2026年9月21日月曜日

中部電力社員が“善意の同僚”に送った〈圧迫メール〉

 ダイヤモンド・オンライン窪田順生氏による掲題の記事が載りました。
 ある社員が、必要な条件を除外せずに基準地震動を求めるべきだと要求すると、指摘された社員が「その場合は得られる基準地震動に対して現行施設の強度が足りなくなるので、原発が再稼働できなくなるがそれでもいいのですね」というメールをした結果、最終的に『データの捏造にはしる』ことになったと語られています。
 窪田氏は、「空気の研究」で知られる評論家・山本七平氏が、戦前の軍隊では「組織が求める数を合わせることがすべてにおいて優先されるという〝員数主義″がはびこり、それが日本の敗因だった」と指摘したことを思い出すと述べます。
 結果的に「原発再稼働不可という事態は絶対に避けることが最優先事項になった」ことは分かりますが・・・
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そりゃ不正するわ…「原発再稼働」の闇に飲まれた中部電力社員が“善意の同僚”に送った〈圧迫メール〉
                   ダイヤモンド・オンライン 2026/9/20
 中部電力の「浜岡原発データ改ざん問題」。実は、顧客への過大請求を放置するなど、社内全体でモラルが崩壊していたことが浮き彫りとなっています。異論を唱える社員への「逆ギレメール」まで飛び出すその闇の深さと、不正を生み出す「日本型組織の病」の恐ろしさに迫ります。(ノンフィクションライター 窪田順生)

●データ不正の「正当化」 壊れきった組織のモラル
《『不適切だと認識しつつも何らかの事情でやむにやまれず実行するという事例に比べ、行為者が「自分たちは正しいことをしている」という考え方により、確信ひいては信念すら持って不適切な行為を実行に移している可能性がある』》(調査報告書(開示版)227ページ)
 そんな「正義の不正」ともいうべき、ゆがみまくっているモラルにドン引きしたという人も多いのではないか。
 名古屋財界の名門・中部電力が、浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の再稼働審査に用いる耐震設計の「基準地震動」のデータが2012年ごろから不正に操作して、意図的に地震の揺れを小さく見せていた問題のことだ。
 ご存じのように今、原発再稼働が着々と進んでいる。関西電力は保有する7基すべてが再稼働済み、中国電力は島根2号機、四国電力管内は伊方3号機が稼働、九州電力も4基を再稼働、福島第一原発事故を起こした東京電力も26年1月、柏崎刈羽原発6号機の再稼働にごぎつけた
 他の電力会社の背中を追う中部電力社内に「強烈な焦り」があったことは容易に想像できよう。しかも、同社は唯一保有する浜岡原発の安全対策に約4000億円という巨額の費用を投じてきたので今さら「稼働できませんでした」で済む話ではない。そういうプレッシャーにさらされていくうち、社内の一部が常軌を逸した不正を正当化してしまったのだろうか。
 そう聞くと「よくないことだけれど、上から無理な数値目標とかスケジュールを押し付けられて叱責されているうち、精神的に追いつめられちゃった部分もあるんじゃないの?」と同情的な見方をするサラリーマン諸氏も多いのではないか。
 ただ、中部電力のモラルの壊れ方は「現場も被害者」的な話だけでは到底説明ができない。原発に限らず組織内のありとあらゆるところでモラルのネジがぶっ飛んでしまっているからだ。
 例えば今、原発データ改ざんと共に問題になっている「過大徴収」。子会社の中部電力ミライズが約500万件の顧客に対して、電気料金を約12億円も過大に徴収していたのだが、背筋が冷たくなるのはその対応だ。

