2025年4月3日木曜日

『原子力深考 絡み合う思惑』 上・中・下(新潟日報)

 柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問うため、市民団体が実現を目指す県民投票について、花角英世知事は2日の定例記者会見で、「判断に悩んでいる県民もいる。考えていることを調べるにはマルかバツかの投票では難しい」とし、賛成、反対の二者択一で意思を示す方法に懐疑的な見方を示したうえで、条例案に付ける意見の内容については「検討中」としました。知事が県民投票の在り方について公式の場で発言するのは初めてです。

 新潟日報が3月31日~4月2日の3日間、「原子力深考 絡み合う思惑」(上・中・下)という記事を連載しました。再稼働問題について全般的に論じたものですが、県民投票を巡っての知事や県議会の意向などについても、(記者の想定も含めて)記されているので紹介します。
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柏崎刈羽原発巡る県民投票…花角英世知事「マルかバツかの投票では難しい」二者択一に懐疑的な見方
                             新潟日報 2025/4/3
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問うため、市民団体が実現を目指す県民投票について、花角英世知事は2日の定例記者会見で、県民の意見を聞く方法として「判断に悩んでいる県民もいる。考えていることを調べるにはマルかバツかの投票では難しい。そこは考えどころ」とし、賛成、反対の二者択一で意思を示す方法に懐疑的な見方を示した。県民投票の在り方について公式の場で発言するのは初めて。ただ、知事が条例案に付ける意見の内容については「検討中」とした。

県民投票条例制定を審議する新潟県議会臨時会、4月16日から3日間 「県民投票で決める会」が事と面会、条例案賛成の意見を付記するよう要望
・市民団体の条例案では、柏崎刈羽原発の再稼働に賛成、反対のいずれかを選んで投票する方式を盛り込んでいる。市民団体は...

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原子力深考 絡み合う思惑 上
柏崎再稼働「読後破棄」の青写真 県会の4月採択「幻」に
                         新潟日報 2025年3月31日
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を巡って、複数の本県関係者は今年に入り、政府筋からある青写真を示された。紙には「読後破棄」の文字。政府が目指す今夏の7号機再稼働に向けた工程表が記されていた。
 関係者によると、政府が照準を定めたのは、4月の県議会臨時会。市民団体が再稼働の是非を問う県民投票条例制定を直接請求したことで招集される機会だ。
 県民投票条例案の審議に加え、経済団体が柏崎刈羽原発の再稼働を求める請願を提出する。これを県議が採択することで、花角英世知事の決断を後押しして同意を得る-。そんなシナリオが描かれていた
 請願提出者は経団連や東京商工会議所などとする案が浮上していたという。電力消費地である東京の経済界が県議会に再稼働を求める構図だ。これに符合するように、昨秋には経団連の十倉雅和会長が柏崎刈羽原発を訪れ、早期の再稼働への期待感を表明していた。
 柏崎刈羽原発の再稼働を巡っては、立地する柏崎市と刈羽村がおおむね同意する意向を示している。焦点となるのは花角知事の意向だ。事態を動かすため、県や県議会に働きかけを強める環で、政府がシナリオを示したとみられる。
 しかし、思惑通りには進まなかった。県議会最大会派の自民党県議団には早期再稼働に慎重な意見も多く、夏に控える参院選への影響を懸念する向きもある。
「最初から無理筋なのは向こうも分かっていた」と自民関係者。結局、政府が描いた青写真は「夢のスケジュール」のまま終わったという。
   ×   ×
 地震による被災、福島の事故、絶えぬ不祥事-。柏崎刈羽原発1号機の運転開始から40年がたとうとしているが、この間、原発の存在意義や信頼感は変容している。今あらためて原発について深く考える新企画
 「新潟・原子力深考」。初回シリーズは、再稼働問題を巡る水面下の攻防から。

「短期間でも」焦る政府 自民慎重 夏再稼働難しく
 政府は昨年3月、県や柏市、刈羽村に対し、東京力柏崎刈羽原発の再稼働に同意するよう求めた。東は7号機の原子炉に核燃料を装填し、同6月には技的に再稼働できる状況が整った
 この間、霞が関や永田町ではいくつものプランが浮んでは消えていった。
 最初は昨年の6月定例、難しければ9月定例会、れも駄目なら12月定例会ー。年に4回ある県議会の定例会ごとに、再稼働の同意を得る構想がささやかれてきた。
 そうした中で示された、経済団体が今年4月の臨時会に請願を提出するシナリオは「これまで以上に詳細だった」(自民関係者)という。

