東京新聞のシリーズ<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>の第2弾です・
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<否決 県民投票 東海第二原発再稼働>(中)
宙に浮く「住民の意向」
東京新聞 2020年6月25日
日本原子力発電東海第二原発(東海村)の再稼働の賛否を問う県民投票条例案が県議会に提出された際、大井川和彦知事が付けた意見書には、こうある。
「再稼働の是非は、県民や避難計画を策定する市町村、ならびに県議会の意見を伺いながら判断していく。その意見を聴く方法については、県民投票を含めさまざまな方法があり、慎重に検討していく必要がある」
知事は二十三日の県議会本会議で否決された直後も、報道陣に「今回の否決が、住民投票という選択肢を全て消すことにはならない」と語った。
条例案への賛否は曖昧にし続けた知事だが、県民投票自体には必ずしも否定的ではない。とはいえ、「県民投票を含めたさまざまな方法」の具体的なアイデアは示していない。
二〇一一年の東京電力福島第一原発事故以降、再稼働した原発の立地県の状況を見ると、住民投票で民意を確認したケースはなく、基本的には議会の意見で、知事が同意の判断をしている。本県もそうなってしまう懸念は拭えない。
一八年までの九年間、東海第二再稼働に関する住民意識調査に取り組んだ茨城大の渋谷敦司教授(社会学)は「県民投票を否決した以上、県議会にも知事にも、住民の意向を把握するための代替手段を講じる義務がある」と指摘する。
では、どのような代替手段が考えられるのか。
今回の条例案審議では、自民の加藤明良氏(水戸市・城里町)が「パブリックコメント(意見公募)」の積極活用を求めた。
だが、意見公募の場合、その案件に反対する「組織票」が集中する傾向がある。最近では、茨城空港の外国人向け愛称に関する意見公募で寄せられた意見が反対一色だったと話題になったが、それでもわずか六十件ほど。二百四十三万人の県内有権者が直接、意思表示できる県民投票の精度には及ぶべくもない。
渋谷氏が推すのは、県が毎年度実施する「県政世論調査」に、東海第二再稼働に関する質問を追加する手法だ。昨年度の調査では三千人を無作為抽出し、少子化対策、治安など十一項目について尋ねている。
県の試算によると、県民投票には約九億円かかる。知事選や県議選と同時に実施するなど、経費を削減する方策はあるものの、今回の条例案審議では自民の戸井田和之氏(石岡市)らが「選挙並みの費用」として反対理由の一つに挙げた。だが、県政世論調査に乗っかるだけなら新たなコストは一切必要ない。
知事はこれまで「県民の意見を聴く方法を判断できる段階には至っていない」とも述べてきた。条例制定を直接請求した「いばらき原発県民投票の会」の徳田太郎共同代表は、「それなら『判断できる段階』が来た時に、知事自身で県民投票条例案を出すこともできる」と促す。
知事は二十四日の記者会見で、「アンケート、あるいは議会の同意を住民の同意と見なすとか、さまざまな意見の吸い上げ方はある。その組み合わせもある。慎重に検討していく必要がある」と説明。知事主導による投票条例案の提出や県政世論調査の活用については「個別の選択肢をコメントできる段階でない」とかわした。