2018年11月7日水曜日

東京新聞 <原発のない国へ 全域停電に学ぶ>(3)

 北海道でのブラックアウトを経て、上下二つのダムを備え、下のダムからポンプで水をくみ上げれば蓄電池に、上のダムから放水すれば発電所に早変わりする揚水発電所が脚光を浴びています
 太陽光や風の強さによって出力が不安定となる再生エネの「波」を整え、電力の需要と供給を一致させる強力な武器として使えます。
 北海道の揚水発電所「京極がフル稼働していたら、ブラックアウトを回避できた可能性が高い」というシミュレーション結果も得られました。
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<原発のない国へ 全域停電に学ぶ>(3)復旧加速 揚水発電に光
東京新聞 2018年11月6日
 再生可能エネルギーが伸び、さらに北海道の全域停電を経た今、揚水発電所が脚光を浴びている。上下二つのダムで構成し、下のダムからポンプで水をくみ上げれば蓄電池に、上のダムから放水すれば発電所に早変わりする。
 早朝など原発の電力が余った時間帯だけ稼働させる。これまで、そんな消極的な使い方しかされてこなかったが、太陽光や風の強さによって出力が不安定となる再生エネの「波」を整え、電力の需要と供給を一致させる強力な武器として使える。
 
 実際、全域停電からの復旧状況を北海道電力や経済産業省のデータなどで振り返ると、揚水式の北海道電京極(きょうごく)発電所(京極町、出力計四十万キロワット)が、大きな役割を果たしていた
 地震から二日後の九月八日朝時点では、家庭用など小規模の太陽光発電計三十一万キロワットが送電網に接続。大規模な風力や太陽光の発電所は、蓄電池で安定させてから送電網に接続する必要があったため、道内四カ所の風力発電所(計約十万キロワット)は、安平(あびら)町で実証実験中の大型蓄電池とつなげて再稼働した。
 十日には、蓄電池を備えた大規模太陽光発電所(メガソーラー)が加わった。
 
 北海道と本州との間で電力を融通する北本(きたほん)連系線(容量六十万キロワット)は全域停電後、本州から電力を受け取るばかりだったが、道内の再生エネが出力を調整しながら動いたことで、十一日になって余力ができた。道内で電力が余る時間帯には本州に送電し、需給を安定させた。おかげで風力や中型の太陽光をより多く使えるようになり、合計出力は百三十八万キロワットに増えた。
 
 調整力の本命とされる京極は、十四日夕から力を発揮した。地震発生時は点検とトラブルで動かせなかったが、修理・点検を終えて稼働すると需給がより安定、道内全ての再生エネの受け入れが可能になった。これで残っていたメガソーラー計三十八万キロワットが加わり、道内の全太陽光と風力計百七十六万キロワットが接続された。
 道内がおおむね晴れた翌十五日の午前十一時~正午には、供給力の四割近くを太陽光が担った。その間、京極は余った電力で水をくみ上げ、上のダムに貯水。日が暮れて太陽光の発電量が落ちる午後五~六時になると、上のダムから放水して発電し、需要が増える夕方の電力供給の一割を賄った。その後も太陽光を補う働きぶりを見せている。
 
 「京極がフル稼働していたら、全域停電を回避できた可能性が高い」。そんなシミュレーション結果が、十月二十三日に開かれた経産省の全域停電の検証委員会で報告された。石炭火力や原発は出力の調整に時間がかかるのに対し、最新の揚水式の京極は、わずか三分でフル稼働する。素早く調整力を発揮できる点が高く評価された。
 委員は「出力を安定させる蓄電池付きの再生エネ導入が進んでいる。これらと合わせ、強い電力網の構築を検討していく」との認識で一致した。検証委の議論を踏まえ、経産省は今後、中長期的な全域停電の再発防止策を練る。揚水発電所のさらなる活用や、大型蓄電池を備えた再生エネ導入の拡大が、大きな論点となることは間違いない。 (山川剛史、伊藤弘喜)