関西電力の森望社長は22日、福井県の美浜原発で新しい原発の建設に向けた地質調査を開始すると発表しました。
それは最新の3号機が新に60年超のライフが容認され更に休転中の期間が加算されても2046年が運転限界であるため、その時までに運転可能な新原発を完成させておく必要があるという会社側の事情があるからでした。
しかし新原発の規制基準はまだ明確でなく、事故で溶融した核燃料を地中に浸透させないための「コアキャッチャー」は必須(原子炉格納容器の下部構造がより大きくなる)なので、建設費用は従来は「100万キロワットで5千億円が標準」でしたが倍増することは確実で、近年の建設コスト増が加わると1兆5千億円に達する可能性もあります。
経産省は既に、20年間にわたって建設費や運転維持費などを保証する制度を開始し、さらに6月には、建設費が上振れた場合も消費者の電気料金を通じて支援する制度をつくろうとするなど、電力会社に対して至れり尽くせりの配慮を見せています。
もしも従来軽水炉ではなく「革新軽水炉」型となれば(その仕様や基準は未定)どれ程高価なものになるのか見当もつきません。それらが最終的にすべて電気料に加算されることだけは間違いありません。
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関電、新原発調査へ 福島事故後初 将来にわたり活用狙う
しんぶん赤旗 2025年7月23日
関西電力の森望社長は22日、記者会見し、福井県の美浜町に立地する美浜原発で新しい原発の建設に向けた地質調査を開始すると発表しました。2011年3月の東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえず、将来にわたって原発依存を続けようというねらいです。福島原発事故後、原発の新増設へ国内で具体的な動きが明らかになるのは初めて。
福井・美浜町で
森社長は「国の原子力政策では、第7次エネルギー基本計画で原子力の持続的な活用方針が示された」と述べ、同計画が今回の表明の後押しになった一つだとしました。調査は複数年かけて行うといいます。
森社長は、建設は調査結果のみで判断せず、投資する上での事業環境整備の状況などを総合的に考慮するとしています。「(稼働までに)準備も含めて20年の時間を要するが、できることはしっかりやっていきたい」と述べました。
関電は現在、7基の原発を動かしていますが、うち5基が運転開始から40年を超えます。美浜原発では1、2号機が廃炉を決め、残る3号機は運転開始から48年です。関電は同原発で増設に向けた調査に着手していましたが、福島第1原発事故で中断していました。
一方、政府は老朽原発をさらに酷使する「60年超運転」が可能な制度をつくりました。その上、2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、福島第1原発事故後に掲げてきた「可能な限り原発依存度を低減」の表現をやめ、原子力の「最大限活用」や原発の新増設を明記して原発回帰を鮮明にしました。2040年度の電源構成の目標では原発の占める割合を、現在の2倍以上の2割程度に増やすとしています。
原発の費用は膨らみ続けており、政府は原発の新増設を進める仕組みとして、すでに20年間にわたって建設費や運転維持費などを保証する制度を開始。さらに6月には、建設費が上振れた場合も消費者の電気料金を通じて支援する制度をつくろうとしています。
原発をめぐっては、原発から出る使用済み核燃料の行き先の行き詰まり、見通しのめどが立っていない「核のごみ」の最終処分場、事故時の避難計画の実効性など問題は山積みのままです。
関西電力が決断、原発の将来活用へ一歩 美浜で新設へ 審査、地元理解、資金…課題は山積
産経新聞 2025/7/22
関西電力が美浜原発の敷地内での新設(建て替え)に向け、地質調査などの再開を発表し、将来にわたる原発活用へ第一歩を踏み出した。東京電力の福島第1原発事故以降、日本国内に新たな原発は建設されておらず、既存の原発は高経年化が進む。電力需要の増大や脱炭素化に対応するには原発が不可欠で、関電は福井県と美浜町に説明。地元の理解を得ながら着実に進めていく必要がある。
「データセンターや半導体により電力需要は大幅に伸びるだろう。資源が乏しい日本では原子力は必要不可欠だ」
関電の森望社長は22日の記者会見でそう強調した。廃炉を決めたものを除く福井県内の原発7基をすべて再稼働し、原発運用の実績では全国でも「トップランナー」の電力会社として、具体的な行動を起こした。
全国的に半導体工場の建設などが進められ、人工知能(AI)が普及して電力需要は拡大する見込み。関西でもシャープの堺工場跡地(堺市)にソフトバンクやKDDIがデータセンターの建設を予定しており、将来的な需要増に対応するために安定電源の確保は喫緊の課題となる。
政府が2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画には原子力を「最大限活用する」と明記され、電源に占める割合も2023年度の8・5%から40年度に2割程度にまで引き上げる目標を掲げる。欧米が原発新設にかじを切る中で、日本も原発活用の方針を打ち出したことが関電の背中を押した可能性は高い。
ただ、関電は今回の調査について「原発後継機の設置が可能かどうかを検討することが目的」としており、調査の結果がすぐに新増設に結びつくわけではなく、道のりは長い。
まず革新軽水炉の場合は新型炉のため、原子力規制委員会の安全審査がどのような基準で行われるのか不透明な点が課題となっている。電力会社とメーカーなどは「規制の予見性が十分でない」との認識を規制委に伝えており、規制委での議論が待たれる。
