2023年7月29日土曜日

福島第1原発「処理水放出」 政治家も官僚も東電も命懸けで責任を取るべきではないか(日刊ゲンダイ) 

「永田町の裏を読む」のコーナーで高野孟氏が、22日の記事に対して数人の読者からの質問に答える形で掲題の記事を出しました。
  元記事
 ⇒(7月22日)政府も国民も福島原発「処理水放出」問題をあまりに他人事と捉えていないか

 若干補足すると、ベータ崩壊するトリチウムの放射能レベルは低いのでそれによる被害はゼロに近いと言えますが、海中の生物に取り込まれたトリチウムが人間に摂取されると、まずDNAに取り込まれやがてDNAが破壊される危険性があります。
 またALPSによる放射性物質能の除去は吸着作用を利用しているのでその除去率は決して高くなく、トリチウム以外でも12種類については殆ど除去されないと見られています。
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 いずれにしても高野氏が、日本は当初から海洋放出を決めてそれ以外の検討は全くして来なかったことが今日の事態を引き起こしていると指摘している点は極めて重要です。これについては原子力規制委に主要な責任があります。
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永田町の裏を読む 高野孟
福島第1原発「処理水放出」 政治家も官僚も東電も命懸けで責任を取るべきではないか 
                      高野孟 日刊ゲンダイ 2023/07/26
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 先週の本欄で、福島第1原発のトリチウム汚染水を漁民の納得を得ずして海に放出するなど「人間のすることではない」と述べたところ、筆者の知人を含む数人の読者からメールがあり、「トリチウムは国・東電側が言うほど安全無害なのか」「本当に海洋放出以外の選択肢はないのか」などの問いが寄せられた。
 トリチウムは、それだけ純粋に取り出せば理論的には確かに無害なのだが、現実の環境下では例えば海に放出された分が海洋生物の生態系を通じて蓄積され体内被曝を起こすことなど絶対にないとは誰も言い切れないのではないか。しかも、ALPS(多核種除去装置)で63種の放射性物質のうちトリチウム以外の62種はすべて取り除かれることになっているが、それも理論的にはそうだというだけで、2018年8月の共同通信記事が明らかにしたように、実際には炭素14、ヨウ素129、ルテニウム106などが除去できていなかったりする。こういうふうだから、東電の言うことなど誰も信用しないのである。

 海洋放出以外の方法は、実はいくらでもある。トリチウムを除去する技術があり米国では実用化されているらしいが、日本でも近畿大学原子力研究所と大阪の東洋アルミなどのチームによる多孔質フィルター装置をはじめいくつもの実験がある。しかし東電は、ああまでして「トリチウムは安全」と言い張っているのに今更それを除去する装置に投資をするわけにはいかないので、選択肢から外している。
 福島の地元や市民団体の多数意見は「陸上保管」で、これは今のタンク地帯の外側や福島第2の敷地内外などに敷地を確保して、1基10万立方メートル程度の巨大タンクを多数建設して汚染水を100年とかの超長期保管するか、あるいはモルタルで固化して地下処分するなどで、これなら二度と漁民らを脅かすことはないし、近隣諸国の懸念を払拭することもできる。
 それでもどうしても海洋放出したいのなら、首相官邸と経産省と東電本社ビルの上水道に活用して、余った分は東京湾に放出したらどうか。まあ、それは冗談だが、政治家も官僚も経営者も、口先ばかりでなく、自分たちのなすことに体を張って命懸けで責任を取らなければいけないのではないか。

高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。