柏崎刈羽原発6号機が今年4月に14年ぶりに営業運転を再開し、24時間体制で首都圏に電力を送り続けています。
読売新聞の記者が真夏日を記録した7月14日に同原発を訪ねました。6号機の見学報告書です。
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首都圏に送電する東京電力柏崎刈羽原発、世界最高レベルの安全対策とは…再稼働に許されない「想定外」
読売新聞 2026/8/5
夏本番、電力需要は高まるばかりだ。新潟県柏崎市と刈羽村にまたがる東京電力柏崎刈羽原発は、6号機が今年4月に14年ぶりに営業運転を再開し、24時間体制で首都圏に電力を送り続けている。東日本大震災による福島第一原発事故を教訓に、安全対策は長い年月をかけて強化された。世界最高レベルの安全対策を備えた柏崎刈羽原発を、真夏日を記録した7月14日に訪ねた。(編集委員・森太)
ゴーッという重低音を伴った音が響きわたる。床が振動している。6号機の原子炉建屋に隣接するタービン建屋では、巨大な高圧タービン1基、低圧タービン3基、発電機が縦一直線に並び、電気をつくっていた。
高速回転する発電機のシャフト
「1400メガワット(⇒140万キロワット)を発電しています」。案内してくれた柏崎刈羽原発副所長の大東(だいとう)正樹さん(59)が、会話も難しいほどの轟音(ごうおん)に負けない大きな声で話した。発電量は一般家庭50万世帯分ほどの電力に相当する。「ここを見てください」。大東さんがそう言って、発電機の先端部分にある小窓から内部を指し示した。巨大なシャフト(回転軸)が高速回転しているのが見えた。毎分1500回転しているそうだ。まさに電気を生みだしている現場だ。
原子炉でつくられた高温高圧の蒸気は、配管を猛烈な勢いで流れて巨大タービンを回す。発電機はその運動エネルギーを受け取って電気をつくる。エネルギーを効率的に伝えるため、タービンと発電機は1本の金属シャフトでつながっている。
海抜15メートルの防潮堤
マイクロバスに乗って、海抜約60メートルの高台にある正門から中に入った。1~7号機を俯瞰(ふかん)できる。海に向かって左側(柏崎市)に1~4号機、右側(刈羽村)に5~7号機が並ぶ。すべて沸騰水型原子炉で、改良型の6号機は右側の真ん中だ。2012年11月の前回取材時と比べて、全体的な風景はあまり変わっていないように見えた。しかしディテールを見ていくと、様々な安全対策が二重三重に施されていることがわかった。
福島第一の事故を教訓に強化された安全対策は、主に「津波・地震から守る」「電源を絶やさない」「原子炉を冷やし続ける」「放射性物質の放出を抑制する」の4分野ある。
「盛土タイプの防潮堤をつくり、海抜15メートルあります」。5~7号機前の海側を走るマイクロバスの中で、大東さんが説明した。「想定される津波の高さは7~8メートルですが、海抜15メートルの防潮堤を建設しました」。もともと海抜12メートルの場所にある5~7号機側は、3メートルのセメント改良土の盛り土をした。
1~4号機側は、前回の取材では防潮堤の建設工事のまっただ中だった。今回、同じ場所を通ると、もともとの海抜5メートルの地盤の上に、完成した高さ10メートルのコンクリート壁が1キロにわたって続いていた。
津波対策ではほかに、事故時に原子炉を冷却するために必要な非常用電源などが設置されている区域に、水の浸入を防ぐための分厚い水密扉を新たに設置した。
電源を失っても原子炉を冷やす
何重ものセキュリティーを通過して6号機の原子炉建屋に入った。迷路のような建屋内の一角にある特殊な装置の前に案内された。大東さんは「原子炉から導いた蒸気を使って小さなタービンを回し、原子炉格納容器の下部にたまっている水を引っ張ってきて原子炉に注水する装置です」と説明した。電源をすべて失った時に原子炉を冷やし続けるために、原子炉の蒸気を動力源にする高圧代替注水系装置で、電源を必要としない。福島第一の事故前からある非常用炉心冷却装置に加えて、新たに設置された。
