2024年6月26日水曜日

26- 【霞む最終処分】(39)~(46)

 福島民報が断続的に掲載している「霞む最終処分」シリーズのバックナンバーは第38回(第6部「リーダーシップ」)分で止まっていました。
 今回は第7部「原発構内の廃棄物」((39)~(43))8部「デブリの行き先」(44)~(46))の各全編を紹介します。

           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【霞む最終処分】(39)第7部 原発構内の廃棄物
 高線量汚泥満杯近づく 一時的対応では限界
                           福島民報 2024/05/24
 東京電力福島第1原発事故を巡っては、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に搬入された除染土壌と同様、廃炉作業が続く原発構内でも放射性物質を含む大量の廃棄物が保管されている。増え続ける汚泥やがれきに加え、将来には溶融核燃料(デブリ)取り出しを控える。これらの処理・処分方法は明確に定まっておらず、福島県外での最終処分が法的に担保された除染土壌以上に、処分の道筋をつけるハードルは高い。事故発生から13年余りが経過した原発構内の廃棄物に迫る。
 東京電力福島第1原発の敷地南側には、処理水を入れた保管タンクが林立している。その一角、谷間のような場所に灰色の箱が並ぶ。
 箱の中身は汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化する際に出た放射性汚泥(スラリー)だ。HIC(ヒック)というポリエチレン製の特殊容器に入れた上でコンクリートの箱に収め、周囲の空間放射線量の上昇を抑えている。
 HICは約3立方メートルで、1カ月に平均14基ほどのペースで増え続けている。現在の保管容量は4576基だが、4月25日時点で既に4347基、全体の95・0%に達した。「逼迫(ひっぱく)状態だ」。汚泥は処分方法が定まっておらず、東電の広報担当者は危機感を隠さない。
    ◇    ◇
 原子力規制委員会は2022(令和4)年、福島第1原発構内にHICの置き場を早期に増設するよう指示した。保管場所を確保できなければ、ALPSの稼働停止を余儀なくされ、汚染水の処理が滞る恐れもある。
 東電は汚泥を脱水した上で固体にし、減容化する処理施設の建設を計画している。この計画に対し、規制委は飛散対策について安全対策が不十分と判断。東電は当初、2022年度に予定していた処理施設の運用開始時期を見直すこととなった。設備は設計中の段階にとどまり、稼働は2026年度末ごろとなる見通しだ。
 東電は置き場の増設といった対策では限界があることから、一日も早い処理施設の完成を目指す考えだ。だが、廃止措置工学を専門とする福井大客員教授の柳原敏(日本原子力学会廃棄物検討分科会主査)は「減容化して保管容量をいくら稼いでも、問題の先送りに過ぎない」と指摘する。
    ◇    ◇
 東電は汚泥など福島第1原発構内で出る廃棄物の保管管理計画を10年間程度の発生量を予測しながら作り、廃炉作業の進捗(しんちょく)を踏まえて1年ごとに更新している。ただ、廃炉を完了するとしている2041~2051年までに、どんな種類の廃棄物が「どの程度」発生し、最終的に「どこで、どのように」最終処分するのか。その見通しはついていない。柳原は「廃炉ロボットなどの技術開発と比べて、廃棄物の対策は後手に回っている」との印象を抱く。
 県は福島第1原発構内の廃棄物について除染土壌と同様、県外での最終処分を求めている。廃炉後の周辺地域の将来像を描くには、原発の敷地を最終処分地にさせないことが必須条件だからだ。保管や処分の着地点を見いだせない国と東電に対し、県は責任ある廃炉作業を求め続けている。「国は廃棄物対策など東電への指導監督を徹底すべきだ」(県原子力安全対策課)と訴える。(敬称略)


