2013年5月22日水曜日

今度はインドと原子力協定の締結へ

 連休中中東訪問した安倍晋三首相は5月3日に、トルコのエルドアン首相との間で原子力協定を結ぶことを確認し、原発新設プロジェクトへの「排他的交渉権」を日本に与えるとした共同宣言に署名しました。今後企業間の交渉を経て正式に受注が決まれば福島原発事故以来 初の原発輸出るとして経済界では歓迎しています。

 しかし最近の共同通信の世論調査でも、政府の原発輸出の方針について「賛成」が41.0%、「反対」が46.2%と反対が多数で、国内原発の再稼働で反対が大きく上回るなど、原発の安全に関して不信感は国民のなかに根強くあります。これはまだ福島原発の事故原因はおろか事故の現状すら明らかになっていない時点で、政府が原発の再稼動や国外輸出に向けて奔りだしていることへの当然の拒否感です。

 そうしたなかで政府はインドとの原子力協定交渉を再開し協定を結ぶ方向で検討しているということです。いうまでもなく原子力協定は原発の輸出を前提としたものです。
 
 金になれば何でもやるという姿勢では当事国はともかくとして諸外国は強い違和感を持つ筈で、かつてエコノミックアニマルと蔑称された事態の再来ともなりかねません。そもそも政府には、国内では原発を漸減させるなかで海外向けの原発営業に乗り出す日本の姿勢について、国際的な諒解が得られるという自信があるのでしょうか。

 以下に産経新聞の記事と佐賀新聞の社説を紹介します。
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日本とインドが原子力協定検討 原発輸出を加速
産経新聞 2013520
 菅義偉官房長官は20日の記者会見で、福島第1原発事故を機に中断していたインドとの原子力協定交渉の再開を検討していると明らかにした。「政府として、インドとの原子力協力を行う意義があると判断した」と述べた。安倍晋三首相は、29日に予定されるインドのシン首相との首脳会談で、原発輸出を加速するトップセールスを展開し、協定の早期締結にこぎ着けたい意向とみられる。

 菅氏は「原発事故以降も、インド側からハイレベルで日本との原子力協定に強い希望が表明されていた」と指摘。「原発事故を経験した国として、事故の知見と教訓を世界と共有し、原子力の安全向上に貢献していくことは責務だ」と強調。原子力協定が締結されると日本からの原発輸出が可能となる。首相は成長戦略の一環で、かねて原発輸出に積極姿勢を示しており、5月の自身の外遊に合わせ、アラブ首長国連邦(UAE)やトルコとの原子力協定を締結。

【社説】 「原発輸出」国内政策との整合性を
佐賀新聞 2013年05月21日
 日本経済復活のため「アベノミクス」を掲げる安倍晋三首相が医療、原発、防災などのインフラ(社会資本)システム輸出へ、積極的な経済外交を展開している。現在の10兆円を2020年までに30兆円に拡大する方針という。なかでも1基当たり数千億円とされる原発輸出に力が入っている。 
 首相は連休中のサウジアラビア、トルコなど中東歴訪で、原発を積極的に輸出していく姿勢を鮮明にした。近々にインド、6月中旬には東欧4カ国を訪問する予定で、そこでも原発輸出が議題になる見込み。「世界中のどこへでもトップセールスに出かける」と首相は意気盛んだ。 
 「原発ゼロ」を掲げた民主党政権も原発輸出を推進した。安倍政権はアベノミクス三本の矢のうち、最も重要な成長戦略に位置づけた。民間の設備投資を喚起する施策であるものの、東京電力福島第1原発の事故が収束していない中で、輸出に前のめりになるのは違和感がある。 
 中東やアジアはエネルギー需要の増加を背景に原発新設に動いている。原発を持たないサウジは30年までに16基、アラブ首長国連邦は今後14基を造る考えという。原発輸出は本体に加えて道路や港湾、送電網の整備など多岐にわたる。巨額の利益が見込めるため、メーカーも政府の後押しを期待している。 
 欧米など先進国では原発建設が鈍化している。日本国内にとどまれば原子力産業の先細りは避けられないが、福島事故の原因究明も終わっていない現状で輸出推進はどうだろうか。地震のリスクのほか、大量の水を使う原発が乾燥地帯に合うのか素朴な疑問もある。 
 最大の懸念は原子力技術が核兵器開発に転用される恐れがあることだ。発電など民生用に使われるならいい。イランや北朝鮮も当初は「平和利用」を訴えていたが、北朝鮮は今や核保有を国是とした。イランもウラン濃縮を試みて核兵器開発能力を手にしたとみられている。 
 そのイランと対立するのがサウジである。これまで日本は国際原子力機関(IAEA)の条約締結国を選んで原子力協定を結んできたが、サウジは締結国ではなく、締結の意思も表明していない。原発輸出によって中東で「核ドミノ現象」を引き起こすことにもなりかねず、慎重の上に慎重を期すべきだ。 
 オバマ米大統領は「核なき世界」を提唱した。現実には核不拡散と核軍縮は極めて困難な道になっているが、核兵器のない世界という到達点を目指す必要がある。日本は唯一の被爆国で、未曽有の原発事故を体験した。その国が核なき世界のビジョンを逆行させるようではいけない。 
 政府は年末までにエネルギー基本計画を策定する。将来の原発の姿をどのように描くかが最大の焦点だが、国内の位置づけを示さないまま、輸出だけを促進するのは矛盾となる。首相は「できるだけ原発依存度を低減させる」としている。その方針との整合性も問われるだろう。 
 最近の共同通信の世論調査では、政府の原発輸出の方針について「賛成」が41.0%、「反対」が46.2%と賛否は分かれた。原発再稼働では反対が大きく上回るなど安全に関しては不信感が根強い。国際的にも説明責任を尽くす必要がある。(宇都宮忠)