2016年2月6日土曜日

06- 東電が賠償増額の和解勧告を拒否 浪江町民の裁判外手続き

東京新聞 2016年2月5日
 東京電力福島第1原発事故で全町避難が続く福島県浪江町の住民約1万5千人による裁判外紛争解決手続き(ADR)で、原子力損害賠償紛争解決センターが東電に賠償金増額の和解案を受け入れるよう勧告したのに対し、東電は5日、受諾を拒否した。
 
 浪江町では、町が代理人となり2013年5月にADRを申し立てた。センターは14年3月、現行の慰謝料(1人当たり月10万円)に5万円上乗せする賠償金増額の和解案を示したが、東電が再三にわたってこれを拒否。昨年12月、センターが東電の対応を「理解できない」と批判し、和解案受け入れを強く求める勧告書を示していた。(共同)

2016年2月5日金曜日

浪江町長ら 東電に和解案受け入れを要請

 福島県浪江町の住民約1万5000人が慰謝料の増額を求めた和解仲介手続き(ADR)で、馬場有町長や避難生活を送る町民ら約100人が2日、東電本店を訪れ、ADRの和解案の受け入れるように要請しました。
 以前(2014年7月~)毎日新聞が調査したところによると、ADRの裁定・仲介額はかなり東電に有利に決められているということでした。それでもなお東電がADRの和解案を受け入れないのは大変に問題です。
 
  (毎日新聞記事 例)
和解案 提示額の50%が約半数、額面半額以下40% 誰のためのADRか疑問の声
毎日新聞 2014.9.2
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<原発ADR> 東電に和解案受け入れ要請
  河北新報 2016年2月3日 
 東京電力福島第1原発事故に伴い福島県浪江町の住民約1万5000人が慰謝料の増額を求めた和解仲介手続き(ADR)で、馬場有町長や避難生活を送る町民ら約100人が2日、東京の東電本店を訪れ、原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案の受け入れを東電側に要請した。
 馬場町長が東電の石崎芳行副社長に要望書を手渡し、「町民は原発事故で苦悩している。和解を受諾しないのは不合理だ」などと迫った。
 石崎氏は5日に正式回答する方針を伝えた上で「他の(被災自治体の)皆さんとの公平性も守らなくてはならない。一律の対応でなく、個別事情を考慮させてほしい」と述べ、和解案受け入れに否定的な姿勢を示した。
 町は2013年5月、住民の代理人となり、東電に1人月額10万円の慰謝料を35万円に増額するようセンターに申し立てた。センターは14年3月、月5万円を上乗せする和解案を提示したが、東電側が応じない状況が続いていた。

05- 食の安心、学校給食にも 福島県産利用27.3%に上昇

 福島民友 2016年02月04日
 (福島)県内の学校給食で本年度、県産食材を活用している品目の割合が27.3%となり、前年度より5.4ポイント上昇、東日本大震災前の水準の8割弱にまで回復したことが3日、県教委の県産食材活用状況調査結果から分かった。東京電力福島第1原発事故による放射性物質への不安などで激減した活用割合に回復が見られ、県教委は「県産品への保護者の安心感が広がってきている」とみている。ただ、水準を震災前に戻すには、一層の周知が課題となる。
 
 学校給食での県産食材活用割合は原発事故が発生した2010(平成22)年度に36.1%だったが、12年度には18.3%と半減した。その後、徐々に回復し、本年度は前年度からの上昇幅が震災以降で最も大きかった。
 県教委は、学校給食用食材の放射性物質検査結果を公表したり、保護者対象の試食会を開くなどして安全性を周知していることが保護者の理解につながったとみている。
 
 14年12月から地元産米の使用を再開したいわき市では当初、保護者の中から不安視する声もあったが、地元産米のご飯を食べない児童、生徒は減ってきているという。吉田尚市教育長は「県産食材を積極的に活用していく上では、放射性物質検査などによる安全確認や、検査状況の見学会などを通じて保護者の理解を得ることが大切」とした。
 
 鮫川村学校給食センターは、月の献立で地元産食材の使用品目を明記し、周知している。舟木正博所長心得は「給食を通じて子どもたちに地元食材や県産食材の良さを実感してもらうことが狙いの一つ」と話す。
 