霞む最終処分】(40)第7部 原発構内の廃棄物
 東電対応その場しのぎ 早急に処理の道筋を
                           福島民報 2024/05/25
 東京電力福島第1原発で出る放射性廃棄物の処分方法、処分先は法律などで決まっていない。東電は廃炉作業の進捗(しんちょく)に伴い、次々と発生する膨大な廃棄物への対処を迫られている。「対応が遅い。廃棄物対策を廃炉に向けた主要な課題と捉えて取り組む必要がある」。廃止措置工学を専門とする福井大客員教授の柳原敏(日本原子力学会廃棄物検討分科会主査)は、東電の現状の対応を「その場しのぎ」と指摘する。
 福島第1原発の廃炉には事故発生から30~40年を要するとされている。東電は廃棄物の発生量の実績や今後見込まれる量を計画に反映させながら保管管理している。ただ、実際に発生が予測される廃棄物の量と対策については、10年ほど先までしか触れていない。
 廃炉の完了を見据えた処理・処分の方法は定まらず、「第1原発の廃棄物対策の将来像は、ぼんやりとしている」。東電の広報担当者は苦い表情を浮かべる。
 海洋放出が始まり、処理水の保管量が減少に転じた一方、放射能レベルの高い汚泥などの廃棄物は増え続けている。東電は保管先を増設するなどの「対処療法」を講じながら、逼迫(ひっぱく)する事態を何とかやり過ごしているのが実情だ。廃炉作業がさらに進めば、1~3号機からの取り出しが計画されている溶融核燃料(デブリ)、原子炉建屋などを形作る各種の設備・機器が、取り扱いのより難しい廃棄物として表面化してくる。
    ◇    ◇ 
 廃棄物の対応が後手に回り続ければ、廃炉作業そのものの足を引っ張りかねない。「デブリの取り出しを進めながら、廃棄物の総量や対策を並行して考えないと大変なことになる」。先行きを不安視する声は東電内部からも上がっている。
 燃料デブリや使用済み核燃料を含む福島第1原発の放射性廃棄物について、福島県は県外で処分するよう国に求めているが、見通しは立っていない。柳原は廃炉後の原発の敷地を更地とするのか、建物を残すのかの方針が定まっていない現状を問題視する。「逐次的な対応ではなく、廃炉後の敷地の利用方法などエンドステート(最終的な状態)を見据えた議論を急ぐべきだ」と訴える。廃炉完了までの具体的な筋書き(シナリオ)を示し、廃棄物対策に資金や人材を積極的に投じる必要があるとした上で「(事故炉の廃炉は)前例がないのだから、なおさら先手を打たなければならない」と繰り返した。
    ◇    ◇ 
 柳原らが所属する日本原子力学会の廃棄物検討分科会は、2020(令和2)年に福島第1原発の廃炉に伴う廃棄物管理対策に関する報告書を取りまとめた。廃炉作業が完了し、敷地を再利用できるようになるまでには最短でも100年以上かかると試算。その場合、最大で約780万トンもの放射性廃棄物が出ると推計した。一般的な商業原発1基の廃炉で発生する放射性廃棄物が「多くて数万トン程度」とされているのと比べてはるかに甚大な量だ。
 報告書は原発由来の廃棄物を巡る国の対策について「先送りされる傾向がある」と厳しい目を向ける。その上で「第1原発では先送りすれば、廃炉完了の時期が延びることになる」と、問題が困難であろうとも、目をそらさぬよう警告している。(敬称略)


【霞む最終処分】(41)第7部 原発構内の廃棄物 低線量でも処分困難 事故由来、他原発と別
                           福島民報 2024/05/26
 東京電力福島第1原発で行き場を失っている放射性廃棄物は、原子炉内に残る溶融核燃料(デブリ)や汚染水の浄化過程で生じる汚泥(スラリー)のような強い放射線を出す廃棄物にとどまらない。東電は敷地内を襲った津波や原子炉建屋の水素爆発で壊れたコンクリート、配管などといったがれき類、作業員が着けた保護衣・手袋など、放射線量の比較的低い廃棄物を構内で大量に保管している。これら低線量の放射性廃棄物も、廃炉作業の進展に従って増え続けている。
 国と東電が定める廃炉工程表「中長期ロードマップ」は2028(令和10)年度までにがれき類の屋外保管を解消すると明記している。がれき類などは福島第1原発構内に9棟ある固体廃棄物貯蔵庫に集約、保管されている。9棟の保管容量は約5万5千立方メートルで、3月末時点の貯蔵量は約7割の3万8300立方メートルとなっている。この1年では200立方メートル増加したが、屋外にはまだがれきや伐採木などが残る。
    ◇    ◇
 原子力規制委員会は2021年、国内の一般的な原発で出る低レベル放射性廃棄物のうち、放射性物質濃度が最も高いクラスの最終処分に関する規制基準を決めた。基準では放射能レベルの高い順に「L1」「L2」「L3」の三段階に分類。制御棒や廃炉構造物などが該当するL1は地下70メートルよりも深い場所に埋設する―など、レベルによって異なる処分方法を示した。
 ただ、この規制基準はあくまで通常の原発を対象としている。過酷事故を起こした福島第1原発は、ルールの「枠外」に置かれたままだ。原子力規制庁は福島第1原発から出る放射性廃棄物を「原発事故由来の核種があり、他の発電所と同様の扱いはできない」とみており、一般の原発と同じ基準を適用するのは難しいとの立場を取っている。
    ◇    ◇
 福島第1原発の廃棄物は、事故によって飛散したさまざまな放射性物質に汚染されている可能性がある。このため、低線量の廃棄物であろうと通常の原発と同じ扱いをすれば、外部に想定外の影響を及ぼす可能性があるのが実情だ。
 原子核工学を専門とする京都大大学院工学研究科教授の佐々木隆之は、福島第1原発の放射性廃棄物の取り扱いを決めるためには「それぞれの廃棄物がどの程度汚染されているのかを分析、調査した上で処分方法などの技術を明確にしなければならない」と指摘している。だが、分析の手法を確立するまでには試行錯誤が予想され、専門家からは「長い年月がかかる」との見方が出ている。
 原子力規制庁東京電力福島第1原子力発電所事故対策室長を務める岩永宏平は「廃炉作業が進む中で、さらに大量の放射性廃棄物が発生していく。(処分するための)新たな基準づくりを急がなければならない」と強調した。(敬称略)


