九州電力玄海原発の敷地内で26日午後9時頃、「ドローンとみられる三つの飛行体」の侵入が確認されました。発電所の警備員4人が光を放つ三つの飛行体が正門付近の上空に浮かんでいるのを発見。飛行体はその後、敷地外に向けて飛び去りました。玄海原発の周辺自治体からは27日、警戒態勢の強化を求める意見が出されました。
東京大の岡本孝司教授は今回の事案について、「上空からの侵入リスクが顕在化した点で問題だ。国や電力会社、警察などが協力し、対策を考えていく必要がある」と指摘しました。
原発に対する警察や海上保安庁の警備は、2011年の東日本大震災以降、強化が進められてきており、「警察当局は全国のすべての原発に『原発特別警備部隊』を配置し、24時間態勢で警備に当たる(サブマシンガンやライフル銃、防護服などを装備)」とされています。
しかし広大な施設周辺をカバーするには莫大な予算が必要で、整備に利用者の負担も強いることになり、現実的といえるだろうかという指摘もあり、「実施されている」とは言い切れません。
とはいえ「費用が掛かるので警備は出来ない」は通用しないわけで、住民の安全のために必要な対策は省略できないので、電力会社及び政府・県などの自治体は、「原発の維持にはそれなりの高コストが掛かる」ことを予め住民に明らかにしておく必要があります。
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玄海原発「光を放つ三つの飛行体」見つからず、専門家「上空からの侵入リスクが顕在化」
読売新聞 2025/7/27
原子力規制委員会が九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の敷地内で、ドローン3機の飛行が確認されたと発表したことについて、九電は27日夕、敷地内と周辺でドローンは発見されなかったと明らかにした。佐賀県警とともに今後も捜索を継続する。
一方、規制委は同日、確認されたのは「ドローンとみられる三つの飛行体」だったと訂正した。現時点で断定はできないためとしている。
規制委や九電などへの取材によると、26日午後9時頃、発電所の警備員4人が光を放つ三つの飛行体が正門付近の上空に浮かんでいるのを発見。連絡を受けて駆け付けた県警原発特別警備部隊の隊員も光を確認した。飛行体はその後、敷地外に向けて飛び去ったという。操縦者や飛行目的、形状、カメラなどの積載物の有無は不明で、九電は具体的な飛行経路について「セキュリティー上、明らかにできない」としている。
小型無人機等飛行禁止法では、原発や自衛隊施設などの重要施設とその周囲約300メートルの上空でドローンなどの飛行を原則禁じており、違反者には1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられる。九電は「川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を含めて初めてのケースだが、発電所の安全性に問題はない」とコメントし、規制委は「対応を検討する」としている。
玄海原発は1、2号機が廃炉作業中で、3、4号機が営業運転中だった。4号機は27日、予定通り定期検査に入った。
周辺自治体「警戒強化を」
テロなどに備えて極めて高いセキュリティー対策が取られている原子力発電所の敷地内で、ドローンとみられる飛行体が複数目撃された異例の事態を受け、玄海原発の周辺自治体からは27日、警戒態勢の強化を求める意見が聞かれた。
「夜に起きたこともあり、誰かが何らかの意図を持ってやったのか、不気味に感じている」。読売新聞の取材に応じた玄海町の脇山伸太郎町長は困惑した様子で語り、「原発に近付く飛行体を察知できるような機器の導入を要請したい」と九電に対応を求める考えを明らかにした。同町によると、九電側は28日にも今回の事案について町に説明する予定という。
同町と隣接する佐賀県唐津市危機管理防災課の担当者も「九電や国には安全第一と、不安払拭(ふっしょく)に努めてもらいたい」と注文した。同県の平尾健副知事は、九電の林田道生・原子力発電本部長に「今回のような事案を許さない対策を講じてほしい」と電話で申し入れた。
