福島第一原発の廃炉作業は遅々としていて一向に進んでいませんが、2051年完了の目標は変わっていない(東電)ということです。これについてNDF(廃炉支援機構)は「元々困難だ」として東電の計画を精査する姿勢を示しています。
これまでの進捗ぶりを見れば当初の計画通りに終了するとはとても思われませんが、東電には何かそれを認められない事情でもあるのでしょうか。もっと大詰めの段階になってから完了目標を延期すればいいという意向が透けて見えます。しかし事故から既に14年が経過しているのですから、もっと実際に近い見通しを示すべきだと思います。
ところでデブリ除去では実際にはまだグラム単位のサンプル取り出しの段階ですが、ようやく実装置についての基本構想が明らかにされました。
NFDが29日に発表したところによると、原子炉建屋上部に穴を開けて装置を挿入し、デブリを砕き、建屋1階部分から破片を採取する方向で検討しているということです(説明図参照)。
建屋に隣接する廃棄物処理建屋の解体など必要な環境整備に12~15年程度かかるため、破砕・取り出しの着手は2030年代後半以降にずれ込む見通しです。
福島民報が報じました。
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廃炉時期 見解に相違 福島第1原発着手遅れ 東電 2051年目指す立場堅持 NDF 完了目標は実現困難
福島民報 2025/7/30
東京電力福島第1原発の溶融核燃料(デブリ)の本格的な取り出し開始がずれ込むこととなった29日、当事者の東電と、技術面で同社に助言する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の間で、廃炉完了時期を巡る見解の違いが鮮明になった。東電は政府と示す廃炉工程表(中長期ロードマップ)で目標に掲げる「2051年」の完了を目指す立場を堅持する一方、NDFの幹部は「元々困難だ」とし、東電の計画を精査する姿勢を示した。福島県民からは安全を最優先とした廃炉の進展を求める声が上がった。
「ロードマップを守るのはわれわれの責務だ」。東電の小野明廃炉責任者は午後の記者会見でこう言明した。3号機から着手する本格取り出しの準備に12~15年程度を要するとした。ロードマップで示した2051年の期限まで残り26年。小野氏は「物理的に考えて難しいと思っているが、(3号機から)後ろの工程は見えておらず目標は下ろさない」と主張した。
「元々困難だと感じている。検討を進めれば進めるほど、より深刻に分かってきた」。NDFの更田豊志廃炉総括監は東電と別に開いた記者会見で、2051年とする廃炉の完了目標の「実現性」に対する現状の見立てを赤裸々に語った。
目標見直しの必要性には「十分な判断材料はない」と踏み込まなかったが、現在有力視される取り出し方法も「小さな可能性が見えたというような感じ」と述べるにとどめ、目標実現のめどが立たないとの認識を強調した。1~3号機の原子炉内にあるデブリは推計で約880トン。昨年11月と今年4月に2号機で試験的に採取できたのはほんの0・9グラム程度にとどまる。
■県民「安全最優先に作業を」
廃炉の最難関とされるデブリ取り出しの道のりは険しく、県民は計画の行方を注視している。
「本格取り出し開始の遅れは想定内。ただ、2051年までに廃炉は終わらないだろう」。福島第1原発が立地する双葉町の浜野行政区長を務める無職高倉伊助さん(69)は、廃炉完了時期を変更しない東電の姿勢に懐疑的な見方を示す。前例のない作業を進める以上、想定より長い時間がかかることは理解している。「廃炉完了時期を目標に作業するのではなく、住民の帰還や移住・定住に影響しないように注意を払って作業して」と注文した。
廃炉の成否は県民生活や産業振興にも影響する。福島市土湯温泉町の旅館山水荘は宿泊者の2割弱が訪日客だが、処理水放出に反対の動きが広がった中韓からの客はごくわずか。社長の渡辺利生さん(36)は「東電だけに任せず、国も合同で取り組む姿勢を維持してほしい」と求めた。
デブリ除去で新工法 粉砕後、1階横から回収 福島第1原発3号機 着手に遅れ2030年代後半か
福島民報 2025/7/30
東京電力は福島第1原発3号機から溶融核燃料(デブリ)を本格的に取り出す工法として、原子炉建屋上部に穴を開けて装置を挿入し、デブリを砕いて建屋1階部分から採取する方向で検討している。建屋に隣接する廃棄物処理建屋の解体など必要な環境整備に12~15年程度かかるため、着手は目標の2030年代初頭から遅れ、2030年代後半以降にずれ込む見通し。原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が29日、発表した。ただ、東電は2051年までの廃炉完了に変わりはないと強調している。
