2024年5月11日土曜日

11- 【霞む最終処分】(35)~(38)

 福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズのバックナンバーを4編ずつ掲載して行きます。
 今回は(35)~(38)を紹介します。
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【霞む最終処分】(31)第5 福島県外の除染土壌 宮城・丸森㊤ 隣県なのに対応に差 町外搬出 訴え根強く
                           福島民報 2024/04/02
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【霞む最終処分】(35)第6部 リーダーシップ 政府㊦ 政治責任に危うさも 処理水の「強引さ」懸念
                             福島民報 2024/04/24
 3月19日に閣議決定された東日本大震災からの復興の基本方針の改定。政府は東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の福島県外最終処分に向けた除染土壌の再生利用について「政府一体となった体制整備を進め、具体化を推進する」と明記し、政治主導の姿勢を打ち出した。
 こうした判断の背景には、除染関連事業を担当する環境省への政府内の不満がある。関係者からは「(県外最終処分、再生利用という)日本全体の課題に臨む体制が、環境省だけというのは荷が重過ぎる」という声が上がる。
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 政府の基本方針の改定に影響を与えた自民、公明両党による復興加速化のための第12次提言は除染土壌の再生利用先を確保するに当たり、福島第1原発の処理水海洋放出を決めた際の経験を踏まえるように進言している。
 政府は2021(令和3)年4月の海洋放出方針や昨年8月の放出開始日など大きな政策決定に際し、関係閣僚会議を開いてきた。議長は官房長官だが、重要な局面では原子力災害対策本部長を務める首相が直接、決断を下してきた。
 提言取りまとめを主導した自民党東日本大震災復興加速化本部長の根本匠(衆院本県2区)はこうした対応を念頭に、「政府一体」との文言を提言に盛り込んだと明かす。「復興については首相が先頭に立つ。処理水の時も最後は首相が決断した」と意義を強調する。除染廃棄物の県外最終処分の問題にも政府が一丸となって対応し、日本全体の問題として臨む姿勢を明確にする狙いがあった。
 処理水の海洋放出の事例が示すように、政治主導は省庁の垣根を取り除き、トップダウンで難題を進展させるやり方だ。一方、霞が関には「権力者が国民の声を無視して物事を進めかねない―との危うさもはらんでいる」と見る向きもある。実際、処理水の海洋放出に至るまでの政府の決定過程を「強引に進められた」と受け止めた県民は少なくない。政府への批判は今も根強く残る。
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 環境省は2024年度、国際原子力機関(IAEA)による安全性評価を踏まえ、除染土壌の再生利用や最終処分のための基準を策定し、理解醸成を図る活動を本格化させる方針だ。処理水の海洋放出に先立っても、IAEAから「国際的な安全基準に合致する」という「お墨付き」を得たことが理解浸透への助けになったとみている。
 ただ、政府は処理水を巡っては「結論ありき」のみならず、「その場しのぎ」の進め方を繰り返し、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とした「約束」の解釈をすり替えてまで海洋放出に踏み切った。2045年3月までの除染土壌の県外最終処分の完了は、法律に明記された県民との「約束」だ。県民からは処理水を巡る対応のように、ないがしろにされないかといぶかしむ声も出ている。
 復興事業に長く携わってきた政府関係者の一人は「除染土壌の県外最終処分には処分場所の選定が必要になる。処理水放出の教訓を踏まえ、国民の声に真摯(しんし)に耳を傾けなければ、物事は進められない」と自らを戒めた。(敬称略)


霞む最終処分(36 第6部 リーダーシップ 環境省 「提言」重さに危機感 年度内の基準作り急ぐ
                            福島民報 2024/04/26
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の福島県外最終処分に向け、政治主導の対応を政府に求めた自民、公明両党の復興加速化のための第12次提言。最終処分実現に欠かせない除染土壌の再生利用を「個々の省庁で前に進めることは困難」と言い切った。名指しは避けてはいるが、所管の環境省の遂行能力への疑念がにじむ。

 政府は3月19日、提言の趣旨を反映させる形で東日本大震災からの復興の基本方針を改定した。環境省環境再生事業担当参事官の中野哲哉は「与党提言の指摘は重い」と表情をこわばらせる。問題への対応を強化するよう迫られた省内には危機感が漂う。











