2023年8月23日水曜日

現場の声届いてない 処理水あす海洋放出 漁業の未来不安

 政府は一方的に海洋放出を24日に始めると決めました。しかし福島県民からは「影響は避けられない」、「現場の声が届いていない」と反発や不安の声が上がり、9月1日に底引き網漁の解禁を控える漁業者は「魚を買ってもらえるのか」と行く末を危ぶみます。
 漁業者らが懸念する保障については、政府は約800億円の基金を使い対策に万全を期すとしていますが、実際には「風評対策も賠償の詳細について」何の説明ないということです。
 被害が及ぶのは鮮魚店も同様で、10年余りかけて原発事故前に近い状態になったのに、逆戻りするのか」「鮮魚店にも影響があることを国は忘れないでもらいたい」と肩を落とします
 コロナ禍前は年間約6千人の外国人が宿泊していた東山温泉でも、「放出に国際的理解が広まらない場合、旅先として敬遠されないかが気がかり」としています。

 岸田首相は22日の関係閣僚会議で「数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組んでいく」と強調しましたが、まさに事態を認識できていない者の発言で、放出期間は少なくとも数百年に及びます。
 また国民の理解も得られているかのように述べていますが、共同通信が今月1920日に実施した全国世論調査で、政府の説明が「不十分」との回答は82%を占めていて、「十分」は15%にとどまっています。
 岸田首相は自分が何をしようとしているのかを分かっていないようです。
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現場の声届いてない 処理水あす海洋放出 漁業の未来不安 「また、逆戻りするのか」
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 政府が東京電力福島第1原発からの処理水海洋放出を24日に始めると決めた22日、漁業者をはじめ、福島県民からは「影響は避けられない」、「現場の声が届いていない」と反発や不安が残る中での決定に批判が上がった9月1日に底引き網漁の解禁を控える漁業者は「魚を買ってもらえるのか」と行く末を危ぶむ。影響は多方面に及ぶ恐れもあり、インバウンド(訪日客)回復に期待する観光関係者や農業者も誘客や輸出の今後に不安を募らせる。
「子どもたちの代になっても、漁業をしたいと思える環境を守れるのか」。福島県相馬市の漁師斎藤智英さん(42)は22日、船上から海を眺め、将来を想像した。

 父清信さん(70)とカレイやスズキ、メバルなどを取っている。今はシラス漁が最盛期だ。「努力して取った魚に高値が付くのが漁師の仕事」とやりがいを語る。小学5年の長男も「船に乗る」と言ってくれる。「相馬の魚の値段が下がるようなら、仕事の前提が崩れる」と表情を曇らせる。
 漁業者らが懸念する風評被害について政府は約800億円の基金を使い、対策に万全を期すとしている。ただ、方針発表のわずか2日後に放出を始めるやり方は理解に苦しむ。「風評対策も賠償の詳細も説明がない」と不信感が募る。
 福島県いわき市最南部のいわき市漁協勿来支所に所属する共栄丸船長の芳賀文夫さん(71)は、処理水を保管し続ける難しさは理解できるとした上で「海を職場とする者としては今後も反対の立場は崩せない」と語る。
「隣接する茨城県などからの仲買人が減る」「港の活気がまた失われる」などの不安は尽きない。消費者の安心を得るには、魚の安全性や魅力を発信することが重要だが、「漁師の役目はおいしい魚を届け続けること」という自負もある。「風評被害対策を全力でやってほしい」と国や東電に注文した。
 同市の豊間漁港などに船を持ち、観光客向けに釣り船を営む男性漁師(64)は「どれだけ、反対と言っても国は決めてしまえば流すのだろう」と諦め顔だ。県外客からは「流しても大丈夫か」、「魚に影響は無いのか」などと処理水に関する質問を受けている。「風評被害は既に起こりつつある」と感じている。
 海の恵みを扱う鮮魚店も不安を隠せない。南相馬市で「てつ魚店」を営む鈴木直樹さん(40)は「10年余りかけて原発事故前に近い状態になったのに、逆戻りするのか」と肩を落とす。海洋放出が始まっても、地元産の魚の安全を発信するために販売を続けるつもりだ。「鮮魚店にも影響があることを国は忘れないでもらいたい」と訴えた。

