原発事故時の「屋内退避」問題について、読売新聞と静岡新聞が記事を出しましたので紹介します。
読売新聞は、基本的な事項について一問一答で記述してあります。
静岡新聞は新潟日報と同様に具体的な問題点についてかなり的確に捉えています。それに対して花角知事は「屋内退避」については先般の内閣府の説明で相当進展したという捉え方をしていますがとても実態に即しているとは思えません。
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原子力災害が発生した際の「屋内退避」とは…開始から3日後めどに継続判断
読売新聞 2025/5/12
【図表】一目でわかる屋内退避の流れ
原子力規制委員会の検討チームが3月、原子力災害が起きた際の「屋内退避」の運用についての報告書をまとめました。どんな内容なのでしょうか。調べてみました。
Q・そもそも屋内退避って何?
原子力発電所で放射性物質が放出される恐れがあるなどの「全面緊急事態」という大きな事故が起きた際に、原発からの距離が5~30キロ圏内の緊急時防護措置準備区域(UPZ)の住民は、遠方への避難はせず、自宅や公共施設などの屋内にとどまることになっていることを指します。2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえ、12年に国が定めた「原子力災害対策指針」で打ち出されました。この指針は、原発の立地・周辺自治体の災害対策の基本となっています。
Q・原発で事故が起きた場合、早く遠くへ逃げた方が安全じゃないの?
福島第一原発事故では、避難先の受け入れ態勢が整っていない段階で高齢者や傷病者が避難したため、避難自体が負担となり、災害関連死にいたった人が少なくありませんでした。しかし、放射線に 被曝ひばく したことで急性の健康被害が出たという報告はなく、避難する負担の方が生命に直接関わる重大リスクと判断されました。
そのため指針では、原発から5キロ圏内の予防的防護措置準備区域(PAZ)の住民は直ちに避難する一方、UPZの住民は屋内退避した上で、周辺の放射線量の状況を見て、実際に避難するかどうか判断することにしています。
Q・今回、検討チームでは何を話し合ったの?
屋内退避を行う期間や、解除要件についてが議論されました。指針を基に地域の防災計画を立てる自治体から、これらが明確になっていないと問題提起されたのがきっかけです。また、自然災害との複合災害の際にはどうするかということも考慮し、検討チームで考え方をまとめることになりました。
Q・どんな内容がまとまったの?
屋内退避の期間については、退避開始から3日後を最初の目安に、屋内退避が継続できるかを判断する方針が示されました。事故の際には原子炉の状況の確認に数日かかると見込まれることや、災害対策基本法に基づき策定された防災基本計画では自治体に対し、最低3日分の水や食料などの備蓄を住民に周知するよう定められていることなどが理由です。
Q・どうなれば屋内退避は解除されるの?
解除の要件は、原子炉の冷却機能が維持され、温度や圧力が安定または低下傾向にあることや、放射性物質を含んだ空気の一団(プルーム)が滞留していないことなどです。そうした状態が確認できなければ継続されることになります。
ただ、生活必需品やライフラインの状況など、屋内退避生活の維持が可能かどうかも判断基準となります。生活の維持が困難な状況になれば、避難に切り替えることが明記されました。
Q・複合災害が起きた場合にはどうなるの?
報告書では、まずは人命の安全を第一に、自然災害からの避難行動をとり、安全が確保された後、原子力災害に対する避難を行うことを基本としました。元々指針にも書かれており、変更は必要ないというのが検討チームの結論です。
Q・今回の報告書を受けて、生活に影響はあるの?
報告書を受け、今年秋頃にも指針を改正する方針を決めました。原子力規制委員会は、原発の立地・周辺自治体の地域防災計画は改定する必要はないという考え方を示していますが、自治体関係者はどう指針が改正されるか注目しています。
例えば現在の福井県敦賀市の計画では、3日間分の水や食料などの備蓄について、1日分は市が備蓄するものの、1日分は市民が自ら備蓄し、残り1日分は市場などから調達することとしています。市の担当者は「指針の改正を見極めた上で、必要があれば防災計画の改定を検討するかもしれない」としています。(高山智仁)
浜岡原発31キロ圏の9市町「屋内退避に課題」 UPZ圏、要配慮者の避難困難 放射線防護対策の必要性高く
静岡新聞 2025/5/15
原子力災害時、中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)の緊急防護措置区域(UPZ、5~31キロ圏内)の全住民に即時避難はせず屋内にとどまることを求める「屋内退避」。被ばくの低減に有効とされるが、能登半島地震では住宅の倒壊が相次ぎ、複合災害での屋内退避の実効性に課題を残した。原子力規制委員会は屋内退避の運用に関する報告書を3月にまとめたが、東日本大震災では高齢者施設などの避難に混乱があっただけに、UPZ圏の市町では要配慮者の対策への懸念は根強い。放射線防護対策について国の補助対象拡充を求める市町も多い。
重大事故時、原発から半径5キロの予防的防護措置区域(PAZ)圏内では、避難が難しい要配慮者を除く住民は即時避難するが、UPZの全住民は原則として自宅などで屋内退避する。東京電力福島第1原発事故で、避難を強いられた高齢者らの災害関連死が多く発生したことを教訓とした。
PAZとUPZを抱える牧之原市。PAZ圏の相良原子力防災センターは放射性物質を除去し、建物内の気圧を高める陽圧化装置や非常用電源を備える。要配慮者らの屋内退避先となる。6億円を投じて2021年に完成。全額を国の補助でまかなった。
Q 複合災害での屋内退避に課題はあるか。具体的な課題や国などへの要望は
一方で、同市のUPZ圏には放射線防護対策をした施設はない。「原発に近いPAZが優先されるのはやむを得ないが、屋内退避が原則のUPZでも線量が高ければ避難が必要になる。その場合でも入院患者や要配慮者はすぐには避難させられず、屋内退避が続くことになる」。市危機管理課の吉添所課長はUPZ圏でも医療機関などの防護化の必要性を強調する。ただ、事業費を踏まえると、市単独では現実的ではない。
静岡新聞社が浜岡原発周辺の首長に実施したアンケートでは、UPZ圏の9市町が複合災害での屋内退避に課題があると回答。「要配慮者のための放射線防護施設が必要」(藤枝、袋井)、「10キロ圏外も防護対策の補助を」(菊川、島田など)との意見が目立つ。掛川市は「家屋倒壊などにより自宅で退避できない人が多くなると、退避先が不足する可能性がある」と指摘した。退避が長期化した場合の備蓄、物資の確保や要配慮者への支援継続を懸念する声もあった。
これまで屋内退避の運用は原子力災害対策指針で明確にされていなかった。規制委は、解除の判断を退避開始から3日後とするなどの整理を行い、今後指針に反映させる。退避を継続する場合も、避難に切り替わったとしても要配慮者対応をはじめとする課題は残る。担当者は「残された課題は関係省庁と連携して検討を続ける」とした。