2023年9月20日水曜日

処理水放出は30年で終わらない!? 建前だらけ…100年~300年では

 ビジネス+ITに掲題の記事が載りました。
 タイトルの後半:「…100年~300年では」は事務局で作成したもので、原題は「原発廃炉への道筋と悲劇的末路」です。
 東電は廃炉までの期間を30年~40年と想定していますが、それは事故を起こさない健全な原発の廃炉に要する期間で、福島原発のように炉心溶融を起こして格納容器の底部に燃料デブリが存在するケースではありません。
 英国は確か福島原発の廃炉には100年~200年掛かると予測した筈で、そちらの方が真実に近いと思われます。では何故東電や国はそんな間違った見通しを修正しないのかですが、そこが東電(あるいは国)がデタラメな組織であるという所以です。
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処理水放出は30年で終わらない!? 建前だらけ…原発廃炉への道筋と悲劇的末路
                           ビジネス+IT 2023/9/20
 8月末に始まった福島原発の処理水の第一回目の放出。残念ながら、処理水放出は政府などが示すように今後30年程度で終わることは決してない。その年数は根拠のない建前の数字であり、関係者や専門家でそれを信じているものはまずいない。つまり今のままなら処理水は、その何倍、ひょっとすると何十倍もの期間にわたって生まれ続けることになる…。
  【詳細な図や写真】処理水発生のメカニズム(出典:FoE Japan)

   (以下の文章は上記【詳細な図や写真】中の説明文)
「汚染水」と「処理水」の違い
 確認事項として、汚染水と処理水が発生する仕組みを示しておいた。
 下図のように、発生する汚染水をALPSで処理することで処理水と呼ぶことになっている。しかし、中国は全体を汚染水と言い続けていて、それが現在の騒ぎの原因となっている。
 一方、ALPS通過後の処理水にトリチウムという物質が残ってしまうが、世界中の原発の通常運転でも発生したトリチウムを含む水を放出処理しているから大丈夫というのが、東京電力と政府の姿勢である。
 ここの議論は今回のコラムの主目的ではないが、一点だけ事実を記しておく。
 福島のタンクにたまっている“処理水”のうち、そのまま希釈して放出できるものは全体の3分の1にすぎない。残り3分の2は、事故当初からの基準を超える様々な放射性物質が入り込んでいて、放出前に再度の処理をしなければならない。つまり、現存する“処理水”のうち多くは汚染水と言わざるを得ない
 国、東電はこれを隠してはいないが、知らない人も多い。まず多面的で積極的な情報公開が必要なのは言うまでもない。
 もう一つの問題は、この放出がどのくらい続くのかということである。

処理水放出期間の「30年程度」に根拠なし
 東電と政府によると「放出期間は30年程度に及ぶ見通し」とされている。これは、原発の廃炉が達成されるまでの期間と合致する。理屈は一応あっているが、では、この廃炉までの30年はどこから来ていて、どれだけ確実なものなのだろうか。
 実は、ここから急にその根拠が揺らいでくる。
 上記の図が、いわゆる「廃炉工程表」である。
 すでに何度か改訂され2019年12月のものが最新となっている。一番右の、「廃炉措置終了までの期間(30~40年後)」が、廃炉までの年数にあたり、基準年は一番左の冷温停止状態達成の2011年12月なので、廃炉は2041年から2051年となる。
 第2期の「燃料デブリ取り出し開始」の2021年12月は過ぎてしまい、まだ始まっていない。すでに遅れているのが分かる。今年の後半に試験的に取り出しを行うとしているが、グラム単位である。デブリの総量は880トンなので、廃炉までの残り20~30年はどう見ても現実的でない
 では、もともとの30~40年はどうやって決めたのであろうか。
 実は、根拠はない
 当時の原子力委員長が、「準備に10年、炉心融解した3つの原子炉に10年ずつで40年だが、意味のない計算式」と語り、地元に配慮した政治家が(期間を)値切ったと政治判断を示唆している(朝日新聞2021年2月11日付)。
 結局、処理水の放出期間30年程度も同様に何の保証もない