■訪日誘客、輸出に懸念
 海洋放出の影響を危惧するのは漁業者だけではない。
 福島県会津若松市は秋、祭礼や紅葉などを楽しむ国内外の人でにぎわう。コロナ禍前は年間約6千人の外国人が宿泊していた東山温泉は5類移行を受け、客足が回復している。東山温泉観光協会の平賀茂美会長(68)は放出に国際的理解が広まらない場合、旅先として敬遠されないかが気がかりだ。「アジア圏からの誘客への影響が心配だ」と声を落とす。モニタリング調査の結果を国内外に発信するという国に「粘り強い説明と透明性ある発信を続けてほしい」と注文した。
 日本産食品の輸入規制は順次撤廃され、残るのは中国や韓国など7カ国・地域だけだが、放出が再禁止につながる事態もあり得る。伊達市梁川町五十沢地区で「伊達のあんぽ柿」を生産している農業曳地一夫さん(65)は「農産物にも風評が出ないか不安だ」と危ぶむ。あんぽ柿は2019年度にタイやマレーシアに輸出が再開された。「政府が安心安全を叫んでも、各国がどう感じるだろうか。原発事故直後の状況に戻るのではないか」と不安げに話した。

 福島県民の反応も複雑だ。郡山市の会社経営渡辺万里子さん(48)は「地元の旬な食材が一番」と県産魚類をよく買い求める。安全性が確認できるなら放出は仕方ないが、政府は責任を持って説明すべきだと感じている。「安全であるなら今後も変わらず買い続ける」と話した。福島市の会社役員渡辺博之さん(67)は「放出ありきの政府の対応には違和感がある」と疑問を呈した。


【処理水海洋放出】負担の上積み許されず(8月23日)
                            福島民報 2023/8/23
 東京電力福島第1原発にたまり続ける処理水を巡って政府は、県内関係者らの反対が根強い中で24日の海洋放出開始を決めた。国民の理解も十分に深まっているとは言い難い。漁業をはじめ観光など幅広い分野への影響を懸念する声が上がるのは当然だ。県内関係者は廃炉を見据えて苦渋の判断を迫られた。政府は風評対策と漁業者支援を徹底、強化しなくてはならない。
 岸田文雄首相は22日の関係閣僚会議で「数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組んでいく」と強調した。処分は現政権を起点に、後々の政権に引き継がれていくことになる。漁業者と交わした「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」との確約が守られたのかどうかは判然としない。処分と漁業者支援に対する首相の発言を口約束で終わらせないため、法制化を含めた持続可能な体制づくりを求めたい。

 処理水処分は廃炉を前進させる上で欠かせず、先送りできない問題ではある。同様に、海洋放出による新たな風評を防ぐ取り組みが極めて重要なのは言うまでもない。首相は関係閣僚会議で、漁業の継続を目的とした基金の創設などを確認した。風評による損害を適切に賠償し、漁業者らへの支援体制を構築する考えも示した。ただ、いずれも風評発生後の対策であり、未然に防ぐ対策にも万全を期してほしい。
 政府は、国民の理解醸成に向けた1500回を超える説明会で、処分方法に納得したとの声が多く聞かれたとしている。しかし、共同通信社が今月19、20の両日実施した全国世論調査で、政府の説明が「不十分」との回答は81・9%を占め、「十分」は15・0%にとどまった。一般消費者らの理解が深まっていない現実を映す結果と言える。放出開始後は、これまで以上に説明の場を設け、安全性の周知に努めるべきだ。
 海洋放出決定を受け、県内の市町村長から「農林水産業や観光業をはじめ、幅広い業種に対する風評対策を徹底してほしい」「国内外の理解醸成をさらに進めるべきだ」といった訴えが相次いだ。被災地への苦痛や負担の上積みは許されない。政府の姿勢をしっかり問い続けていく必要がある。(角田守良)