東電が計画する本格的取り出しのイメージは【図1】の通り。①原子炉建屋上部に開けた穴から円筒形のポールのような物を差し込む②先端部から高圧水を噴射したりレーザーを照射したりといった方法でデブリを細かく砕き、格納容器底部に落とす③格納容器貫通部に設けた連続回収設備でデブリを横方向から吸引する―との流れを想定している。NDFのデブリ取り出し工法評価小委員会は昨年3月、空気中でデブリを取り出す「気中工法」を基本にする報告書を公表しており、東電が具体的な検討を進めてきた。
採取に必要なアクセス装置を設置する台は、原子炉建屋をまたぐ「南北構台案」と建屋に載せる形の「東西架台案」を提示。構台案は建屋に負荷はかからないが、北側にある廃棄物処理建屋が干渉するため解体する必要がある。架台案は建屋の耐荷重を踏まえた積載設備の制約があるなど、それぞれ一長一短がある。東電は今後1~2年程度かけて現場検証などを進め、工法の成立性を再評価する。
東電が示した工法に、NDFは【下記】の通り、検討課題を提示した。1~4号機の近くにある廃棄物処理建屋には原子炉建屋などで発生した放射性廃棄物を貯蔵していることから、全ての建屋解体を急ぐべきだとしている。東電はNDFの指摘を受け、アクセス装置を設置する台の形態にかかわらず、廃棄物処理建屋を取り壊す方針。
■デブリ取り出し工法に関するNDFの指摘ポイント
・原子炉格納容器上部に架台を設け、上からアプローチする案が現実的
・1~4号機にある廃棄物処理建屋はリスク低減の意味合いからも解体すべき
・建屋の解体や内部調査、屋内除染が大きな課題
・3号機ばかりではなく、1、2号機の大規模デブリ取り出し工法についても検討が必要
・技術的な不確かさが多いため、躊躇[ちゅうちょ]せず柔軟に見直すべき
■採取量、保管法示さず
溶融核燃料(デブリ)は東京電力福島第1原発1~3号機に計880トンあると推定されている。東電が今回示した工法とそれに伴うスケジュールは、本格取り出しに必要な事前準備段階のみだった。取り出し開始以降の1日当たりの採取量や保管方法などの具体案はデブリの性状や炉内状況の「不確かさ」を理由に東電は検討対象としなかった。
デブリ取り出しの新たなスケジュールは【図2】の通り。本格的取り出しは早ければ2037(令和19)年度となるが課題は山積している。準備段階では建屋1階部分の線量低減と廃棄物処理建屋などの解体が必要不可欠になる。建屋解体に伴い大量に発生する廃棄物への対応など「議論すればするほど厳しい制約が浮かび上がる」(NDF関係者)状況だ。
NDFのデブリ取り出し工法評価小委員長の更田豊志廃炉総括監は29日の記者会見で「準備段階でもデブリ採取と同じくらいの難易度が残っている」と指摘。「(今回の検討結果は)ロードマップをいつ、どう見直すのかの検討材料の一つとなっている」とし、2051年までの廃炉完了を目指す中長期ロードマップの改定の必要性を示唆した。
ただ、東電はロードマップの改定に否定的な立場を貫いている。29日に記者会見した東電の小野明副社長・福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者は見直しの必要性について記者から問われると「1、2号機の準備工程は、3号機と似ている。同時にデブリを取り出すのも不可能ではない」と強調。現時点では2051年の廃炉完了を目標とすることに変わりはなく、廃炉作業を進めるとした。
■安全最優先で作業実施注文 大熊、双葉町長
福島第1原発が立地する大熊、双葉両町長は安全最優先での廃炉作業の実施を注文した。
福島県大熊町の吉田淳町長は「立地自治体として最も優先されるべきは廃炉作業の安全性だ。働く作業員はもとより、地域の環境に影響が及ぶことがないよう、厳に注意して廃炉を進めるよう求める」と訴えた。
双葉町の伊沢史朗町長は3号機のデブリ取り出しに関する工法の検討結果が示された点に触れ、「廃炉に向けた工程の一部が具現化され、一定の前進」と受け止めた。その上で「廃炉作業が安全、着実に実施されるよう引き続き注視する」と述べた。
県は「引き続き国と東電に対して中長期ロードマップに基づき安全を最優先に着実に廃炉を進めるよう求めていく」としている。
■着実な廃炉へ評価 林官房長官
林芳正官房長官は29日の記者会見で、東京電力福島第1原発の溶融核燃料(デブリ)の取り出しに向け、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が工法案の検討結果を公表したことを巡り「準備工程が具体化され、安全かつ着実に廃炉を進める上で評価すべきだ」と述べた。
デブリ取り出しの着手が遅れる見通しになったが、2051年までの廃炉完了を引き続き目指す考えを示した。