2024年5月1日水曜日

【霞む最終処分】(31)~(34)

 福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズのバックナンバーを4編ずつ掲載して行きます。
 今回は(31)~(34)を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【霞む最終処分】(31)第5 福島県外の除染土壌 宮城・丸森㊤ 隣県なのに対応に差 町外搬出 訴え根強く
                           福島民報 2024/04/02
 相馬、伊達、新地の福島県内3市町に面する宮城県丸森町は東京電力福島第1原発事故に伴い、町内全域での除染作業を余儀なくされた。発生した土壌と廃棄物は約8万立方メートルに上る。今も町内の仮置き場25カ所と、学校や公園の敷地19カ所に保管されたままだ。
 町中心部から車を10分ほど走らせた山間部にある上滝仮置き場。2021(令和3)年11月から昨年10月まで、環境省の実証事業が行われた。深さ約2メートルの2カ所の穴に遮水シートと汚染されていない土壌を敷き、除染土壌など約180立方メートルを詰めて覆土し、空間放射線量や浸透水の放射性セシウム濃度などを測定した。作業員の年間被ばく線量が1ミリシーベルトを下回るのかも調べた。環境省は「安全な埋め立て方法の有効性が確認できた」と評価している。
    ◇    ◇
 福島県内で生じた除染廃棄物は、中間貯蔵施設への搬入開始から30年以内の県外最終処分が法律に明記されている。これに対し、県外の除染土壌や廃棄物に関しては、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針で「発生量が比較的少なく、汚染度も比較的低いと見込まれるため、各都道府県の区域内で処分を進めることとする」とされている。ただ、どのような手法を用いるのかは原発事故発生から13年が経過した現在も示されていない。
 環境省は今年度にも除染土壌を埋め立て処分する際の具体的な基準を公表する方針だ。同省環境再生事業担当参事官室・参事官補佐の山口裕司は「丸森などでの実証結果を踏まえ、検討チームで議論を進めたい」と語る。
    ◇    ◇
 一方、町は除染土壌の取り扱いに関して「国と東電の責任で町外に持ち出してほしい」と訴える。福島県と同様に原発事故で被災したにもかかわらず、県が違うだけで対応に大きな差が生じている現状は受け入れがたいとの思いが根底にある。
 原発事故さえなければ発生しなかった廃棄物だとして、町外への運び出しを求める声は町民にも根強い。上滝行政区長の宍戸政秀は「外への搬出を前提に仮置き場の設置を受け入れた。町内での処分には反対だ」と言葉に力を込めた。
 丸森町は福島市と相馬市を結ぶ東北中央自動車道「相馬福島道路」の一部区間が通る。福島県内の除染で出た土壌を中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)まで運ぶルートにもなった。町総務課長補佐の石田真士は「町内を通るなら一緒に持って行ってほしかった」と本音をこぼした。(敬称略)


【霞む最終処分】(32)第5部 福島県外の除染土壌 宮城・丸森㊦ 25カ所仮置き場集約へ 「福島の行方」を注視
                            福島民報 2024/04/03
 宮城県丸森町長の保科郷雄は昨年12月、町内25カ所に点在する東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌と廃棄物の仮置き場を、将来的に1カ所に集約する方針を示した。町議会一般質問で町外搬出への姿勢を問われ、「民有地や学校などの保管分も含め、町長任期中(2027<令和9>年1月まで)に1カ所への集約を検討している」と表明した。
 町は除染作業と並行して2012(平成24)年度ごろから仮置き場を各地に整備してきた。だが、保管が長期化する中で、自然災害の際に土壌流出などが懸念されるとし、一元的な維持管理によって安全を確保する必要があると判断した。町の担当者は「将来的に町外に運び出す際も効率化が図れる」と集約の狙いを語る。
    ◇    ◇ 
 町はこれから議論を進める考えだが、集約先の選定は難航しそうだ。除染を始めた当初、仮置き場は町内に1カ所とする計画だったが、町民から「よその地区の土を持ち込まれたくない」との声が上がり、25カ所に散らした経緯がある。
 既存の仮置き場はいずれも容量が足りず、町内の全ての除染土壌などを運び込むのは不可能だ。町は新たな整備を模索するが、担当者は「どこに造るかが一番頭の痛いところだ」と悩みを打ち明ける。
 保科が示した方針に対し、町議からは「将来的に町外に搬出するためにも1カ所にまとめるべきだ」との肯定的な声が出ている一方、「大きな騒ぎになっていないのだから、現状のままでいいのではないか」との意見もある。町議会議長の佐藤吉市は「除染土壌の安全面に対し、町民はさまざまな思いを抱いている。100%の合意を得るのは難しいと思うが、町と連携して理解醸成に取り組む」と心境を語る。
    ◇    ◇
 環境省は除染土壌の再生利用を全国に広げるために茨城県と埼玉県、東京都で実証事業を計画しているが、地域住民の反発を受けて実施に至っていない。除染土壌の再生利用を進め、最終処分量を減らす努力が求められる。自民、公明の両党は3月6日、再生利用などの取り組みを政治主導で実現させるように促す内容を盛り込んだ第12次提言を首相・岸田文雄に申し入れた。
 佐藤には福島県内の中間貯蔵施設にとどまる除染土壌の対応を最優先すべきとの思いがある。「福島の筋道が立たなければ、丸森は何も進まない」とみている。除染土壌を巡る議論の先行きが見えない中、「国の責任で明確な処分の流れを示してほしい」と切実な思いを口にした。(敬称略)


