ウクライナ情勢などで、戦時で原発が標的となり、事故の危険が高まる実態が表面化しています。そんな中で日本政府は原発回帰路線に走りだしています。
しんぶん赤旗が、原子力資料情報室事務局長の松久保肇さんに、原発が存在すること自体の危険性について聞きました。
松久保さんは、原発のみならず「六ケ所村の再処理工場」はいうまでもなく、小規模の「東海再処理施設」にも大量の放射性物質が保管されていてその1%が施設外に漏れたと仮定しただけで、首都圏が壊滅するほどの被害が及ぶこともあり得るということです。
因みに国内の全原発において、対ミサイル防衛機能は何も考慮されていないというのが実状です。ではどうすべきかですが、代替のエネルギーを一番早く確保できる方法は再生可能エネルギーと省エネということです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【戦争国家の実相】国土戦場化想定しながら攻撃の標的になる原発推進 再エネ投資こそ「安全保障」
しんぶん赤旗 2026年6月22日
ウクライナ情勢などで、戦時で原発が標的となり、事故の危険が高まる実態が表面化するなかで、原発回帰路線に走る日本政府の姿勢について、原子力資料情報室事務局長の松久保肇さんに聞きました。 (石橋さくら)
原子力資料情報室事務局長 松久保肇さんに聞く
まつくぼ・はじめ NPO法人「原子力資料情報室」事務局長。
2022年から経済産業省・原子力小委員会委員。著書に
『原子力の終活-産業としての終焉』、共著に『検証 福
島第一原発事故』、『原発災害・避難年表』など
ロシアがウクライナのザポリージヤ原発などを攻撃し、また米・イスラエルによるイラン攻撃で始まった中東情勢でも、イランがUAEのバラカ原発を攻撃し、米・イスラエルもイランのブシェール原発を攻撃するなど原発への攻撃が後を絶ちません。原発やダムなど、民間人に大量の犠牲が発生する施設への攻撃を禁じるジュネーブ条約違反が繰り返される異常事態です。
原発には電力を送受電する長い送電線がつながっていますが、それが切れると送電ができなくなるため、運転は停止します。また原発は、発電の有無にかかわらず、継続的に原子炉の中を冷却する必要があり、そのために外部から原発への送電も不可欠です。しかし戦争になれば、電力やエネルギーなどのインフラ施設が攻撃され、送電網が破壊されることは容易に考えられます。また、原発は電力の供給量が大きいため、一つの原発が機能しなくなるだけで大規模な停電になりかねません。安定的にエネルギーを供給する「エネルギー安全保障」の観点から原発は脆弱と言えます。
〝防衛″の圏外
原発が攻撃された場合の対応などを議論した2022年11月の原子力小委員会で日本政府は、北朝鮮からの弾道ミサイル飛来を想定し、大気圏外ではイージス艦から発射する迎撃ミサイルSM3で迎撃し、撃ち漏らした場合は、移動可能な迎撃ミサイルPAC3で迎撃するとしています。米軍はPAC3の射程を軍事機密としています。そこで私は、軍事専門誌などの情報に基づき、射程を約35キロとし、全国各地の自衛隊基地に配備されているPAC3から35キロの円を地図上に描いてみました(図:PDF版 ↓)
https://drive.google.com/file/d/1edBA36orcerFE2qAr7QxIVLiEGCETwEq/view?usp=sharing
結果、円の範囲内に入る原発は1つも存在しないことがわかりました。ミサイル発射時点でPAC3を移動させればよいかというと、北朝鮮や中国から弾道ミサイルが日本に到着するまでのわずか10分ほどで自衛隊基地から原発へ配備するなど到底不可能です。〝原発は守れる″などとこうした虚構の話を住民に説明するーまさに政府が国民をだましていることと等しいと思います。
