2026年1月5日月曜日

「ケアの漏れ」どう防ぐ 積み残した課題の検証を 自治総研特任研究員 今井照氏に聞く

 福島第1原発事故は避難指示が出た市町村と住民に長期的・広域的な避難という異例の事態への対応を迫りました。
 地方自治総合研究所特任研究員の今井照氏(72)=元福島大行政政策学類教授=は混乱の過程では「『ケアの漏れ』が生じた」と課題を指摘し、自然災害と異なる原発事故の教訓を踏まえ、今後起こり得る同様の事態に備えるべきだと訴えました
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「ケアの漏れ」どう防ぐ 自治総研特任研究員(元福島大行政政策学類教授) 今井照氏に聞く 積み残した課題の検証を
                           福島民報 2026/01/03
 東京電力福島第1原発事故は避難指示が出た市町村と住民に長期的・広域的な避難という異例の事態への対応を迫った。自治体政策を専門とする地方自治総合研究所(自治総研)特任研究員の今井照氏(72)=元福島大行政政策学類教授=は混乱の過程では「『ケアの漏れ』が生じた」と課題を指摘。自然災害と異なる原発事故の教訓を踏まえ、今後起こり得る同様の事態に備えるべきだと訴える

 ―原発事故では二重の住民登録(二重住民票)に代わり、避難者への行政サービスを保障する仕組みとして原発事故避難者特例法ができた。この制度の意義や課題をどう考えるか
 今井氏 事故直後に提起した「二重の住民登録」のような制度は当時、最善の方法だったと今も考えている。ただ、歳月の経過に伴い避難者の生活は多様に変化した。15年前の事故を巡り、新たに制度を定める意義は少ないかもしれない。一方、今後起こり得る同様の「大量」「遠方広域拡散」「長期」の避難に備える何らかの準備は必要だ。

 ―避難市町村や住民にどんな不利益が生じたのか
 今井氏 留意すべき点は(1)避難者を誰がケアするか(2)避難者の意見や主張をどう反映させるのか(3)避難者をどう定義するのか―だ。原発事故では「個別」「遠方」「自発的」に避難した場合に、地域から孤立する「ケアの漏れ」が多く生じた。双葉町は多くの住民と埼玉県に集団避難したため、他自治体と比べて役場主導で動けた部分が大きかったが、それでも、避難が拡散するにつれて役場との距離ができた住民も増えた。

 ―「避難者のケア」にはどんな対応が含まれるか
 今井氏 最低限の項目として「住まいの確保」があり、これに付随する「教育(学校)」「高齢者・障害者の介護」などが緊急に対応すべき課題となる。避難を受け入れた地域ではこうした求めに公営住宅への優先入居などで自発的・積極的に応じた例もあるが、「住民票がなければ転校させない」など不適切・不正確な対応を取った地域もある。今後、福島の事故のような事態に対処するには全国的な法制度を整え、避難者が「避難先でも住民という地位を得る」「原則として避難先自治体が避難者のケアに当たる」ことを定め、国が必要な財政支援措置をする仕組みが必要だ。

 ―長期・広域避難は自治体、避難者にどんな課題を突き付けたのか
 今井氏 避難自治体の最大の課題は緊急時や非常期を脱した後、「復旧期」「復興期」に至る過程だ。住民が全国に離散したため、例えば、避難指示の解除や除染など、復旧期の対応はもちろんのこと、廃炉を含め、「この町をどのようにして復興していくか」というビジョンを全住民に諮り、共有することができなかった。結果的に、それまで暮らしていた風景と全く異なる「新しいまち」が出来上がり、かえって避難先から戻るモチベーションを低下させた。生活基盤の「復旧」は急ぐべきだが、まちをどうしていくかという「復興」については災害の特性を踏まえ、より時間をかけて取り組むべきだったのではないか。

 ―「二地域居住」が注目される中、住民の権利や義務をどう考えるかという議論がある。避難の歩みを通して社会は何を学ぶべきか
 今井氏 現行の行政法はどこに住民登録しているかという「居住意思」、実際にどこで生活しているかという「居住実態」の2要素で住民を定義している。ただ、社会の流動性がこれだけ高まると「居住実態が単一ではない」、複数地域を行き来して暮らす住民が多く生まれている。国が進める「ふるさと住民登録制度」はこうした面に注目した発想だが、現時点では「推し活」的な動きにとどまり、原発事故のような大災害に対応するものにはなっていいない。原発事故に伴う避難には「大量」で「遠方広域拡散」、「長期」という特徴がある。避難者をケアし続け、人権を保障するためには避難者の「権利と義務」を法的に位置付けることが必要だ。その意味でも原発事故の検証が欠かせない。

 今井 
 神奈川県平塚市出身。東京大文学部社会学専修課程修了。都立学校事務、東京都大田区職員を経て1999(平成11)年から2017年まで福島大行政社会学部(現行政政策学類)教授。公益財団法人地方自治総合研究所(自治総研)の主任研究員を経て現在は特任研究員。専門は自治体政策。72歳。