■ラストチャンス
 政府や東電が夏までに地元同意を得ようと急ぐのは、7号機が10月中旬以降に動かせなくなるからだ。
 2月下旬、東電は7号機のテロ対策施設の完成が従来の今年3月から4年以上先の2029年8に遅れると公表した。設置期限の今年10月13日を過ぎると再稼働はできなくなる。今夏を「ラストチャンス」と位置付け、短期開でも稼働させたいとの焦りがにじむ。
 異例のシナリオが浮上した背景には、夏の参院選もあるとみられる。
 参院選は7月3日公示、20日投開票の日程が有力視される。これに対し、県議会の次の定例会である6月定例会は、7月7日が最終日となるスケジューールが濃厚となっている。
 つまり、6月定例会まで待っていると参院選に日程が一部重なり、与党自民党にとって不利になりかねないとの見立てだ。政府関係者の人は、電力需要が高まる夏までに再稼働させるには「参院選より前に決着させることが必要だ。そのためには臨時会で勝負する」と解説してみせた。

自民慎重 夏再稼働難しく

■「絵に描いた餅」
 臨時会シナリオは、政府からごく限られた自民関係者にされたとみられる。
「こんなの無理だ」。本県のある自民関係者は、内容を見てそう感じたという。自民県連幹部の人は、シナリオの存在を「記憶にない」とはらかしつつ、「そんなものは絵に描いた餅」と切り捨てた。県議会最大会派の自民県議団の中では早期の再稼働に慎重な県議もおり、一枚岩では決してない
 14日、県議会連合委員会に参考人として出席した経済産業省資源エネルギー庁の村瀬佳史長官らは、県議の質問に対し、従来通りの説明に終始した。昨年夏に自民県連が政府に要望した「立地地域への経済的メリット」などについても明確な回答はなかった。
 再稼働を急ぐ政府を向こうに、自民のベテラン県議は「参院選までは休戦だ」とけん制する。
 一方、花角英世知事は、再稼働の是非について「県民の意見を聞き、判断・結論を示した上で県民の意思を確認する」としてきた。県民の意思を確認する手法については「信を問う方法が最も明確で重い」と繰り返し、再稼働問題を知事選で決着させる可能性もにじませている。
 臨時会のシナリオを調整してきた政府関係者はこう漏らす。「再稼働のスケジュールを考える上で、最大のファクターである知事の意向が分からないんだ」


原子力深考 絡み合う思惑 中
再稼働「県議会で」 東電、経済団体が援護射撃
                          新潟日報 2025年4月1日
政府のお願い
「エネ庁はとにかく早く県議会で決めてくれと思っている」
 経済産業省資源エネルギー庁との間で調整役を担った自民関係者は、実感を込めてそう語る。
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題は地元同意が焦点となっているが、その鍵を握る花角英世知事は、慎重に事態を見極める姿勢を崩していない。焦りを募らせたエネ庁が働きかけを強めたのが、県議会最大会派の自民県議団だった。
 今年1月、自民のベテラン県議は、エネ庁幹部らと地元で酒席を囲んだ。この場でエネ庁側は、あるお願いを切り出したという。
「再稼働是非の判断は、県議会に任せる流れをつくってもらえないでしょうか」
 ベテラン県議は、再稼働を急く国側をけん制しつつ、「県議は県民の代表だ。まずは県議会でしっかり議論する」と応答。県議会での議論自体は否定しなかったという。

■道 筋
 3月14日。その県議会では、エネ庁の村瀬佳史長官はじめ、国の関係機関が出席して原発再稼働問題を議論する連合委員会が開かれた。形式上は県議会が長官らを参考人として招いた格援護射撃好だが、実際はエネ庁側の強い要請によるものだ。
 関係者によると、エネ庁は昨年秋頃から「県議会で説明する場を設けてほしい」と打診していた。東電福島第1原発事故後に再稼働した他県の原発の先例にならい、県議会で再稼働の機運を高めて地元同意への道筋を付ける狙いが透け
た。
 これに対し、自民県議団では、避難道路の整備方針など議論の材料がそろっておらず、「まだ早い」と首を縦に振らずにいた
 ところが、年明け以降、にわかに公の場で県議会を意識した発言が出始めた。年始のあいさつで来県した東電の小早川智明社長が「県議会に議論していただくことも重要」と述べると、新潟商工会議所の福田勝之会頭も別の場で「県民の代表が集まる県議会で議論し、県民に発することが重要だ」と呼応した。
 3月の参考人招致は、こうした援護射撃にも押される形で実現した。

