのが7パターンすべてで耐震性が不足するという調査結果だった。しかも、調査は3年前の26年に実施したもので、東電の唐突な説明に、更田委員の冒頭の発言につながった。審査の前提が覆されたことで、規制庁幹部も「もう一度審査をやり直さなければならなくなった」と憤りを隠さない。
 
情報隠蔽か、取材を進めると…
 東電が不都合な情報を隠蔽しようとしたのか-。そんな憶測も飛び交ったが、23日の審査会合で、東電が経緯を説明すると、肩すかしを食らうようなお粗末な内容だった。
 26年のデータは、免震棟の耐震性を調べる際に、深い地層のデータがなかったため、1号機の地層データを代わりに使って試算した信頼性の低い代物だったのだ。そのため、東電も当時は公表するものではないと判断していたという。
 それではなぜ、東電は今になって公表したのか。東電によると、昨年夏に着任した担当者に、信頼性が低い情報であることが伝わっていなかったのだという。
 あきれた理由だが、実は根深い問題をはらんでいる。情報共有は長年、課題として指摘され続けてきたからだ。
 
東電に染みついた根深い問題とは…
 原発を安全に運転するには原子炉の設計を行う部署と、地震や津波対策を担う部署は、緊密に連携することが不可欠だが、規制庁の幹部は「別会社のような組織だ」と証言する。
 審査会合でも規制委の担当者が「昔からプラントと土木の仲が悪いといわれている。今回だけの問題ではない。一体どうなっているのか」とまくし立てた。
 実は福島第1原発事故でも、東電の情報共有の問題は指摘されている。
 東電は平成20年に15・7メートルの津波を社内で試算しながらも対策を講じず、事故を防げなかった一因とされている。これについて、政府の事故調査・検証委員会は、15・7メートルの津波について社内でワーキンググループが立ち上がったが、「当時の小森明生原子力・立地副本部長(原子力担当)にはワーキンググループの存在自体が報告されていない」と指摘。その上で「東京電力社内で重要な問題として認識されていた形跡はうかがわれない」と問題視している。
 
原発再稼働に影響する可能性も
 原発の審査では、設備面だけでなく原発を運転する事業者としての適正もみている。それだけに規制委の田中俊一委員長も東電の体質について「かなり重症だ」とあきれた様子で語り、「東電の(審査に)出すものが信用できるか疑義がある。それを確認しないとそれ以上先に進めない」と明言。東電の体質改善が確認できない限り、審査には「合格」させない意向を示している。
 
 柏崎刈羽原発を再稼働させるには地元同意も不可欠だが、今回の問題で地元自治体の信用も大きく揺らいでいる。
 新潟県の米山隆一知事は「事実と異なる説明をしていたのでは安全確保はできない」とした上で、原因や経緯を報告するよう求める要請文を東電に提出した。原発再稼働について条件付き容認の立場だった柏崎市の桜井雅浩市長も「再稼働を認めないという立場に考えが変わる可能性もある」と言及している。
 事故から6年。東電はさまざまな改革に取り組んできたが、巨大企業の体質改善は、言葉で言うほどたやすいものではないようだ。

26- <脱原発 東北の群像> 河北新報 連載記事 完結

 河北新報が、東北で反原発運動に人生をささげ、警告を発し続けてきた人々を取り上げたシリーズ
<脱原発 東北の群像> 「忘却にあらがう」 は、今回の5回目で終了します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<脱原発 東北の群像>学び つなぎ 踏み出す
 河北新報 2017年2月24日 
 東北で反原発運動に人生をささげ、警告を発し続けてきた人々がいる。福島第1原発事故は、その「予言」を現実のものにする一方、運動が積み重ねてきた敗北の歴史も浮き彫りにした。事故から間もなく6年。国が原発再稼働を推し進める中、彼らは何を感じ、どう行動するのか。(報道部・村上浩康)
 
◎忘却にあらがう(5完)新しい芽
 国や電力会社、メディアへの不信、行き場のない不安が頂点に達していた。
 
<肩肘張らず>
 「『やっと話を聞いてもらえた』と泣きだす参加者もいた」。仙台市でカフェを年5回ほど開くサークル「ぶんぶんカフェ」のスタッフ斎藤春美さん(仙台市青葉区)は、東京電力福島第1原発事故直後に開催した時の様子を振り返る。
 斎藤さんは2006年、映画「六ケ所村ラプソディー」(鎌仲ひとみ監督)の上映会に関わった縁で、使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)に反対する宮城県の若者らのグループ「わかめの会」に入った。他県の団体と一緒にデモをしたこともある。
 もっと肩肘張らず、気軽に語れる場をつくりたい。11年2月、30~50代の女性数人でカフェを始めた。翌月の原発事故を受け、2回目以降は参加が50人に膨らんだ。今は15人前後。3月5日で34回になる。
 畳の部屋に車座。話題は原発、放射線、廃棄物、核燃料サイクル、電力自由化-。お茶を飲み、話し合う。不安の共有だけでは続かない。語らいと学びがあるから、今も新たな参加者が訪れる。斎藤さんは「伝える場として息長く続けていきたい」と話す。
 
 事故はエネルギーの在り方を問い直した。自然エネルギーの拡大を目指す「エネシフみやぎ」は12年発足。脱原発は掲げない。「ノーは言わない。否定しない。イエス、肯定で前向きな力になる」と副代表の小野幸助さん(40)=泉区=。
 企業会員は募らず、個人が緩やかにつながる。イベントを開催し、県内外のハブ的役割も果たす。代表で環境エネルギー政策研究所(東京)研究員の浦井彰さん(59)=青葉区=は「しかめっ面でなく楽しく。次の世代にどんな社会を伝えるかが重要だ」と語る。
 
<考える場に>
 東日本大震災と原発事故で日本は変わったのか。
 行動する若者は増えた。16年8月解散した学生グループSEALDS TOUOKU(シールズ東北)は15年、安全保障関連法への反対運動を展開した。
 メンバーだった東北大法学部3年の久道瑛未さん(21)、安達由紀さん(21)にとって生まれて初めてのデモ。手続きなどを脱原発デモから教わった。
 それまで原発に無関心だった。久道さんは「安保は法案を止めるか止めないか緊急性が明確。原発はゴールが見えない。やれることが安保だった」と言う。
 「原発も大事な問題なのに、考える場がない」と安達さん。久道さんも「再稼働が進んでいない今考えなければ、また思考停止になってしまう」と感じる。
 
 「原発いらない、命が大事」。今月17日夜、脱原発みやぎ金曜デモ。コールを担当した青葉区の女性(39)は、シールズの安保デモ参加を機に2年前から足を運ぶ。友人には言っていない。「声を上げられる場所はここしかない」
 太白区の女性(74)は昨年末から。「他人ごとじゃないって目覚めたの」。小柄な体に充実感が漂う。
 踏み出す人がいる限り、忘却にあらがう道は続く。