2020年6月26日金曜日

<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>(下)(東京新聞)

 東京新聞のシリーズ<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>の最終版です。
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<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>(下) 
署名の重み、受け止めて
東京新聞 2020年6月26日
 「署名集めで多くの人の意見を聞き、県議会に届けたいと思っていたのに、議論は結論ありきに見えた」 
 日本原子力発電東海第二原発(東海村)の再稼働の賛否を問う県民投票条例案が二十三日の県議会であっさりと否決され、石岡市の主婦羽田(はだ)香織さん(36)はそう悔しさをにじませた。 
 今年一月上旬から二カ月間、投票条例制定を大井川和彦知事に直接請求するための署名を集める「受任者」の一人として奔走した。 
 活動のきっかけは、都内に勤務していた頃に、二〇一一年の東京電力福島第一原発事故を経験した知人から聞いた話だった。地域間で補償に差があったり、事故でなりわいを失ったりした話を聞き、「同じことがここでも起こり得る」と感じた。 
 昨年五月に生まれた長女の存在も大きかった。幼い子どもは、素足で外に出たり、土や草も口にしたりするが、「事故があったら、全部駄目と言わなければならず、不自由だと思った」。そうした問題意識が芽生え、東海第二原発について詳しいことは知らなかったが、「いばらき原発県民投票の会」の活動に加わった。 

 仲間たちと一緒に、石岡市内のスーパーや公民館、市役所、農産物直売所の前に立った。近所の商店街では、娘を背負いながら戸別訪問し、計六カ所で五十筆ほどを集めた。 
 「原発の署名集め」と言うと、再稼働反対運動と捉えられ、断られることもあった。署名は拒否しつつも、再稼働への考えを話し始める人もいた。そうした人たちに「県民の考えを反映させるための活動なんです」と説明すると、一転して署名してもらえたケースもあった。 
 「再稼働に対して、みんな思っていることはあるが、なかなか言う機会がない。自分の気持ちを聞いてもらいたい人が多いと感じた」と振り返る。 
 羽田さんら受任者三千五百五十五人が県内を駆け巡り、法定必要数の一・七八倍に当たる八万六千七百三筆の有効署名を集めた。だからこそ、県議会には署名した多くの人の思いを受け止め、真摯(しんし)に向き合ってほしかったが、実質的な審議はわずか一日だった。 
 羽田さんは「否決は想定していたが、多くの人が原発について意見を言える機会をつくることができ、活動が無駄だったとは感じない」と前を向く。ただ、「参考人招致では、私たちのテーマとずれた人が呼ばれていた」とわだかまりは残る。 
 ひたちなか市で署名を集めたデザイナー徳光千春さん(40)も「意見を聞いてもらえると信じて取り組んできたのに」と県議会に不満を募らせる。「どうしたら、私たちの意見を聞いてもらえるのか」。今も答えを求めている。 
 県民投票の会の徳田太郎共同代表(47)は、県議会の議論について「非常に多くの事実誤認や、論理的に筋が通らない、きちんとした理由を伴わない主張があった」と指摘する。 

 審議経過を検証するため、県民投票の会は二十四日、全県議を対象に賛否の理由を尋ねるアンケートを始めた。 
 七月一日までに記名式で回答を求め、五日に水戸市千波町のザ・ヒロサワ・シティ会館(県立県民文化センター)で開催するシンポジウムで結果を発表する。条例案に反対した最大会派のいばらき自民をはじめ、全会派の議員に参加を呼び掛ける。 
 徳田さんはこう訴える。「これだけ県民の関心が高かった条例案。どういう思いでその結論に至ったか、全ての議員に説明責任を果たしてほしい」
(この連載は宮尾幹成、松村真一郎が担当しました)