■不 満
 しかし、参考人招致では県議側の不満が渦巻いた県民の間で不安の声が多い避難対策や屋内退避の実効性などについて、国側は従来通りの説明に終始。元自民県連幹事長の柄沢正三県議が「人ごとだ」「答弁になっていない」とヤジを飛ばした。
 終了後、同じく元幹事長の小野峯生県議は「当面、再稼働は難しい」と突き放した。ある県連幹部は「参院選後の秋に仕切り直しだ」と再度の説明を求めた。
 32人を擁する大所帯の自民県議団の考えもまだら模様だ。再稼働に理解を示す議員もいれば、厳しい姿勢を崩さない議員もいる。
 若手議員の1人は「国策の原発再稼働について、なぜ県議会に責任を押しつけようとするのか」と拒否感を抱く。無理に決めようとすれば党派を割ることになりかねず、2年後の県議選に影響するとの声もある。
 野党会派も同様だ。国政野党系で9人が所属する第2会派の未来にいがたは、立憲民主、国民民主、社民の3党の党籍を持つ県議らが集まり再稼働への考えには温度差がある。大淵健代表は「再稼働については個々の判断。会派で決めるものではない」とする。
 県議会が今後、どう動くのかはまだ見えない。自民県連の岩村良一幹事長は現状をこう表現した。「再稼働の議論を深めてはいるけど、深まっていない」


原子力深考 絡み合う思惑 下
揃う材料 変わる局面 知事「存在懸け」覚悟にじむ
                          新潟日報 2025年4月2日
信を問う
 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非について、花角英世知事は自らの結論を示した上で、県民の意思を確認するとしてきた。その手法を問われると、決まってこう笞えてきた。
「信を問う方法が最も明確で重い」
 ただ、「信を問う」が何を指すのか、核心までは過去一度も踏み込んでいない。記者会見では「決めているものはないが、字義的には存在を懸けるというニュアンスになる」と説明。進退を想起させる言葉を用いて覚悟を示してきた。
「自らの進退と原発をリンクさせる発言はとにかく控えてください」。自民党関係者の人は、かつて開かれた同党国会議員や県議との会合で花角知事にくぎを刺したと明かす。再稼働問題を争点に知事選をすれば、厳しい戦いが予想されると踏んでいるためだ。
 これに対し、花角知事は「慎重には言います。ただ、もう記者会見で言っちやっている」と答え、再稼働問題に自ら決着を付ける意思をにじませたという。

■要 望
 花角知事が置かれている状況を象徴する出来事が最近あった。
 3月28日、花角知事は主張が相反する2団体からの訪問を相次いで受け、それぞれの要望に耳を傾けた。県民投票条例の制定を直接請求した市民団体と、県議会による再稼働判断を求める柏崎刈羽地域の経済団体だ。神妙な面持ちで要望を聞き終わると、いずれの団体にも「私なりの考えをまとめたい」と短く笞えた。
 県議会は16日から3日間の日程で県民投票条例案を審議する臨時会を開く。条例案の成否は不透明だが、仮に否決されれば、知事選以外で「信を問う」選択肢が一つ減ることになる。自民県連幹部は「知事にばかり責任を取らせるわけにはいかない。議会が動かないといけない時期がいずれ来る」と、その先の対応に思いを巡らせる。

■環 境
 これまで「再稼働の議論を深め、県民の受け止めを見極める」としてきた花角知事だが、判断に向けた環境は徐々に整いつつある。
 柏崎刈羽原発の安全性を確認してきた県技術委員会は2月、知事に報告書を提出した。3月下旬には、原子力規制委員会の検討チームが屋内退避の運用見直しに関する最終報告書をまとめている。いずれも花角知事が議論の材料として例示してきたものだ。
 県幹部は「判断する時期は着実に近づいているとは思う。材料がそろってしまえばえば、いつまでもというわけにはいかない」と語る。
 一方で、現段階では明確になっていないが、立地地域への経済メリットもポイントの一つだ。花角知事は周囲に、「県にとって何にもプラスにならないのに再稼働は受けられない。そんなにお人よしではない」とも語っている。
 花角知事の2期目の任期満了は来年6月。自民県議団の中には「任期満了に伴う知事選が『信を問う』機会になる」(ベテラン県議)との見方がある。一部には、今夏の参院選と同時に花角知事が出直し選挙に臨むとの臆測もあるが、複数の県幹部は「今の状況では難しいだろう」とみている。
 2012年3月に柏崎刈羽原発が全基停止してから13年がたった。政府や東電は「悲願」の再稼働に向けて動きを強めている。地元同意の行方はなお見通せないが、一つ、またーつと議論の材料が示される中、花角知事自身の判断が問われる局面へと向かいつつあ
る。
          (この連載は報道部・遠藤寛幸が担当しました)