原発周辺でのドローン飛行は、過去にも問題となっている。北海道電力泊原発(北海道泊村)では2023年4月、原発から約50メートルの海岸で、国に届け出をしていないドローン1機を飛ばしたとして、道内の男性が航空法違反の疑いで逮捕された。
東京大の岡本孝司教授(原子力工学)は「核物質を扱う原発はどの国も出入りが厳重に管理されており、構内では写真の1枚も自由に撮ることは許されない」と説明する。そのうえで今回の事案について、「上空からの侵入リスクが顕在化した点で問題だ。国や電力会社、警察などが協力し、対策を考えていく必要がある」と指摘している。
ドローン攻撃に脆弱な原発 対策追いつかず「想定外」に限界も
毎日新聞 2025/7/27
ドローンの軍事利用が世界で急速に拡大する中、27日未明、九州電力の玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の周辺に突如として緊張が走った。原発構内にドローン3機が侵入したという。原子力規制委員会はその後「ドローンと思われる光」と訂正したが、攻撃可能な機体が容易に原発建屋に近づける、警備上の脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになった。
佐賀県の原子力安全対策課には26日午後10時20分ごろ、玄海原発側から電話で連絡が入った。担当職員や副知事ら6人が急きょ、情報収集に追われた。想定外の事態に、担当者は「県民が安心できるよう『対策を』と言い続けるしかない」と漏らした。
原発は航空機によるテロ対策を想定しているものの、ドローン攻撃への対策は追いついていないのが現状だ。2013年7月に施行された原発の新規制基準は、01年の米同時多発テロを教訓に、航空機によるテロへの備えを求めている。衝突で施設が破壊されても炉心溶融を遠隔操作で防げるよう、特定重大事故等対処施設の設置が必要だ。
一方、ドローン攻撃が世界的に注目されるようになったのは、近年になってからのこと。新規制基準ではドローンの侵入や攻撃は想定されていない。
テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功研究センター長によると、国内外の原発では国際原子力機関(IAEA)の勧告に基づき核物質の盗難や破壊への対策が施されているが、ドローン対策は最近の問題のため勧告に含まれておらず、国ごとに対応している。
一般的に、原発の敷地周囲などには侵入者に備えて監視カメラやセンサーが置かれている。しかし東京科学大の奈良林直特定教授(原子炉工学)は「撮影できる範囲には限界があり、小型ドローンは捉えられない可能性がある」と指摘する。今回もカメラには映っていなかった。
ただ、日本の原発の警備が海外に比べて劣っているわけではないという。板橋氏は「原発の敷地内に警察の部隊が常駐し、海側では海上保安庁が守っている。警察も電力会社にドローン対策の指導をしている」と説明する。
自衛隊では、ドローンが施設に侵入した場合は電波で飛行を妨害する対策を取る。しかし原発は敷地が広大なため、板橋氏は「全体をカバーする装置をつけるには膨大なコストがかかる。今まで通り電力会社と警察、海上保安庁、自衛隊との連携や訓練を続けるのが大事だ」と語る。
一方、奈良林特定教授は、原発の重要施設を、ゴルフ練習場に設置されているような網目状のフェンスで覆うことを提案する。「ドローンは軽いので、それほど頑丈なものでなくてもフェンスに絡まるだけで飛行を妨害できる」と話す。【小川祐希、成松秋穂、木許はるみ】
原発「空」の防衛に限界 法規制も「強制力」なし 玄海原発〝ドローン〟侵入
産経新聞 2025/7/27
佐賀県の九州電力玄海原発上空にドローンとみられる光る物体が侵入した。物体は飛び去り、操縦者や意図などは不明だが、テロ攻撃や偵察の意図があった可能性も捨てきれない。テロの標的になりかねない原発は陸海空で厳重な警備が敷かれ、原発と周辺地域上空のドローンの飛行は法律で原則禁止されている。ただ、「強制力」はなく、侵入を事前に防ぐことは難しいため、対応には限界があるのが現状だ。
【ひと目でわかる】重要施設で相次ぐドローン飛行
