2018年7月15日日曜日

<原発のない国へ 基本政策を問う>(1) 東京新聞

 東京新聞が「原発のない国へ 基本政策を問う」の連載を開始しました。
 第1回目では、何とか原発のコストを安く見せようとする一方、再生エネのコストを高く見せようとしている国(原子力ムラ)の醜い姿を描写しています。
 連載にしては比較的長文でグラフなどのイラストも豊富です。残念ながらブログのソフトにブロックされて掲示できないので、原文でご覧になってください。
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<原発のない国へ 基本政策を問う>(1)英原発 高コスト浮き彫り
東京新聞 2018年7月14日
 英国会計検査院が昨年六月、原発推進の妥当性を揺るがす試算を明らかにし、政府批判に踏み切った。「政府は消費者をリスクの高い、高額な計画に縛り付けようとしている」
 イングランド南西部で、フランス電力と中国の電力会社が二〇二五年の運転開始を目指して建設を進めるヒンクリーポイントC(HPC)原発。百六十万キロワットの大型原発二基を建てるこの計画で、政府補助が総額三百億ポンド(四兆四千四百億円)に上るというのだ。
 なぜ三百億ポンドもの補助が必要なのか。実は、英国では温暖化対策の一環で、原発の電力を政府が高値で買い取り、事業に利益が出るように保証している。HPCの総事業費は百八十億ポンド(二兆六千六百億円)。最新の安全設計を取り入れたため、二百四十五億ポンド(三兆六千二百億円)に膨らむとの報道もある。
 
 巨額の事業費に見合うように、政府は運転開始後に電力を一メガワット時当たり九二・五ポンド(一万四千円)の高値で買い取ることを保証した。市場価格は四十ポンドほどで、倍以上の高値だ。買い取りは三十五年間続き、差額を積み重ねると三百億ポンドに上る。これが検査院が指摘した国民負担のからくりだった。
 政府自身も昨年九月、原発のコストの高さを裏付ける発表を余儀なくされた。二二年から十五年間の洋上風力発電で競争入札を実施し、一メガワット時当たり五七・五ポンドで落札された。同時期に運転開始予定のHPCより四割近く安い。
 「風力は間もなく市場価格まで下がり、補助はいらなくなる。もはや原発が安いとは言えなくなった」。日系エネルギー関連企業の欧州駐在者はその衝撃を振り返る
 
 コスト差は、日立製作所の子会社が二〇年代半ばに、英中西部アングルシー島で運転開始を目指すウィルファB原発の計画にも重くのしかかる。事業費は三兆円とされ、市場価格では採算が成り立たない。英メディアによると、英政府が提示した買い取り価格は七七・五ポンド程度の見通し。HPCより安く、日立側は英政府の支援強化を求めて正式交渉に入ったが、価格を上げれば世論の反発を招きそうだ。
 
 こうした事態に、原発に反対する住民グループは追い風を感じる。
 「バリュー・フォー・マネー(投資に見合う価値)があるかどうか、徹底的に論争を挑みたい」。ウェールズで原発反対運動を続けるニール・クランプトンさん(62)の意気込みは強い。かつて軍需産業でミサイル開発の技術者だっただけに数字に強く、英メディアでコスト面から原発を批判する論客となっている。
 「政府は雇用効果を強調してくるだろうが、原発への補助を直接、雇用対策に振り向ければいい」。理詰めで政府を追い込み、英国民に訴えを広げようとしている。 (ロンドン・阿部伸哉)
 今月閣議決定した日本政府のエネルギー基本計画では、二〇三〇年の発電量の二割を原発に依存する。東京電力福島第一原発の事故を経験してもなお再生可能エネルギーの大量導入に消極的で、原発を維持し続ける基本政策を、国内外の現場で検証する。
 
◆日本のエネルギー計画 コスト増反映せず推進
 電源別に発電コストを示した、エネルギー基本計画の資料。原子力だけ最安値を示している
 原発推進の理由として、経済産業省は「発電コストが他の電源に比べて安い」と、エネルギー基本計画で示している。 
 根拠は二〇一五年の試算。掃除機を一時間使った際の消費電力量に相当する「一キロワット時」の発電コストは、太陽光が「二四・二円」、液化天然ガス(LNG)火力が「一三・七円」、水力が「一一・〇円」。原発は「一〇・一円~」とあり、最も安いように見える
 「~」をつけて最安値を見せているのは原発だけ。経産省はその理由を、発電コストに東京電力福島第一原発事故への対応費が入っており、これが膨らむ可能性があるからと説明する。
 
 実際、福島の事故処理費は大幅に増えている。一五年の試算時は一二・二兆円だったが、賠償、除染、廃炉費用とも増え、直近では二一・五兆円に上る。
 一五年当時には増大を想定していなかった原発建設費も膨らんだ。一基の建設費は、一五年当時は四千四百億円と想定。その後、三菱重工や東芝が海外で計画した原発は、安全対策のためにコストがかさみ、一基一兆円を超えている
 龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)によると、建設費の高騰を反映させた場合、原発は「一七・六円」にはね上がり、水力やLNG火力を大きく上回る。一七年度の大型の太陽光発電の固定買い取り価格は「一七・二円」まで下がっており、原発の方が高くなる。
 
 基本計画で示した試算では、こうした変化を考慮していない。経産省の担当者は「コスト見直しが必要なだけの大きな構造的変化がない」と説明した。
 一方、経産省は再生可能エネルギーの新たな試算を公表している。再生エネは天候によって発電量が変動するため、安定供給には蓄電池などが必要という前提を置いた。その費用を含めると、「一キロワット時=六九円」に高まるというのだ。
 現実には、再生エネの供給が低下すれば、LNG火力の発電量を上げて電気の供給を安定させている。蓄電池が必ずいるわけではない。大島教授は経産省の試算について、「無理に再生エネが高いと印象づけ、世論をミスリーディングしようとしている」と厳しく批判した。 (伊藤弘喜)