2018年3月21日水曜日

凍土遮水壁で「汚染水1日95トン低減」というものの

 福島第一原発のデブリ状態の核燃料の冷却水はクローズシステムの循環方式なので、本来は水が増えることはありません。それが実際には日量数百トンも増えるのは、地下水が破損した建屋地下部分の破損箇所から流入しそれが本来の冷却水と混じるからです。
 この流入は地下水レベルと地下室内の水面とのレベル差によって生じるので、常に建屋周囲の地下水のレベルを地下室内水面よりも「僅か」に高くなるように制御できれば、流入量は極小になります(地下水のレベルが地下室内水面のレベルよりも低くなると放射能汚染水が建屋外に漏れるので不可)。

 地下水のレベルは降雨量によって絶えず変動するので、建屋地下室の周りに凍土壁を回すことで地下水を遮断すれば、その「囲みエリア」の地下水面を一定に維持できるので、上記の流入量の定常的な極小化が実現できます。しかし冬期でも実際には日量140トンほどが凍土壁から内部に流入しているためこの制御は出来ていません

「囲みエリア」内に設置されているサブドレンポンプを適切に稼働させて水位差を小さくすれば、不安定ながらも地下室内への流入水を小さくできます。従来に比べて汚水の発生量が小さくできているのは主にこのためです。

 産経新聞が【原発最前線】のコーナーで凍土壁の性能について深堀りする記事を出しました。
 この件に関しては、更田規制委員長は東電の詐術を見破りながらも打撃的な批判にならないように、控え目にコメントしている様子がよく分かります。
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【原発最前線】
凍土遮水壁「汚染水1日95トン低減」の通信簿は
 依然見えない「費用対効果」
産経新聞 2018年3月20日
 「汚染水1日95トン低減」は、「建設に国費350億円」「維持に年十数億円」の投資に見合うのか -。建設決定から5年、昨年11月におおむね凍結した東京電力福島第1原発「凍土遮水壁」の効果について、東電は3月上旬に「単体では汚染水1日95トン低減」との数字をまとめた。他の対策と合わせ、凍土壁完成前は1日約490トンあった汚染水発生量が約110トンに減ったという。ただ、切り札とされてきた凍土壁の「費用対効果」は依然見えないままだ。(社会部編集委員 鵜野光博)

「世界に前例ない」
 「建屋に地下水を近づけない、重層的な水位管理のシステムが構築されたと思っている」
 3月1日、東電の廃炉・汚染水対策最高責任者、増田尚宏氏は記者会見でこう語った。しかし、会見では報道陣から凍土壁の費用対効果を問う声が相次ぎ、東電側はそれを明確に示すことはできなかった
 第1原発は山側から海へ地下水が流れる地層の中に建っており、地下水が建屋に流れ込んで溶融核燃料(デブリ)を冷やしている汚染水に触れ、1日500トン近い汚染水が発生する原因となってきた。
 この地下水を減らす「抜本策」として国と東電が採用したのが凍土壁だ。平成26年6月に本格工事が始まり、28年2月に完成。翌3月から凍結が始まった。建設に国費約350億円が充てられ、年十数億円の維持管理費は東電が負担する。

 凍土壁は1~4号機を地中約30メートルに打ち込んだ約1500本の凍結管で約1・5キロにわたって取り囲み、冷却剤を循環させて「氷の壁」を築く。建設が決まったのは25年5月で、ゼネコンから募集したアイデアから鹿島建設の案を採用した。資源エネルギー庁は同月に開かれた原子力規制委員会の監視・評価検討会で「世界に前例のないチャレンジングな取り組み」と説明した。
 しかし、月に1回程度開かれている同検討会の中で、凍土壁の評価は必ずしも高くなかった

「抜本策」には遠く
 東電は地下水対策を、敷地を舗装し雨水の浸透を抑制する山側で地下水バイパスでくみ上げる▽凍土壁でせき止める▽凍土壁を越えた地下水を建屋近くのサブドレン(井戸)でくみ上げる-の4段構えで行っている。凍土壁の費用対効果がはっきりしないのは、国費を凍土壁ではなく、サブドレンの大幅増強などに回していた場合の効果との比較が難しいからでもある。
 凍結が始まった当初、凍土壁の遮水効果はなかなか表れず、規制委の検討会ではサブドレンが地下水対策の「主役」と評価された。凍土壁はサブドレンなどとの相乗効果が期待されるものにとどまった。最終未凍結部分の凍結認可を前にした昨年6月の検討会では、東電が凍土壁の効果を強調した資料を作成したことに、更田豊志委員長代理(当時、現委員長)が「人を欺こうとしている」と声を荒らげる場面も。「抜本策」のイメージは遠くなった。
 今年3月1日、東電は凍土壁単体の効果について記者会見で初めて公表。単体では1日当たり95トンの低減だが、他の対策を組み合わせて凍土壁だけがない場合の汚染水発生量189トンを半減できたと試算した。同7日には、政府の汚染水処理対策委員会が「遮水効果は明確に認められ、地下水を安定的に制御し水位を管理するシステムが構築できた」とする評価結果をまとめた。ただ、評価期間が雨が少ない冬季だったため、「雨が多い時期の試算も示してほしい」との意見も出された
 試算では1日110トンとされた建屋への地下水・雨水流入量は、雨が降った3月8~14日には1日203トンに上昇。東電は「今後も流入量などを監視していく」としている。

「今ある武器で、いい戦いを」
 政府から“お墨付き”をもらった凍土壁だが、規制委の更田委員長は、汚染水処理対策委員会と同じ日に開かれた定例会見でも慎重な評価に終始した。
 「地下水レベルの今後の推移を見て、ある程度の時間が経過しないと、凍土壁がどんな役割を果たしているかはなかなか固まってこないと思う
 東電の評価方法についても「重層的対策の一つが『なかったらどうだったか』という議論は非常に難しい。凍土壁がなくても、サブドレンのくみ上げ量が増えていれば同じ状況を作ることができる」とコメント。「仮に凍土壁がなくてサブドレンの強化が進んでいたら、どういう状況が生まれていたか。規制委としては、もっと早くサブドレンの能力を高めておきたかった」と述べた。
 凍土壁を評価した汚染水処理対策委員会の事務局を資源エネルギー庁が務めていることについても、「投資効果は、投資主体の評価でいいのかという問題は本質的にある」。
 辛口が目立った更田氏だが、第1原発の廃炉という難事業に挑んでいる東電に、最後にこうエールを送った。
 「規制委としては、既にあるものについて、『非常に効率的な投資だったか、そうではなかったか』というところにはあまり関心はない。今ある武器で、少しでも東電に、いい戦いをしてもらおうと考えている」
東京電力福島第1原発の汚染水対策=東電は(1)「汚染源を取り除く」(2)「汚染源に近づけない」(3)「汚染源を漏らさない」の3つを対策の柱とし、(1)浄化装置による放射性物質の除去やタンク漏洩(ろうえい)水対策、(2)凍土遮水壁やサブドレンによる建屋流入水低減、(3)溶接型タンク設置や津波対策-などに取り組んでいる。国と東電による廃炉の中長期ロードマップでは、平成32年内に建屋内汚染水の処理を完了するとしている。