2023年8月12日土曜日

東電株主代表訴訟の控訴審開かれる

 福島第一原発事故で東電が被った22兆円の損害をめぐり、株主46人が旧経営陣5人に対し、同社に賠償するよう求めた株主代表訴訟の控訴審・第1回口頭弁論が7月24日、東京高裁で開かれました

 一審・東京地裁は昨年7月、小森氏を除く4人に13兆3210億円の賠償を命じました。それは社益を確保しさえすれば大企業の社会的責任を果たせるかのように考えてきた経営陣に鉄槌を下すものでした。東京地裁での公判の経緯を見ると、旧経営陣「長期間、津波の対策を先送りして放置した」だけでなく、「原発の主要な建屋や重要機器室に津波が浸水しないようにする水密化』を怠っていた」ことも明白で責任は免れません。
 週刊金曜日が報じました。
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東電株主代表訴訟の控訴審開かれる 一審は旧経営陣に13兆円の賠償判決
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 福島第一原子力発電所の事故で東京電力が被ったとされる22兆円の損害をめぐり、脱原発を訴える株主46人が旧経営陣5人に対し、個人の財産で同社に賠償するよう求めた株主代表訴訟の控訴審・第1回口頭弁論が7月24日、東京高裁(木納敏和裁判長)で開かれた。一審で敗訴した旧経営陣側は、判決を取り消し株主側の請求を棄却するよう主張した。

 提訴は2012年3月。原発事故が起きたのは東電の旧経営陣が津波対策を怠ったためだとして、勝俣恒久・元会長、清水正孝・元社長、武藤栄・元副社長、武黒一郎・元副社長、小森明生・元常務に損害の賠償を求めた。
 一審・東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は昨年7月、5人が原発を運転する会社の取締役としての善管注意義務に違反し任務を怠ったと認定。事故までの在任期間が短かった小森氏を除く4人に、国内過去最高額の13兆3210億円の賠償を命じた。4人は判決を不服として高裁へ控訴。それを受け株主側も控訴していた。
 一審判決から1年ぶりとなった今回は、双方が約50分ずつ主張をプレゼンテーションした。東電は一審に続き、旧経営陣を支援するため訴訟に補助参加している。旧経営陣の5人は出廷しなかった。

 一審と同様に、旧経営陣が巨大な津波の襲来を事前に認識できたかどうか(予見可能性)が最大の争点だ。中でも、政府の地震調査研究推進本部(推本)が02年に公表した地震予測(長期評価)の信頼性がテーマになる。長期評価は「福島県沖を含む日本海溝でマグニチュード8・2級の津波地震が30年以内に20%程度の確率で起きる」としており、東電はこれをもとに同原発を15・7メートルの津波が襲う可能性があるとの試算を08年に得ていた
 一審判決は長期評価を「一定のオーソライズがされた相応の科学的信頼性を有する知見」と捉え、旧経営陣に津波対策を義務づけるものだったと位置づけた。
 これに対し旧経営陣側はこの日の口頭弁論で長期評価について、推本が公表翌年に発生領域・確率の評価の信頼度を「C」(やや低い)としたことなどを挙げ、旧経営陣に「予見可能性は生じない」と反論。東日本大震災は「誰もが全く想定していない巨大な地震だった」として、旧経営陣は「事故を予測できなかった」と強調した。

株主側「経営責任は明白」
 もう一つの争点は、何らかの対策を取っていれば事故を防げたか(結果回避可能性)。一審判決は原発の主要な建屋や重要機器室に津波が浸水しないようにする「水密化」をしていれば「重大事態に至ることを避けられた可能性は十分にあった」と認定。計画・設計から工事完了まで2年程度で可能だった、と判断した。
 この点についても旧経営陣側は「一審判決は(事故の)後から考えてできそうなことに因果関係を認めた」と批判。「対策をしても事故は防げなかった」「2年で工事(完了)は不可能」と主張した。
 一方、株主側は原発事故被害の甚大さを詳細に説明。そのうえで、旧経営陣は「長期間、対策を先送りして放置しており、責任があることは明確だ」とアピールした。

 原発事故で福島県から石川県への避難を余儀なくされた原告の浅田正文さん(82歳)も意見陳述し、「原子力事業者には過酷事故を万が一にも防止すべき社会的・公益的義務がある」とした一審判決を引いて「損害をしっかり償うことを命じて下さい」と訴えた。
 口頭弁論終了後に記者会見した株主側弁護団の海渡雄一弁護士は「高裁は充実した審理をしようとしている」と感触を披露。一審で実現した裁判官の原発視察を、高裁にも申し立てる方針を明かした。次回は11月1日で、双方が1時間半ずつプレゼンをする。
 河合弘之・弁護団長は「(勝訴判決を)死守すべき重要な闘い」と決意を語り、「法人ではなく個人に賠償させることで(電力会社の経営陣に)『原発は怖いからやめよう』と思わせ、日本中の原発を止めることにつながる」と株主代表訴訟の意義を力説した。
           小石勝朗・ジャーナリスト