ドイツの廃炉年数との近似性
 筆者は、福島事故後の2011年から2012年にかけてドイツ東北部の原発廃炉の現場を取材し、テレビ番組にした経験を持つ。当時、東ドイツ最大の原発基地の廃炉が20年以上かけて行われており、近接地の中間貯蔵施設(トップ画像)にも入った。
 ドイツでは、原発が廃棄される場合、使用済み核燃料はガラス固化されてキャスクに収められ、解体された原子炉格納容器や蒸気発生装置などと一緒に中間貯蔵施設に収納される。この後、最終処分場へと運ばれるのだが、中間施設が“最終化”しないために、法律で保管の年限が決められている。これが40年間なのである。
 世界最悪規模の原発事故の処理がどのくらいの時間で可能なのか、日本に限らず世界中で算定できる国や機関は当然なかったであろう。当時、えいやの政治判断なのか、ひょっとするとドイツの廃炉への年数を参考にしたかもしれない
 しかし、ドイツのケースは通常の原発の廃炉である。燃料デブリの取り出しにめどが立たず、これ以外にも激しく汚染された原子炉建屋や原子炉格納容器などを考えると、日本では100年単位の時間が費やされても何の不思議もない

建前だらけ…日本の原発廃炉への道筋
 一度決めたことを変えない。
 決定にしっかりした根拠があり、信念を持ってことにあたると言うなら、それは良いことなのかもしれない。しかし、単なる建前や責任逃れのためであるなら、それは害悪でしかない。
 こと原子力発電に関しては、この建前が多すぎる。
 今回の廃炉への道筋も、建前だらけと言っても過言ではない。2019年の廃炉工程表の改定にあたって政府は、「2041~51年に廃炉を終える目標を堅持した」とある。事故後の厳しい状況下はともかく、何年もたった後に、いまだに建前を守っている。できるはずのないことをできるということで、間違った結論が導き出される可能性が増している。そもそも目指す「廃炉の定義」さえ、示されていない
 建前が残る限り、処理水は30年後に出ないことにされる。また、廃炉に要する費用も極端に低くなる。これを都合が良いと考える人たちもいるのだろうが、いずれ違った現実を突きつけられるのは、私たち国民である。
 事故後に作り上げられた建前はいったんチャラにして、合理的かつ現実的な数字を作っていくべきである。厳しい事実が待っているであろうが、それは乗り越えるしかない。

 コラムの途中でドイツの中間貯蔵施設の例を挙げたが、これにはドイツの政治家の言葉がセットになって「落ち」としてついてくる。ドイツでも、日本と同様にいまだに最終処分場が決まっていない。
 つまり、収納されている核汚染物が、40年で中間貯蔵施設から出ていく行き先がないのである。このことを、現地選出の国会議員に質問したが、答えは「保管期間を延長すればいい」であった。日本よりずいぶんましな制度だと思うが、ドイツの政治家も建前で生きているのである。
 資源エネルギー庁が作成した、『廃炉の大切な話』では、変わらず「建屋から燃料を取り出し、建屋を解体していく『廃炉』作業をしています。この作業は30~40年かかる見込みですが」と書かれている。
 しかし、現実では、汚染水はこのままではさらに長期間にわたって処理を行い、放出を続けることになってしまう。費用も莫大(ばくだい)となる。これを防ぐには、なにより汚染水を減らしたり、止めたりする策を講じなければならない。新たな遮水壁の建設や最後には『石棺』という大掛かりな封じ込め策も検討すべきである。しかし、これらの現実的な方策を邪魔するのが、30~40年で廃炉ができるという建前である。
 5重の壁をうたっていた原発の安全神話が崩れた現実を私たちは経験した。絶対に安全だからといった建前の元、津波などの安全対策を怠った結果を忘れてはいけない。
 執筆:日本再生可能エネルギー総合研究所 代表 北村 和也