2024年6月29日土曜日

屋内退避見直し議論「避難計画修正の要否」柏崎刈羽 知事、国と異なる認識

 28日の朝日新聞・新潟版に題記趣旨の記事が載りました、
 その内容は、新潟県議会本会議で27日、柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、国の原子力規制委が進める屋内退避の運用見直しについて、国は運用が見直されても自治体の避難計画に「改定を求めることにならない」としているが、花角知事は「修正が必要になる」と正反対の考えを示したというものです。
 元々5~30キロ圏内の住民は事故発生時に一旦は屋内退避」としたのは、一斉に避難すると道路が大渋滞して収拾がつかなくなるから、苦肉の策と生み出されたものでした。

 ところが住宅の損壊や津波の襲来のおそれの中で、「自宅に退避」すること自体が可能かについては当初から疑問視されていたもので、それが能登半島地震で具体的に確認されたのでした。
 因みに当初5キロ圏内住民のみが避難するケースと30キロ圏内住民の全てが避難するケースとでは、事故発生直後の住民の移動量は計算上「1対36」もの違いがあるので、避難計画自体や避難道路の整備・改造計画は根本的に変わります。花角知事のいう通りです。
 国が、「5~30キロ圏内の住民は事故発生時に一旦は屋内退避」するという運用が見直されても自治体の避難計画に「改定を求めることにならない」(規制委員長)しているのは、事態を全く認識していないものです。
 規制委員長は、「自宅退避を見直すのではなく」⇒「住民が自宅退避から避難に移るタイミングを決める」ための委員会を創設する旨を述べていたので、規制庁もそれに従い、召集された委員たちもそれに趣旨を合せるように考えているかも知れません。

 もしもそうであればまったく無駄な1年間を空費することになります。 

青森県六ヶ所村「核燃料の再処理工場」で規制委が現地調査 重大事故の対策など確認

 原子力規制委田中知委員ら13人は28日、日本原燃が2024年度上期のできるだけ早期の完工を目指す使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)を現地調査し設備や機器の耐震設計や構造設計など、審査会合で論点となっている部分を現地で確認しました。
 この日は冷却塔の竜巻防護対策や、敷地外への放射性物質の放出量を少なくするため水で打ち落とす放水砲による訓練などを確認しました。
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青森県六ヶ所村「使用済み核燃料の再処理工場」で原子力規制委員会が現地調査 重大事故の対策など確認
                        ATV青森テレビ 2024/6/28
青森県六ヶ所村の使用済み核燃料の再処理工場で、原子力規制委員会による現地調査が行われ、委員が重大事故の対策などを確かめました。
六ヶ所村にある日本原燃の再処理事業所を訪れたのは、原子力規制委員会の田中 知委員を始め13人です。
田中委員たちは現在、設計や工事計画の審査をしている再処理工場で重大事故の対策などを確認しました。
このうち、事故が発生して建物が壊れた時には、放水をすることで放射線物質が外へ拡散するのを抑えられるかを確かめました。
原子力規制委員会 田中 知委員
「竜巻対策とか、重大事故に対する設備があるかなど見させていただきましたが、全体的にしっかりとやっていると思いながらもわれわれは審査して、どういうところがポイントなのか、指摘しながらさらに審査が進んでいくと思います」
日本原燃は、再処理工場の完成時期の目標について現時点では目標を「2024年9月」としながらも厳しくなっているとしています。


六ケ所再処理工場を現地調査 原子力規制委
                            時事通信 2024/6/28
 原子力規制委員会は28日、日本原燃が2024年度上期のできるだけ早期の完工を目指す使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)を現地調査した。
 再処理工場は設備の詳細設計に当たる「設計および工事の計画の認可」(設工認)の安全審査中。規制委は設備や機器の耐震設計や構造設計など、審査会合で論点となっている部分を現地で確認した。

 設工認審査に関連して規制委が再処理工場を現地調査するのは初めて。この日は田中知委員ら13人が冷却塔の竜巻防護対策や、敷地外への放射性物質の放出量を少なくするため水で打ち落とす放水砲による訓練などを確認した。 

青森・むつ市の中間貯蔵施設 「安全協定とは別に事業者と覚書を」

 使用済み核燃料の中間貯蔵施設を巡り、青森県議会の自民党会派などは、安全協定とは別に事業者と覚書を交わすよう宮下知事に求めました。

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青森・むつ市の中間貯蔵施設 「安全協定とは別に事業者と覚書を」
                       ABA青森朝日放送 2024/6/28
使用済み核燃料の中間貯蔵施設を巡り、青森県議会の自民党会派などは、安全協定とは別に事業者と覚書を交わすよう宮下知事に求めました
青森県むつ市の中間貯蔵施設については、事業者のリサイクル燃料貯蔵が9月までの事業開始を目指しています。
操業の前提となる安全協定を巡っては、県が5月、貯蔵期間を50年と明記した協定案を県議会に示していました。
これに対し、最大会派の自民党は、この内容を了とする意見書を宮下知事に提出しました
その中で、使用済み核燃料の搬入と搬出について責任を明確化するため、東京電力と日本原子力発電とも覚書を交わすよう県に求めています。
【青森県議会自民党会派 山田知議員総会長】
「安心・安全を高めていくために、安全協定とは別に、覚書をしっかりと両事業者と交わしていただく必要があると、我が会派ではそのように判断して、知事に対して意見書にも盛り込ませていただいたところです」
また、公明党会派も覚書を交わすよう知事に求めました。


青森県議会定例会が閉会 核燃税の改正条例案などを可決
                       ABA青森朝日放送 2024/6/28
青森県議会定例会は、中間貯蔵施設の使用済み核燃料に課税するための改正条例案などを可決し、閉会しました。
28日は、委員長報告と討論に続き採決を行い、核燃税条例の一部を改正する条例案などを可決しました。
改正後の条例では、中間貯蔵施設で保管する使用済み核燃料1キロ当たり620円を課税します。
これにより、県は2028年度末までにおよそ2億5600万円の税収を見込んでいます。
核燃税について県議会議長は―。
【青森県議会 丸井裕議長】
「できれば、全県的に幅広く県民のためになるような使い方を考えていただきたいと思っています」
また、奥田忠雄総務部長を副知事に選任する人事案についても同意しました。

29- 【霞む最終処分】(47)~(52)

