原発事故影響山林整備停滞要因か 「ナラ枯れ」福島県内急増 地域資源への打撃懸念 初期防除の徹底急務
カシノナガキクイムシが媒介する菌でミズナラなどが枯れる「ナラ枯れ」が福島県内で前年度比1・8倍に急増しています。全国でワースト2位です。
本来は初期に防除を徹底する必要があったのですが、原発事故発生後に立ち入りできず、管理が困難だった山林があった上、放射性物質の影響でシイタケ用原木などが出荷できないまま長い年月が経過するなど福島県特有の事情が被害の拡大に拍車をかけた可能性があるということです。
林業・観光の危機と指摘されています。
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【真相深層】原発事故影響山林整備停滞要因か 「ナラ枯れ」福島県内急増 地域資源への打撃懸念 初期防除の徹底急務
福島民報 2025/08/20
東京電力福島第1原発事故の影響による山林整備の停滞や温暖化などを受け、カシノナガキクイムシが媒介する菌でミズナラなどが枯れる「ナラ枯れ」が福島県内で急増している。2024(令和6)年度の被害量は前年度比1・8倍の約2万1千立方メートルとなり、全国ワースト2位となった。県南地方の棚倉森林管理署管内では初めて確認されるなど被害範囲も拡大。関係者は「ナラ枯れ」による山林の荒廃が景観や森林資源、山の保水機能などに影響を与えかねないと危機感を募らせる。初期の防除の徹底は急務で、県は市町村とともに啓発を含めた対策を強める。
■全国ワースト2位
林野庁と県がまとめた県内でのナラ枯れの被害量の推移は【グラフ】の通り。令和に入ってから増加傾向にある中、2024年度(速報値)は前年度の2倍近くまで増えた。都道府県別に見ても青森県の3万1800立方メートルに次ぐ規模で被害の広がりが際立つ。
民有林に限定すると被害木は1万5900立方メートルで過去最大規模に及ぶ。民有林の方部別の被害量の内訳は【表】の通り。昨年度に県南で初めて被害が生じているほか、会津と南会津で増加が顕著だ。
太く成長した老木が被害に遭いやすいとされる。県や林業関係者によると、原発事故発生後に立ち入りできず、管理が困難だった山林があった上、放射性物質の影響でシイタケ用原木などが出荷できないまま長い年月が経過するなど福島県特有の事情が被害の拡大に拍車をかけた可能性があるという。
■林業・観光の危機
ナラ枯れの拡大によって倒木などの危険性が増す上、貴重な木材やキノコ類などの産出量が減少し、林業や観光業が打撃を受ける事態も懸念される。天栄村の二岐山では昨年度からナラ枯れが確認されており、今年も近隣の山林で変色などの兆候が見られるという。周辺の温泉地で旅館を営む50代男性は旅館で提供するマイタケをナラの木などから収穫しており「マイタケが採れなくなると困る」と不安を抱く。
同山には幹回りが日本最大級のミズナラの巨木があり、「こぶなら」の愛称で親しまれている。保全活動に携わる同村の湯本森・里研究所の星昇さん(46)は「貴重な巨木であり強い危機感を抱いている」と地域の宝を守る方策が必要と訴える。
■行政だけでは限界
林野庁の担当者は「まん延すると手に負えないというのが実情。初期で防除を徹底するしかない」と早期の対策の重要性を強調。県は2021(令和3)年度から防除対策のための費用の4分の3を市町村に対して補助している。
ただ、林業関係者によると、行政で林業に精通した人材の不足が進んでいることなどもあり、ナラ枯れの兆候を察知しても費用対効果の面から迅速に対策を講じることが難しいケースも多いという。
県森林保全課は「市町村だけでは初期の対応に限界がある」とし、発見した際の早期連絡を呼びかけるとともに農林事務所などを通じて薬剤を使わずに個人でも行える防除法などを広く周知していく構えだ。