英紙フィナンシャル・タイムズが24年、ロシア軍が、日本や韓国などとの戦闘を想定し攻撃対象施設160ヵ所のリストを作成していたと報じましたが、軍事施設の他、原子力関連の施設も含まれており、攻撃対象と認識していることが明らかになっています。その一つに使用済み核燃料からウランやプルトニウムを取り出す処理を行う東海再処理施設(茨城県東海村)があげられています。同施設で再処理はもう行っていませんが、いまだに大量の放射性物質が保管されており、この1%が施設外に漏れたと仮定しただけで、首都圏が壊滅するほどの未曽有の被害が及ぶこともあり得ます。
さらに私が懸念する施設が、六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)です。使用済み核燃料の金属被覆管ごと細断し硝酸で溶解するため、放射性物質が液体状態で大量に扱われており、万が一破壊されれば、当然施設の外に漏出する危険も高いと言えます。この工場は
1997年に完成予定でしたが、相次ぐ設計ミスや事故・トラブルなどで大幅に工期が遅れ、いまだに建設中で、運転前から老朽化が始まっているような施設です。このような施設が大量の放射性物質を扱う上、戦時には攻撃の対象となるリスクを持つのです。非常に危険だと思います。
ジュネーブ条約は、原発への攻撃を禁止する一方、ヴラン濃縮施設や再処理工場に問しては対象外としています。この背景に条約締結当時、これらの施設は核兵器の製造に使用され得る軍民両用施設として扱いが定まらなかったことがあります。つまり広範囲の地域が壊滅するほどの危険な再処理工場などへの攻撃に対し国際条約が歯止めとならない問題もあるのです。
原発は、稼働中に核分裂により大量の熱エネルギーを放出しますが、稼働を停止すればこの熱も下がり、リスクも下がります。ところがウクライナは、電力供給を原発に依存していることから、ザポリージャ原発奮占領されてからもしばらく運転を継続しました。ウクライナの他の原発は今も稼働中です。その分、リスクを原発周辺住民に押しつけているのです。
日本の原子力損害に問する賠償法では、基本的に事故発生を事業者の過失責任とする一方、大災害や戦争の発生によるものは例外としています。戦争は国家の非常事態だとし国民に被害を我慢させる「戦争被害受忍論」を盾に、国は太平洋戦争の民間空襲被害者への補償を拒んでいます。仮に戦争になり原発事故が発生した場合、同じように国民が「受忍」を強いられ、甚大な被害に運う原発周辺住民が切り捨てられることになると思います。
かじ切る世界
ウクライナの原発を占拠したロシア側の思惑として、電力供給量の約60%を原発に依存していたウクライナの電力供給を断つことが大きかったと思います。ロシアによる原発占拠やエネルギーインフラの破壊などを受け、ウクライナの電力事業者は、大きな電源に依存することは「安全保障上のリスクだった」と述べ、安全保障上の最良策は「分散電源だ」と明言しています。
中東情勢危機を受け、エネルギーをいかに安定的に確保するかが課題となるなか、一番早く確保できる方法は、再生可能エネルギーと省エネです。福島第1原発事故発生当時は、電力供給量の約30%を原発に依存していましたが、事故から15年経過した現在は10%ほどです。政府は、今国会で成立を狙う「電気事業法改定案」で原子力発電などの新設に公的資金を融資できるようにしようとしています。しかし、原発の新設には1基当たり2、3兆円かかり、建設には20年ほどを要します。ばく大なコストと時間を投じても政府の目指す40年までの電力供給量20%達成の実現性は低く、今直面しているエネルギーの安定確保という課題の解決策にはなりません。
一方、世界は再生可能エネルギーヘの投資に大きくかじを切っています。国際エネルギー機関(IEA)のエネルギーヘの投資に関する報告書によると、再生可能エネルギーヘの投資は原子カエネルギーヘの投資の約10倍で推移しています。多くのリスクを持つ原子力に固執するのではなく、再生可能エネルギーヘの投資に転換することこそが「エネルギー安全保障」に一番資すると考えます。