【霞む最終処分】(42)第7部 原発構内の廃棄物
 処分議論停滞に警鐘 廃炉への展望描けず
                           福島民報 2024/05/27
 東京電力福島第1原発は2011(平成23)年3月の水素爆発により大量の放射性物質が飛散し、敷地全体が汚染された。低線量の廃棄物も、さまざまな種類の放射性物質を含んでいる恐れがある。
 東電は放射性廃棄物の処分に向け、日本原子力研究開発機構(JAEA)などの研究機関の協力を得て廃棄物の性質の調査・分析を進めている。それぞれの廃棄物の汚染状況や処分した場合の周囲への影響などを見極めた上で、廃棄物の取り扱いや再利用策を構築する考えだ。
 今後は放射性廃棄物に加え、原子炉から取り出す溶融核燃料(デブリ)も対象とする総合分析施設の設置を検討しており、2020年代後半の完成を目指している。現在100人程度の作業員が先行して分析作業に携わっている。今後は毎年5人ほどのペースで増やし、訓練を重ねながら体制を強化していく。
    ◇    ◇
 「福島第1原発の廃炉に関するエンドステート(最終的状態)の議論は、廃棄物がどこへ行くのかという議論そのもの」。2022(令和4)年2月の原子力規制委員会の定例会見で、委員長の更田豊志(当時)は福島第1原発の廃炉完了を見据え、廃棄物の最終処分に関する議論を進める必要性に触れた。
 原子炉建屋の解体など今後控える廃炉作業では、既に発生済みの放射性廃棄物を上回る大量のコンクリート殻などが出ることは確実だ。原発構内の敷地には限りがあり、全量を保管できるだけの固体廃棄物貯蔵庫を確保するのは現実的ではない。
 最終処分の道筋が決まらない中、更田は2年前の会見で地上保管だけにこだわらず、一時的に構内に「埋設」する方法にも言及した。だが、長期保管に通じかねない印象を帯びる埋設という手だてが、地域の理解を得られるかどうかは見通せない。
 除染土壌を一時保管している中間貯蔵施設の整備先が大熊町、双葉町に決まる過程でも、難航の背景には「なし崩し的に最終処分につながるのでは」という住民側の不信感があった。
 更田は「地元には心理的な抵抗が生まれる」と自らの案の課題を認めながら、「東電や国がどこまで信用されているかということだ」と言い切った。
    ◇    ◇
 原子力規制庁も福島第1原発構内の敷地が逼迫(ひっぱく)する中、大規模な施設を設けて廃棄物を保管するのは難しいと認識している。通常の原発から出る廃棄物の処分先ですら決まらない現状で、福島第1原発で生じる膨大かつ多様な廃棄物の受け入れ先を選び、確保するのは至難の業だ。
 経済産業省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会委員を務める松久保肇(NPO法人原子力資料情報室事務局長)は「かなりの時間をかけて丁寧に議論しなければならない」と問題を解決する難しさに理解を示す。その上で、「原発事故からもう13年も経過している。廃炉完了まで30~40年とする全体の工程に影響しかねない」と指摘。「早期に結論を見いださなければ廃炉の最終形は見通せない」と停滞する現状を打ち破る必要性を強調した。(敬称略)