トリチウム水処分法 決定は秋以降に

 これまでトリチウム水の処分方法の決定時期は今夏とされていましたが、資源エネルギー庁の木野正登廃炉・汚染水対策官は、「今夏が必ずしも期限ではない。スケジュールありきではなく関係者の理解を得るべく努力を続ける」と述べました。
 今夏がリミットと言うのは余りにも強引でした。
 地元が殆ど反対している海洋放出を簡単に決定していい筈がありません。
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福島第1原発の処理水処分法 決定時期、秋以降にずれ込みへ
河北新報 2020年06月25日
 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水を巡り、処分方法の決定時期が今秋以降にずれ込む可能性が高いことが24日、複数の関係者への取材で分かった。当初は早ければ今夏にも決まる見込みだったが、新型コロナウイルス感染拡大で意見集約が難航した。
 構内で保管中の処理水は2022年夏にタンクが満杯となる見込み。処分は準備に2年程度を要することから、今夏の処分方法決定が地元自治体を含めた共通認識となっている。
 準備の2年には地元との折衝、許認可などが含まれる。廃炉を所管する資源エネルギー庁によると、原子力規制委員会の認可手続きにかかる期間の見積もりには余裕があり、数カ月程度短縮できる余地が残る。
 同庁の木野正登廃炉・汚染水対策官は「今夏が必ずしも期限ではない。スケジュールありきではなく関係者の理解を得るべく努力を続ける」と述べた。
 国は海洋か大気への放出を現実的な選択肢とする小委員会の報告を受け、4月から自治体や業界団体の意見聴取を重ねている。新型コロナの影響で調整が難航し、5月11日の第3回を最後に開催されていない。

東電に賠償命令 国への請求は棄却 避難者九州訴訟判決

 福島原発事故に伴い福島県などから九州に避難した18世帯53人が、国と東電に慰謝料など計約2億9700万円の賠償を求めた訴訟で、福岡地裁は24日、福島県から避難した7世帯24人に計約490万円を支払うよう東電に命じました。福島県以外の原告の請求は棄却しました。
 津波については、「切迫した危険性を認識することは困難で、被害の予見可能性の程度は低かった」などとして、国への請求は棄却しました。
 原告側は控訴する方針です。
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原発避難者九州訴訟 東電に賠償命令、国への請求は棄却 福岡地裁判決
毎日新聞 2020年6月24日
 東京電力福島第1原発事故(2011年3月)に伴い福島県など7都県から九州に避難した18世帯53人が、国と東電に慰謝料など計約2億9700万円の賠償を求めた訴訟で、福岡地裁(徳地淳裁判長)は24日、7世帯24人に計約490万円を支払うよう東電に命じた。国への請求は棄却した。原告側は控訴する方針。

 全国で約30件起こされている同種訴訟で16件目の地裁判決。いずれも東電に賠償を命じている。うち12件で問うた国の責任を認めなかったのは5件目。
 国が地震による津波を予見し事故を防げなかった過失の有無などが争点だった。判決は、政府の地震調査研究推進本部が02年に公表した「長期評価」によって同年末には津波の予見性があったと認めつつ「信頼性が高いものとは評価されていなかった」と指摘。津波について「切迫した危険性を認識することは困難で、被害の予見可能性の程度は低かった」などと国の責任を否定した。

 原告はいずれも国の避難指示基準(年間被ばく線量20ミリシーベルト)の区域外から避難した。福島県いわき市などの自主避難区域にいた原告については「放射線被ばくへの不安を抱くことは十分理解できる」とし、1人当たり3万3000〜95万7000円の賠償を東電に命じ、同県以外の原告の請求は棄却した。
 いわき市から家族5人で避難した原告団長の金本友孝さん(59)=佐賀県鳥栖市=は「これだけ多くの人に被害を与えておきながら、国には責任がない。それが許されていいのか」と憤った。東電は「今後判決内容を精査し対応を検討してまいります」、原子力規制庁は「原発事故を踏まえて策定された新規制基準への適合性審査を厳格に進めていくことにより、適切な規制をしていく」とコメントした。【宗岡敬介】

