福島原発事故の損害賠償請求で、請求権の時効(三年)を過ぎても東京電力に賠償を求められる特例法案が現在衆議院で審議されていますが、その内容は単に、「損害賠償紛争解決センター(原発ADR)での和解交渉が不調に終わった場合、打ち切り通知を受け取ってから一カ月以内であれば、時効にかかわらず裁判所に賠償請求訴訟を起こせる」というもので、原発ADRに仲介申し立てしていないものについての時効の延長には触れていません。
現在原発ADRに申し立てをしている人は避難区域の住民の僅か一割程度で、殆どの人たちはまだ東電と直接交渉をしているか、あるいはまだ賠償請求をしていない段階なので、これら九割の人たちは救済の対象とはなっていません。
それなのにこれまでの報道の不正確さもあって、多くの被災者は「時効延長の特例法により原発事故の賠償請求権については時効で消滅しない」と誤解しています。これは大変に問題です。
日弁連は時効規定を適用しない特別立法の制定を訴えているということです。
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原発事故損害賠償 時効特例法案 不十分
東京新聞 2013年5月15日
福島原発事故に伴う損害賠償請求で、民法上の請求権の時効(三年)を過ぎても東京電力に賠償を求められる政府提出の特例法案が衆議院で審議されているが、被災者たちから「実態にそぐわず、切り捨てにつながる」という懸念の声が上がっている。日本弁護士連合会(日弁連)も時効規定を適用しない特別立法の制定を訴えている。
法案は最短で来年三月に時効を迎えるケースが予想されるため、被災者救済を目的に浮上。国の「原子力損害賠償紛争解決センター」(原発ADR)での和解交渉が不調に終わった場合、打ち切り通知を受け取ってから一カ月以内であれば、時効にかかわらず、裁判所に賠償請求訴訟を起こせるとしている。
しかし、原発ADRに申し立てをしている人は一万六千五百四十四人(十三日現在)と避難区域の住民の一割程度。東電と直接交渉をしているか、まだ賠償請求をしていない人が大半を占めるが、こうした被災者の時効には触れていない。
さらに損害の全容が判明しておらず、ADRへの申し立て内容も損害の一部でしかないのが実情。事故がいまだ収束しておらず、潜在的な被害もありうるため、被災者が不安を募らせている。
福島県の被災者団体の一つ「原発事故被災者相双の会」の国分(こくぶん)富夫代表代行(68)は「特例法案の仕組みは極めて不十分。効果を疑問視している。むしろ、その中身をよく知らない被災者らの間で『これで時効が過ぎても大丈夫だ』という誤解が生まれており、心配している」と話した。
日弁連は先月十八日付の意見書で法案を批判しつつ、「原発事故の賠償請求権については民法を適用せず、消滅しないとする特別の立法措置を講じるべきだ」と指摘した。
東電広報部は「時効が完成しても一律に賠償請求を断ることは考えていない。個別の案件ごと柔軟に対応していく」としている。
<損害賠償請求権の時効> 民法724条は不法行為による時効を被害者らが損害を認識し、加害者を知った時から3年か、不法行為後20年を経過した時点と定めている。債権と財産権の時効については同法167条で前者を10年、後者を20年と規定。今回の福島原発事故では、両方の規定が適用される可能性がある。