2025年8月4日月曜日

(社説) デブリ搬出遅れ 廃炉計画の現実味高めよ

 高知新聞が福島第1原発の廃炉に関して掲題の社説を出しました。
「廃炉計画の現実味を高めよ」は実に言い得ています、
 深刻な事故を起こした原発の廃炉は世界でも例がないので、かなり困難であろうことは容易に推測できますが、事故後14年が経過したのに一向に現実味のある廃炉計画が発表されません。
 そうでありながら東電は当初立案した「2051年に廃炉を終了する」という目標を維持すると述べる一方で、廃炉支援機構はそんなことは「元々困難」と明言するなど、東電の説明には全く「現実味」がありません。先ずは「現実味」のある計画を発表して欲しいものです。
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社説 【デブリ搬出遅れ】廃炉計画の現実味高めよ
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 東京電力は福島第1原発の溶融核燃料(デブリ)の本格的な取り出しが遅れる見通しだと発表した。2030年代初頭の着手を目指していたが、37年度以降にずれ込む。
 政府と東電は51年までの廃炉完了を目標に掲げる。だが、デブリの取り出し以外にも課題が積み残され、目標達成は厳しさを増している廃炉の行方は地域の将来像に大きく関わってくる。着実に進めるとともに、廃炉計画の現実味を高めていく必要がある
 11年3月の福島事故でメルトダウン(炉心溶融)を起こした1~3号機には推計880トンのデブリが残る。今も強い放射線を出しており、人は簡単に近づけない。水をかけて冷やし続けるため汚染水や、浄化した処理水が増える原因にもなっている。政府と東電は全量を取り出す方針だが、廃炉の最難関とされる。
 取り出し計画は、作業の支障となる使用済み核燃料の搬出を終えている3号機から始める。原子炉格納容器の上部から入れた装置でデブリを砕き、容器側面から入れた別の装置で回収する方法を想定する。東電は、廃炉の技術支援を担う原子力損害賠償・廃炉等支援機構の提言を踏まえて検討してきた。
 ただ、取り出し作業に取りかかるには、取り出し設備を備えた建物を造るほか、原子炉建屋内の線量低減や内部調査といった準備が必要となる。この作業に今後12~15年程度かかると見込まれ、取り出し作業の開始が遅れることになった
 福島事故の廃炉は前例のない作業で、困難が伴うのは当然だ。地元自治体も冷静に受け止めているが、東電の見通しの甘さは否めない。
 デブリの取り出し自体も試行錯誤が続く。当初、21年に始める予定だったが、工法の変更などで延期を繰り返した。
 3年遅れで昨年11月に試験的採取にこぎつけたが、今年4月に回収した分と合わせても1グラム未満だった。本格的取り出しとは位置付けが異なるとはいえ、作業の困難さは変わらないだろう。その上、取り出し後の保管先や処分方法も決まっていない。廃炉完了は見通せない
 東電も「目標達成は物理的に考えて厳しい」とするが、見直しは否定している。一方、機構の更田豊志廃炉総括監は「元々困難だ」と指摘する。今回の取り出し延期で「本当に廃炉されるのか」との不安や疑念は強まった。政府と東電はこうした住民の思いに応えていかなければならない
 多くの難題があるにもかかわらず、国の原発政策は大きく変わった。今年2月に改定したエネルギー基本計画は、事故後一貫して明記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」との文言を削除し、原発回帰を鮮明にした。
 福島事故では、地震列島で原発を稼働する危険性の高さや、過酷事故の恐ろしさを思い知らされた。使用済み核燃料の行き先の問題もある。原発の事故と教訓をいま一度思い起こしたい。