7日付の新潟日報に掲題の記事が載りました。
これは原発事故時に「要配慮者」が収容される「放射線防護施設」が、本来どういう要件を満たす必要があるのかについて考察したものです。
先ず第一に建屋が「地震や津波によって損壊しない」ことが挙げられます。
因みに24年1月1日の能登半島地震では、「全壊」または「半壊・一部損壊」した住家は下表の通りで、遠隔の地を含めて実に大量の住家が被害を受けたことが分かります。
放射性物質の屋内流入を防ぐためには、「一部損壊」(ガラス1枚の損壊)もしてはなりません。
能登半島地震 住家被害
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| 石川県 | 富山県 | 新潟県 |
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| 全 壊 | 8,108棟 | 245棟 | 106棟 |
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| 半壊・一部損壊 | 115,324棟 | 72,799棟 | 23,361棟 |
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志賀原発が立地する石川県志賀町では、計12の施設のうち6ヵ所で損傷や異常が起きたため使用できなかったということです。廊下の上部に取り付けられた換気設備(フィルター付)が落下したケースも報じられました。
「放射線防護施設」は福島第1原発事故後に建設されたので全て「築数年」の筈です。耐震性が考慮されていなかったのであれば、補強するか建て直すしかありません。
問題は5~30キロ圏内に居住する住民の家屋ですが、大半が「築数十年」の家屋と思われます。能登半島地震時の被害に照らすと多くの家屋が一部損壊以上の被害を受けるので、そこに「退避」することはあり得ません。
昨年早々に組織された「屋内退避検討チーム」は本来その辺を検討すべきだったのですが、規制委は意識的にそれを避けて1年間を空費させました。
その挙句「屋内退避に堪えられない場合は防護施設に入る」などとする方針のようですが、一体、数万人の人たちが収容できる施設を立地自治体が本当に造れるのか真剣に考えるべきです。
それができないのであれば、事故当初「5~30キロ圏内の住民は屋内退避」とする方針自体を考え直す必要があります。
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原発事故時の放射線防護施設 複合災害機能不全に懸念
新潟日報 2025年4月7日
原発事故と地震や津波が重なる複合災害で、高齢者や障害者を守ることができるのか。避難が難しい要配慮者を受け入れる放射線防護施設は、被ばくを防ぎ安全に過ごせる機能が前提だ。しかし能登半島地震では損傷が相次ぎ一部は閉鎖。全国の原発周辺自治体は難題に直面するが、国の動きは鈍い。専門家は、国や電力会社が運用基準を示すべきだと指摘する。
◆「確信なし」
「能登のような災害が起きないとは言えない」。島根県松江市の鹿島病院の防災担当者は不安を口にした。1・5キロ先には昨年12月に再稼働した中国電力島根原発2号機がある。
病院は177床。重症患者や家族がいない高齢者も入院している。病棟は5階建てで、原発で事故が起きれば、避難が難しい患者は防護施設に改修した1~4階に一時的に退避する。
能登地震での避難長期化を教訓に、病棟には浄水装置も備えた。ただ災害時に防護機能が維持できるのか確信はない。「(施設が)使えないことを想定する必要もあるが、自分たちだけでは対策は難しい」(担当者)
◆ゼロベース
2011年3月の東京電力福島第1原発事故では、入院患者らが無理な避難を強いられ多数が亡くなった。その反省を踏まえた放射線防護施設は、原発事故対策の柱の一つだ。要配慮者が避難の準備が整うまで身を寄せる。全国の原発周辺に整備された約300カ所は気密性に加え、装置で内部の気圧を高めて放射性物質の侵入を防ぐ。
しかし北陸電力志賀原発(停止中)が立地する石川県志賀町では、計12の施設のうち6ヵ所で損傷や異常が起きた。装置が機能しなかったケースだけでなく、柱や天井が壊れたり、スプリンクラーで水浸しになったりして、普通の避難所としても使えなくなった。稲岡健太郎町長は昨年6月、町議会で「耐震強化を含め、ゼロベースの見直しが必要だ。12施設で足りるのか、国とも協議したい」と表明した。
◆国は腰重く
衝撃は全国に広がる。東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発がある柏崎市は、スプリンクラーの誤作動や窓ガラスの破損も対策が必要と指摘。鹿児島県薩摩川内市は設置から10年以上の施設もあるとし、老朽化を意識する。
しかし国の腰は重い。原子力規制委員会は原子力災害対策指針の改正へ議論を続けているが、複合災害対応は課題として積み残されたまま。原子力防災を担う内開府は、施設が被災すれば要配慮者は近隣の施設に移すとするが、防護施設でもある志賀町立富来病院の担当者は「道路の被害が甚大で現実的ではなかった」と振り返る。
福島県立医大の坪倉正治主任教授(放射線被ばく)は、損傷が軽微な場合は被ばくを防げるケースがあると説明。「施設の運用は現場任せの状態。基準を作るなど、国と電力会社が不安を解消するべきだ」と指摘する。