福島県に接する栃木県の日光市のワラビが汚染されていることが分かり、全市に出荷停止が掛かりました。同市ではワラビの他にもサンショウ、タケノコ、ゼンマイ、コシアブラといった山の幸が出荷制限を受けています。こうした野菜類の汚染は福島県に接していなくてもプルーム(放射能気流)が通って汚染された地域ではどこでも起きています。
問題は国・県は出荷制限を掛けるだけで、それらが国民の口に入ることを防止する(=回収したりそれらを公的な施設で保管したりの)手はずを具体的にとっていないということです。
東電の社広報部はメディアから問われれば「農業関係者など被害を受けた方々へは賠償に努める」とコメントしますが、具体的に進められているという話は聞きません。農産品が売れずにその分の賠償もなければ農家は生活ができません。密かに売りさばくしかなくなります。
現実に事故の年に出荷停止になった米は数十万トンあったはずですが、それらの米はいまどこにも存在していないということです。
そうした食物の汚染はこの先何十年続くか分かりません。
チェルノブイリの原発事故で汚染されたウクライナでは、30年近く経ったいまでもキノコ類の汚染レベルはキロ当たり200~400ベクレルといわれ、食品全体での汚染レベルは平均的にはキロあたり10ベクレル程度(日本の規制値の10分の1)らしいのですが、それでもいま子供たちを中心に多大で深刻な健康被害が起きています。※
※ 「ウクライナでの放射線被害は極めて深刻」(12年11月10日)
政権が変わっても政府の無策は依然として継続しています。
以下に東京新聞の記事を紹介します。
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山の幸 広範囲で出荷制限 福島原発事故 基準値超え続く
東京新聞 2013年4月29日
東京電力福島第一原発事故でまき散らされた放射性セシウムが、野生の山菜やキノコに深刻な影響を与えている。今春も、栃木県の一部でワラビやタラの芽、コシアブラの検査値が国の基準値を超え、新たに出荷制限された。山林の放射能汚染の除去には具体的な手だてはなく、事故の影響は数十年単位で続くと指摘されている。 (伊東治子)
福島県境に近い栃木県日光市の湯西川温泉。平家の落人伝説で知られる山深い集落に、旅館や民宿が並ぶ。この静かな集落に今月、嫌なニュースが飛び込んだ。同市南部のワラビから一キログラム当たり一〇〇ベクレルの基準値を超えるセシウムが検出され、国から同市全域に出荷制限がかかった。
市内とはいえ、三十キロ近くも離れた場所での検査値に、全市が揺さぶられる。「湯西川温泉のワラビから出たわけではないのに…」と不満が漏れた。
セシウム騒動は、事故後から続いている。春に芽吹くサンショウの若葉で作るつくだ煮は特産品で人気が高いが、昨春、市内で野生サンショウから基準値超えのセシウムが検出された。それ以来、出荷制限は解除されていない。
「今は地元産以外のサンショウが原料のつくだ煮を販売しているが、寂しいね」。地元の道の駅「湯西川」支配人、八木沢正弘さん(65)はつぶやいた。
同市はサンショウ以外にも、タケノコや野生のゼンマイ、コシアブラといった山の幸が出荷制限を受けている。
道の駅では事故前に年間一億七千万円あった売り上げが、一割以上も落ち込んだ。「山菜料理や山菜採りを目当てに訪れる観光客が減ったことも一因だろう」と言う。
林野庁によると、四月二十六日現在、東北や北関東を中心にゼンマイは十二市町、ワラビは十一市町、コシアブラは四十九市町村、野生キノコは九十三市町村で出荷が制限されている。
基準値を超えるセシウムが検出されるのは、山菜やキノコが自生する山林の除染が、農耕地と比べて遅れているという単純な理由だけではなさそうだ。
「山林にはもともとセシウムをため込みやすい性質があるようだ」と話すのは、福島復興支援本部環境動態・影響プロジェクトのリーダーを務める独立行政法人「放射線医学総合研究所」の吉田聡さん。
山林には、生き物に必要な栄養素を外に逃がさず、植物の根から幹、葉へと吸い上げ、落ち葉から再び根へと、効率的に循環させる生態系が出来上がっている。セシウムには栄養素のカリウムと似た性質があるため、この循環に取り込まれたと考えられるという。
落ち葉の除去で、ある程度の除染効果が見込めるが、吉田さんは「フィンランドの研究者に『落ち葉をはがすと生態系のバランスが崩れ、森に影響する』と忠告された。北欧と日本では山林の形態が違うが、対策は慎重に進める必要がある」と話す。
さらに、ワラビやゼンマイなどのシダ植物とキノコは、他の植物に比べてセシウムを多く取り込む傾向があることも分かっている。
吉田さんは「爆発事故が起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発周辺では、現在もキノコから高い濃度のセシウムが検出されている。福島の事故でも、影響が数十年続くことは覚悟しなければならない」と指摘する。
長期にわたって、貴重な山林資源の価値を失わせてしまった原発事故。東電はその責任をどう受け止めるのか。同社広報部は「農業関係者や広く社会の皆さまにご迷惑とご心配をおかけし、おわび申し上げる。被害を受けた方々の目線に立った親身親切な賠償に努める」とコメントした。