26- 電力大手9社 25日一斉に株主総会

 大手電力9社は25日、定時株主総会を一斉に開きました。
 事前に提出された株主提案は9社で計75議案で、原発再稼働の反対のほか、日本原子力発電への経営支援の中止を求めるものが目立ちました。
 脱原発の提案はすべて否定されました。
 関西電力の金品受領問題には批判が続出しました。
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電力大手9社、一斉に株主総会 原発不安、再稼働に理解広がらず
共同通信 2020/6/25
 東京電力ホールディングスなど原発を保有する大手電力9社は25日、東電福島第1原発事故後から10回目となる定時株主総会を一斉に開いた。事故で原発への不安が広がり、大手電力の再稼働方針に理解は広がっていない。脱原発を求める株主提案が全社で出されたが、全て否決された。
 事前に提出された株主提案は9社で計75議案になった。原発再稼働の反対のほか、原発専業の卸電力会社である日本原子力発電(東京)への経営支援の中止を求めるものが目立った。
 関西電力役員の金品受領問題に絡み、相談役や顧問の廃止を求める提案も増加するなど、企業統治にも厳しい目が向けられた。


原発依存が大手電力の経営圧迫 株主総会、脱原発提案は全否決
共同通信 2020/6/25
 東京電力ホールディングスなど大手電力9社が25日に開いた株主総会は、脱原発を求める株主提案を全て否決して終了した。ただ原発の再稼働は一部にとどまり、巨額の事故対策費が経営の重荷となっている。東電福島第1原発事故から10回目の総会を経ても、原発依存から脱却できていない。
 大手は火力発電の燃料費削減につながるとして、再稼働を進める。福島事故を踏まえた新規制基準の審査に9原発16基が合格したが、再稼働は地元同意を得られないことなどから、5原発9基にとどまる。東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の事故対策工事の新会社を設立したが、稼働のめどは立たない。


関電、総会で金品受領に批判続出 発覚後初の開催、社長が謝罪
共同通信 2020/6/25
 関西電力は25日、金品受領問題の発覚後初となる株主総会を開いた。森本孝社長は総会の冒頭、「多大なご迷惑とご心配をお掛けした。誠に申し訳なく、深くおわびする」と謝罪。他の役員とともに頭を下げた。株主からは、東日本大震災後の料金値上げに際してカットした役員報酬を退任後に補填していた問題も含め「あきれた」などと批判が続出した。筆頭株主の大阪市の代理人として参加した河合弘之弁護士は、大阪市は関電が旧経営陣に起こした損害賠償訴訟に参加しうるとの認識を示した。
 河合氏は「なれ合い的和解や手抜きの訴訟進行の恐れがある場合、共同訴訟参加することを警告しておく」と述べた。

2020年6月25日木曜日

帰還困難区域解除に向けて全域を除染と 内堀知事、

 内堀・福島県知事は24日、首相官邸や主要省庁を訪れ、政府予算編成に向けた要望を行いました。
 福島原発事故による帰還困難区域全域について、(飯舘村以外は)除染を徹底した上で避難指示を解除するよう政府に引き続き求めていく考えを示しました。
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全域除染要望継続へ 知事、帰還困難区域解除向け
福島民報 2020/06/25
 内堀雅雄知事は二十四日、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域全域について、除染を徹底した上で避難指示を解除するよう政府に引き続き求めていく考えを示した。二〇二一(令和三)年度政府予算編成に向けた要望で訪れた経済産業省で、報道陣の質問に答えた。 

 帰還困難区域を巡っては、飯舘村が特定復興再生拠点区域(復興拠点)内外の避難指示の一括解除を要望。政府は除染していない地域でも解除できる仕組みを検討している。 
 内堀知事は、避難指示の解除は除染や生活環境整備が大前提としながらも、飯舘村については「別のやり方を望まれる場合は、別の手法もあり得るかと思う」と述べ、否定しない考えを示した。 
 経産省訪問に先立ち、内堀知事は環境省で小泉進次郎環境相と会談した。復興拠点の外の除染について、具体的方針を早急に提示することなどを求めた要望書を手渡した。小泉氏は「さまざまな課題解決のため、全力を尽くす」と述べた。 

■予算確保求める 復興庁や首相官邸訪問
 内堀知事は二十四日、首相官邸や主要省庁を訪れ、政府予算編成に向けた要望を行った。 
 復興庁では田中和徳復興相と会談した。田中氏は新型コロナウイルスへの対応や今年度末で終了する復興・創生期間後も十分な予算確保に努め、必要な施策を継続させると強調。「要望を受け止め、関係省庁と連携しながら必要な対応、予算の確保に努めたい」と述べた。菅家一郎復興副大臣(衆院福島県4区)が同席した。