●過大徴収も2年半「放置」 蔓延する不正カルチャー
 なんと、中部電力はおととしの時点で計算ミスに気付いていたが、是正措置が取られないまま、同年4月から約2年半にわたり誤った料金が適用された。いわゆる「ネグっていた」のである。
 「中部電力みたいな立派な大企業がなんでそんないい加減なことをするんだよ」と驚くかもしれないが、こんなものはまだ序の口で、もっと悪質な不正もバレている。
 実は今回、浜岡原発では改ざん以外にも「不適切請求」が発覚している。電力会社は廃炉にかかった費用を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」という認可法人に請求することができる。2024年度分として約8億円をもらっていたのだが、その手続きでこれまた「改ざん」していた
 廃炉の請負会社から受け取った2024年度の工事報告書について、解体した機器とその量を実際とは異なる数値に書き換えているケースが14件あった。関与した社員は「(廃炉作業の)計画通りの実績にしたかった」という(8月27日 産経新聞)。
 また、23年2月には、中部電力の小売事業を担う子会社・中部電力ミライズが本来は他部門で共有してはいけない新電力の顧客情報を、従業員5043人が閲覧していたことが明らかになった。その数は約10カ月間で39万9376件。関西電力でも同様の問題が起きているが3年間で15万件。目くそ鼻くそではあるが、中部電力の方が「不正に寛容な組織風土」とも受け取れる(2023年2月17日 日本経済新聞)。
 そしてさらに「闇」が深いのは、中部電力このような不正・改ざんカルチャーというのが昨日今日始まったことではなく、半世紀以上前から脈々と引き継がれている可能性もあるということだ。
 今から21年前、2005年4月25日の国会で野党議員が、資源エネルギー庁原子力安全・保安院次長に対してこんな質問をした。
 「浜岡原発の二号機につきまして、設計段階で耐震性性能の数値に改ざんがあったと、こういうようなことをおっしゃる、言わば内部告発的にこういうことをおっしゃる人が現れました。その方は、最初、文書を公開をされておりまして、最近では、今月の十五日でしょうか、静岡県庁で記者会見までやられておりまして、この事実がインターネット上にも出ておりまして、一部の人たちが大変心配をしております」(2005年4月25日 第162回国会参議院行政監視委員会 第5号)
 告発者は東芝子会社に在籍していた元設計者。この人物によれば、1972年に部門ごとの設計者の代表が集まった会議で、計算担当者が「いろいろと計算したが無理だった。この数値では地震がくると浜岡原発はもたない」などと発言したうえで、データ偽造が行われたという(2005年4月22日 MyNewsJapan)。

●半世紀前から続く「闇」? 過去にも認めた14の不正
 この元設計者の主張を東芝も中部電力も否定。翌月になると、浜岡原発の運転差し止めを求める市民団体が、この告発内容を訴訟の準備書面にも採用したが、中電は「地盤の安定性について理解してもらえるよう主張していく」(朝日新聞静岡版2005年5月21日)として、あくまで立地の岩盤は強く、耐震性に関しても十分に余裕をもって計算しているという姿勢を貫いた。結果、静岡地裁はこの請求を棄却。元設計者の主張も含めて、浜岡原発の安全性に問題があるという指摘はいずれも採用されなかった。
 興味深いのはそれからほどなくした2006年10月、中国電力でデータ改ざんが発覚したことを受けて、すべての電力会社に指示された「発電設備総点検」だ(2007年5月18日 電気事業連合会)。
 中部電力もご多分に漏れず、総点検をしたところ過去の不正が見つかった2007年5月に以下のように公表している。
 《国からの指示に基づき、社員・社員の退職者・協力会社の社員を対象に聴き取り調査などをおこなった結果、浜岡原子力発電所においては、過去にデータ改ざんなど14件の不適切な事案があったことを確認しました。(火力、水力も含めると、中部電力全体で40件)データ改ざんなどの不適切な事案は2002年度以前におこなったものであり、現在は全て是正され、継続的におこなわれているものはありませんでした》(2007年5月18日 中部電力ホームページ 過去の「事故・故障など」に関連する情報)