【霞む最終処分】(43)第7部 原発構内の廃棄物
 欠かせぬ減容化加速 前例なき廃炉の鍵に
                         しんぶん赤旗 2024/05/28
 東京電力福島第1原発の廃炉作業で発生した、がれき類など放射性廃棄物の処分方法が定まらない中、東電は原発構内で保管している廃棄物の総量を減らすために焼却・減容処理を進めている。
 東電の試算によると、福島第1原発の構内では、11年後の2035年3月までに、約76万立方メートルのがれき類が発生する。焼却や減容化により、このうち約33・8万立方メートルを減らせる見通しで、減容前の半分近くに抑えられる。構内に設置を検討している溶融設備で金属などを溶かすなどすれば、約14万立方メートルを再利用できるという。
    ◇    ◇
 2月には、がれき類のうち、放射線量が毎時1ミリシーベルト以下と比較的低い金属やコンクリートを減容処理する設備の運転を始めた。「ギロチン」のような設備で金属を切断し、コンクリートを大型シュレッダーで砕いて容積を半分程度に減らす。量を減らした後は金属製の容器に詰め、屋内の貯蔵庫に保管している。
 4月上旬、減容処理設備の操作室に「重機のエンジンを停止せよ」「実行よし」などの指示が響いた。作業員が監視モニターで作業の進み具合を確認しながらトランシーバーで現場を指揮していた。建屋周辺で出たがれき、壊れた台車、ドラム缶、パイプなどが次々と運び込まれ、20センチほどに切り刻まれた。
 東電によると、この設備では1日当たり約60立方メートルの金属を処理できる。設備内の風の流れをコントロールするなど、放射性物質が屋外に漏れ出さないよう対策を講じている。
 ただ、この日は作業を始めて間もなく設備に不具合が発生。手順書に基づいて対応し、予定していた残りの作業は翌日以降に持ち越した。東電福島第1廃炉推進カンパニー広報担当の高原憲一は「不安がある時は一度、立ち止まることが大事。速さよりも安全第一で取り組む」と語った。
    ◇    ◇
 東電は処理水を海洋放出して空になったタンクを解体し、新たにできた敷地に廃炉関連施設を建てる方針を示している。しかし、原発構内で発生し続ける廃棄物を保管するコンテナに阻まれ、施設建設のめどは立たない。資源エネルギー庁廃炉・汚染水・処理水対策担当室現地事務所参事官の木野正登は「汚染水の保管タンクを解体してスペースができても、廃棄物のコンテナがすぐに並ぶ。廃炉作業は思うように進んでいない」と問題視し、廃棄物を持ち出せない現状では減容化の加速が廃炉作業の進展に欠かせないという認識を強調する。
 原子力工学を専門とする県原子力対策監の宮原要は「廃棄物対策を適切に講じるには放射性物質の量を適切に把握することが鍵となる。処理や処分の方法を明確にする方策を考えながら取り組む必要がある」と指摘している。
 過酷事故を起こした福島第1原発の廃炉は、世界でも前例のない取り組みだ。今後の廃炉作業には最難関とされる溶融核燃料(デブリ)の取り出しをはじめ、原子炉建屋の解体に伴う大量の廃棄物の処理・処分などの困難な工程が待ち受けている。(敬称略)
 =第7部「原発構内の廃棄物」は終わります=