【霞む最終処分】(33)第5部 福島県外の除染土壌 東北・関東に広く点在 処分基準早急に示せ
                            福島民報 2024/04/04
 東京電力福島第1原発事故で大気中に放出された放射性セシウムは福島県外にも広範囲に飛散した。福島県以外で除染を実施したのは岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉の7県。民家や学校、公園などの面的除染は2016(平成28)年度までに完了した。

 福島県外の除染により発生した土壌を保管しているのは2023(令和5)年3月末現在、7県の53市町村で、保管量は計33万198立方メートルに及ぶ。中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に一時保管している福島県内の除染土壌約1376万立方メートル(2024年2月末時点)の2・4%に過ぎないが、保管場所の数は2万8728カ所に上る。

 

 

保 管 方 法

保 管 量

 

 

福島県外

保管方法 2万8684カ所

31万1755m3

 

 

 

仮置き場    44カ所

1万8443m3

 

 

合  計

おおおお2万8728カ所

33万0198m3

 

 

福島県内

中間貯蔵施設に集約

1376万m3

 

   ※ 福島県外は岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉の7県
     福島県外は2023年3月末時点、福島県内は2024年2月末時点。
 保管場所のうち、約9割を占めるのは個人宅の敷地内などの民有地だ。1カ所当たりの保管量は1立方メートル未満が約4割、2立方メートル未満まで含めると約7割で、地下に少量を保管している場所が多い。環境省の担当者は「福島県内とは保管状況が異なる。仮置き場を設置できたのはごく少数で、ほとんどが現場から動かせないままだ」と説明する。
    ◇    ◇
 福島県外で出た除染土壌は除染が行われた各県で処理するように、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針で定められている。除染土壌を最終的に埋め立て処分する際も、市町村は国が策定する方法に従う必要があるが、肝心の処分の規則は定まっていない。
 環境省は県外で出た除染土壌の安全な処分方法や管理期間などの基準をつくるため、2017年9月に「除去土壌の処分に関する検討チーム」で議論を開始した。翌年には茨城県東海村と栃木県那須町で除染土壌を埋め立てる際の安全性を検証する実証事業を始めた。
 2021年12月からは宮城県丸森町で除染土壌から草木類を分別し、処分する場合の安全性の実証に取り組んだ。昨年11月までに3県の実証事業で結果が得られた。いずれも埋め立て作業や埋め立て後の管理期間を通し、除染土壌の飛散・流出、放射性セシウムの地下浸透などによる周辺環境への影響は見られなかったとしている。
 検討チームは次回以降の会合で、各実証事業の結果を踏まえた処分基準の策定に向けた詰めの議論に入る。
    ◇    ◇
 環境省は今年度中に県外にある除染土壌の処分基準を策定する方針だ。一方、福島県内の除染土壌の再生利用や、減容化技術を踏まえた最終処分の基準も年度内に決定する。同時並行で進めることでそれぞれの基準の整合性を図る。
 環境省は福島県内の除染土壌の再生利用や最終処分の基準をつくる上で国際原子力機関(IAEA)の評価結果を踏まえる予定だ。福島県外で保管されている除染土壌の放射性セシウム濃度は、再生利用計画の対象とされる1キロ当たり8千ベクレル以下が99・8%を占め、県内の除染土壌より濃度が低い傾向にある。このため、県外の除染土壌の処分基準の安全性も担保できると考えている。自民、公明両党が3月に首相・岸田文雄に申し入れた第12次提言にも、除染土壌の最終処分に向けた取り組みの強化が盛り込まれている。
 県外で除染土壌を保管している市町村からは処分基準の早期策定を求める声が上がる。環境省放射性物質汚染廃棄物対策室長の林誠は「処分基準がないために自治体に迷惑をかけ続けるわけにはいかない。策定作業を急ぎたい」と話す。(敬称略)
       =第5部「福島県外の除染土壌」は終わります=


