2023年8月14日月曜日

避難計画と福島の教訓(角山茂章氏)

 掲題の件について、角山茂章会津大学元学長が考察した記事が福島民報に載りました。
 福島県内の人的被害について、震災関連死とされた1671ほとんどは66歳以上の高齢者で避難所等への移動中の肉体・精神的疲労の割合が大きく、原発事故に伴う遠方への避難や複数回に及ぶ避難所移動などによる影響が大きいと考えられると報告されています
 一方福島第1原発から30キロ圏外の山間部にあった飯舘村のいいたてホームは、当初避難は考えす施設内に留まっていました。近くの村役場で空間線量が毎時44・7マイクロシーベルトに達したため避難を検討したものの、最終的には避難しないことを選んだ結果、災害関連死を出さずに済みました。
 この事例から、高齢者については無理に移動させるのではなく、安全確実に移動できる条件(環境)が整うまでは施設内で待機するという選択肢もありそうです。
 その方が、全体的な道路事情も掴めないままバスに乗せられて、目的地に着くまで長時間難儀をするよりも遥かにマシと思われます。
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避難計画と福島の教訓
                       角山茂章 福島民報 2023/8/13
                           会津大学元学長
 東京電力福島第1原発事故で、高齢者の避難が課題となった。原発周辺の社会福祉施設などには、避難計画を策定することが求められているが、福島で起こったことがその避難計画に生かされているのか考えてみた。
 福島県の「平成25年度原子力行政のあらまし」によると、県内の人的被害について、「原発事故により、広範囲の地域の住民が避難生活を余儀なくされた。避難生活は長期にわたり、避難によるストレスや持病の悪化等が原因の死亡など、被災県で最も多くの震災関連死が認定されている」と述べられている。
 また、「震災関連死とされた方が県内で1671人確認されている」「そのほとんどは66歳以上の高齢者である」。さらに、復興庁の調査によると、震災関連死の原因は「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」の割合が大きく、原発事故に伴う遠方への避難や複数回に及ぶ避難所移動などによる影響が大きいと考えられるとの報告だ。

 一方、シルバー産業新聞によると、飯舘村のいいたてホームは福島第1原発から30キロ圏外の山間部で、当初、放射線の影響は小さいと考えていたが、近くの村役場で空間線量が毎時44・7マイクロシーベルトに達し避難を検討したが、最終的には避難しないことを選んだ。その結果、災害関連死を出さずに済んだ
 ホームの入所者は約100人だったが、避難の候補地は近隣にはなく、また寝たきりなどの方が多く、健康の負担を考えると移動は困難だった。
 最後の選択肢は、全員がホームに残る案だった。避難の基準となる年間被ばく線量20ミリシーベルトは、普段鉄筋コンクリートの屋内にいて、屋外に出るのを必要最低限にとどめれば満足できた。そこで、国に要望書を出し、基準線量を超えたらすぐに避難するなどの条件で認められた。
 避難により多くの震災関連犠牲者が出たこと、一方で避難せず全員無事であったいいたてホームの貴重な経験、この二つから今後の避難のあり方が問われたので、いいたてホームの経験を現行の原子力災害対策指針と比べてみる。事故当時は年間20ミリシーベルト以上(毎時3・8マイクロシーベルト)の地域を避難地域とし、飯舘村役場の空間線量は毎時44・7マイクロシーベルトで避難の対象となった。一方、原子力災害対策指針を踏まえて県が策定した現行の地域防災計画原子力災害対策編でも空間線量毎時20マイクロシーベルトからが防護措置の対象で、飯舘村役場近辺は1週間以内に「一時移転」の対象となる。当時、いいたてホームは移動が困難な方が多く、自主的に対策を立てて避難をせず、結果として施設内の人々を守った
 現在、原子力災害時の対応を準備しているが、基準値の毎時20マイクロシーベルトは目安であり、高齢者の避難にあたっては健康状況、受け入れ先や搬送手段の確保等、安全に避難が実施できる準備が整うまで屋内退避を行うなど、市町村や施設ごとに避難計画の策定が進められている。一概に「一時移転」が行われるわけではなく、過去の経験が反映される。
               (角山茂章 会津大学元学長)