 福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズのバックナンバー、今回は第9部「高レベル放射性廃棄物」((47)~(52))の全編を紹介します。
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【霞む最終処分】(47)第9部 高レベル放射性廃棄物
 寿都町(上) 風のまち投じた一石 地域振興に交付金活用
                           福島民報 2024/06/07
 国内の原子力政策を巡り、国は使用済み核燃料を再処理して使う「核燃料サイクル」の実現を目指す。その過程で生じる高レベル放射性廃棄物の処分先は定まっていない。先送りされ続けてきた最終処分の問題を解決するためには何が必要なのか。国内の動きや海外の先進事例から探る。
 山から吹き下ろす「だし風」が、日本海に白波を立てる。北海道南西部にある寿都(すっつ)町。風力発電機が林立し、羽根が勢いよく回り続けていた。
 全国で初めて町営の風力発電施設を稼働させるなど再生可能エネルギーによる町おこしを進めてきた。「風のまち」と呼ばれる人口2600人余りの港町は、ある日を境に原発から出る高レベル放射性廃棄物を巡り、全国に知られることになる。
 町長の片岡春雄は2020(令和2)年10月、国が進める高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた第1段階「文献調査」の実施を原子力発電環境整備機構(NUMO)に応募した。全国の市町村が調査に手を挙げるのは13年ぶり。暗礁に乗り上げていた、処分事業の時計の針が動き出した。
 応募書類の提出から約3年7カ月がたった今年5月。「高レベル放射性廃棄物の問題に一石を投じるとともに、調査に伴う交付金を地域振興につなげようと思った」。片岡は町長室のソファに深く腰かけ、決断の真意をよどみなく語り始めた。
    ◇    ◇
 政府は2000(平成12)年、高レベル放射性廃棄物の地層処分の手続きを定めた特定放射性廃棄物最終処分法を制定した。同年、実施主体となるNUMOが発足した。
 最終処分場選定には文献調査、概要調査、精密調査の3段階あり、完了までには20年ほどかかる。2007年に全国で初めて高知県東洋町が文献調査に応募したものの、住民らの強い反対で撤回に追い込まれた。以来、手を挙げる市町村はなかった。
    ◇    ◇
 寿都町は1600年代からニシン漁で栄え、漁業や水産加工が基幹産業だ。人口は4町村が合併し、今の姿となった1955(昭和30)年の1万2955人をピークに減り続けている。
 北海道旭川市出身の片岡は専修大商学部を卒業後、東京都内の企業で営業職を経験した。帰郷後、寿都町職員となり、2001年に町長に就いた。民間で培った「稼ぐ力」を生かし風力発電機の増設や、ふるさと納税の返礼品の充実などで歳入増を図ってきた。
 ただ、町の将来的な財政見通しは明るいとは言い難い。風力発電機は13基が稼働し、売電収入は年間7億円余りに上る。固定価格買い取り制度(FIT)に基づき20年間は安定した財源となるが、風力発電機は順次、FITの期限切れを迎える。売電収入が減るのは確実だった。
 「新たな地域振興策はないものか」。片岡は2019年、町議や産業団体関係者を交えたエネルギー政策勉強会を設立した。持続可能な町づくりのため、エネルギー分野を軸にあらゆる可能性を探るのが目的だった。
 同年末、最終処分事業の説明役として招いた経済産業省職員から高レベル放射性廃棄物の現状を聞いた。文献調査を受け入れると、最大20億円の交付金が得られる。概要調査に進めば、さらに70億円が交付される。一般会計の当初予算規模が50億円余りの町には魅力的な数字に映った。「悪い話じゃないな」。片岡の〝営業マン〟としての嗅覚が反応した。ひそかに応募に向けた検討を始めた。(敬称略)
 
高レベル放射性廃棄物 原発の使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す再処理で出た廃液をガラスと混ぜて固めた廃棄物。極めて強い放射線を長期間出し続ける。国は地下300メートルより深い岩盤に埋める地層処分で数万年以上、生活環境から隔離する方針。
 
 
【霞む最終処分】(48)第9部 高レベル放射性廃棄物
 寿都町(下) 調査受け入れ町二分 町長「町民が最終判断」
福島民報 2024/06/08
 北海道南西部の寿都(すっつ)町は2020(令和2)年10月、高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた第1段階「文献調査」に応募した。
 進まない問題に一石を投じ、町には地域振興に充てる交付金が入る。地盤の安全性も確認できる―。こうした判断から町長の片岡春雄は応募を模索した。「調査に手を挙げれば、国にも住民にも喜ばれると考えていた」。取材に応じた今年5月、当時の「誤算」を振り返った。
 応募の2カ月前、町の検討姿勢が一部報道で表に出ると、片岡は「計算外」という強い反対に直面した。静かな港町は賛成派、反対派に分かれて揺れる。複数回の住民説明会を重ねた末に「最後は自身の判断」で調査の実施を申し出た。
    ◇    ◇
 「調査には賛成だ。人が減り続ける中、交付金は町にとってプラスになる」。町内で電器店を営む田中則之は文献調査と、第2段階の「概要調査」は一括で進めるべきと語る。ただ、処分場建設までは認めていない。資料の分析と地層そのものを調べた結果がそろわない以上、処分地としての適性は判断できない。「結果が出ない限り賛否は示せない」と事態の推移を見守る。
 反対の立場を取る町内の水産加工業吉野寿彦は「なし崩し的に最終処分場ができるのではないか」と町や国への不信を募らせる。処分場の必要性は分かっていても自然豊かな古里には要らない。水産資源を生かせば、交付金に頼らず町は存続できると信じる。「全国から注目されて以来、町民が二分された」とやるせなさを漏らす。
 道内では、寿都町と前後し神恵内村でも文献調査が始まった。着手から3年超が過ぎた今年2月、原子力発電環境整備機構(NUMO)は「2町村とも概要調査に進むことが可能」との報告書案を示した。次の段階に移るには町村長に加えて知事の同意が要るが、道知事の鈴木直道は「反対の意見を述べる」としている。
 「では、増え続ける廃棄物をどうするのか」。先行きが不透明な中、片岡は現行の候補地選定手続きの妥当性に疑問を呈す。
    ◇    ◇
 片岡は「最終的に処分場を建設するかどうかは町民の判断」と語る。文献調査に応募後の2021年3月に住民投票条例を制定。概要調査に進む前に、町民の意思を問うつもりだ。
 文献調査の対象となるには ①市町村が応募 ②国からの申し入れ受諾―の二つの道がある。寿都町と神恵内村の応募から3年半余りを経て、今年5月には佐賀県玄海町が調査受け入れを表明し、注目を集めた。
 それでも、片岡の目には問題を巡る国民の議論は深まっていないと映る。「寿都のように、住民の賛否が割れる様子を見れば及び腰になる首長は多いだろう」。高レベル放射性廃棄物の最終処分は国策との前提に立ち、候補地を決める仕組みを根本から改めるべきではないか―。「国が候補地を選び、調べる形にしなければ事態は進まない」と改善を求める。
 片岡は東京電力福島第1原発事故に伴い福島県内で生じた除染廃棄物や、溶融核燃料(デブリ)にも注目する。除染廃棄物は県外最終処分が法で定められているが、2025年度以降の方針や工程は示されていない。高レベル放射性廃棄物と向き合う立場から「国は常に難題を先送りしている」と主張する。「法を順守するならば国は福島の廃棄物の処分地選定を早期に進めるべきだ。地元が積極的に声を上げることも重要だ」(敬称略)
 
