2013年4月2日火曜日

「逃げる手段がない」 原発事故 避難計画が立たない


3月末に原発事故の際の地域防災計画(原発から30キロ圏内の重点防災区域=UPZからの避難)を義務づけられた21道府県のうちの殆どが策定を終えましたが、果たして実効性のあるものなのでしょうか。 

1日付のしんぶん赤旗は、「原発事故避難計画 立ちすくむ100万人」のタイトルで、茨城県の東海第2原発からの避難計画の問題点について、避難用のバスが仮に1000台調達できた(その見通しはないということ)としてもそれで運べる人数は5万人に過ぎないので、要避難の100万人の殆どが「立ちすくむ」と報じています。災害の混雑時にバスでピストン輸送するのは無理という考えです。 

また3月22日付の東京新聞は、福井県高浜原発からの避難をテーマにして、京都府はバス600台を集めてピストン輸送することで10時間半で13万人全員の避難が完了するという計画を立てましたが、実際には600台のバスを集められる見通しはなく、それに従事する運転手を探すのは更に困難だと報じました。被曝を厭わずに運転をせよと命じることはできないからです。 

これらは避難計画の困難さの一端ですが、避難の課題を掘り下げて行けば一層困難が増大することでしょう。
机上でスッキリと計画が立てられても、実際にはその通り実行できないものですが、机上ですら計画出来ないものを実行できる筈もありません。

防災計画さえ立案出来ないのに原発の運転を認めてよい筈は無論ありません。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
真相・深層 原発事故避難計画 立ちすくむ100万人
    しんぶん赤旗 201341

 3月末、原発事故の際の地域防災計画を義務づけられた21道府県のうち、ほとんどが策定を終えました。原発事故が起こったとき、住民をどう避難させるのか。東京電力福島第1原発事故がうきぼりにしたのは避難の困難さでした。計画のいくつかを検証してみると ― 。
----------------------------------------
茨城・東海第2
 30キロ圏内に約100万人が住む、茨城県東海村の日本原子力発電東海第2原発。中枢機能が集中する県庁所在地の水戸市(人口27万人)もすっぽり入ります。これだけの住民をどうやって避難させるのか―。

バス1000台でも わずか5万人
 避難手段となるバスは何台集められるのか。県防災会議の一員でもある茨城県バス協会は、「実際に何台出せるかはわからない。各社に聞いてほしい」。
 30キロ圏内で運行する3社に聞いてみました。日立電鉄交通サービスは路線バスを約320台、関東鉄道は約150台保有。両社とも「その日の運行状況によるので実際に出せる台数はまったくわからない」としています。
 仮に他地域も含め1000台バスをかき集め、各50人乗りとしても、1度に運べるのは5万人で、100万人には程遠い。マイカー避難者による渋滞で、避難先との往復は難しい可能性があります。

 社会的弱者の避難はどうか。水戸市の城南病院(民医連加盟、113床)は、2011311日の大震災で水道が止まり、人工透析患者40人を転院させました。
 介護ワゴン車(10人乗り)1台を含む病院所有車45台では足りず、職員の私有車を含めて約10台で3日かけて患者を東京、埼玉、神奈川などの病院に避難させました。
 伊藤良徳事務長は、「患者全員となると、バスを出してもらわないといけません。常に治療が必要な人工呼吸器をつけた患者などには救急車が必要で、その確保も困難です」と語ります。

見えない方針 「無理がある」
 「避難計画づくりはこれからの課題」。県の原子力安全対策課の横山公亮課長補佐は、こう話します。県が325日に改定した地域防災計画は基本的な方針にすぎず、避難計画は市町村が作成し、県はそれを支援するとしています。

 その市町村は県の指示を待っている状態です。水戸市の担当者は、「水戸市だけが避難計画をつくることはできず、周辺市町村が同じ方向に進まないと成り立たない」と話します。

 しかし、県の横山課長補佐は、「国の基準は毎時500マイクロシーベルトで避難するとしているが、計測地点からどのくらいの範囲を避難対象とすべきか、その形状が円状か、まだら状かなどによって変わる」「国がもっと必要な情報を出してくれないと進めない」と、苦悩をにじませます。