原発や関連施設に対する警察や海上保安庁の警備は、2001(平成13)年に起きた米中枢同時多発テロを契機に本格化し、23年の東日本大震災以降、さらなる強化が進められてきた。
警察当局は全国のすべての原発に「原発特別警備部隊」を配置し、24時間態勢で警備に当たる。爆発物やNBC(核、生物、化学)テロなど、あらゆる事態を想定し、サブマシンガンやライフル銃、防護服などを装備する。
沿岸部に立地せざるをえない原発には洋上テロに対する懸念もあり、海上保安庁も警備を重視。武器搭載の巡視船艇を配備するなどしている。
さらに、空からの攻撃にも備え、原発と周辺地域の上空でドローンなどを飛行させることは、安全性に関わるため法律で原則として禁止されている。無登録のドローンを飛ばすことも法に抵触し、令和5年には北海道電力泊原発(北海道泊村)の敷地から50メートルの海岸で国に登録していないカメラ付きドローンを飛ばしたとして、男が逮捕された。
警察庁の露木康浩前長官は昨年9月に東京電力福島第1原発の警備の状況を視察した際、「ドローン対処も含めて訓練の高度化などを進めていきたい」と述べ、原発を巡るドローン対策は重要視されてきた。
その背景には、ロシアによるウクライナ侵略で原発を標的とした攻撃が続いていることもあるとみられる。ウクライナのゼレンスキー大統領は今年2月、1986年に爆発事故を起こしたウクライナ北部のチョルノービリ原発が、ロシア軍のドローン攻撃を受けたと表明。国際人道法(戦時国際法)では原発を攻撃してはならないと定められているが、狙われる脅威は現実のものとなった。
原発周辺の地上警備は厳重な一方で、空からの侵入を事前に防ぐことが難しい現状もある。今回の飛行物の意図などは分かっておらず、関係者は「真相の解明が必要だ」としている。(宮野佳幸)
■重要施設で相次ぐドローン飛行
ドローンを巡っては、「重要施設」上空などでの飛行が相次いで確認されている。
平成27年4月、首相官邸の屋上で、放射線を示すマークが貼られた容器を積んだドローン1機が見つかり、微量ながらセシウムが検出された。威力業務妨害容疑で警視庁に逮捕された男は「原発政策に不満があった」などと供述。男は九州電力川内原発(鹿児島)も狙っていたとされる。
皇居近くの北の丸公園(東京)の上空では令和元年5月、警戒中の警視庁機動隊員がドローンのようなものが飛行しているのを見つけた。元年10月と11月には関西国際空港(大阪)で、ドローンのような物体の飛行が目撃され、航空機の離着陸が一時停止された。
海上自衛隊横須賀基地(神奈川)に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンで空撮したとみられる動画が6年3月に中国の動画投稿サイトに投稿されていたことも判明した。動画はX(旧ツイッター)にも転載され、拡散。Xには米海軍横須賀基地で原子力空母「ロナルド・レーガン」をドローンで空撮したとする動画も投稿されていた。(吉沢智美)
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■板橋功・公共政策調査会研究センター長の話
今回の事案の目的は①悪意を持った攻撃②面白半分で原発敷地上空に入る「マニア的行為」③他国や特定の思想を持つ人らによる情報収集-の3つが考えられる。ただ、①は実際の攻撃がなく、③についても夜間で視認性が低い中で行う意味があるのかは疑問だ。
3機のドローン様のものが確認されたが、プログラムであらかじめ飛行ルートを指定して飛ばすことができるため、組織的な行為かも不明だ。
ドローンはバッテリーの持ち時間や積載量など性能が向上しているが、原発施設は堅牢(けんろう)で、ドローンによる攻撃を受けても大きな影響はないだろう。電波妨害などによる対策も考えられるが、広大な施設周辺をカバーするには莫大(ばくだい)な予算が必要で、整備に利用者の負担も強いることになり、現実的といえるだろうか。
今後の対応として、小型無人機等飛行禁止法の罰則強化による抑止力強化や、事業者と警察当局との連携体制の再確認などが考えられる。今回の事案は明らかな違法行為で、処罰に値する。背景などを確認するためにも行為者の早期特定が必要だ。
(聞き手 宮野佳幸)