4日付の新潟日報に、次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」の開発者・桐蔭横浜大の宮坂力特任教授(71)への単独インタビュー記事が載りました。
宮坂氏はこの画期的なPSCの発明で「ノーベル賞候補」と目されているということで、新春にふさわしい記事です。
12月に政府が公表したエネルギー政策中長期的指針「エネルギー基本計画」の改定案では、次世代型太陽電池について、40年に原発約20基分に当たる約2千万kwを導入目標に掲げたということです。
これまで「原子力ムラ」の意向を尊重するあまり、再生エネルギーの拡大を妨害してきた政府ですが、ようやく正しい方向に舵を取りました。
しかし15年も先に とはまた悠長な話で、これではPSCの実用化に向けて国を挙げて注力している中国に適う筈がありません。PSCの主原料であるヨウ素生産量は日本が世界第2位で、そのうち新潟県は国内2位の生産量を誇っています。日本のヨウ素は極めて高品質でPSCの製造に大いに有利な条件を持っているのに惜しいことです。
もともと原発は「一時的(刹那的)」な技術であり15年も経てばウランの枯渇が明らかになり終焉を迎える可能性があるものです。政府は早く目を覚ますべきです。
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次世代太陽電池 ペロブスカイト 企業の動き 加速する年に
開発者・桐蔭横浜大特任教授 宮坂力氏 インタビュー
新潟日報 2025/01/04
軽くて薄く、折り曲げることができる次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」の開発者で、ノーベル賞候補と目されている桐蔭横浜大の宮坂力特任教授(71)が新潟日報社の単独インタビューに応じた。中国をはじめ世界で開発競争が展開されているPSCについて、「あと2年で一般の消費者に広く届くようにしなくてはならない。2025年は開発を進める国内企業の動きが加速する。勝負の年だ」と語った。
PSCは宮坂氏が09年に論文で発表した日本発の新技術で、世界で激しい開発競争が展開されている。
主原料のヨウ素生産量は、日本が世界で2番目に多い。海外に頼らずに資源を確保できるため、経済安全保障面でもメリットがある。
昨年12月に政府が公表しにエネルギー政策の中長期的指針「エネルギー基本計画」の改定案では、次世代型太陽電池について、40年に原発約20基分に当たる約2千万kwとする導入目標を掲げた。
日本はフィルム型のPSCで世界をりードする。フィルム型は発電する部分の溶液をフィルムに塗り、印刷機のように製造する。国内のメーカーは実用化に向けて動いている。宮坂氏はさらなる開発加速に向けて、「各企業から出向者を集めてPSC専業の会社を立ち上げ、よそ見をせずに日本の技術を集めるのもいい」と提案した。
PSC製造に欠かせない原料となるヨウ素は、本県が国内2位の生産量を誇る。宮坂氏は「地域に根差したPSCの製造メーカーができればいい」と話し、本県でのPSCメーカー誕生に期待を寄せた。
次世代エネルギー ペロブスカイト太陽 曇天、照明でも発電
発明者 宮坂力 桐蔭横浜大特任教授 日本発の技術 実用化を
次世代太陽電池の「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」は、雨天や曇りの日、室内照りでも発電する。 PSCの発明者である桐蔭横浜大の宮坂力特任教授(71)に、日本海側での活用方策などを聞くとともに、PSCの主原料となるヨウ素や、国内でPSCの開発に取り組む企業の動向を探った。 (論説編集委員・仲屋淳)
みやさか・つとむ
1953年、神奈川県生まれ。早大理工学都卒。東大大学院修了。工学博士。
専門は光電気化学。富士写真フィルム(現富士フィルム)足柄研究所主任研究
員を経て、2001年に桐蔭横浜大大学院工学研究科教授。17年に桐蔭横浜大
特任教授、東大先端科学技術研究センターのフェロー。市村学術賞功績賞、山
崎貞一賞、日本学士院賞などを受賞。09年にペロブスカイト太陽電池の論文
を発表、ノーベル化学賞の有力候補といわれる。
ペロブスカイト太陽電池
鉱物の一種「灰(かい)チタン石」が持つ独特の結晶構造(ペロブスカイト