 ただ、地区別では、相双・いわきと県北の活用割合が、いずれも16%台と低い。県教委は「他地域と比べ、放射線への不安が完全には払拭(ふっしょく)されていない」とみて、保護者への理解を得られるよう安全対策への取り組みを続けていく方針。

2016年2月4日木曜日

福島原発廃炉作業 1月の状況

 河北新報が福島原発における1月度の事故処理(廃炉作業)の概要をまとめました。
 
 注目すべきは海側遮水壁完成後の地下水の汲み上げ量の実態で、当初想定した量の10倍に達するなどの見込み違いがあり、その変動幅も大きくて一向に収束しそうにありません。
 事故からもう5年も経とうとしているのに、一番肝心な汚染水の処理の目途がまだ立たないというのは異常なことです。
 東電に問題を収束させる能力があるのかが問われます。
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<福島廃炉への道> 凍土壁 稼働時期は未定
河北新報 2016年2月3日
◎1月1~31日
 
【1月】
 8日 東京電力は1号機の建屋カバー解体工事で、放射性物質の飛散を防ぐ散水設備を設置する上で支障となる鉄骨などの撤去作業を開始。
13日 敷地境界付近のダストモニターが放射能濃度の上昇を検知し警報を発した。付近の道路を走っていたダンプカーが巻き上げた土ぼこりが原因とみられる。
25日 溶接型のフランジタンクを継続使用する方針を発表。凍土遮水壁の運用開始の遅れなどで、浄化処理する汚染水が増え、タンクの容量に余裕を持たせることが必要になった。
28日 1、2号機の原子炉格納容器にロボットを投入し、溶融燃料の状態などを調べる調査の延期を表明。
 
◎地下水ドレン くみ上げ量が想定超える
 
Q 昨年10月、放射性物質を含んだ地下水の海洋流出を防ぐ海側遮水壁の完成後、汚染水の発生量が不安定な状態にある。
A 昨年12月中旬には最大で1日800トンに増加し、ことし1月中旬は350トンに半減。1月下旬には600トンに増えた。降雨の影響により発生量が大きく変動している。
 
Q 昨年9月、建屋周辺の地下水をくみ上げて海洋放出する「サブドレン」を稼働後、建屋への地下水流入量は減少していた。
A サブドレン稼働により1日300トンだった建屋への地下水流入量は150トンに減った。しかし、海側遮水壁の完成後、護岸近くの地下水が地表にあふれ出ないように設けた「地下水ドレン」からのくみ上げ量が想定を超えて大幅に増加。東電は当初1日50トンと見込んでいたが、最大で550トンになり、建屋内へ大量の地下水を移送しなければならなくなった。地下水ドレンからくみ上げた水は多核種除去設備(ALPS)で取り除けないトリチウムを多く含み、タンクで保管せざるを得ない。
 
Q 汚染水発生量を抑制する抜本的対策は。
A 東電は建屋周囲の地盤を凍らせ、地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」を切り札と位置付けている。2月上旬に工事が完了する予定だが、原子力規制委員会がゴーサインを出しておらず、稼働時期は決まっていない。

世界は脱原発に向かって進んでいる

 自民党の議員たちは「アメリカは、日本が脱原発をすることを認めない」などと奇妙なことを言いますが、一体そんなことがあり得るのでしょうか。
 アメリカでは、スリーマイル島の原発事故(1979年)よりも数年前の1970年代半ば以降、コストメリットがないことから急速な原発離れが起き、1975年以降はただの1基も建設されていません。 1975~1978年の4年間は年間2~4基の発注(合計13基)がありましたが、そのすべてが後にキャンセルされ、1979年以降現在に至るまで発注自体がゼロになっています。
 