 
【霞む最終処分】(49)第9部 高レベル放射性廃棄物
 玄海町(上) 原発の町示した矜持 「適地」選定の呼び水に
                           福島民報 2024/06/09
 佐賀県玄海町の九州電力玄海原発に続く国道204号は朝夕、作業員を乗せたバスや車が絶え間なく往来する。沿道には作業員が定宿とする旅館やホテルが10軒ほど立ち並んでいる。三方を玄界灘に囲まれた岬「値賀崎(ちかざき)」にそびえる原子炉建屋から生み出される電気は、九州地方の人々の営みを支え続けてきた。
 玄海町は国の原子力政策の一翼を担い、半世紀にわたり原発と共存してきた。町長・脇山伸太郎は5月10日、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた第1段階に当たる文献調査の受諾を表明した。文献調査はこれまでに北海道の寿都町と神恵内村で実施されたが、原発が立地する自治体としては初めての決断だった。
 「調査に伴う交付金が目的ではない。最終処分場の適地が見つかるための呼び水になればありがたい」。受諾表明後の記者会見で、脇山は国の原子力政策に長年貢献してきた町の立場に触れた上で、受け入れに込めた思いを語った。
    ◇    ◇
 町の人口は4900人ほど。玄界灘の豊かな水産資源を生かした漁業、ハウスミカンなどの農業が基幹産業だ。国は1965(昭和40)年、全国で原発建設を進めるに当たり、立地候補地の一つとして玄海町を選んだ。町議会は新たな産業の創出に向け、原発誘致を決議。1975年10月、九州で初となる玄海原発1号機が営業運転を開始した。以来、経済発展に伴い増え続ける電力需要に符合するように、最大で4基(出力計347万8千キロワット)が稼働した。
 2011(平成23)年3月の東京電力福島第1原発事故の発生後、1、2号機は老朽化に伴い廃炉が決まり、現在は3、4号機の2基(出力計236万キロワット)が運転している。構内では社員や協力会社の作業員合わせて約3500人が働く
 町は全国で初めてプルサーマル発電を受け入れ、原発事故発生後には当時の町長・岸本英雄が他の立地自治体に先駆けて再稼働を容認した。原子力政策への協力を惜しまず、原発と共に発展してきた町には「日本のエネルギーを支えてきた」(町関係者)との矜持(きょうじ)が根付く。
    ◇    ◇
 住民が「原発がなければ、玄海はない」と言うほど、町は原発立地の恩恵に浴してきた。2基が廃炉となったものの、町の財政は潤いを保っている。100億円規模の一般会計当初予算のうち、歳入の6割程度は電源3法交付金や固定資産税など原発関連だ。町の財政需要に占める収入の割合を示す「財政力指数」は1・18(2022年度)。人口は県内の20市町で最少ながらも、県で唯一、財政面で豊かとされる地方交付税不交付団体となっている。
 「お金目的じゃない。その言葉通りだ」。町旅館組合の男性組合長は脇山の発言に同調した。玄海原発の目と鼻の先にある旅館で育った男性は、北海道を舞台とした高レベル放射性廃棄物最終処分の動きに関心を寄せてきた。一向に全国的な議論にならない現状にもどかしさを募らせていた。昨年11月から組合員と協議を重ね「廃棄物の発生原因を有する自治体の責務として、国に協力すべき」などとする請願を起案した。
 組合を含む町内3団体がまとめた文献調査を求める請願は4月、町議会に受理された。「調査への応募、受け入れの考えはない」と首尾一貫した発言をしてきた脇山の心は、揺れ動くこととなる。(敬称略)
 
 
【霞む最終処分】(50)第9部 高レベル放射性廃棄物
 玄海町(下) 廃棄物処分 日本の問題 「国が議論リードを」
                            福島民報 2024/06/11
 九州電力玄海原発が立地する佐賀県玄海町を対象とした、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の第1段階「文献調査」は10日、始まった。
 調査を巡る動きが表面化したのは4月15日だ。旅館組合など町内3団体が町議会に出した、調査への応募を求める請願が町議会の原子力対策特別委に付託された。請願は26日の本会議で賛成多数で採択された。
 5月に入ると、経済産業省は幹部を町に送り、調査を申し入れた。7日には町長・脇山伸太郎と経産相・斎藤健の会談が組まれた。斎藤は「調査は処分場選定に直結しない」と強調。調査に否定的だった脇山は会談後、持論と議会の判断との「板挟み」になったと胸中を明かし、5月10日に「住民の代表である議会の採択は重い」と調査に応じる考えを示した。
    ◇    ◇
 高レベル放射性廃棄物を生む原発の立地自治体として、全国的な議論喚起を目指し調査を受け入れた玄海町だが、最終処分場の候補地となる可能性があることに複雑な思いを抱く住民もいる。脇山の表明から10日余りが過ぎた5月下旬。漁港で漁の準備をしていた男性(67)は「町民は何らかの形で原発の恩恵を受けてきた。反対とは言いづらい」と声を潜めた。交付金などによる地域振興を期待する一方、「余計な施設は持ってきてほしくない」と本音ものぞかせた。
 経産省は2017(平成29)年、全国を最終処分場の適地と不適地に色分けする「科学的特性マップ」を公表。玄海町に関しては地下全域に炭田が広がり、将来的に採掘する可能性がある不適地としていた。国は町への申し入れに先立ち、原子力発電環境整備機構(NUMO)に地層の再確認を依頼した。
 NUMOは、マップには石炭など鉱物が存在し得る範囲を広く示したとした上で「(玄海町には)炭田の存在が確認されていない範囲もある」との報告書を作成。経産省は「調査の実施見込みあり」と判断して申し入れに踏み切った。
 一度は不適地とされながらも調査が始まった点について、請願の採決で反対した町議の宮崎吉輝はマップ自体の形骸化を指摘する。最終処分場は地下300メートルより深い岩盤に、6~10平方キロの範囲で整備される。宮崎は町面積が約36平方キロであるとして「多くの住民が暮らす真下に処分場が広がることになる」と安全性への懸念を口にする。
    ◇    ◇
 文献調査に続く第2段階「概要調査」に移るためには、地元首長に加えて知事の同意が必要となる。玄海町のある佐賀県知事の山口祥義は反対の姿勢を崩しておらず、調査が進展するかは不透明だ。
 文献調査に賛成派の町議の松本栄一は原発立地町の玄海でさえ、住民の間で最終処分への理解は進んでいないと指摘。国やNUMOに対して「もっと地域に入って考え方や取り組みを伝え、住民の意見を聞く努力をすべきだ」と注文する。
 東京電力福島第1原発事故に伴い、福島県で発生した除染廃棄物は県外での最終処分が法律に明記されているが、処分への具体的道筋は示されていない。原発に大量に残る使用済み核燃料や溶融核燃料(デブリ)の扱いも全くの白紙だ。
 松本は福島の現状も含めて「原発からの廃棄物は必ず、処分しなければならない。国は棚上げを続けてきた」と批判する。原発の問題を日本全体で考える時期に来ているとし、「地元任せではなく、国がより議論をリードしなければ物事は進まない」と語気を強めた。(敬称略)
 