構造)を持つ物質を材料とする太陽電池。電気を発生する材料の厚みは毛髪の
太さの100分の1といわれる。発電する膜は印刷技術を使ってフィルムやガラ
スに塗り、乾かして製造する。現在主流のシリコン太陽電池に比べて、低コスト
で製造できる。曇りや雨の日、室内照明など弱い光でも発電が可能で、太陽光を
電気エネルギーに変える変換効率は研究室ペースで20%を超える。軽くて柔軟
で、壁や窓、曲面、車にも取り付けることができ、設置場所の選択肢が大幅に広
がる。
- PSCは宮坂さんが発明した日本発の技術です。
「日本にはPSCの主な原料となるヨウ素という貴重な資源がある。絶対に日本で実用化したい」
- 世界で開発競争が繰り広げられています。中国の勢いをどうみていますか。
「技術は負けないし、日本が遅れているわけではないが、太陽電池分野に限らず、中国の財力は特別だ。企業も投資の財力が半端でない。学会で中国を訪れた際、現地の企業を訪問した。中国はどんどんPSCを生産し、宣伝し。ている。政府の支援も手厚い」
- 2025年、日本でのPSCを巡る動きは。
「国産製品販売に向けてメーカーの動きが加速する勝負の年になる。25年度中に製品の販売を始める企業もあるだろう。実際、製品の設置を希望する話が福井県内の自治体からきている。実証試験が活発に行われるのは間違いない」
- 太陽電池は天気が良く、日照の多い場所でなくては発電しない印象を抱く人が多いです。
「PSCは太陽の直射光がなくても発電する。日本海側に適していると思う。現在主流のシリコン製パネル型太陽電他のように太陽光に向けて設置しなくても、新潟では看板のように縦型に設置すれば雪は付かない」
「銀世界になれば地面からの反射光は鋭いので、地面にPSCを向ける。シリコン太陽電池は重いので向きを変えるのは大変だ」
- 信号機などに設置すれば、停電時も安心です。
「蓄電器を信号機に設置し、停電時に4時間程度稼働するものを作っている会社と連携して、PSCで蓄電池に充電する。その技術を電カインフラがない場所で活用する試みも始めた」
■回収モデルも
- 昨年12月、宮坂さんが代表取締役を務める会社が小型のPSCを発売しました。
「発明した本人の会社が、サイズは小さくても最初に発売するのが筋だと思った。実は付加価値を付けている。回収だ。PSCは材料に微量の鉛を使う」
- 鉛は人体に有害です。
「使用後にユーザーから全て回収することにした。メーカーは今、製造に一生懸命なので、回収モデルを先回りして構築した。世界初。顧客に回収までを含めた保証をしていくモデルを示したい」
- 水などに弱いといわれるPSCの課題は。
「耐久性だ。今段階では10年。いずれ10年に1回交換してもシリコンより安いという時代が必ず来る。PSCの心臓部(ペロブスカイト膜)は価格が極めて安い。高いのは基板や湿気を防ぐフィルムなどで、これらは将来安くできる。小さなPSCで出た性能を大面積で再現する技術も進化させたい」
- PSCにとってヨウ素は重要なのですか。
「原料の鉛はスズに代えられるが、ヨウ素はなくてはならない元素だ。純度の高いものが日本にある」
- ヨウ素生産県の本県にどのような期待をお持ちですか。
「地域に根ざしたペロブスカイトメーカーができるといい。地域に合った製品を、地元向けに製造する企業が、ヨウ素メーカーとタイアップするといい。ユーザー側も地域全体で使う場所を提供し、新潟でビジネスが成り立つ形にすればいい。人材育成には私も協力できる」
■原発賛成せず
- 政府は改定作業中のエネルギー基本計画で「原発回帰」の方針を鮮明にしました。
「温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すカーボンニュートラルのために、原発を増やそうとしているが、僕はあまり賛成ではない。新たなエネルギーをつくる『創エネ』と同時に『省エネ』を進めるべきだ。日本は街を歩けばイルミネーション、24時間営業のコンビニがたくさんある。海外では自動販売機はそうない」
- 革新的な技術を生み出した宮坂さんから、次世代の子どもたちにメッセージを。
「変わった性能が出せるものをつくるには、物理や化学など特定の分野だけではなく異分野にも興味を持ってほしい。その中で面白い組み合わせの発見がある。不思議だと思ったことは常に探ったらいい」