 内堀知事は経済産業省で梶山弘志経産相に対し、感染症による被害からの再生、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の推進などを求めた。梶山氏は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に加え、感染症により経営が悪化している被災事業者がいるとの認識を示し「福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)を通じ、支援をしていきたい」と述べた。 
 このほか、菅義偉官房長官、江藤拓農林水産相、萩生田光一文部科学相らにも要望を実施した。自民、公明、国民民主、立憲民主の各党も回った。 
 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請の全面解除後、内堀知事の県外での公務は初めて。 

<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>(中)(東京新聞)

 東京新聞のシリーズ<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>の第2弾です・
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<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>(中)
宙に浮く「住民の意向」
東京新聞 2020年6月25日
 日本原子力発電東海第二原発(東海村)の再稼働の賛否を問う県民投票条例案が県議会に提出された際、大井川和彦知事が付けた意見書には、こうある。 
 「再稼働の是非は、県民や避難計画を策定する市町村、ならびに県議会の意見を伺いながら判断していく。その意見を聴く方法については、県民投票を含めさまざまな方法があり、慎重に検討していく必要がある」 

 知事は二十三日の県議会本会議で否決された直後も、報道陣に「今回の否決が、住民投票という選択肢を全て消すことにはならない」と語った。 
 条例案への賛否は曖昧にし続けた知事だが、県民投票自体には必ずしも否定的ではない。とはいえ、「県民投票を含めたさまざまな方法」の具体的なアイデアは示していない。 
 二〇一一年の東京電力福島第一原発事故以降、再稼働した原発の立地県の状況を見ると、住民投票で民意を確認したケースはなく、基本的には議会の意見で、知事が同意の判断をしている。本県もそうなってしまう懸念は拭えない。 
 一八年までの九年間、東海第二再稼働に関する住民意識調査に取り組んだ茨城大の渋谷敦司教授(社会学)は「県民投票を否決した以上、県議会にも知事にも、住民の意向を把握するための代替手段を講じる義務がある」と指摘する。 

 では、どのような代替手段が考えられるのか。 
 今回の条例案審議では、自民の加藤明良氏(水戸市・城里町)が「パブリックコメント(意見公募)」の積極活用を求めた。 
 だが、意見公募の場合、その案件に反対する「組織票」が集中する傾向がある。最近では、茨城空港の外国人向け愛称に関する意見公募で寄せられた意見が反対一色だったと話題になったが、それでもわずか六十件ほど。二百四十三万人の県内有権者が直接、意思表示できる県民投票の精度には及ぶべくもない。 
 渋谷氏が推すのは、県が毎年度実施する「県政世論調査」に、東海第二再稼働に関する質問を追加する手法だ。昨年度の調査では三千人を無作為抽出し、少子化対策、治安など十一項目について尋ねている。 
 県の試算によると、県民投票には約九億円かかる。知事選や県議選と同時に実施するなど、経費を削減する方策はあるものの、今回の条例案審議では自民の戸井田和之氏(石岡市)らが「選挙並みの費用」として反対理由の一つに挙げた。だが、県政世論調査に乗っかるだけなら新たなコストは一切必要ない。 

 知事はこれまで「県民の意見を聴く方法を判断できる段階には至っていない」とも述べてきた。条例制定を直接請求した「いばらき原発県民投票の会」の徳田太郎共同代表は、「それなら『判断できる段階』が来た時に、知事自身で県民投票条例案を出すこともできる」と促す。 
 知事は二十四日の記者会見で、「アンケート、あるいは議会の同意を住民の同意と見なすとか、さまざまな意見の吸い上げ方はある。その組み合わせもある。慎重に検討していく必要がある」と説明。知事主導による投票条例案の提出や県政世論調査の活用については「個別の選択肢をコメントできる段階でない」とかわした。 

