信濃毎日新聞が6日の「結び直す 柏崎刈羽から 地方の声で明日を選ぶ」と題する社説で、柏崎刈羽原発問題で国や東電と対峙する新潟県の闘いを取り上げました。
新潟県は「住民の安全」を最優先する姿勢を貫けるだろうかと問いかけ、柏崎刈羽原発の行方は地方自治の根幹に関わると位置づけています。
新潟県の技術委員会が独自に福島原発事故の検証を続け、技術、運営、法制度の問題点を年度ごとに整理し対応を国に求めていることを述べ、福島の検証と総括が終わらないうちは「原発の再稼働については議論しない」という泉田知事の姿勢を、明快と評価しています。
そして住民を被曝させないことを第一義にしている知事と新潟県の姿勢を「まともな問題意識」とし、そうした新潟県や原発の全基廃炉を求めている福島県に、国からの圧力がかからないようにするためには、自治体間で支え合う取り組みを強める必要があると、問題提起をしています。
「安倍政権は普天間基地の移転問題で強引な手法で知事を屈服させたように、地方分権の掛け声とは裏腹に、国主導を進めている。そういう中で本来の地方自治を築くため、首長、議会、有権者それぞれができることを考え行動に移していきたい、自分たちの暮らす地域の将来は自分たちで選べるように」 と。
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(社説) 結び直す 柏崎刈羽から 地方の声で明日を選ぶ
信濃毎日新聞 2014年1月6日
新潟県の日本海沿岸にある東京電力柏崎刈羽原子力発電所。立ち並ぶ鉄塔や排気筒、張り巡らされた送電線が目を引く。
七つの原子炉を抱える世界最大級の原発をめぐり、再稼働を急ぎたい東電と新潟県が対峙(たいじ)している。
政府が原発回帰の政策を固め、電力会社に弾みがついている。新潟県は「住民の安全」を最優先する姿勢を貫けるだろうか。
柏崎刈羽原発の行方は、地方自治の根幹に関わる。
<まともな問題意識>
東電が柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に向けた審査を、原子力規制委員会に申請したのは昨年9月だった。新潟県の泉田裕彦知事は、申請を認めるのに「フィルター付きベントは地元の了解がなければ使用できない」という条件を付けた。
ベントは、事故時に原子炉格納容器内の蒸気を放射性物質を減らした上で外に放出し、圧力による損壊を防ぐ。原発の新しい規制基準で設置が義務付けられた。
ただ、放出される放射性ヨウ素などに制限値がない。住民の避難が終わらないうちに使われれば、健康を害する恐れは高い。新潟県の条件は当然と言える。
そもそも新規制基準は、施設や設備の適否を判断するもので、これだけで住民の安全は守れない。例えば、放射線量の高い場所で誰が復旧作業に当たるのか。健康被害を心配する住民の診断に、どのような医療態勢で臨むのか。法令も制度も整っていない。
新規制基準をまとめた原子力規制委は「世界最高の水準だ」と胸を張る。けれど、欧米では住民の避難を考慮した規制を敷き、現場の復旧体制を用意している。
安倍政権は「規制委の審査で安全が確認された原発は再稼働する」と繰り返す。除染が滞り、住民の生活の先行きが見えない福島の現実を踏まえないのなら、規制基準という新たな“安全神話”に乗るだけにすぎない。
「原発の再稼働については議論しない」。泉田知事の姿勢は明快だ。福島の検証と総括が終わらないうちは、同じ問題が起きかねない。それまでは議論を始める段階ではない、という。
新潟県の技術委員会は、独自に福島の検証を続けている。委員会で浮上した技術、運営、法制度の問題点を年度ごとに整理し、対応を国に求めている。
<国の役割に代わって>
福島の事故原因はいまだに分かっていない。国や電力会社が続けなければならない議論の場に、当事者はほとんど姿を見せない。
新潟各地の市民が参加する「みんなで決める会」が1年前、柏崎刈羽原発の今後について、県民投票を行うよう県に請求した。共同代表の橋本桂子さんは「再稼働反対に偏らずに、意見が異なる人たちで話し合い、未来を考える機会にしたかった」と話す。
請求は県議会で否決された。それでも橋本さんは「原発があることで多くの人たちが地元で働くことができた。地域のことを思って誘致した人たちの判断を否定することはできない。これからどうするかが大切だと思う」と言う。
新潟ではさまざまな市民団体が原発について話し合い、活動している。こうした議論を経た先に、原発の在り方を選ぶことが、政治ではないだろうか。
米軍普天間飛行場の移設問題で、沖縄県の仲井真弘多知事が辺野古の埋め立てを承認した。県民の多くが県内移設に反対しているのに、安倍政権は自民党県連や地元の国会議員らに容認を迫るという強引な手法をとった。
次は、新潟県や原発の全基廃炉を求めている福島県に圧力がかからないか。民意をくんだ地方の声がつぶされることなく、国政に反映されるよう自治体間で支え合う取り組みを強めていきたい。
<縦から横の関係へ>
再稼働への考え方は、自治体によって異なる。全国知事会、市長会、町村会などでも踏み込んだ話し合いはされていない。
事故が起きれば、原発の立地自治体に限らず広い範囲に被害が及ぶ。賛否の垣根を越え、再稼働した場合と止めた場合とで、生じる課題を出し合ってみてほしい。国や電力会社にはない視点から、必要となる法制度の改善や対策が見えてくるはずだ。
地方の財源をめぐって、安倍政権は自由度の高い交付金を廃止した。職員の給与を減らすよう自治体に迫り、交付税を削った。地方法人税の一部を国税に吸い上げることも一方的に決めている。
地方分権の掛け声とは裏腹に、国主導が進んでいる。国と地方の関係を縦から横へと変えていかなければならない。
自分たちの暮らす地域の将来は自分たちで選ぶ ― 。本来の地方自治を築くため、首長、議会、有権者それぞれができることを考え、行動に移していきたい。