 
【霞む最終処分】(51)第9部 高レベル放射性廃棄物
 スウェーデン 信頼獲得に長い歳月 失敗教訓に対話重ね
                           福島民報 2024/06/12
 日本から約8千キロ離れた北欧最大の国スウェーデン。首都ストックホルムの約120キロ北に位置するエストハンマル自治体のフォルスマルクは、海や森に囲まれた美しい景色が広がっている。
 1986(昭和61)年、世界中にその名が知れ渡った。フォルスマルク原発の作業員の靴から高線量の放射性物質が検出されたことを機に、ソ連が隠していたチェルノブイリ原発事故が明るみに出た。
 この地は2009(平成21)年、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設予定地に決まった。2022(令和4)年には事業計画が政府から承認され、2030年代後半の稼働を目指している。
    ◇    ◇
 スウェーデンは使用済み核燃料を再処理せず、銅製の容器「キャニスター」に入れ、地下約500メートルの岩盤に処分する方針だ。同国のヴァッテンフォール社など電力事業者4社の共同出資会社スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)が地層処分事業を担う。
 SKB社はエストハンマル自治体の18歳以上の住民を対象に毎年、処分場建設に関する意向調査を実施している。直近の調査では86%が建設に賛成と答え、反対は9%だった。
 高い支持率を得るまでには約40年もの歳月と労力を要した。「あの時の失敗から学んだ」。SKB社の広報担当者は振り返る。1980年代、住民にしっかりとした説明をせず調査を始めたところ、猛反発が起こり撤回した苦い経験がある。時間をかけて住民と向き合い、対話を重ねてきた。
 対話の際の重要なキーワードとして「ペイシェント(忍耐)」「グッドシューズ(いい靴)」「コミュニケーション」を挙げる。忍耐強く、多くの家に何度も出向いて説明するには丈夫な靴が要る。何より、住民とコミュニケーションを取る姿勢が大切だと説く。
 スウェーデンでは日本の文献調査に相当するフィージビリティ調査と、概要調査に当たるサイト調査の2段階を経て、建設予定地を選ぶ。処分場の建設地を決める際にはいくつかの自治体が手を挙げ、2カ所に絞り込まれた
 岩盤に亀裂が少なく、地下水の流れが遅いなど長期安全性の確保に重要な地質学的条件を満たしたエストハンマル自治体が選ばれた。自治体の職員は「国の未来を左右していることに責任と誇りを持っている」と胸を張る。一方、選ばれなかった自治体では、悲しみのあまり、地元のスーパーで「なぐさめセール」が行われたという。
    ◇    ◇
 NPO法人ハッピーロードネット(広野町)の企画で昨夏、浜通りと北海道、青森、茨城、福井各県の高校2年生13人が高レベル放射性廃棄物について学ぶためスウェーデンを訪ねた。最終処分場の建設予定地や最終処分の技術試験を行っているエスポ岩盤研究所、使用済み核燃料を保管するキャニスターの研究所などを視察し、日本の最終処分事業との進め方の違いについて理解を深めた。
 参加した磐城桜が丘高の生徒は「自分たちの生活を支えている電気やエネルギーについて理解を深めるのが重要」、原町高の生徒は「自分事として考えなければならない」とそれぞれ感想を語った。
 現地で合流した経済産業省資源エネルギー庁放射性廃棄物対策課長の下堀友数は「最終処分場の選定には、長い時間がかかる。スウェーデンと比べれば日本はスタート地点に立ったばかりだ」と受け止める。その上で「若者をはじめ、あらゆる世代がこの問題に向き合うことが大切」と強調した。(敬称略)
 
スウェーデンの原発事情 1979年の米国スリーマイルアイランド原発事故を受け、1980年の国民投票で原発からの段階的な撤退を決定し、廃炉を進めてきた。その後、温暖化対策や安定的なエネルギー供給の観点から建て替えを認める法案を可決した。現在はオスカーシャム、リングハルス、フォルスマルクの各原発で計6基が稼働している。
 
 
【霞む最終処分】(52)第9部 高レベル放射性廃棄物
 結論なく過ぎた半世紀 国の覚悟いまだ見えず
                           福島民報 2024/06/13
 人類が原子力の平和利用を進めていた1954(昭和29)年、旧ソ連のオブニンスク原発が世界で初めて営業運転を始めた。遅れること12年。1966年に日本原子力発電東海発電所(茨城県東海村)の商用炉に火がともり、国内でも原発との歩みが始まった
 エネルギー資源に乏しい日本の原子力政策では、原発の使用済み燃料を再処理し、プルトニウムなどを再利用する「核燃料サイクル」が進められてきた。仕組みを回すためには、抽出後に残る高レベル放射性廃棄物を埋設する最終処分地が欠かせない。にもかかわらず、原発の稼働開始から60年近くを経ても最終処分のめどは立っていない
 各原発の使用済み燃料プールなどに保管されている核燃料は約1万9千トンに上る。現在の貯蔵上限値約2万4千トンの約8割に達しており、処分場の確保は一刻を争う。
    ◇    ◇ 
 東京電力福島第1原発では廃炉作業に伴う放射性廃棄物が増え続けている。最終的な処分の在り方は定まっていない。福島県内の除染で発生し、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に一時保管中の土壌は2045年3月までに県外で最終処分すると法律で「約束」されている。しかし、期限まで21年を切っても除染土壌の行き先は霧の中にある。
 政府は昨年夏、福島第1原発からの処理水の海洋放出を決める過程で「その場しのぎ」「結論ありき」ともとれる進め方を重ねた。長崎大教授(原子力政策)の鈴木達治郎は一連の政策決定の問題点を「最終的な強行姿勢を含め、国に対する国民の不信感が高まった」と指摘する。
 鈴木は宙に浮いた高レベル廃棄物と、原発事故に由来する廃棄物の最終処分に共通する問題として「国が前面に立ち、責任を負う覚悟が見えない」点を挙げる。原発を国策とする以上は自治体や事業者任せではなく、国が科学的な根拠に基づいて複数の処分適地を選び、協議を主導する手法に転換するよう訴える。「廃棄物が存在する限り、最終処分の問題は避けては通れない。だが、国民的議論は始まってすらいない。国は結論ありきではなく、幅広く声を聞く対話の場を設ける必要がある」と政府に積極的な行動を求める。
    ◇    ◇ 
 知事の内堀雅雄は「廃炉の問題は国の責任において対応すべきである」との姿勢を貫いている。双葉町長の伊沢史朗は福島第1原発と中間貯蔵施設のある町として最終処分の実現を求めてきた。「復興のために、と覚悟して中間貯蔵を受け入れた町民の思いを背負い、国が最後まで取り組むよう訴え続ける」と強調する。
 ただ、現状では除染土壌や溶融核燃料(デブリ)などの問題がいつ解決するかは見通せない。県内には「県がより積極的に関わるべきだ」との指摘もある。
 福島第1原発ができるまでの双葉郡の主な産業は農業だった。勤め先は限られ、多くの住民が首都圏などへの出稼ぎを余儀なくされた時代がある。原発の立地に伴う交付金は立地町をはじめとする地域を潤した。2011(平成23)年3月に原発事故が起きるまで県には年間20億円超の交付金が入り、中通りや会津地方の発展にも充てられた
 「原発事故に絡む廃棄物の最終処分は国の責任だ。それと同時に福島県民も向き合い、考えなければならない問題だろう」。高レベル廃棄物の処分場選定に向け、文献調査を受

け入れた北海道寿都町長の片岡春雄は語る。福島の復興を託す次世代に恥じぬ対応とは何か、県民一人一人に問われている。(敬称略)

 =第9部「高レベル放射性廃棄物」は終わります=

2024年6月26日水曜日

今年の原子力白書は放射線特集、6000人アンケで海洋放出「受け入れられない」は4割

 内閣府原子力委員会は25日、今年の原子力白書を決定しました。

 この中で昨年、福島第一原発のアルプス処理水の海洋放出が始まったことを踏まえ、原子力や放射線に詳しい層1000人と一般層6000人に対してアンケートを取ったところ、放出を「受け入れられない」と回答した割合は、詳しい層で14%だったのに対し、一般層では約3倍の42%でした。
 これについて同委員会は生活の中でも常に被ばくしていることや医療や工業などで放射が活用されていることを挙げて、放射線に関する正確な知識が浸透していないと指摘したということです
 しかし、大昔から空間線量によって低レベルの被曝をしていることや健康維持等のために必要に基づいて放射線を利用するケースと、コスト低減のために最終的に880トンの放射性物質を海洋に放出することとを、ごっちゃにして論じることこそ間違いでしょう。
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今年の原子力白書は放射線特集、6000人アンケで処理水「受け入れられない」は4割
                            読売新聞 2024/6/25
 内閣府原子力委員会は25日、今年の原子力白書を決定した。昨年、東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が始まったことを踏まえ、放射線について特集。内閣府はインターネット形式のアンケートを実施し、理解度を調べた。
 アンケートでは、原子力や放射線に詳しい層1000人と一般層6000人を比較。処理水について「受け入れられない」と回答した割合は、詳しい層で14%だったのに対し、一般層では約3倍の42%だった
 処理水は汚染水を特殊な設備で浄化処理し、トリチウム以外の大半の放射性物質を取り除いた水。政府は人体や環境に影響を与えることはないとしている。
 同委員会は白書で、国などの関係者に向けて「国民の信頼を得る努力を粘り強く継続していかなければならない」と提言している。


