2024年10月19日土曜日

原発 懸念山積の「回帰」路線(京都新聞 社説)

 京都新聞が掲題の記事を出しました。同紙は折に触れてこうした社説を掲げています。
 岸田前首相は22年8月に突如「原発回帰」をいい出しました。それまで日本では「可能な限り原発への依存度を下げる」ことで(「原子力ムラ」を除いて)意思統一されていたのですが、国民的な議論を全く経ないままでの唐突な大転換でした。
 政府は、それまで原発稼働を原則40年、最長60年とし「可能な限り依存度を下げる」としてきたのを原発の「最大限活用」へ反転させ、原発の60年を超す運転期間延長などを閣議決定しました。その背後に 岸田内閣発足時点から首相秘書官に就いていた経産省元事務次官の嶋田隆氏の存在と経済界の強い意向があったであろうことは容易に想像されます。

 ではどんな根拠で、例えば中性子線照射で絶えず劣化が進む原子炉圧力容器の60年以上の運転が可能になるというのでしょうか。それは40年以上の延長についても同じですが具体的な根拠が明示されためしはありません。それは示しようがないからでしょう。
 逆に危険であるとする明確な証拠はあります。
 原子炉(鋳鋼製)には、劣化具合を測るためのテストピースが必要個数(多分30年分)装着されていて、定検の都度「脆性遷移温度」を測定(破壊試験)することで健全性が判定できます。
 あらゆる鉄鋼は極低温になると靭性を失って脆く(割れやすく)なる性質を持っています(健全なものは脆性遷移温度-10℃以下)が、中性子線を浴びると脆性遷移温度は急激に上昇します(下表)。
 稼働後33年で98℃に達した玄海原発1号機の原子炉は、井野博満東大教授の指摘を受けた玄海町長らの強い要望によって廃炉になりました。
 ところがそれ以後、日本の各原発は「脆性遷移温度」を公表しなくなりました。犯罪的な隠蔽です。現在はもうテストピースを消費し尽くしたせいもありますが、いずれにせよ健全性が未確認のままで老朽化した原発を使い続けるのは大問題です。

   原子炉圧力容器 脆化ワースト7

 

No

原子炉名

転 開 始

脆性遷移温度

試験片回収時期

年数

 

 

1

玄海1号

1975年10月15日

98℃

2009年4月1日

33

 

 

2

美浜1号

1970年11月28日

74℃

2001年5月1日

30

 

 

3

美浜2号

1972年7月25日

78℃

2003年9月1日

31

 

 

4

大飯2号

1979年12月5日

70℃

2000年3月1日

20

 

 

5

高浜1号

1974年11月14日

68℃

2002年111日

27

 

 

6

敦賀1号

1970年3月14日

51℃

2003年6月1日

33

 

 

7

福島1号

1971年3月26日

50℃

1999年8月1日

28

 

   東京新聞 11.7.2(原子力資料情報室作成の資料から)  使用前の脆性遷移温度は-10℃以下
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社説:原発 懸念山積の「回帰」路線
                           京都新聞 2024/10/18
 国民的な議論なく前政権が大転換させた「原発回帰」をどう評価するのか。安全で持続的なエネルギー確保の道筋が問われている。
 原子力規制委員会が、運転開始50年となる関西電力高浜原発1号機(福井県)の運転延長を認めた。50年を超える運転認可は国内初だ。
 2011年の東京電力福島第1原発事故を教訓に、政府は原発稼働を原則40年、最長60年とし、「可能な限り依存度を下げる」政策をとってきた。
 ところが、岸田文雄前政権は22年、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー不安を理由に、原発の「最大限活用」へ反転。既存原発の60年を超す運転期間延長や次世代型原発への建て替え方針を閣議決定した。
 だが原発を巡る根本的な欠陥は残ったままである。1月の能登半島地震では、原発周辺の道路寸断や家屋崩壊が多発し、避難計画の不備を露呈した。同規制委では、複合災害を想定して対策指針を見直す議論を始めたばかりだ。
 また、核燃料サイクルは行き詰まり、高レベル放射性廃棄物など「核のごみ」処理の最終処分地も決まっていない。福島第1原発の廃炉作業は難航し、完了の可否や費用は見通せない。

 自民党総裁選で「原発ゼロ」に言及した石破茂首相は、選挙公約で「安全を大前提とした原発の利活用」として政策継承を強調する。公明や日本維新の会、国民も原発の積極的活用を掲げる。
 立憲民主は原発新増設は認めないが、党綱領の「原発ゼロ」は公約に盛り込まなかった。共産は30年度の原発と石炭火力ゼロを提唱する。
 ただ、福島事故の反省を置き去りにした議論では、国民の理解は広がらない。
 こうした中、政府は本年度内にエネルギー基本計画を見直す。国際公約の「50年に温室効果ガス排出量を実質ゼロ」目標を理由に、再生可能エネルギーと原子力の電源構成比率を引き上げる姿勢だ。
 巨額投資を要する原発は経済性でも優位が失われている一方、太陽光に偏重した再生エネ拡大の弊害も指摘されている。
 地域に見合った多様な再生エネをはじめ、蓄電池と送電網の整備など、今後は思い切った施策の実現へ政治の決断が求められよう。
 電力消費の抑制も不可欠だ。省エネ技術の開発と普及を加速するために官民の知恵を結集したい。