格納容器内にたまったガスを緊急時に外部に逃がして容器内の圧力を下げる際に、ガスに含まれる放射性物質をフィルターで除去して大幅に低減させるフィルターベントも新たに設置された。ガスに含まれるセシウムなどの放射性物質の99.9%以上を除去できるという。
建屋の最上階に移動した。大きな空間に使用済み燃料プールや、原子炉の蓋をつり上げる天井クレーン、使用済み核燃料の搬出入に使用する燃料取り扱い機などがあった。このエリアは減圧された空間になっている。事故時に放射性物質が外に漏れないよう外気が中へ入ってくる設計だ。壁には56個の箱が設置されている。中には、水素と酸素を結びつけて水蒸気にする反応を促進するパラジウムが充填(じゅうてん)されたカートリッジが入っており、水素濃度の上昇を抑える働きをする。
福島第一の事故では、2号機で建屋内の圧力を逃がすブローアウトパネルが開いたことで、水素爆発は免れたものの放射性物質が大量に外部に放出された。新たな対策では、開口部の外側に鋼鉄製の扉が設置され、新幹線の扉のようにスライドさせて密閉できるようになった。放射性物質の拡散を防ぐだけでなく、屋外での緊急活動も容易になるという。
さらに満水状態を常時維持しなくてはならない使用済み核燃料プールでは、消防車を建屋に接続して注水できる配管を新たに設置。万一プールの水位が下がった際に、燃料の上から水をかけて冷却できるスプレーノズルも設けた。福島第一の事故が起きた直後は、自衛隊のヘリコプターが上空から水を投下するなどした。
さまざまな緊急車両
敷地内にある貯水池で、消防車が点検のため放水していた。原子炉や使用済み核燃料プールに注水するための車両だ。
高台に上がると、様々な特殊車両が駐車された敷地があった。その中の一つ、空冷式ガスタービン発電機車は、福島の事故後に新たに配備されたもので、電源を喪失した際の非常用バックアップ電源として、軽油を使ってガスタービンを回し、大規模な電力を生み出す大型車両だ。発電機車と制御車の2台1組で活動する。
大東さんによると、発電所内で管理する緊急時用の車両は100台ほどある。発電所に勤務する約1200人の東電社員のうち、約200人が大型免許を取得済みだ。牽引(けんいん)免許と大型特殊免許についても、それぞれ約100人の社員が取得しており、こうした車両を運転できる。日頃から訓練を行って緊急時に対応できる体制を整えているそうだ。
協力企業も含めて約6800人の団結力
ほかにも様々な安全対策で事故に備える柏崎刈羽原発だが、最後に大きな力を発揮するのは、協力企業も含めてそこで働く約6800人の団結力かもしれない。すれ違う作業員らは、みな元気にあいさつを交わしていた。
発電所では今、あいさつ運動に力を入れている。稲垣武之所長が率先して取り組み、毎朝、出勤してくる人々に積極的に声をかけている。時には作業員らの乗ったバスにも乗り込み、一人一人にあいさつする稲垣所長は、警備員を含めて多くの人の顔と名前を覚えているという。
稲垣所長はまた、発電所内の改善に貢献した人に「サンクスカード」を渡している。すでに9000枚以上のカードを発行した。こうした活動を通じて、発電所幹部と現場作業員が触れ合うことになり、信頼関係の醸成に役立っているそうだ。
技術畑出身の副所長の大東さんは新人時代、柏崎刈羽原発の運転員を務めた。「原発の全体を知ることができるから」と、希望して運転員期間を延長し、5年務めた。以来、2007年の中越沖地震、11年の東日本大震災、今回の再稼働と、重大な出来事はすべて柏崎刈羽原発の現場で経験したベテランだ。今、7号機の再稼働に向けた準備を進めている。
14年ぶりの再稼働を果たした柏崎刈羽原発に事故は許されない。福島第一の事故を経験したからこその多様な安全装備と、人の力も信じる泥臭くも強固な安全思想が貫かれていることを感じた。