 こういう現実がほとんど知らされないままで、「脱原発が認められない」などというデタラメとしか思えない言説が流布されています。
 世界は脱原発に向かっており、再生可能エネルギー発電も日本の数倍~十数倍の比率でが普及しつつあります。
 その比率がまだ僅か数%なのに、受け入れ能力をオーバーしたからという口実でその普及を阻止しようとしているのも日本だけです。
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世界は脱原発に進んでいる
菅直人 BLOGOS 2016年02月02日
 ワシントン、ロンドン、チューリッヒを回り、 1月31日に帰国。一週間で地球を一周し、やや時差ボケが残った。
 欧米を回ってみてあらためて脱原発の流れを感じた。最大の原発大国のアメリカでも原発は減り続けており、現在は稼働している原発は99基と100基を切った。最大の原因は原発がコストに合わないという経済的理由。使用済み燃料の最終処理の場所も決まっていない。
 第二の原発大国フランスも電力に占める割合を75%から50%に削減中ドイツは2022年までに原発をゼロにする計画を着々と進めている。
 日本はこれまで3番目の原発大国だったが、現在稼働しているのは3基のみ。使用済み燃料の最終処理費用、事故時の莫大な補償、原発の建設コストの上昇など、理性的に考えれば原発に戻ることは考えられない政策。進めようとしているのは原発関連事業に国民が負担する税金や電気料金を投入させることにより、原発で儲けようとしている人たちだ。
 
 このように欧米の主要国では原発は減ってきており、長期的にもコスト高で増やす計画が次々と頓挫している。
 今後も原発を大きく増やす計画を進めているのが中国。中国は急速な経済発展と大気汚染の深刻化から原発を増やそうとしている。原発建設計画は地震が少ない沿岸部で進められているが、沿岸部は同時に人口を集中しており、事故が発生すれば大きな被害が予想される。その場合、偏西風で韓国や日本が被害を受ける可能性も高い。しかも、中国のAP1000と呼ばれる原発はもともとウエステイングハウスの技術が基になった原発で、技術的にも心配。
 
 国際的環境団体は福島原発事故5周年に合わせて“脱原発”運動に一層積極的に取り組んでおり、私にも国内外から多くの参加要請が来ている。日本と世界の脱原発に役立つことであればできるだけ協力するつもりだ。

04- 事故前の廃棄車を「被災者が乗り捨てた車」と勘違い

 震災時に乗り捨てられた自動車などを勝手に移動させることができないので、緊急事態条項を制定する必要があるという驚くべき主張をしばしば耳にします。1月のTV番組でもある保守系の女性コメンテーターがそんなことを言っていました。 
 通常時でも自動車が路上などに放置されていればレッカー車で移動することはごく当然のはなしです。それなのになぜ憲法を改正する必要があるというのでしょうか。
 
 それはともかくとして自動車が放置されているある写真を見た雑誌の編集者が、原発事故時に被災者が乗り捨てた自動車の群れと勘違いして説明文をつけたところ、実際は事故前から放置されていた車の群れであったため謝罪するという1件がありました。
 
 J-CASTニュースを紹介します。
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「DAYS JAPAN」、福島原発事故記事で「誤報」を謝罪
 事故前の廃棄車を「被災者が乗り捨てた車」
J-CASTニュース 2016年2月2日
「これはちょっとひどい」との声もあるが…(画像は問題の写真。同誌公式ツイッターより) 
 
 総合月刊誌「DAYS JAPAN」(デイズジャパン)が2016年2月2日、東京電力福島第一原発の事故をめぐる同誌の記事での「誤報」を認め、公式ホームページやFacebook上で謝罪した。
 問題となったのは、記事に付けられた車の写真のキャプション。被災者が逃げる際に「乗り捨てた車」との説明がつけられていたが、実際は「事故前から廃棄されていた車」だった。
 
■グーグルマップに、写真の状況と酷似した場所が
 問題の記事は同誌の2015年12月号(15年11月20日発売)に掲載された。タイトルは「原発事故が奪った村」。外国人記者による事故現場周辺のレポートで、15年9月撮影という福島県の帰還困難区域の写真がいくつか付け加えられた。
 
 記事のトップに掲載された、大量の廃棄車を雑草が覆う写真のキャプションが「人々が乗り捨てて逃げた車が、4年半の歳月を経て草に覆われていた 空撮/福島県双葉町」となっていた。しかし、雑誌の発売後、「事故前にあった廃棄車ではないか」「場所が間違っている」という指摘がネット上で相次いだ。
 複数のネットユーザーは、2009年に撮影された現地の様子をグーグルマップ、グーグルア-スで確認し、福島県双葉郡富岡町の県道に写真と酷似した場所があることが発見された。
 