【霞む最終処分】(34)第6部 リーダーシップ 政府㊤ 政治主導に方針転換 除染土再利用動き滞る
                            福島民報 2024/04/23
自民党東日本大震災復興加速化本部の総会。除染廃棄物の県外最終処分の対応強化を盛り込んだ第12次提言について議論した=2月28日
自民党東日本大震災復興加速化本部の総会。除染廃棄物の県外最終処分の対応強化を盛り込んだ第12次提言について議論した=2月28日
 「政府・与党が一体となって、政治主導で実現していくことが不可欠だ」。自民、公明両党の東日本大震災復興加速化本部が取りまとめ、3月6日に首相・岸田文雄に申し入れた復興加速化のための第12次提言は、東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た廃棄物の福島県外最終処分への対応の強化を求めた。提言の中で特に強調したのは最終処分量を減らすために欠かせない、除染土壌の再生利用を推し進める体制の整備を急ぐことだ。

 2012(平成24)年12月の政権交代以降、与党からの提言は、時々の政府の復興施策の根幹となってきた。自民党東日本大震災復興加速化本部長として、第12次提言の取りまとめを主導した根本匠(衆院福島県2区)は「提言に書くということは、役所の尻をたたくことになるんだ。政治がリーダーシップを発揮し、必ず再生利用を前に進める」と息巻く。
    ◇    ◇ 
 根本は昨年10月、前任の額賀福志郎の衆院議長就任に伴い、本部長を引き継いだ。最初の重要な任務が第12次提言の作成だった。
 年明けから精力的に動いた。復興庁や環境省など関係省庁の幹部らと週2回のペースで議論を重ねた。復興施策全般の課題を洗い出す中、特に気がかりだったのは除染土壌の県外最終処分に向けた動きが滞っている問題だ。ある「既視感」を覚えた。
 脳裏に浮かんだのは2012年12月に復興相に就いたころのことだ。県内の除染で出た除染土壌を集約・保管する中間貯蔵施設の建設が遅れていた状況と、最終処分の問題が重なった。当時の政府が中間貯蔵施設の整備を県に要請してから既に1年4カ月が経過していたが、建設地は定まらなかった。そこで、所管の環境省だけに任せるのではなく、復興施策の司令塔である復興庁も前面に出る対応を取った。政治主導によって難題を解決できたと実感した。
 除染廃棄物の県外最終処分は「2045年までに完了する」と法律で定められている。しかし、土壌の再生利用を実現するための県外での実証事業は、住民の反発を受けて頓挫したままだ。
    ◇    ◇ 
 第12次提言は結びで県外最終処分が完了するまでの法的期限に触れ、「残された時間は長くはない」とくぎを刺した。知事の内堀雅雄も昨年10月の講演で「たった22年しかない」との表現で時間的猶予のなさに言及した。与党と県の危機意識は一致している。
 提言から13日後の3月19日、政府は与党提言を反映させる形で、復興の基本方針の改定を閣議決定した。県外最終処分を政治主導で実現させる―。方向性が定まった。(敬称略)

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌の再生利用や廃棄物の県外最終処分を進めるため、政府・与党は「政治主導」の姿勢を鮮明にした。その狙いと、実現に向けて求められる取り組みを探る。