2023年8月31日木曜日

31- 海洋放出 案の定の最悪展開 「悪いのは中国」ではすまない

 「結果責任」という言葉があります。文字通り「実際に起きたことに対する責任」で、「こんな積りじゃなかった」などの言い訳は通用しないという意味です。

 岸田政権が中国の反対を押し切ってアルプス処理水の海洋放出を強行した結果、中国(と香港)は日本産魚介類の輸入を全面的に禁止しました。22年度実績で、中国と香港に対する産魚介類の輸出総額は5000億円弱(全海産物輸出額の3分の1)です。
 それだけでなく日本行きの団体旅行が次々に中止となり、本国では日本の製品の不買運動も起きているようです。
 そもそもIAEAは「海洋放出は近隣国の了解を得て行うこと」としていたのに、日本はそれを無視しました。「科学的に無害なのだから反対する方が間違っている」の言い分は勿論通りません。中国は「無害なら国内で使えば良い」という言い方をしています。
 元々、事故炉に伴う放射性汚染水を海洋に放出することは「国連海洋法条約」第194条に反しています。
 日本政府は、対中断交状態に拠って損害を受ける関係(業)者に巨額の補償費を、無期限(少なくとも数十年間乃至それ以上)に支払い続けることになります。そうまでして何故海洋放出に拘るのでしょうか。
 これからでも経済的合理的な処分方法に立ち返るべきで、それが国家財政の無駄を慎むことであり国民に対する義務です。
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案の定の最悪展開 岸田首相よ「悪いのは中国」ではすまないぞ
                          日刊ゲンダイ 2023/8/30
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 東京電力福島第1原発にたまり続ける汚染水の海洋放出をめぐるハレーションは、大きくなるばかりだ。猛反発する中国は強硬姿勢を崩さない。日本産水産物の全面禁輸で一歩も引かない構えだ。日本経済の下支えが期待されたインバウンドも細り始めた。今月10日に習近平指導部が日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁したばかりなのに、訪日旅行のキャンセルが相次ぎ、日本行き航空券が大幅に値下がりしている。
 支配下にある香港も右へならえ。福島を含む10都県からの輸入禁止措置を発動しており、間を置かず日本へ足を向けなくなるだろう。農林水産物・食品の輸出額でも、インバウンドでも中国と香港は上客だ。不安は福島の漁業者にとどまらず、全国津々浦々に伝播している。
「廃炉プロセスの前提となるステップが今回の処理水の海洋放出だ」などと詭弁を並べ立て、放出を強行した岸田首相は29日、自民党役員会後にぶら下がり取材に応じ、「わが国の水産事業者を断固として守る決意だ」と力こぶ。「国民の皆さんにもホタテなどの魚介類をメニューに追加していただくなど、協力をお願いしたい」と呼び掛けた。今週中に水産事業者支援策を発表する方針だというが、ここに至るまでの経緯は誰がどう見ても泥縄式。抜本的な対策は期待できない。
「水産物をどんどん買って事業者を応援しようという名目で、『お魚券』の配布をブチ上げるんじゃないか。要するに水産物限定の商品券です。実質賃金は15カ月連続のマイナスで、どの家庭も懐が寒いですから、経済対策の一環と言えなくもない。そうした台所事情につけ込んで、マイナンバーカード保有者にはスピード配布するとか、この期に及んでマイナカードの普及に利用しかねないため警戒しています」(野党関係者)

「お魚券」が敗者復活
 なんせ自民には前科がある。コロナ禍にのみ込まれた2020年春、農林部会や水産部会は経済対策として「お肉券」「お魚券」などの発行を構想していた。インバウンド激減で需要が低迷した和牛などの消費を喚起するという理由付けだった。だったら魚介類も、というわけで「お魚券」が浮上。「お寿司券」まで持ち上がったが、ネット上で族議員批判が巻き起こり、頓挫に追い込まれた。風吹けばバラマキで人気取りは自民のお家芸だ。
 支持層のネトウヨの歓心を買うことがレゾンデートル⇒存在価値、存在理由化している高市経済安保相は、ここぞとばかりに腕まくり。「何らかの形での対抗措置を検討しておく段階に入っている」「世界貿易機関(WTO)への提訴も過去に豪州が(中国に)している」と言い出した。WTO提訴などの対応は外務省や経産省マターだ。所管外と断りながらも、再浮上の好機とばかりに拳を振り上げる姿からは浅はかさしか伝わってこない。9月中旬に実施されるとみられる内閣改造・党役員人事での交代は順当だ。