福島処理水、安全性浸透と評価 23年度版原子力白書取りまとめ
                        共同通信 2024年06月25日
 国の原子力委員会(上坂充委員長)は25日、2023年度版の原子力白書を取りまとめた。23年8月に始まった東京電力福島第1原発の処理水海洋放出について、安全性は国民に一定程度浸透しているとしつつ、国と東電に「継続して不安の声に応える粘り強い取り組み」を求めた。
 白書は、国際原子力機関(IAEA)による処理水放出計画の評価を「第三者機関の協力を得て情報発信の客観性や透明性を確保しようとする取り組みは有効」と指摘。国と東電の対応も、国民の不安の払拭に一定程度寄与したと総括した。
 一方、放出は放射性物質の安全性などについて「国内外で議論を巻き起こした」と言及した。中国が日本産水産物の輸入を停止、ロシアも追随し、ホタテなどを取り扱う漁業関係者が影響を受けたと振り返った。
 白書は、放射線に関する正確な知識が浸透していないと指摘。生活の中でも常に被ばくしていることや、医療や農業、工業分野で利活用されている現状を強調し、利用促進には安全性の確保に加え、社会的な受容性など多面的な考慮が必要だと訴えた。

今更 川内原発1・2号機の30年超運転に必要な「長期施設管理計画」を認可申請

 九州電力は24日、川内原発1、2号機について、30年を超えて運転する場合に必要な「長期施設管理計画」の認可を原子力規制委員会に申請しました
 しかし川内1号機は1984年7月、同2号機は85年11月に営業運転を始め、それぞれ39、38年が経過しています。それがいずれも「原則40年」とされる運転期間について昨年、規制委から20年間の延長の認可を受けていて時系列的にめちゃめちゃな関係になっています。
 運転30年を40年に延長する手続きも、40年から60年に延長する手続きもいずれも形式的なものであって「付け焼刃」的に定められたものであることが良く分かります。
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川内原発1・2号機の30年超運転に必要な「長期施設管理計画」、九州電力が認可申請
                             読売新聞 2024/6/25
 九州電力は24日、川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)について、30年を超えて運転する場合に必要な「長期施設管理計画」の認可を原子力規制委員会に申請した2023年5月に成立した「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」に対応するための措置で、関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)に続く3、4例目の申請となる。
 計画は電力会社が設備の劣化管理などのために策定するもので、既に30年を超えている原発の場合、同法が施行される25年6月6日の前日までに認可を得る必要がある。その後も10年以内ごとに計画を申請して認可を受け、運転を続ける仕組みだ。
 川内1号機は1984年7月、同2号機は85年11月に営業運転を始め、それぞれ39、38年が経過している。いずれも「原則40年」とされる運転期間について昨年、規制委から20年間の延長の認可を受けた

むつ中間貯蔵施設から得られる税収の9割が原子力災害時 緊急避難に向けた費用となる見込みと

 青森県はむつ市に建設中の使用済み核燃料の中間貯蔵施設に対する核燃料税で得られる税収の9割が原子力災害時の緊急避難に向けた費用となる見込みを示しました。

 緊急避難時に過剰な被爆をさせないことは決定的に重要なことです。2・6億円でそれを賄えるかはまた別問題ですが・・・
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むつ中間貯蔵施設から得られる税収の9割が原子力災害時の緊急避難に向けた費用となる見込み
                          RAB青森放送 2024/6/25
県はむつ市に建設中の使用済み核燃料の中間貯蔵施設に対する核燃料税で得られる税収の9割が原子力災害時の緊急避難に向けた費用となる見込みを示しました。
むつ中間貯蔵施設を課税対象に追加する改正条例案は県議会で審議されていて、県は事業開始から5年間でおよそ2億6,000万円の税収を見込んでいます。きょうの質疑で自民党の成田議員の質問に対し県は2.6億円の算定根拠となる財政需要の内訳を明らかにしました。
原子力災害時の避難路や避難場所の確保に関する経費が2億3,000万円で、およそ9割を占めています。そして立地周辺地域を中心とした農林水産業の基盤整備や定住促進などの経費が3,000万円だと説明しました。県議会は28日に議案の採決を行い閉会します。

26- 【霞む最終処分】(39)~(46)

 福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズのバックナンバーは第38回(第6部「リーダーシップ」)分で止まっていました。
 今回は第7部「原発構内の廃棄物」((39)~(43))8部「デブリの行き先」(44)~(46))の各全編を紹介します。

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【霞む最終処分】(39)第7部 原発構内の廃棄物
 高線量汚泥満杯近づく 一時的対応では限界
                           福島民報 2024/05/24
 東京電力福島第1原発事故を巡っては、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に搬入された除染土壌と同様、廃炉作業が続く原発構内でも放射性物質を含む大量の廃棄物が保管されている。増え続ける汚泥やがれきに加え、将来には溶融核燃料(デブリ)取り出しを控える。これらの処理・処分方法は明確に定まっておらず、福島県外での最終処分が法的に担保された除染土壌以上に、処分の道筋をつけるハードルは高い。事故発生から13年余りが経過した原発構内の廃棄物に迫る。
 東京電力福島第1原発の敷地南側には、処理水を入れた保管タンクが林立している。その一角、谷間のような場所に灰色の箱が並ぶ。
 箱の中身は汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化する際に出た放射性汚泥(スラリー)だ。HIC(ヒック)というポリエチレン製の特殊容器に入れた上でコンクリートの箱に収め、周囲の空間放射線量の上昇を抑えている。
 HICは約3立方メートルで、1カ月に平均14基ほどのペースで増え続けている。現在の保管容量は4576基だが、4月25日時点で既に4347基、全体の95・0%に達した。「逼迫(ひっぱく)状態だ」。汚泥は処分方法が定まっておらず、東電の広報担当者は危機感を隠さない。
    ◇    ◇
 原子力規制委員会は2022(令和4)年、福島第1原発構内にHICの置き場を早期に増設するよう指示した。保管場所を確保できなければ、ALPSの稼働停止を余儀なくされ、汚染水の処理が滞る恐れもある。
 東電は汚泥を脱水した上で固体にし、減容化する処理施設の建設を計画している。この計画に対し、規制委は飛散対策について安全対策が不十分と判断。東電は当初、2022年度に予定していた処理施設の運用開始時期を見直すこととなった。設備は設計中の段階にとどまり、稼働は2026年度末ごろとなる見通しだ。
 東電は置き場の増設といった対策では限界があることから、一日も早い処理施設の完成を目指す考えだ。だが、廃止措置工学を専門とする福井大客員教授の柳原敏(日本原子力学会廃棄物検討分科会主査)は「減容化して保管容量をいくら稼いでも、問題の先送りに過ぎない」と指摘する。
    ◇    ◇
 東電は汚泥など福島第1原発構内で出る廃棄物の保管管理計画を10年間程度の発生量を予測しながら作り、廃炉作業の進捗(しんちょく)を踏まえて1年ごとに更新している。ただ、廃炉を完了するとしている2041~2051年までに、どんな種類の廃棄物が「どの程度」発生し、最終的に「どこで、どのように」最終処分するのか。その見通しはついていない。柳原は「廃炉ロボットなどの技術開発と比べて、廃棄物の対策は後手に回っている」との印象を抱く。
 県は福島第1原発構内の廃棄物について除染土壌と同様、県外での最終処分を求めている。廃炉後の周辺地域の将来像を描くには、原発の敷地を最終処分地にさせないことが必須条件だからだ。保管や処分の着地点を見いだせない国と東電に対し、県は責任ある廃炉作業を求め続けている。「国は廃棄物対策など東電への指導監督を徹底すべきだ」(県原子力安全対策課)と訴える。(敬称略)