 日本共産党の大内久美子県議団長も、「100万人もの住民を避難させることに無理があります。避難計画は住民参加でつくるべきで、東海第2原発の再稼働を前提にしてはいけません」と話します。
 市町村は県の、県は国の方針待ちで、まったく見えてこない避難計画。30キロ圏内のある市の担当者は、「住民を避難させられるか」との問いに「うーん」とうなり、「個人の考えだがかなり難しい」とこぼしました。 (君塚陽子、細川豊史、松沼環)
 

逃げる手段ない 避難計画 バス600台手配 現実離れ
東京新聞 2013322

 東京電力福島第一原発で、同時多発的な停電による使用済み核燃料プールの冷却停止事故が起きた。苦い記憶を忘れ、再び原発依存に迷い込むことへの警告のようだ。私たちは原発に頼ってしまっていいのだろうか。第十部では、重大事故から二年を経た原発の周辺事情を探る。

 18日夜、テレビで福島第一の停電事故を知った京都府防災・原子力安全課長の前川二郎(52)は「事故収束を急ぐ現場で、いまだにこんなことが起きるのか。とんでもないな」と声を上げた。
 そして、2月の府の防災会議で自らが報告したシミュレーション結果を読み返し、「こう、うまくはいかないな」とつぶやいた。

 国の新指針で原発事故に備えた防災対策を進める区域がぐんと広がった。府内に原発はないが、関西電力高浜原発(福井県高浜町)の30キロ圏に宮津市など7市町が入る。避難対象の住民は、従来の12千人から10倍以上の13万人にまで急増した。
 どうすれば、これだけの人数を早く逃がすことができるのか。前川は頭が痛い。

 公共交通機関が少ない地域。住民の足は主に自家用車だが、各自が車で逃げれば大渋滞となるのは、福島事故で証明されている。
 そこで、前川は府内外からバスをかき集めて避難に使おうと考え、業者にシミュレーションしてもらった。

 バス六百台を集め、ピストン輸送すれば、10時間半で13万人全員の避難が完了する-と答えが出た。
 ただし、バスは避難を決める前に集合場所の小学校に到着しているなど現実離れした条件だった。「そもそもバスを本当に確保できるのか?」。前川は、昨夏に部下二人から報告を受けた、バス会社幹部との協議内容を思い出した。

 ヤサカ観光バスは、京都指折りのバス会社で、府と災害時の協力協定も結んでいる。府側から原発事故時のバス活用を打診され、専務の中野茂(69)は「協力させていただく」と快く応じた。
 ただ、一つ条件を付けられた。「出せる台数は、府の防災計画に入れてほしくない」
 修学旅行シーズンの46月は、保有するバス74台のうち70台までが出払っている。協力したくても、実際には何台出せるか分からないとのことだった。

 別のバス会社では、「協力したいが、運転手に『放射線量の高い所に行け』とは言えない」とも言われた。会社と組合の協議でも、誰が放射線量を測って健康管理をするのか。被害があった場合の補償はどうなるのか。運転手側からさまざまな疑問をぶつけられたという。結局、この会社では「個人の意見を尊重する」ことを申し合わせた。
 こうした事情を見通すかのように、市町の中には、避難手段の主役からバスを降ろす動きも出てきた。
 宮津市は「バスは原発に近いほかの自治体に、まず投入されるだろう」と判断。自家用車による避難を基本にした。舞鶴市もバスは無理との意見が市民から多く寄せられ、自家用車も入れた。
 ただし、渋滞回避が大問題。宮津市企画総務室長の森和宏(59)は「隣近所で乗り合わせる調整をしてほしい」と自治会に求めたが、自治会代表の細見節夫(70)は「事前の調整は不可能。空きがあれば乗せるという、住民の助け合いの意識を高めるしかない」と難しさを口にした。

 舞鶴市は、地区ごとに時間差で避難を始める方式を模索するが、綿密すぎると、いざという時、もろさが出る欠点もはらむ。
 京都の防災計画づくりは、他の自治体より進んではいるが、実際に機能するかどうかは未知数の段階だ。(敬称略)