 汚染水放出に端を発した中国との軋轢を解消する突破口は、2国間協議しかない。だが、思い切り蹴っ飛ばされている。与党の一角を占める公明党の山口代表は、支持母体の創価学会を通じた中国共産党との強いパイプを誇ってきたが、28~30日の日程で予定していた訪中をドタキャンされた。海洋放出が始まった24日に岸田と会って習近平国家主席に宛てた親書を預かり、報道陣にこう意気込んでいた。
「政府間の関係がいい時であれ悪い時であれ、公明党は中国共産党との交流をずっと継続してきた。ここが公明党の特徴であり、役割でもある」
 習近平との面会に前のめりだったのに、よもやの門前払い。岸田は山口訪中を足がかりに、9月4日に開幕するASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議の延長線上で中国ナンバー2の李強首相との会談を模索していたが、見通しは真っ暗だ。

日本失速にほくそ笑むベトナム、補償は青天井
 政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「政治利用という側面は否定できないものの、中国がこうも強硬姿勢なのは、12年前に発生したあの苛烈な原発事故以降に募らせた不信感がピークに達したからでしょう。廃炉に向けたプロセスはあやふやで不透明なまま、エイヤッで無計画な海洋放出に突っ込んだ。日本産水産物の全面禁輸に憤る声が一部で上がっていますが、そもそも買う買わないは買い手側の自由です。〈安全性が科学的に証明されているのになぜ買わないんだ!〉と迫るのは筋違い。岸田首相の『聞く力』は効力を失って久しいですが、『新時代リアリズム外交』の方はどうしちゃったのか。『普遍的価値の重視、地球規模課題の解決に向けた取り組み、国民の命と暮らしを断固として守り抜く取り組みを3本柱とする』と言っていたのに、ここぞという時に協議のテーブルにつくことさえできない。岸田外交の正体は、政権にお墨付きを与える米国追従だということが浮き彫りです」
 案の定の最悪展開。「悪いのは中国」ではすまされない。
 日本の2022年の農林水産物・食品の輸出額は、過去最高の1兆4148億円。中国向けは最多の2783億円、次いで香港が2086億円だった。そのうち水産物は総額3873億円で、中国871億円、香港755億円が42%を占める。ほかの得意先は米国を除けばアジアなどの周辺諸国だ。そのうちタイは検査体制を強化。シンガポールやフィリピン、ベトナムは中立的スタンスだが、ベトナムは日本の失速で対中輸出が増えるとほくそ笑んでいる。政府は農林水産物・食品の輸出額を25年までに2兆円、30年までに5兆円に増やすとブチ上げていたが、夢のまた夢。風評対策として漁業者向けに設けた計800億円の基金はアッという間に空になるだろうし、補償は青天井必至だ。

国際協調主義はどこへ
 中国の全面禁輸に「想定外」と驚き、今後の戦略も皆無という場当たり、無責任政権に任せていたらどうなるのか。日本沈没は加速度的に早まることになる。歴史的な物価高を手当てする経済対策にしたって、弥縫策の焼き直し。今月中に取りまとめるガソリンなど燃料価格の高騰対策は、9月末に期限を迎える石油元売り各社への補助金支給の延長や補助額拡大などを盛り込む見通し。秋にまとめる予定の総合的な経済対策で電気・都市ガス料金軽減の補助金支給を継続させるという。円安誘導のアベノミクスをかなぐり捨て、元凶を断ち切らなければ元のもくあみである。
 大メディアも同罪だ。中国からの抗議電話、関係先への投石、日本製品の不買だのを盛んに取り上げ、やみくもに反中感情を煽る無定見。歴史をを知る人ほど「いつか来た道」が頭をよぎる。今年も「8月ジャーナリズム」の季節となり、無謀な作戦に突っ走った先の大戦を振り返り、平和の尊さを訴える報道があふれた。とりわけ新聞は戦前・戦中の大本営発表に加担した報道責任を直視して出直したはずなのに、そうした反省は全く生かされていない

 政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「1972年に日中国交正常化が実現しましたが、清和会(安倍派)政治によって暗転した。戦前回帰につながる森元首相の『日本は神の国』発言、小泉元首相の靖国参拝、そして安倍元首相の露骨な中国敵視。それでも中国は経済成長を第一とし、日本の振る舞いに耐え忍んできた。ところが、米国隷従の岸田政権は台湾有事に備えるという名目で防衛費を5年間で43兆円に膨張。海洋放出直前には米キャンプデービッドで開かれた日中韓首脳会議に浮かれて加わり、中国との対決姿勢を鮮明にした。中国を頭からボコボコに殴り、堪忍袋の緒を切れさせたのです。権力を監視する番犬であるマスコミは、そうした事実を報じる責任と義務を放棄し、われ先に権力のお先棒を担いでいる。憲法の基本原理である国際協調主義に基づき、海洋放出を中止し、中国に理解を得られるよう説明を尽くし、今後の対応を協議すべき。そうたしなめるのが、本来のマスコミの役割なのです」
 日中平和友好条約発効45周年まで2カ月弱。節目の年に汚染水も報道も垂れ流し。この国は再び行くところまで行くのか。