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 2024(令和6)年度は県外最終処分を前進させる上で一つの「節目」となる。環境省は、年度内に除染土壌を再生利用する際や、除染廃棄物を最終処分する場合の基準を作る。国際原子力機関(IAEA)が今夏にも取りまとめる再生利用などの安全性の検証結果を踏まえて、国際的な「お墨付き」を得た基準として国民の理解醸成に生かす考えだ。
 現在、環境省は有識者らによる二つのワーキンググループで「除染土壌の再生利用の基準」「減容化技術を含めた最終処分の基準」をそれぞれ議論している。県外最終処分のシナリオをはじめ、具体的な将来像に関する検討結果が年内にも示される見通しだ。
 政府一体の体制を整備しようにも、前提となる再生利用や最終処分の明確な基準がなければ話は前に進まない。担当者は「今は足元を固めることに全力を挙げている」と強調する。
 基準に基づき、最終処分する除染廃棄物の総量が定まれば、必要となる処分場の面積や構造を具体的に試算できる。自治体から受け入れへの理解を得るには再生利用を進め、可能な限り最終処分場の規模を小さく、最終処分量を少なくすることが鍵となる。
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 政府は環境省をはじめ関係省庁の連携を強める体制を整備し、除染土壌の再生利用や県外最終処分を実現するために2025年度から、理解醸成などの取り組みを本格化させる方針だ。
 法律で定められた県外最終処分完了の期限は2045年3月。与党提言は「残された時間は長くはない」とした上で「最終処分地の選定などの具体的な方針・工程を速やかに明示し、県民、国民の目に見える形で取り組みを進めることが重要だ」と指摘する。
 これまでの環境省の対応を見てきた与党の重鎮議員は「時が止まっている。もっと強力に進めなければだめだ」ともどかしさを隠さない。中野は「時間はあっという間に過ぎていく。政府の一員として2045年に県外最終処分を終えるとの約束を果たすため、着実に取り組みを進めるしかない」と自らを奮い立たせた。(敬称略)


【霞む最終処分】(37)第6部 リーダーシップ 福島県 国任せ問われる姿勢 現実的な打開策検討を
                            福島民報 2024/04/27
 福島県が「苦渋の決断」として、東京電力福島第1原発事故に伴う中間貯蔵施設の建設を容認したのは2014(平成26)年8月だ。9年余りが過ぎた2023(令和5)年10月。福島市で講演した知事・内堀雅雄は法律で定められた除染廃棄物の最終処分期限を念頭に「2045年まで、たった22年だ」と踏み込んだ表現を口にし、周囲を驚かせた。
 内堀が公の場で最終処分までに残された年数を明示し、危機感をあらわにしたのはこの時が初めてだった。今年3月に開かれた政府の復興推進委員会でも「あと21年しかない」と繰り返した。最終処分を実現するまでのプロセスが見えないまま、時間だけが過ぎていく現実と、環境省へのいら立ちとも取れる。
 環境省福島地方環境事務所次長の成田浩司は「法定期限は常に意識している」とした上で、「県民の不安を代弁した大変重い言葉だ」と受け止める。
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 環境省の中には県外最終処分への〝カウントダウン〟に言及した「内堀発言」を「(懸案だった)福島第1原発処理水の海洋放出が始まり、『次は除染土壌の処分の実現だぞ』という強いメッセージを発した」と解釈する向きもある。
 環境省は2016年4月、県外最終処分に向けた方針などを盛り込んだ「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」をまとめた。工程表も併せて示したが、肝心の具体的な取り組みのスケジュールは2024年度末までしか記載されていない。
 県は政府に対し、2025年度以降の明確な方針と工程を早期に示すように求めている。今年2月の福島復興再生協議会の席上、環境相の伊藤信太郎は「最終処分に向け、2025年度以降の進め方を示していく」と述べたが、どの程度まで具体化されるかは未知数だ。
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 環境省、県とも「最終処分は国の責務」との認識は共通している。しかし、浜通りのある市町村の幹部は「言葉通りの国任せ。県の姿が見えない」と除染廃棄物の最終処分に対する県の関わり方への不満を漏らす。環境省内にも「県の存在感がない」と冷ややかな見方がある。問題が停滞する中、県の姿勢が問われ始めている。
 こうした声に対し、県中間貯蔵・除染対策課長の加藤宏明は国の責任で県外最終処分を行うのが大前提とした上で「県としても事あるごとに最終処分など復興の課題を訴え、国と協議している」と強調。今年度内に示されるはずの新たな工程表を踏まえ、実現に向けた要望を強める構えだ。
 ただ、県内のある自治体幹部は「知事を先頭に国にハッパをかけるのは当然」としながらも、「あれだけの量の除染土を運び出すためには、国だけに委ねず、県も現実的な打開策を考える必要があるのでは」と疑問を呈す。県内では中間貯蔵施設への搬入が進み、除染廃棄物を日常的に目にする機会は以前に比べて減った。県民からはその分、最終処分問題への意識が薄れつつあるとの指摘もある。他県とのつながりを生かし除染土壌の再生利用を促すなど、地元が本気を見せなければ国は動かないとの声は少なくない。(敬称略)