【霞む最終処分】(44)第8部 デブリの行き先
 度重なる取り出し延期 工程表から離れる実態
                           福島民報 2024/06/04
 東京電力福島第1原発の1~3号機に残る溶融核燃料(デブリ)は880トンと推計される。事故から13年余りが経過した今なお、1グラムも取り出せていない。原子炉格納容器内は放射線量が極めて高く、人が立ち入っての作業は不可能だ。東電は遠隔ロボットなどを用いて内部を調査しているが、作業は一進一退の様相を呈している。取り出しに成功したとしても、処分方法や処分先は何も決まっていない。廃炉の「最難関」とされるデブリ取り出しを巡る課題を探る。
 5月下旬、福島第1原発2号機の前には大型クレーンがそびえていた。建屋最上階のプールにある使用済み核燃料の取り出しに向けて、高さ45メートルの作業台を設置する作業が進む。その一方、建屋の内部では、早ければ8月にも始まるデブリ取り出し試験の準備作業が着々と進められていた。
 2号機から600キロ近く西に離れた神戸市の研究施設で、東電は5月28日、作業に使う「パイプ型装置」を公開した。格納容器を模した構造物に投入し、デブリに見立てた小石をつかんだ。計画では、まず3グラム未満のデブリを取り出し、放射性物質の種類や量を分析する。
    ◇    ◇ 
 パイプ型装置は3段階のスライド式で、最大約22メートルまでパイプが伸びる。格納容器の貫通部から差し込み、釣りざおのように動かす。先端に付けた金ブラシなどでデブリを回収。性状の分析や保管・取り出し方法の検討に生かす。
 パイプ型装置は2019年のデブリ接触調査で用いた実績がある。東電は後に控えるロボットアームの改良にも楢葉町の研究施設で並行して取り組んでいる。デブリ取り出しはこれまで3回にわたり延期されてきたが、東電の担当者は「今回こそは確実に取れる」と採取成功に向けて自信を口にする。
    ◇    ◇ 
 政府と東電が定める廃炉の工程表「中長期ロードマップ」では、デブリの取り出しを始める時期は「2021年内」のまま改定されていない。目標を果たせず2年余りが過ぎた現状は工程表と、かけ離れている。
 中長期ロードマップの信ぴょう性を問う声は少なくなく、国と東電の対応が注目される。東電副社長・福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者の小野明は「われわれがどうこう言うものではない。国の方で判断されるものと考えている」と工程表の見直しを決める主体は国だという立場を取る。
 一方、経済産業省資源エネルギー庁の担当者は作業の遅れはデブリの取り出し開始に限られ、工程表全体に与える影響は少ないとみる。「工程を見直す段階にはない」と説明する。
 福島民報社と福島テレビが3月に行った県民世論調査では、ロードマップに記された2051年までの廃炉完了を「達成できない」との回答は「どちらかと言えば」を含めて78・3%に上った。県民の間に、デブリ取り出し開始の相次ぐ延期やトラブルへの不信感が広まっている。
 工程表の進捗(しんちょく)と信頼性は被災地にとって、将来の復興を展望する上で重要な情報だ。原子炉工学が専門の東京工大科学技術創成研究院特任教授の奈良林直は「県民の不信や困惑を招かないためにも、国は工程表を廃炉作業の現状に合わせてつぶさに調整すべきだ。各工程の意味合いや作業の実態を分かりやすく社会に示す必要がある」と指摘する。(敬称略)


【霞む最終処分】(45)第8部 デブリの行き先
 説明会で工法周知 所在・総量「推測の域」
福島民報 2024/06/05
 延期が繰り返されてきた東京電力福島第1原発2号機からの溶融核燃料(デブリ)の取り出しが早ければ8月にも再開される。一方、原子炉建屋が水素爆発した3号機を巡っても、新たな動きが出ている。原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は今月、取り出し工法の説明会を県内で開く。9日の福島県田村市と広野町を皮切りに、避難指示が出るなどした13市町村を29日までに巡る力の入れようだ。
 福島第1原発の廃炉作業の中でも、放射線量が極めて高いデブリの取り出しには、技術的に困難な課題が多く横たわる。取り出し開始が近づくタイミングでNDFが被災地に出向いて説明の場を設ける背景には、処理水の海洋放出を決定するまでの過程で国民の理解が十分に得られなかった―との廃炉に携わる組織としての思いがある。
 取り出し工法の検討を主導したNDFは取り出し開始に際し、性質や安全性に社会の理解を得ながら作業を進める姿勢を示している。説明会ではこうした考え方を紹介し、廃炉全般についての疑問を受け付ける。
    ◇    ◇
 ただ、説明する工法そのものが専門的な用語を含む。原子炉内の状況やデブリの性質には解明されていない部分も多いだけに、正確な理解につながるかは不透明だ。延期やトラブルによって生じた県民の不信感をこれ以上、招かないためにも、できる限り分かりやすい情報発信が重要になる。NDF廃炉総括グループ執行役員の太刀川徹は「言葉遣いなどをかみ砕いて、正確な情報が伝えられるように努めたい」としている。
 NDFは取り出し工法の提案に向け、前原子力規制委員長の更田豊志をトップとする「デブリ取り出し工法評価小委員会」で約1年をかけて最適な選択肢を検討した。3月に公表した報告書では、候補とされていた三つの工法のうち、空気中でデブリを取り出す「気中工法」を基本路線に据えた。充填(じゅうてん)材で固めて削り出す「充填固化工法」を部分的に取り入れられるかを探るべきだと提言。建屋を構造物で囲って水没させる「冠水工法」は将来的な採用の可能性を見据え、建屋の地下構造を調査するように求めた。
    ◇    ◇
 東電によると、3号機のデブリは原子炉圧力容器内部には少なく、ほとんどがより下部の格納容器に溶け落ちたとみられている。デブリの在りかや総量はあくまで推測の域を出ない。更田も「どこにどれだけのデブリが、どんな形であるのかが分かっていない」と得られている情報の量や確度の乏しさを認めている。
 原子炉建屋内は福島第1原発の構内でも放射線量が極めて高い。気中工法は、全ての工程を遠隔で行う必要がある。原子力や土木、建築など各分野の専門家10人による小委では一部の委員から遮蔽(しゃへい)性の高い水を用いる冠水工法を推す声もあった。全会一致の結論とならなかった辺りに、最難関とされるデブリを取り出す道のりの険しさがにじむ。(敬称略)
