 話をまとめよう。浜岡原発は設計段階からデータ改ざんがあったという告発があったが中電は否定。しかし、それからほどなくして2002年までの間にデータ改ざんなどの不正が14件あったことが発覚、これは中電自身も認めている。そして、今回のデータ改ざんも外部の弁護士によれば、「遅くとも2012年以降」から繰り返されているという。
 営業運転開始から50年、これだけの問題が「表面化」してきたのだ。これまで見てきた「不正に寛容な組織風土」を見ても、「バレていないだけのデータ改ざん」がまだまだあるのではないか、とつい勘繰ってしまわないか。
 中部電力という組織の「闇の深さ」に引いている人も多いだろうが、そこで次に気になるのは、名古屋財界の名門で多くの優秀な人材を採用しているはずのこの組織が、なぜこんな「無法地帯」のようになってしまうのかということだ。
 報道対策アドバイザーとして、ガバナンス不全に陥った組織の内部も見てきた経験から言わせていただくと、日本型組織の典型的な「病」のひとつである「員数主義」に毒された結果だと見ている。
 これはわかりやすく言えば「組織が求める数を合わせることがすべてにおいて優先される価値観」であり、「空気の研究」で知られる評論家・山本七平氏によれば敗戦後、多くの日本軍関係者が、この「員数主義」こそが、日本の敗因だった指摘したという。その理由は、山本氏の「一下級将校の見た帝国陸軍」(文藝春秋)を読めば明らかだ。
 《『数さえ合っていればそれでよい』が基本的態度であって、その内実は全く問わないという形式主義、それが員数主義の基本なのである。それは当然に、『員数が合わなければ処罰』から『員数さえ合っていれば不問』へと進む。従って『員数を合す』ためには何でもやる。『紛失しました』という言葉は日本軍にはない。この言葉を口にした瞬間、『バカヤロー、員数をつけてこい』という言葉が、ビンタとともにはねかえってくる。紛失すれば『員数をつけてくる』すなわち盗んでくるのである》
 この記述からもわかる通り、員数主義は「自分の立場さえ守れればいい」という自己保身、そして数字合わせのための不正や搾取は「必要悪」として容認するなど、個人の良心や倫理観を麻痺させてしまうのだ。

●内部通報を潰す「逆ギレ」 日本軍を滅ぼした員数主義
 実は今回の外部の弁護士による調査報告書を読むと、中部電力内の一部の人々がこの員数主義に毒されていることが伺える。
 報道もされているが、今回のデータ改ざんについては、社内で問題視する声や内部通報は度々あった。あるとき、不適切行為を防止するための社内相談窓口「ヘルプライン」の担当者が、原子力土建部に対して、計算最短周期の設定に関する事項も資料に具体的に記載をすべきだと求めたところ、こんな「逆ギレ」的なメールが返ってきた。
 《「もし、浜岡を諦めるリスクを自ら顕在化させるということであれば、ご指摘の様な記載もしますが」》(調査報告書(開示版)226ページ)
 要するに、こっちがせっかく「数字合わせ」をして資料を作成してやっているのに、あなたの余計な横槍によって、浜岡原発の再稼働はできないですけど、本当にそれでもいいんですね、という遠回しな「脅し」である。調査報告書でもこのように指摘している。
 《「上記電子メールには、異論を唱える者に圧力をかけるような形で、自らの対応方針を阻害する指摘等を排除しようとする意図も見受けられる」》(同上)
 中部電力内の一部の人々は「浜岡原発再稼働のためのデータをつくる」という員数主義に支配されてしまっていたのだと考えられる。山本七平氏の言葉を借りれば「員数を合わすためには何でもやる」という状態だった。だから、データ改ざんも繰り返すし、社内の異論も圧力で跳ね返す。
 そもそも浜岡原発の立地は、大規模な東海地震の震源域の真上に位置している。中部電力は「活断層の上ではない」などと必死に安全性をアピールしているが、危険性を指摘する専門家もいる。
 そんな中、必死に再稼働を目指してきたが、「員数主義」にとらわれて不正が蔓延して、組織が内部から自滅してしまった形だ。
 この構図は、無謀な戦争に突っ込んで、同じく員数主義にとらわれて身の丈に合わない拡大路線から引っ込みがつかず、内部から自滅した日本軍とまるっきり同じだ。
 今回の中部電力の自滅は、すべての日本型組織に当てはまる。我々の社会は「大きな目的のためには小さなルール無視は必要悪」とか「組織全体の成功・利益のためには多少の犠牲もやむをえない」というような考え方を肯定的に捉えるムードがある。
 社会に出て働いている人ならば、売上目標やノルマという「数字合わせ」のため、ちょっとしたズルや胡魔化しに手を染めてしまう上司や同僚を見かけたことがあるはずだ。「員数主義」は、みなさんの会社の中でもちゃんと受け継がれているものなのだ。
                    窪田順生