霞む最終処分】(40)第7部 原発構内の廃棄物
 東電対応その場しのぎ 早急に処理の道筋を
                           福島民報 2024/05/25
 東京電力福島第1原発で出る放射性廃棄物の処分方法、処分先は法律などで決まっていない。東電は廃炉作業の進捗(しんちょく)に伴い、次々と発生する膨大な廃棄物への対処を迫られている。「対応が遅い。廃棄物対策を廃炉に向けた主要な課題と捉えて取り組む必要がある」。廃止措置工学を専門とする福井大客員教授の柳原敏(日本原子力学会廃棄物検討分科会主査)は、東電の現状の対応を「その場しのぎ」と指摘する。
 福島第1原発の廃炉には事故発生から30~40年を要するとされている。東電は廃棄物の発生量の実績や今後見込まれる量を計画に反映させながら保管管理している。ただ、実際に発生が予測される廃棄物の量と対策については、10年ほど先までしか触れていない。
 廃炉の完了を見据えた処理・処分の方法は定まらず、「第1原発の廃棄物対策の将来像は、ぼんやりとしている」。東電の広報担当者は苦い表情を浮かべる。
 海洋放出が始まり、処理水の保管量が減少に転じた一方、放射能レベルの高い汚泥などの廃棄物は増え続けている。東電は保管先を増設するなどの「対処療法」を講じながら、逼迫(ひっぱく)する事態を何とかやり過ごしているのが実情だ。廃炉作業がさらに進めば、1~3号機からの取り出しが計画されている溶融核燃料(デブリ)、原子炉建屋などを形作る各種の設備・機器が、取り扱いのより難しい廃棄物として表面化してくる。
    ◇    ◇ 
 廃棄物の対応が後手に回り続ければ、廃炉作業そのものの足を引っ張りかねない。「デブリの取り出しを進めながら、廃棄物の総量や対策を並行して考えないと大変なことになる」。先行きを不安視する声は東電内部からも上がっている。
 燃料デブリや使用済み核燃料を含む福島第1原発の放射性廃棄物について、福島県は県外で処分するよう国に求めているが、見通しは立っていない。柳原は廃炉後の原発の敷地を更地とするのか、建物を残すのかの方針が定まっていない現状を問題視する。「逐次的な対応ではなく、廃炉後の敷地の利用方法などエンドステート(最終的な状態)を見据えた議論を急ぐべきだ」と訴える。廃炉完了までの具体的な筋書き(シナリオ)を示し、廃棄物対策に資金や人材を積極的に投じる必要があるとした上で「(事故炉の廃炉は)前例がないのだから、なおさら先手を打たなければならない」と繰り返した。
    ◇    ◇ 
 柳原らが所属する日本原子力学会の廃棄物検討分科会は、2020(令和2)年に福島第1原発の廃炉に伴う廃棄物管理対策に関する報告書を取りまとめた。廃炉作業が完了し、敷地を再利用できるようになるまでには最短でも100年以上かかると試算。その場合、最大で約780万トンもの放射性廃棄物が出ると推計した。一般的な商業原発1基の廃炉で発生する放射性廃棄物が「多くて数万トン程度」とされているのと比べてはるかに甚大な量だ。
 報告書は原発由来の廃棄物を巡る国の対策について「先送りされる傾向がある」と厳しい目を向ける。その上で「第1原発では先送りすれば、廃炉完了の時期が延びることになる」と、問題が困難であろうとも、目をそらさぬよう警告している。(敬称略)


【霞む最終処分】(41)第7部 原発構内の廃棄物 低線量でも処分困難 事故由来、他原発と別
                           福島民報 2024/05/26
 東京電力福島第1原発で行き場を失っている放射性廃棄物は、原子炉内に残る溶融核燃料(デブリ)や汚染水の浄化過程で生じる汚泥(スラリー)のような強い放射線を出す廃棄物にとどまらない。東電は敷地内を襲った津波や原子炉建屋の水素爆発で壊れたコンクリート、配管などといったがれき類、作業員が着けた保護衣・手袋など、放射線量の比較的低い廃棄物を構内で大量に保管している。これら低線量の放射性廃棄物も、廃炉作業の進展に従って増え続けている。
 国と東電が定める廃炉工程表「中長期ロードマップ」は2028(令和10)年度までにがれき類の屋外保管を解消すると明記している。がれき類などは福島第1原発構内に9棟ある固体廃棄物貯蔵庫に集約、保管されている。9棟の保管容量は約5万5千立方メートルで、3月末時点の貯蔵量は約7割の3万8300立方メートルとなっている。この1年では200立方メートル増加したが、屋外にはまだがれきや伐採木などが残る。
    ◇    ◇
 原子力規制委員会は2021年、国内の一般的な原発で出る低レベル放射性廃棄物のうち、放射性物質濃度が最も高いクラスの最終処分に関する規制基準を決めた。基準では放射能レベルの高い順に「L1」「L2」「L3」の三段階に分類。制御棒や廃炉構造物などが該当するL1は地下70メートルよりも深い場所に埋設する―など、レベルによって異なる処分方法を示した。
 ただ、この規制基準はあくまで通常の原発を対象としている。過酷事故を起こした福島第1原発は、ルールの「枠外」に置かれたままだ。原子力規制庁は福島第1原発から出る放射性廃棄物を「原発事故由来の核種があり、他の発電所と同様の扱いはできない」とみており、一般の原発と同じ基準を適用するのは難しいとの立場を取っている。
    ◇    ◇
 福島第1原発の廃棄物は、事故によって飛散したさまざまな放射性物質に汚染されている可能性がある。このため、低線量の廃棄物であろうと通常の原発と同じ扱いをすれば、外部に想定外の影響を及ぼす可能性があるのが実情だ。
 原子核工学を専門とする京都大大学院工学研究科教授の佐々木隆之は、福島第1原発の放射性廃棄物の取り扱いを決めるためには「それぞれの廃棄物がどの程度汚染されているのかを分析、調査した上で処分方法などの技術を明確にしなければならない」と指摘している。だが、分析の手法を確立するまでには試行錯誤が予想され、専門家からは「長い年月がかかる」との見方が出ている。
 原子力規制庁東京電力福島第1原子力発電所事故対策室長を務める岩永宏平は「廃炉作業が進む中で、さらに大量の放射性廃棄物が発生していく。(処分するための)新たな基準づくりを急がなければならない」と強調した。(敬称略)