 こうした指摘がまとめサイトに掲載されると、
  「これはちょっとひどい」
  「地元の方に失礼」
  「話を盛ってはいかん」
といった批判が数多く寄せられた。
 
 同誌編集部は発売から沈黙を続けていたが、16年2月2日、公式ホームページやFacebookでネット上の指摘に言及し、「読者の方のご指摘と2009年のグーグルマップ」(編注:画像取得日が表示されるのはグーグルアース)をもとにキャプションの誤りを認め、正しくは「事故前から廃棄されていた車」だったと発表した。
 加えて、「福島県双葉町」の地名表記も「福島県双葉郡富岡町」の誤りだと明かし、「読書の皆様ならびに関係各位の皆様ご迷惑をおかけした」と謝罪した。
 誤記の経緯については、2月2日中に同誌のホームページやツイッター、ブログ、フェイスブックに掲載するとしている。
 
(追記)2016年2月2日、同誌発行人の広河隆一氏は写真キャプションの「誤報」について、同誌公式ホームページ、フェイスブック上で以下のように経緯を説明した。
 
 廃棄車の写真はある写真家(編注:記事を担当した外国人記者と同一人物かどうかは触れられていない)のホームページで見つけたが、「掲載決定が締切ギリギリだった」ため、写真家から「編集部で写真家のホームページを参照して(キャプションを)書いてほしい」という流れになった。
 写真家の英語版ホームページには「車が汚染されたため住民が放棄したと思われる。それを証明するように直後に測定器が鳴り響いた(I guess that the cars became contaminated and then were abandoned by the residents. A moment later the deep of the dosimeter confirms this.)」、日本語版のホームページには「何台もの車が整然と並べられた状態で棄てられていた。恐らく、車が放射能に汚染されたため、避難住民たちがやむなく捨てて行ったのだと思った。車に近づいていった次の瞬間、放射能測定器が鳴り始め、その推測が正しいことを証明した」と説明されていた。
 
 しかし、編集部は「思った」「思われる」の部分を取り除き、「人々が乗り捨てて逃げた車が、4年半の歳月を経て草に覆われていた」と断定的に表記した。
 また地名表記も、写真家のホームページにあった「FUTABA」の説明をそのまま使用した。
 
「これはちょっとひどい」との声もあるが…(画像は問題の写真。同誌公式ツイッターより)

2016年2月3日水曜日

課題を置き去りにしたままの 高浜原発再稼働

 東電福島の原発事故で明らかにされた課題の多くは解決されていません。泉田新潟県知事がいうように、あの原発事故がなぜ起きたのかの解析も、事故後5年が経過しようとしているのに何も進んでいません。
 高浜原発に限定してみてもやはり多くの課題を置き去りにしたまま、この度同原発3号機が再稼働しました。
 人々の安全と安心は確保できるのか。その先に何が待っているのかを考える」として、中日新聞 が3回にわたって <置き去りの先に 高浜再稼働> を特集しました。
 各回のテーマは、「上」:避難計画の実効性の乏しさ、「中」:運転に伴って増量するプルトニウムの問題、「下」:過酷事故時の国・電力会社による補償の不十分さ・・・です。
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<置き去りの先に 高浜再稼働>
   (上) 机上の避難計画
中日新聞  2016年1月31日
 関西電力高浜原発(福井県高浜町)から南西へ百二十キロほど離れた兵庫県宝塚市のスポーツセンター。3号機の再稼働が間近に迫った二十一日、記者が訪ねると、責任者という中年の男性が首をかしげた。「えっ。わたしはここが避難先とは聞いてませんが…」
 
 国の広域避難計画によると、高浜原発で重大事故が起き、風向きなどで東に逃げられない場合、地元の高浜町民ら七千人が宝塚市に避難することになっている。スポーツセンターは受け入れ先に指定されている市内十五施設の一つだ。
 宝塚市総合防災課の担当者は「(センターが)避難先に指定されているのは間違いない。管理者の認識が不足していた」と周知不足を認める。計画では避難者のための食料や布団の調達は市町に委ねられているが、センターには何もない。担当者は「関西広域連合や(兵庫)県から具体的な指示がなく、市では何も決められない」と漏らした。
 