25- 東芝 再び巨額赤字に転落 隠れた“減損リスク”顕在化

 20年3月期、東芝の連結最終損益は1,146億円の大幅赤字となりました。その主な要因は、米国の液化天然ガス(LNG)事業の売却損と、40%を出資する半導体企業キオクシアホールディングスの減損です。最終赤字は3年ぶりです。
 しかし、最大のしかも真の理由は、2006年に東芝が6000億円超を投じて買収した米国の原子力大手、ウエスチングハウスが経営破たんし、東芝は7000億円を超える損失を計上し債務超過に陥ったことで、東芝はそれを解消するために、成長期待の高かった医療機器事業の売却や、稼ぎ頭だった旧東芝メモリ(現キオクシア)を売却せざるを得なくなったことでした。
 東芝が業績を立て直すためには、キオクシアが強みを発揮できる体制を整えることと、経営者の意思決定をよりクリアにすることとされています。
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東芝、再び巨額赤字に転落…
隠れた“減損リスク”顕在化、過去の負の遺産を整理しきれず
真壁昭夫 Business Journal 2020.06.24
法政大学大学院教授 
 2020年3月期、東芝の連結最終損益は1,146億円の大幅赤字となった。最終赤字は3年ぶりだ。その主な要因として、米国の液化天然ガス(LNG)事業の売却損と、40%を出資する半導体企業キオクシアホールディングスの減損がある。コロナショックが世界経済を低迷させている中、東芝をはじめ日本企業にとって過去に取得した資産の減損リスクは軽視できない。
 今後の展開を考えた時、東芝が業績の回復を目指すためには2つの重要な要素がある。一つが、キオクシアの半導体事業だ。米中対立の先鋭化は、状況によっては日本の半導体業界に追風となる可能性がある。そうした展開を念頭に東芝は、キオクシアが独自の技術を用いて競争力ある製品を生産できるよう支える必要がある。
 二つ目は、東芝の経営トップの意思決定だ。東芝はデジタル技術を用いたインフラサービスを軸に成長を目指している。コロナショックを境に世界経済全体でデジタル化が急速に進む中、東芝のトップは組織をまとめ、大胆に意思決定を実行しなければならない。それができるか否かは、長期的な東芝の成長に無視できない影響を与えるだろう。

■減損リスクを吸収しきれない東芝
 2020年3月期の東芝の決算を考える上で最も重要なことは、減損が同社の最終損益を赤字に転落させたことだ。資産の売却を進めて経営再建を進めてきた東芝ではあるが、過去、買収などを通して取得した資産価値の評価引き下げ、あるいは損失の確定を吸収できるだけの体力は回復できていない。
 最大の原因は、2006年に東芝が6000億円超を投じて米国の原子力大手、ウエスチングハウスを買収したことにある。その後、ウエスチングハウスは原子力発電所の建設コストの上昇などに直面し、収益と財務内容が急速に悪化した。2017年3月、ウエスチングハウスは連邦破産法11条(通称チャプターイレブン)を申請し、経営破たんした。その結果、東芝は7000億円を超える損失を計上し、債務超過に陥った。
 東芝は債務超過を解消するために、成長期待の高かった医療機器事業の売却などを余儀なくされた。さらに、東芝は稼ぎ頭だった旧東芝メモリ(現キオクシア)を売却せざるを得なくなった。その後、東芝は第三者割当増資を実施して約6000億円の資本増強を行い、債務超過からは脱した。
 当たり前だが、資産(事業)を売却すると、売り上げが減少してしまう。リーマンショックのあった2008年度、東芝の売上高は約6.7兆円の規模を誇った。それに対して、前期の売上高は3.4兆円と約半分にまで減少した。事業=収益源が減ったのだから、売り上げが減少するのは仕方がない。
 問題は、東芝が過去に取得した資産から発生する損失を吸収できる収益力をつけられていないことだ。米国でのLNG事業の売却損やキオクシアからの減損計上によって最終損益が赤字に落ち込んだことがそれを示している。見方を変えれば、経営者は過去の負の遺産を整理しきれていない。
 現在、東芝経営陣は、成長を加速するための買収資金を確保するために、追加の資産売却を目指している。それは重要なことだが、既存の事業が減速リスクを吸収できるだけの収益力を発揮できていない状況下、追加の資産取得が同社の業績にどう影響するかは読みづらい。