【霞む最終処分】(42)第7部 原発構内の廃棄物
 処分議論停滞に警鐘 廃炉への展望描けず
                           福島民報 2024/05/27
 東京電力福島第1原発は2011(平成23)年3月の水素爆発により大量の放射性物質が飛散し、敷地全体が汚染された。低線量の廃棄物も、さまざまな種類の放射性物質を含んでいる恐れがある。
 東電は放射性廃棄物の処分に向け、日本原子力研究開発機構(JAEA)などの研究機関の協力を得て廃棄物の性質の調査・分析を進めている。それぞれの廃棄物の汚染状況や処分した場合の周囲への影響などを見極めた上で、廃棄物の取り扱いや再利用策を構築する考えだ。
 今後は放射性廃棄物に加え、原子炉から取り出す溶融核燃料(デブリ)も対象とする総合分析施設の設置を検討しており、2020年代後半の完成を目指している。現在100人程度の作業員が先行して分析作業に携わっている。今後は毎年5人ほどのペースで増やし、訓練を重ねながら体制を強化していく。
    ◇    ◇
 「福島第1原発の廃炉に関するエンドステート(最終的状態)の議論は、廃棄物がどこへ行くのかという議論そのもの」。2022(令和4)年2月の原子力規制委員会の定例会見で、委員長の更田豊志(当時)は福島第1原発の廃炉完了を見据え、廃棄物の最終処分に関する議論を進める必要性に触れた。
 原子炉建屋の解体など今後控える廃炉作業では、既に発生済みの放射性廃棄物を上回る大量のコンクリート殻などが出ることは確実だ。原発構内の敷地には限りがあり、全量を保管できるだけの固体廃棄物貯蔵庫を確保するのは現実的ではない。
 最終処分の道筋が決まらない中、更田は2年前の会見で地上保管だけにこだわらず、一時的に構内に「埋設」する方法にも言及した。だが、長期保管に通じかねない印象を帯びる埋設という手だてが、地域の理解を得られるかどうかは見通せない。
 除染土壌を一時保管している中間貯蔵施設の整備先が大熊町、双葉町に決まる過程でも、難航の背景には「なし崩し的に最終処分につながるのでは」という住民側の不信感があった。
 更田は「地元には心理的な抵抗が生まれる」と自らの案の課題を認めながら、「東電や国がどこまで信用されているかということだ」と言い切った。
    ◇    ◇
 原子力規制庁も福島第1原発構内の敷地が逼迫(ひっぱく)する中、大規模な施設を設けて廃棄物を保管するのは難しいと認識している。通常の原発から出る廃棄物の処分先ですら決まらない現状で、福島第1原発で生じる膨大かつ多様な廃棄物の受け入れ先を選び、確保するのは至難の業だ。
 経済産業省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会委員を務める松久保肇(NPO法人原子力資料情報室事務局長)は「かなりの時間をかけて丁寧に議論しなければならない」と問題を解決する難しさに理解を示す。その上で、「原発事故からもう13年も経過している。廃炉完了まで30~40年とする全体の工程に影響しかねない」と指摘。「早期に結論を見いださなければ廃炉の最終形は見通せない」と停滞する現状を打ち破る必要性を強調した。(敬称略)


【霞む最終処分】(43)第7部 原発構内の廃棄物
 欠かせぬ減容化加速 前例なき廃炉の鍵に
                         しんぶん赤旗 2024/05/28
 東京電力福島第1原発の廃炉作業で発生した、がれき類など放射性廃棄物の処分方法が定まらない中、東電は原発構内で保管している廃棄物の総量を減らすために焼却・減容処理を進めている。
 東電の試算によると、福島第1原発の構内では、11年後の2035年3月までに、約76万立方メートルのがれき類が発生する。焼却や減容化により、このうち約33・8万立方メートルを減らせる見通しで、減容前の半分近くに抑えられる。構内に設置を検討している溶融設備で金属などを溶かすなどすれば、約14万立方メートルを再利用できるという。
    ◇    ◇
 2月には、がれき類のうち、放射線量が毎時1ミリシーベルト以下と比較的低い金属やコンクリートを減容処理する設備の運転を始めた。「ギロチン」のような設備で金属を切断し、コンクリートを大型シュレッダーで砕いて容積を半分程度に減らす。量を減らした後は金属製の容器に詰め、屋内の貯蔵庫に保管している。
 4月上旬、減容処理設備の操作室に「重機のエンジンを停止せよ」「実行よし」などの指示が響いた。作業員が監視モニターで作業の進み具合を確認しながらトランシーバーで現場を指揮していた。建屋周辺で出たがれき、壊れた台車、ドラム缶、パイプなどが次々と運び込まれ、20センチほどに切り刻まれた。
 東電によると、この設備では1日当たり約60立方メートルの金属を処理できる。設備内の風の流れをコントロールするなど、放射性物質が屋外に漏れ出さないよう対策を講じている。
 ただ、この日は作業を始めて間もなく設備に不具合が発生。手順書に基づいて対応し、予定していた残りの作業は翌日以降に持ち越した。東電福島第1廃炉推進カンパニー広報担当の高原憲一は「不安がある時は一度、立ち止まることが大事。速さよりも安全第一で取り組む」と語った。
    ◇    ◇
 東電は処理水を海洋放出して空になったタンクを解体し、新たにできた敷地に廃炉関連施設を建てる方針を示している。しかし、原発構内で発生し続ける廃棄物を保管するコンテナに阻まれ、施設建設のめどは立たない。資源エネルギー庁廃炉・汚染水・処理水対策担当室現地事務所参事官の木野正登は「汚染水の保管タンクを解体してスペースができても、廃棄物のコンテナがすぐに並ぶ。廃炉作業は思うように進んでいない」と問題視し、廃棄物を持ち出せない現状では減容化の加速が廃炉作業の進展に欠かせないという認識を強調する。
 原子力工学を専門とする県原子力対策監の宮原要は「廃棄物対策を適切に講じるには放射性物質の量を適切に把握することが鍵となる。処理や処分の方法を明確にする方策を考えながら取り組む必要がある」と指摘している。
 過酷事故を起こした福島第1原発の廃炉は、世界でも前例のない取り組みだ。今後の廃炉作業には最難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出しをはじめ、原子炉建屋の解体に伴う大量の廃棄物の処理・処分などの困難な工程が待ち受けている。(敬称略)
 =第7部「原発構内の廃棄物」は終わります=


【霞む最終処分】(44)第8部 デブリの行き先
 度重なる取り出し延期 工程表から離れる実態
                           福島民報 2024/06/04
 東京電力福島第1原発の1~3号機に残る溶融核燃料(デブリ)は880トンと推計される。事故から13年余りが経過した今なお、1グラムも取り出せていない。原子炉格納容器内は放射線量が極めて高く、人が立ち入っての作業は不可能だ。東電は遠隔ロボットなどを用いて内部を調査しているが、作業は一進一退の様相を呈している。取り出しに成功したとしても、処分方法や処分先は何も決まっていない。廃炉の「最難関」とされるデブリ取り出しを巡る課題を探る。
 5月下旬、福島第1原発2号機の前には大型クレーンがそびえていた。建屋最上階のプールにある使用済み核燃料の取り出しに向けて、高さ45メートルの作業台を設置する作業が進む。その一方、建屋の内部では、早ければ8月にも始まるデブリ取り出し試験の準備作業が着々と進められていた。
 2号機から600キロ近く西に離れた神戸市の研究施設で、東電は5月28日、作業に使う「パイプ型装置」を公開した。格納容器を模した構造物に投入し、デブリに見立てた小石をつかんだ。計画では、まず3グラム未満のデブリを取り出し、放射性物質の種類や量を分析する。
    ◇    ◇ 
 パイプ型装置は3段階のスライド式で、最大約22メートルまでパイプが伸びる。格納容器の貫通部から差し込み、釣りざおのように動かす。先端に付けた金ブラシなどでデブリを回収。性状の分析や保管・取り出し方法の検討に生かす。
 パイプ型装置は2019年のデブリ接触調査で用いた実績がある。東電は後に控えるロボットアームの改良にも楢葉町の研究施設で並行して取り組んでいる。デブリ取り出しはこれまで3回にわたり延期されてきたが、東電の担当者は「今回こそは確実に取れる」と採取成功に向けて自信を口にする。
    ◇    ◇ 
 政府と東電が定める廃炉の工程表「中長期ロードマップ」では、デブリの取り出しを始める時期は「2021年内」のまま改定されていない。目標を果たせず2年余りが過ぎた現状は工程表と、かけ離れている。
 中長期ロードマップの信ぴょう性を問う声は少なくなく、国と東電の対応が注目される。東電副社長・福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者の小野明は「われわれがどうこう言うものではない。国の方で判断されるものと考えている」と工程表の見直しを決める主体は国だという立場を取る。
 一方、経済産業省資源エネルギー庁の担当者は作業の遅れはデブリの取り出し開始に限られ、工程表全体に与える影響は少ないとみる。「工程を見直す段階にはない」と説明する。
 福島民報社と福島テレビが3月に行った県民世論調査では、ロードマップに記された2051年までの廃炉完了を「達成できない」との回答は「どちらかと言えば」を含めて78・3%に上った。県民の間に、デブリ取り出し開始の相次ぐ延期やトラブルへの不信感が広まっている。
 工程表の進捗(しんちょく)と信頼性は被災地にとって、将来の復興を展望する上で重要な情報だ。原子炉工学が専門の東京工大科学技術創成研究院特任教授の奈良林直は「県民の不信や困惑を招かないためにも、国は工程表を廃炉作業の現状に合わせてつぶさに調整すべきだ。各工程の意味合いや作業の実態を分かりやすく社会に示す必要がある」と指摘する。(敬称略)