 高浜原発は先行して再稼働した九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)と異なり、国の計画で避難対象とされる三十キロ圏が県境を越える。圏内の住民は福井、京都の計十一市町、十七万九千人。避難先は兵庫や徳島など四府県五十六市町に及ぶ。関係自治体間の連携は容易ではない。
 また、避難の際は安定ヨウ素剤の配布場所に寄ったり、放射性物質が付着していないかを調べるスクリーニング検査を受けたりすることになっているが、これも実効性に疑問符が付く。
 兵庫県へマイカーで避難する場合のスクリーニング検査は、舞鶴若狭自動車道の綾部パーキングエリア(PA)=京都府綾部市=で実施される。だが、駐車スペースは数十台分。検査を担当する福井県の職員は、百五十キロ離れた県庁から誰よりも早く駆け付けなければならない。
 
 そもそも避難道となる舞鶴若狭自動車道や、代替となる国道は大半が片側一車線しかない。「海水浴の時期ですら渋滞するのに、円滑に避難できるはずがない」。高浜原発から約四キロ離れた高浜町小和田の農業、東山幸弘さん(69)は「避難計画は、再稼働に間に合わせるために役人が無理やり作った机上の空論。現実に即していない」と批判する。これに対し、福井県は「その時々の情勢に対応する」(危機対策・防災課)と臨機応変に臨むという。
 
 高浜3号機が再稼働した二十九日の会見で、丸川珠代原子力防災担当相は「緊急時対応についても、引き続きより一層の緊張感を持って備えをしたい」と述べたが、今のところ、福井と、隣接する京都、滋賀三府県の合同避難訓練すら、開催のめどが立っていない。
 人々の安全と安心は確保できるのか。多くの課題を置き去りにしたまま高浜原発3号機が再稼働した。その先に何が待っているのかを考える。 (小浜通信局・平井孝明)
 
<国の広域避難計画> 福島第一原発事故を受け、各原発ごとに内閣府が半径30キロ圏内の自治体と協議し、策定を進めている。複数府県にまたがる避難計画は高浜原発が初めてで、昨年12月18日、国の原子力防災会議で了承された。先に再稼働した九州電力川内原発(鹿児島県)と、地元同意が済んでいる四国電力伊方原発(愛媛県)でも作られている。
 
 
<置き去りの先に 高浜再稼働>
   (中) 減らない核燃料
中日新聞  2016年2月1日
 「プルサーマルの推進、そして核燃料サイクルの推進という観点から非常に意味がある」。関西電力高浜原発3号機(福井県高浜町)が再稼働した一月二十九日、林幹雄経済産業相が会見で期待を込めた。
 プルサーマルとは使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して作る「MOX」と呼ばれる燃料を通常の原発で使う発電のこと。新規制基準下で実施されたのは高浜が初めてだ。
 核のごみ、と揶揄(やゆ)されることが多い使用済み核燃料だが、日本はこれを資源として再利用する核燃料サイクルの確立を目指してきた。その両輪がMOX燃料を使い、消費した以上のプルトニウムを生み出すとされる高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)と、プルサーマル発電だが、もんじゅは度重なるトラブルから原子力規制委員会に運営主体の変更を迫られるなど、先行きが見えない。そんな中、高浜の再稼働は核燃料サイクルを回すため、小さいながらも火が灯(とも)ったことを意味する。
 
 ただ、福島第一原発事故前にプルサーマル発電で消費したプルトニウムは計一・九トン。核燃料サイクルのため、ため続けたプルトニウムは二〇一四年末時点で、国内外に四七・八トン。非軍事用では世界全体の五分の一に相当し、原爆五千発に相当するとされる。
 関電が二月中の再稼働を目指す高浜4号機や、再稼働を申請中の四国電力伊方3号機(愛媛県)などもプルサーマル発電だが、これらがすべて再稼働したとしても、ため込んだプルトニウムのうち、MOX燃料として消費できる量はわずかだ。
 
 「(核燃料は)再処理せずに直接、処分すべきだ」。軍備管理と核不拡散問題の専門家でつくる「国際核分裂性物質パネル」のメンバーで原子力・核政策アナリストの田窪雅文さんは、高浜原発が支えようとしている核燃料サイクルそのものを否定する。
 サイクルが、よほどうまく回らない限り、その存在はプルトニウムをためる口実と化すからだ。
 
