原子力規制委員会は12日、原発の原則運転期間40年を超えて運転することを電力会社が望めば例外的に最長20年間まで認めることにし、そのための要件として老朽化の状態を把握する特別点検の実施を電力会社に求めることを決めたということです。
どのような特別点検を要求するのかは不明ですが、もしも福井県の原発銀座で爆発事故が起きれば関西一帯には人間が住めなくなるかもしれないというおそれがある割には、あまりにも安易な決め方ではないでしょうか。
原子炉圧力容器は中性子線を浴び続けるため缶体の材質は急速に劣化します。
劣化の目安としては、緊急冷却した場合などに容器が壊れやすくなる温度の境目となる「脆性遷移温度」が使われますが、九電玄海1号機の例では、運転開始時(1975年)脆性遷移温度が零下16度であったものが、1年後には35度、5年後には37度、18年後に56度、34年後98度と急激に上昇しています。つまり34年後には98度まで液温を下げただけで容器の靭性が失われ破損に至るというわけです。
そのこととも関連すると思いますが、原子炉圧力容器の定検時に外壁に沢山のひび割れが確認されるという情報も、作業従事者からインターネットに流れています。
ひび割れがあればそこに応力が集中するので、設計圧力以下でも裂けてしまいます。
脆性遷移温度の経時変化は、当初圧力容器内に取り付けた複数のテストピースから1個ずつ外して測定するのですが、当初は30年以上圧力容器を使用することは想定していなかったので、もう使い切る寸前の状況といわれています。
圧力容器劣化の危険性については金属材料学の井野博満・東大名誉教授などが早くから指摘しているところですが、電力会社は安全を主張する一方で、学者が詳細に検討できるデータは提出しないという態度を貫いています。
原子炉圧力容器の強度上の問題は、原子力村の領域ではなくて、純粋に機械工学・材料力学の問題です。
原発の運転期限を延長するという極めて重大な決定をするのですから、規制委は斯界の権威に良く確認するなどして、少なくとも学術的良心を貫いて欲しいものです。
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原発40年超運転、特別点検が要件 規制委、条件厳しく
朝日新聞 2013年6月12日
原子力規制委員会は12日、原発を40年を超えて例外的に運転するための要件として、老朽化の状態を把握する特別点検の実施を電力会社に求めることを決めた。これまでより詳しく点検して安全を確認することで、運転延長を認める条件を厳しくした。原発の新たな規制基準とともに7月に施行される。
来月施行される改正原子炉等規制法で、原発の運転期間は原則40年に限定される。しかし、電力会社が望めば、例外的に1回に限り最長20年間運転できる。規制委はこの日、定例会を開いて延長を認める際の要件を定めた規則を了承した。
規制委は運転延長を認める要件として、(1)耐震や津波、過酷事故対策などを定めた新たな規制基準に適合している(2)電力会社が特別点検を実施して報告することを定めた。規制委はこの二つで安全が確保されていることを確認し、運転延長を認めるかを判断する。
原発試験片が払底寸前に 想定外長期運転で個数不足
共同通信2007/12/29
原発の心臓部を包む原子炉容器の健全性を確認するため、運転開始時から容器内に入れてある「監視試験片」と呼ばれる金属板が、設計段階の想定を超える長期運転に伴い、多数の原発で残り少なくなっていることが29日、分かった。特に30年以上が経過した高経年化原発の一部では使い切る寸前となっており、原子力専門家は「このままでは原子炉容器の安全評価ができなくなる可能性がある」と懸念している。経済産業省原子力安全・保安院もこの事実を重視し、高経年化原発の長期保全計画策定の際に、試験片の残り数などを報告するよう、各電力事業者に指導している。原子炉容器は合金製で、運転時に生じる中性子線を常に受けて徐々に劣化する。このため各原発には、容器と同じ材質の試験片が、数十枚を1組としてカプセル状のケースに詰められ、容器内に複数個入れてあり、一定期間ごとに1個ずつ取り出して中の試験片を割るなどして強度を確認している。