■業績立て直しに不可欠なキオクシア
 東芝が業績を立て直すために、キオクシアの半導体事業の重要性が高まっている。なぜなら、IT先端技術は今後の世界経済の成長を支えるからだ。コロナショックを境に、デジタル技術が世界経済をささえることが明確になった。また、世界全体で普及が進む5G通信は、4G通信の100倍の通信速度を誇り、IoT(インターネット・オブ・スィングス)が一段と世界各国に浸透する。それは、キオクシアだけでなく、東芝のインフラビジネスの成長にとって追い風だ。
 それに加えて、米中対立の先鋭化が、東芝とキオクシアにとって大きなチャンスとなる可能性がある。9月以降、台湾のTSMCは米国の制裁に対応するために、中国の通信機器大手ファーウェイ向けの半導体生産を停止する予定だ。東芝に求められることは、キオクシアが独自の技術を用いて米中双方から必要とされる半導体を生産できるように環境を整えることだ。東芝は他の株主の利害を調整し、キオクシアが強みを発揮できる体制を整えなければならない。
 もともと、東芝の半導体技術は高かった。1985年以降、日米半導体摩擦が激化し、米国は日本に半導体市場の開放を求めた。東芝はその要請に応えつつ世界シェアを維持するために、韓国のサムスン電子に技術供与を行った。つまり、韓国は日本の人材や技術に依存して半導体分野の競争力を高めたのである。
 TSMCがファーウェイ向けの生産を停止した場合、韓国はどうにかして中国の半導体需要を取り込み、景気を支えようとするはずだ。ただ、経済運営に必要な資金、資材を日米に依存している韓国の立場は厳しい。すでに、米国は中国のIT覇権を食い止めるために、韓国に圧力をかけている。9月以降に延期される予定のG7首脳会議に関してトランプ大統領が韓国を含む意向を示しているのはそのためだ。
 技術移転に頼ってきた韓国と異なり、日本には独自の技術を用いて半導体を生産する自力がある。東芝は出資先であるキオクシアがそうした力を発揮できるよう取り組むべきだ。それができれば、東芝は過去の投資に起因する減損の影響を吸収し、成長のために必要な資金などを自力で獲得することができるだろう。

■一段と重要性増す経営者の意思決定
 キオクシアの半導体事業の動向に加えて、東芝が業績の回復とインフラ企業としての長期存続を目指すために、経営者の意思決定の重要性も高まっている。現在、コロナショックによって世界経済は低迷している。その一方でデジタル化が急速に進み、世界経済は大きく変化している。加速化する変化に対応するために、これまで以上に経営トップの意思決定の重みが増している。それは東芝だけでなく、日本企業全体に当てはまる。
 経営者の意思決定の重要さを考える際、リーマンショック後に日立が“選択と集中”を進めたことは重要だ。リーマンショック後の2009年3月期、日立は7873億円の最終赤字に転落した。日立のトップは家電や重電などハードを中心としたビジネスモデルでは生き残れないと判断し、大胆に構造改革を進めた。端的に、日立はIoTに親和性の高い事業への選択と集中を進め、ソフトウェア企業としての成長を目指した。日立は日立化成など主要子会社の売却を進めてAI(人工知能)など成長期待の高いIT先端分野に経営資源を再配分したのである。

 リーマンショック後、東芝も赤字に陥った。日立との違いを生んだのは、経営者が既存の事業ポートフォリオで今後の環境の変化に対応できると考えたか否かだ。日立は、赤字転落をビジネスモデルの行き詰まりととらえ、迅速、かつ大胆に改革を進めた。それに対して、東芝は改革ではなく既存事業の温存に傾注してしまった。
 現在、日立も東芝もデジタル技術を駆使したインフラプラットフォーマーとしての成長を目指しているが、日立の取り組みは東芝よりも10年以上先行している。その分、日立はより優位な条件で必要な資産を取得し、選択と集中を進めることができた。

 東芝の組織は大きく、改革は一朝一夕に完結しない。収益力への不安から組織内では今後の資産売却などへの不安も高まっているだろう。そのなかで同社がどのようにしてインフラ企業としての体力をつけ、持続的な成長を実現できるか、経営トップの意思決定の重要性は一段と高まっている。 (文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)