【霞む最終処分】(46)第8部 デブリの行き先
 2051年までの廃炉「困難」 「搬出先」確保の議論を
                           福島民報 2024/06/06
 日本原子力学会は2020(令和2)年7月、東京電力福島第1原発の廃炉が完了し、敷地を再利用できるようになるには「最短でも100年以上かかる」とする報告書を公表した。2051年までの廃炉作業の完了をうたう政府と東電の廃炉工程表「中長期ロードマップ」に対し、工程の範囲内で通常の原発の廃炉後と同じような状態にするのは「現実的に困難」と疑問を投げかけた。
 報告書の概要は【表】の通り。1~3号機にある溶融核燃料(デブリ)を全て取り出した時点を起点とする四つのシナリオを示している。デブリ取り出し後に直ちに全ての構造物や設備の解体を始め、撤去する場合は廃炉完了までに100年以上かかり、約780万トンの放射性廃棄物が出ると試算。一方、放射線量の低減を数十年待って解体・撤去に取りかかると、廃棄物量は数百万トンまで減るものの、完了までに百数十年から数百年要するとした。
    ◇    ◇ 
 ロードマップは2号機からのデブリ取り出しを節目とし、最終盤に当たる第3期に入る。工程表では第3期は30~40年間で完了すると見込んでいるが、「持ち出した後の話が全く進んでいない。期間内に廃炉を実現するのは無理だろう」との声は政府内にもある。
 1~3号機に残るデブリは880トンと推定される。仮に推定通りの量を30年間で取り出すとなると、単純計算では1日当たり80キロのペースで取り出す必要がある。13年余りが経過してなお、一片さえ取り出せていない。
 2号機のデブリ取り出し開始の度重なる延期などを受け、東電の社長小早川智明は1月、福島民報社の取材に「全体の工程をまだ諦める段階ではない」と工程表の見直しに否定的な見解を示した。ただ、作業の安全性の確保などを理由に挙げ「『スケジュール通りに必ずやる』という約束はしないほうが良いと考えている」と変更の可能性を排除しない姿勢も見せている。
    ◇    ◇ 
 今後、廃炉技術が飛躍的に進歩し、デブリ取り出しが軌道に乗っても問題は解決しない。県はデブリを含む福島第1原発の放射性廃棄物は県外に持ち出すよう国に求めているが、デブリの最終的な処分方法や処分先について、現行の法律や制度は何ら定めていない。
 汚染レベルを把握できている一般原発の放射性廃棄物や、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に保管されている除染土壌でさえ処分先は定まっていない。経済産業省資源エネルギー庁の担当者は「性質も総量も未確定なデブリの行方を決める作業は相当、難航する」と認める。
 原子力工学が専門の東京大大学院工学系研究科教授の岡本孝司はデブリの行き先の選定には「社会的な合意形成が重要になる。国や東電を中心に慎重に検討する必要がある」と指摘する。
 「デブリの定義、法的な位置付けがあいまいなのが問題だ」。閣僚経験のある福島県関係の国会議員も、処分先選定には時間を要するとの認識で一致している。事故から13年余りが経過した現状を踏まえ、「最終的な敷地外処分を法律で位置付ける方法も選択肢の一つだ。政府はそろそろ議論を始めるべきだ」と語る。後世につけを残さないため、デブリの行き先を探る時期に来ている。(敬称略)











 =第8部「デブリの行き先」は終わります=