【霞む最終処分】(38)第6部 リーダーシップ 識者 国民との対話が重要 民意に沿った動機づけを
                           福島民報 2024/04/28
 東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の福島県外最終処分は、法定期限の2045年3月まで21年を切った。政府は除染で出た土壌を公共工事などに再生利用し、処分量を減らしたい考えだ。ただ、関東地方で計画された実証事業は住民らの反発を受けて実施には至っていない。環境省は対話フォーラムや中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)の現地見学会といった理解醸成の取り組みを続けているが、国民の関心は高まっていない。
 除染廃棄物の問題に詳しい北海道大大学院工学研究院教授の佐藤努は「実証事業の実施を前提として話を進めるやり方では、多くの国民が反発する。対話を通して議論を深めるべきだ」と述べ、政府と国民が膝詰めで語り合う場の必要性を指摘する。対話フォーラムで再生利用への関心や理解を深めた参加者との関係を一過性にしないよう「同じ地域で集会を継続して開くことも一つの方法だ」と提案する。
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 復興相の土屋品子は3月の衆院東日本大震災復興特別委員会で、除染土壌の再生利用を全国で効果的に進めるため、政府全体でインセンティブ(動機づけ)の導入を検討する考えを示した。佐藤は「再生利用を進める上で、何らかの動機づけが必要なことは政治家や専門家の共通認識だ」と見解を述べる。
 国から地方へのインセンティブは、自治体に廃棄物処理施設などいわゆる「迷惑施設」を受け入れてもらう代わりに交付金などを優遇的に拠出するのが一般的だ。ただ、「見返り」を得る自治体は新たな財源を確保できる一方、世間から「金になびいた」などと取られかねない側面がある。
 佐藤は「金を出す手法だけでは理解を得にくくなっている。政府は国民と対話を重ねて多様な意見に触れ、さまざまな選択肢を示すべきだ」とし、交付金以外の動機づけの例にインフラ整備を挙げる。例えば「ここに道路があれば、地域が活性化する」といった住民の声を吸い上げ、建設資材の一部に除染土壌を用いる仕組みを整えれば、再生利用を進めながら住民の要望に応えられる。「人々の発想を重んじる姿勢が大切」と説明する。
 佐藤は温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」政策との組み合わせも、今後は十分、選択肢の一つとなり得るとみる。政府は2050年までの実現を見据え、二酸化炭素(CO2)排出量の削減効果をクレジット(排出権)として発行し、企業間で取引できるようにした。
 除染土壌の再生利用により、最終処分に向けた土壌の分別・焼却・処理などで発生するCO2の量を抑えられる。佐藤は再生利用を受け入れた自治体に、削減できたCO2に相当する排出権を与える仕組みを提案。「実現すれば、CO2を削減できない自治体は除染土壌を受け入れることで環境問題に貢献できる」と利点を示す。
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 環境省による再生利用の実証事業では、放射性物質の濃度が比較的低い除染土壌を芝生の造成などに使う。現地の空間放射線量、大気や浸透水に含まれる放射性物質濃度を測り、科学的な安全性を確かめる。
 佐藤は「除染土壌の安全性を示すために実証事業は欠かせない」と事業の意義を念押しし、都道府県や市区町村の長が担うべき役割の大きさを強調する。「住民が描く地域の未来図を自治体も共有すべきだ。首長には住民の声を集約し、国に伝えるリーダーシップを発揮してほしい」と訴えた。(敬称略)
 =第6部「リーダーシップ」は終わります=

 さとう・つとむ 新潟県糸魚川市出身。早稲田大大学院理工学研究科博士課程修了。日本原子力研究所研究員、金沢大理学部助教授などを歴任し、2011(平成23)年4月から現職。除染土壌の再生利用と最終処分に向けた環境省の「地域の社会的受容性の確保方策等検討ワーキンググループ」座長を務める。専門は環境鉱物学。59歳。