 北東アジアでは韓国が原子力協定を結ぶ米国に対し、日本のような再処理を認めるよう求め続けている。中国にも日本の動向をにらみ、再処理技術を促進しようとの主張がある。
 「韓国内には北朝鮮に対抗し、核武装を主張する声もある。今後、実際に核開発を進めようとする国が、プルトニウムをため込むために日本をあしき前例にする可能性はある」と田窪さん。唯一の被爆国である日本が、核拡散を助長させるのか。日本の核燃料サイクルはそんな点からも世界で注視されているという。 (福井報道部・塚田真裕)
 
<MOX燃料> 原発から出る使用済み燃料からウランとプルトニウムを取り出し、混ぜて作った核燃料で、「ウラン・プルトニウム混合酸化物(Mixed Oxide)燃料」の略称。通常の原発で使うプルサーマル発電は、日本では2009年に九州電力玄海3号機(佐賀県)で初めて本格導入。伊方3号機(愛媛県)、高浜3号機のほか、水素爆発を起こした福島第一原発3号機でも実施例がある。電気事業連合会は全国の16~18基の原発でプルサーマル発電の導入を目指している。
 
 
<置き去りの先に 高浜再稼働>
   (下) 責任取れるのか
中日新聞  2016年2月2日
 福井県鯖江市に住む柑本(こうじもと)修さん(46)は昨年十二月、アルバイトを始めた。北陸新幹線の整備に伴う文化財調査で時給は九百円。福井市のJR福井駅近くの現場で週四、五日、土を掘り返す。「農業だけでは生活できないから…」と嘆息する。
 
 東京電力福島第一原発事故が起きたとき、福島県二本松市の郊外で無農薬のコメを作っていた。原発から六十キロほど離れていたが、地域のコメから基準値を超える放射性物質が検出され、柑本さんの水田も出荷制限がかかった。知人のつてを頼り、遊休農地があった鯖江市に移り住むことに。ニンニクやタマネギを育て、昨年春には市内の古民家で農家民宿も始めたが、いずれも軌道に乗ったとは言えない。
 事故後、再出発のため「数百万円は使った」という。水田は売れなかった。だが、東電から支払われた賠償金は家族三人分で約六十万円。政府が指示していない二本松市からの避難は自主避難とされたからだ。「人生を無理やり、変えられたのに…」と憤る。
 
 政府の指示があった地域は自主避難扱いと比べ、賠償額は多いが、ここにも格差がある。福島県川内村の村議志田篤さん(67)は「家族四人の場合、同じ村内でも二十キロ圏なら約一億円二十~三十キロ圏は八百万円ほど」と明かす。二十キロを境に指示が避難と屋内退避に分かれたためで同村には両圏が混在する。志田さんは「放射能が二十キロでぴたっと止まるのか」と怒りをあらわにした。
 こうした賠償額の算定は、国の原子力損害賠償紛争審査会が定めた指針に基づく。「指針は多様な被害の実態と乖離(かいり)している」と指摘するのは、民間による実態調査「原発避難白書」の作成に携わった江口智子弁護士だ。
 
 納得できない被害者は、国の原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立て、指針を上回る条件の和解案を提示されることもある。だが、強制力はなく、東電は拒否できる。泣き寝入りする被害者を減らそうと、昨年十二月の原子力委員会でADRの和解案に法的拘束力を求める意見も出されたが、議論は深まっていない。
 そんな状況で、高浜原発が再稼働した。
 
 以来、柑本さんはどうにも天候が気にかかる。本職の農作業。冬越しのタマネギは冷たい風が甘くする。が、もしも事故が起きたら、その風がまた放射性物質を運んでくるかもしれない。
 今、柑本さんの畑がある鯖江市は高浜原発から約八十キロ。三十キロ圏からは外れ、事故が起きたときの避難計画もない。「福島の事故の責任が果たされていないのに、高浜で何かあったとき、関電と政府が責任を取れるとは到底思えないんです」  (社会部・西尾述志)
 
<福島第一原発事故の賠償> 東京電力と原子力損害賠償・廃炉等支援機構は要賠償額を7兆753億円と見積もり、1月22日現在、個人、法人などを合わせ約239万9000件で計5兆6947億円を支払った。大半は国が立て替え、返済費用は電気料金に上乗せされている。国の原子力損害賠償紛争解決センターには1万8801件の申し立てがあり、和解が成立したのは7割の1万3414件。原発避難白書によると、2015年4月現在、名古屋、福島、東京など18地裁で計25件の集団賠償訴訟が起きており、原告数は9900人余りに上る。