地元理解も課題だ。福井県内の原発を再稼働するにあたり、関電は使用済み核燃料の県外搬出を地元に約束した。しかし、主な搬出先である日本原燃の使用済み燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の完成が延期となり、計画をうしろ倒しにせざるを得なくなった経緯がある。再処理工場は26年度中の完成を予定しているが、仮に再延期となれば新設へ向けた地元の理解を得るのも難しくなりかねない。
1基当たり1兆円ともいわれる建設費用をいかに調達するかも課題となる。森社長は「現時点でどれだけの期間がかかるかは申し上げられない」とした上で、「できるだけ早期に運転開始に持っていきたいという思いはある」と述べた。
■発電効率高めた次世代炉、国際競争激化
次世代炉のうち、従来の原子炉の設計を基本に津波・地震対策や多重防護などの安全性を高めたのが、関電が導入を想定する革新軽水炉だ。三菱重工業と東芝エネルギーシステムズなどが開発して基本設計がほぼ完了し、「次世炉のうちで最も実用化に近い」とされる。
一方、政府は今後10年間で「高温ガス炉」「高速炉」の実証炉の建設を目指す。高温ガス炉は冷却材として水の代わりにヘリウムガスを使い、高温の熱を取り出し発電効率を高められる。高速炉は高速中性子(エネルギーの高い中性子)による核分裂反応から熱を取り出し、プルトニウムを含む使用済み核燃料の再利用に適している。
高温ガス炉などは、海外では米国や英国、フランスなどが開発を進め、中国とロシアが実証炉の運転や商業運転を実現した。米国では出力が小さく建設費を抑えられる「小型モジュール炉(SMR)」の計画が具体化するなど、次世代炉を巡る国際競争は激化。日本も将来のエネルギー確保のために、技術と安全基準の確立を急ぐ必要がある。(桑島浩任)
■近畿大原子力研究所・杉山亘准教授「革新軽水炉で安全機能高まる」
原発の再稼働で他の大手電力に先んじている関西電力が、新増設へ向けた一歩を踏み出したことは重要。原発を作るのには非常に時間がかかり、今から議論を始めなければ、さらに何年も遅れる可能性もある。
データセンターなどで電力需要が増加する中で、需給がぎりぎりになってからでは遅い。再生可能エネルギーは24時間使えるわけではなく、原発のような安定電源は欠かせない。脱炭素に貢献する上でも日本にとって原子力は重要だ。
新設はいちから対策を組み込むことができるので安全性も高まっているといえるだろう。関電が三菱重工業と共同で開発している「革新軽水炉」は、炉心溶融(メルトダウン)が起きても核燃料が外に漏れないよう「コアキャッチャー」という対策を施している。これは安全機能が、仮に電源を喪失しても作動することに意味がある。
原発は事故を起こしてはならないし、地元の理解を得るために丁寧な説明を続ける必要はある。ただ、電気を使い続ける上で、国民も原子力についてよく考えて理解を深めることが重要だ。(聞き手 桑島浩任)
美浜原発建て替え実現へ関電が直面するハードル 福井県内7基は残り30年で廃炉…建設へ待ったなし
福井新聞 2025年7月23日
関西電力が7月22日、美浜原発(福井県美浜町)で東京電力福島第1原発事故後に中断していた新たな原発への建て替え(リプレース)に向けた現地調査を再開する意向を表明した。関電の県内原発7基は60年超運転が認められたとしても、残り30年程度で全て廃炉となる。原発の建設には計画から完成まで20年程度が必要とされ、関電が建て替えの本格検討を始めるタイミングを探る中、国が原発の最大限活用へ転換したことが後押しになったとみられる。巨額の建設費回収や県と美浜町の同意、原子力規制委員会の許認可などハードルは多く、実現までの道のりは長い。
3号機廃炉時期念頭?
「新たなエネルギー基本計画の決定が、(関電が)建て替えに向けた本格検討を進める契機になった」。県内の原子力関係者はこうみる。
政府が2月に閣議決定した同計画は、福島事故後に明記してきた「原発依存度の低減」の文言を削除し、次世代型原発の開発・設置を初めて明記。建て替えの要件も緩和し、廃炉が決まった原発を持つ電力事業者は自社の別の原発敷地内でも建設を可能にした。
関電の県内原発は、稼働する7基のうち5基が既に運転開始から40年を超えている。関電にとって「原子力発祥の地」である美浜は1、2号機が既に廃炉となり、3号機は来年に運転50年を迎える。6月に国の新制度で60年超運転が可能になったが、3号機の場合、再稼働審査などで停止した約10年分の運転延長が認められても、2046年ごろには廃炉となる見通しだ。
県内の別の原子力関係者は「美浜は大飯や高浜に比べて敷地に余裕がある上、建て替えを求める町民も多い。原子力人材や地元の関連産業の維持を考えると、40年代には新たな原発の運転開始が必要で、検討開始は今がぎりぎり間に合うタイミング」とみる。
建設費回収も課題
関電は、建て替えで想定する次世代型原発として、三菱重工業や他の電力3社と革新軽水炉「SRZ-1200」の共同開発を進めている。関電の原発と同じ加圧水型軽水炉(PWR)の新型で、出力は120万キロワット級。福島事故を教訓にした安全対策を設計段階から取り入れているのが特徴で、基本設計はほぼ完了している。
昨年12月から新型炉の規制上の課題を整理するため原子力規制庁との意見交換も始めた。福島事故を教訓に策定された新規制基準は既設原発がベースで、新型炉は想定していないためだ。新たな基準が必要かどうかなどの結論は見通せていない。原子炉設置許可の申請には、原子力安全協定に基づく県と美浜町の事前了解も必要になる見込みだ。
原発の新増設や建て替えの実現には、使用済み核燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分などが解決していないなど課題は山積している。
1兆円ともされる建設費もその一つで、関電の森望社長は22日の記者会見で「資金回収の予見性を確保することが重要」と強調。新たなエネルギー基本計画は安定的に事業運営できるよう必要な環境整備の検討を進めていくとしており、国は建設費の増大分を電気料金に上乗せして回収できるようにする支援策を検討している。