【霞む最終処分】(45)第8部 デブリの行き先
 説明会で工法周知 所在・総量「推測の域」
福島民報 2024/06/05
 延期が繰り返されてきた東京電力福島第1原発2号機からの溶融核燃料(デブリ)の取り出しが早ければ8月にも再開される。一方、原子炉建屋が水素爆発した3号機を巡っても、新たな動きが出ている。原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は今月、取り出し工法の説明会を県内で開く。9日の福島県田村市と広野町を皮切りに、避難指示が出るなどした13市町村を29日までに巡る力の入れようだ。
 福島第1原発の廃炉作業の中でも、放射線量が極めて高いデブリの取り出しには、技術的に困難な課題が多く横たわる。取り出し開始が近づくタイミングでNDFが被災地に出向いて説明の場を設ける背景には、処理水の海洋放出を決定するまでの過程で国民の理解が十分に得られなかった―との廃炉に携わる組織としての思いがある。
 取り出し工法の検討を主導したNDFは取り出し開始に際し、性質や安全性に社会の理解を得ながら作業を進める姿勢を示している。説明会ではこうした考え方を紹介し、廃炉全般についての疑問を受け付ける。
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 ただ、説明する工法そのものが専門的な用語を含む。原子炉内の状況やデブリの性質には解明されていない部分も多いだけに、正確な理解につながるかは不透明だ。延期やトラブルによって生じた県民の不信感をこれ以上、招かないためにも、できる限り分かりやすい情報発信が重要になる。NDF廃炉総括グループ執行役員の太刀川徹は「言葉遣いなどをかみ砕いて、正確な情報が伝えられるように努めたい」としている。
 NDFは取り出し工法の提案に向け、前原子力規制委員長の更田豊志をトップとする「デブリ取り出し工法評価小委員会」で約1年をかけて最適な選択肢を検討した。3月に公表した報告書では、候補とされていた三つの工法のうち、空気中でデブリを取り出す「気中工法」を基本路線に据えた。充填(じゅうてん)材で固めて削り出す「充填固化工法」を部分的に取り入れられるかを探るべきだと提言。建屋を構造物で囲って水没させる「冠水工法」は将来的な採用の可能性を見据え、建屋の地下構造を調査するように求めた。
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 東電によると、3号機のデブリは原子炉圧力容器内部には少なく、ほとんどがより下部の格納容器に溶け落ちたとみられている。デブリの在りかや総量はあくまで推測の域を出ない。更田も「どこにどれだけのデブリが、どんな形であるのかが分かっていない」と得られている情報の量や確度の乏しさを認めている。
 原子炉建屋内は福島第1原発の構内でも放射線量が極めて高い。気中工法は、全ての工程を遠隔で行う必要がある。原子力や土木、建築など各分野の専門家10人による小委では一部の委員から遮蔽(しゃへい)性の高い水を用いる冠水工法を推す声もあった。全会一致の結論とならなかった辺りに、最難関とされるデブリを取り出す道のりの険しさがにじむ。(敬称略)
















【霞む最終処分】(46)第8部 デブリの行き先
 2051年までの廃炉「困難」 「搬出先」確保の議論を
                           福島民報 2024/06/06
 日本原子力学会は2020(令和2)年7月、東京電力福島第1原発の廃炉が完了し、敷地を再利用できるようになるには「最短でも100年以上かかる」とする報告書を公表した。2051年までの廃炉作業の完了をうたう政府と東電の廃炉工程表「中長期ロードマップ」に対し、工程の範囲内で通常の原発の廃炉後と同じような状態にするのは「現実的に困難」と疑問を投げかけた。
 報告書の概要は【表】の通り。1~3号機にある溶融核燃料(デブリ)を全て取り出した時点を起点とする四つのシナリオを示している。デブリ取り出し後に直ちに全ての構造物や設備の解体を始め、撤去する場合は廃炉完了までに100年以上かかり、約780万トンの放射性廃棄物が出ると試算。一方、放射線量の低減を数十年待って解体・撤去に取りかかると、廃棄物量は数百万トンまで減るものの、完了までに百数十年から数百年要するとした。
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 ロードマップは2号機からのデブリ取り出しを節目とし、最終盤に当たる第3期に入る。工程表では第3期は30~40年間で完了すると見込んでいるが、「持ち出した後の話が全く進んでいない。期間内に廃炉を実現するのは無理だろう」との声は政府内にもある。
 1~3号機に残るデブリは880トンと推定される。仮に推定通りの量を30年間で取り出すとなると、単純計算では1日当たり80キロのペースで取り出す必要がある。13年余りが経過してなお、一片さえ取り出せていない。
 2号機のデブリ取り出し開始の度重なる延期などを受け、東電の社長小早川智明は1月、福島民報社の取材に「全体の工程をまだ諦める段階ではない」と工程表の見直しに否定的な見解を示した。ただ、作業の安全性の確保などを理由に挙げ「『スケジュール通りに必ずやる』という約束はしないほうが良いと考えている」と変更の可能性を排除しない姿勢も見せている。
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 今後、廃炉技術が飛躍的に進歩し、デブリ取り出しが軌道に乗っても問題は解決しない。県はデブリを含む福島第1原発の放射性廃棄物は県外に持ち出すよう国に求めているが、デブリの最終的な処分方法や処分先について、現行の法律や制度は何ら定めていない。
 汚染レベルを把握できている一般原発の放射性廃棄物や、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に保管されている除染土壌でさえ処分先は定まっていない。経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「性質も総量も未確定なデブリの行方を決める作業は相当、難航する」と認める。
 原子力工学が専門の東京大大学院工学系研究科教授の岡本孝司はデブリの行き先の選定には「社会的な合意形成が重要になる。国や東電を中心に慎重に検討する必要がある」と指摘する。
 「デブリの定義、法的な位置付けがあいまいなのが問題だ」。閣僚経験のある福島県関係の国会議員も、処分先選定には時間を要するとの認識で一致している。事故から13年余りが経過した現状を踏まえ、「最終的な敷地外処分を法律で位置付ける方法も選択肢の一つだ。政府はそろそろ議論を始めるべきだ」と語る。後世につけを残さないため、デブリの行き先を探る時期に来ている。(敬称略)











 =第8部「デブリの行き先」は終わります=