2023年6月28日水曜日

28- 福島第一原発の汚染水の放出を懸念する科学者たち(ハンギョレ新聞)

 ハンギョレ新聞オ・チョルウ氏から寄稿された記事「福島第一原発の汚染水の放出を懸念する科学者たち」が載りました。
 同記事は韓国以外の海洋研究者や研究者組織から出されている海洋放出反対の意見を紹介していて、結論として、福島第一原発の汚染水の放出は議論が終息して実行のみを残す問題ではなく、共有地である海に依存して生きていく人間と人間以外の生態系の健康のために、科学者と科学者との間でさらに多くの調査、評価、分析が行われるべき問題なのだと述べています。
 実はそうした観点が原子力規制委や東電あるいは国に最も欠如しているものです。
 また日本の主張は要するに「海水で希釈したから安全」ということに尽きますが、それでは「なぜ(脱塩して)飲料水や農業用水に使おうとしないのか」という追及に堪えられません。
 そもそも当初挙げられていたいくつかの処分案(下記など)を一顧だにすることなく、また各地で行われた説明会で圧倒的に反対意見が多かったことも完全に無視して、当初の予定通りに「海洋放出」に決めてしまったことに問題があります。

処分方法

前処理

処分期間(月)

監視期間(月)

処分費用(億円)

地層注入

なし

69~102

456~912

177~180

希釈

85~156

処分期間中

501~3976

海洋放出

希釈

52~88

処分期間中

17~34

水蒸気放出

なし

75~115

処分期間中

227~349

水素放出

なし

68~101

処分期間中

600~1000

地下埋設

なし

62~98

456~912

1219~2533

           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[寄稿]福島第一原発の汚染水の放出を懸念する科学者たち
                  オ・チョルウ ハンギョレ新聞 2023/6/28
                     ハンバッ大学講師(科学技術学)
 日本政府が推進する福島第一原発の汚染水放出が迫るにつれ、汚染水放出の安全性をめぐる議論が激しくなっている。多くの専門家の見解を総合すると、汚染水の放出が周辺国に直ちに目で確認しうる深刻な危険をもたらすとは予測できない。東京電力と国際原子力機関(IAEA)も、安全基準と環境影響評価に問題はないと強調している。しかし、不確実性も依然として大きい。多くの人が懸念、心配する理由のひとつは、評価と検証が原子力の専門家を中心に行われ、海洋生物学者や放射線医学のような分野の専門家の見解が十分かつ透明に反映されていないというものだ。

 汚染水の放出を懸念する科学者たちの声は今も大きい。今月22日、「ネイチャー」は「福島第一原発の汚染水放出は安全か? 科学が語ること」と題する記事で、汚染水放出を擁護する科学と憂慮する科学との争点を取り上げた。一方では広い海に希釈された放射能の水準はほぼ0に近いと主張するが、もう一方では海の生態系と人体にとって安全であることは十分には確信できないと主張する。

 先月25日には専門メディア「ナショナルジオグラフィック」が、米ウッズホール海洋研究所の海洋環境放射能センターの責任者ケン・ベッセラー氏の見解を詳しく伝えた。同氏は「汚染水の放出が太平洋を取り返しのつかないほど壊すことはないだろうが、かといって心配しなくても良いというわけではない」として、放射性核種をろ過する装置が効果的かどうかが透明に立証されていない中で放出を推進することに懸念を示した。1月24日には「サイエンス」が、物議を醸す汚染水を放出せずに陸上で貯蔵する代案を紹介している。

 一部の科学団体や機関は、汚染水の放出に深刻な憂慮と反対の意思を表明している。18カ国からなる太平洋諸島フォーラム(PIF)が任命した独立の専門家パネルは、昨年8月22日、日本のメディア「ジャパンタイムズ」で、東電のデータを分析したところ安全性が不確実なため、放出は無期限延期し、さらに調査、検討を行うべきだと主張している。
 昨年12月12日には、100の海洋学研究所が集う全米海洋研究所協会(NAML)が「日本による放射能汚染水放出に対する科学的反対」と題する声明を発表している。先月14日には、ノーベル平和賞(1985年)受賞経験のある団体「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」が理事会で採択した声明で、太平洋を放射性廃棄物の処理場として使用しようという計画を中止し、海と人間の健康を保護するオルタナティブな方法を追求するよう求めている。

 専門メディアの報道や科学者たちの主張をみれば、福島第一原発の汚染水問題は調査、検証、確認が必要な論争事案であることが容易に分かる。希釈によって汚染水は処理できると約束する科学者たちがいる一方で、生態系の絡み合い、相互作用、データの不透明性を憂慮する科学者たちがいる。福島第一原発の汚染水の放出は、議論が終息して実行のみを残す問題ではなく、共有地である海に依存して生きていく人間と人間以外の生態系の健康のために、科学者と科学者との間でさらに多くの調査、評価、分析が行われるべき問題なのだ。

オ・チョルウ|ハンバッ大学講師(科学技術学) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )