フランスで製造された「MOX燃料」が高浜原発(福井県)に27日到着しました。
MOX燃料は使用済み核燃料からプルトニウムを抽出しそれをウランと混ぜて新しい燃料とするもので、国はこれを用いる「プルサーマル」システムを核燃料サイクルを廻すものとして、これまで強力に押し進めてきました。しかしウランとは比較にならないほど強い発がん性のあるプルトニウムを成分とした燃料を、年々老朽化している従来の原発に安易に用いるのは危険だとして、当初から根強い反対運動がありました。
MOX燃料は爆発を起こした福島第一原発の3号機にも用いられていたために、事故当時プルトニウムの拡散が心配されました。
それに対してある解説者(大学教授)は「プルトニウムは重いので発電所の域外には飛ばない」と説明していましたが、そんなことは勿論なく粒径が細かくなればいくらでも遠くに拡散して行きます。現実に福島原発事故の1週間後くらいに、常時大気中の放射能成分を測定しているアメリカの観測所でプルトニウムの飛来が確認されています。
ほぼ全域が高浜原発から30キロ圏内に含まれる舞鶴市の市長が、「MOX燃料の安全性について再検証しなければ使用は容認できない」と述べているのは当然のことです。
この件に関してはNHKが詳細に報じていますので紹介します。
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MOX燃料 高浜原発に 原発事故後初
NHK NEWS WEB 2013年6月27日
プルトニウムを含む「MOX燃料」と呼ばれる核燃料が、福井県にある関西電力高浜原子力発電所にフランスからの輸送船でけさ到着し、船から下ろす作業が行われました。
MOX燃料が国内に運び込まれるのは、おととしの原発事故後初めてです。
高浜原発に到着したのは、フランスで製造されたMOX燃料を積んだ専用の輸送船です。
使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使う「プルサーマル」は、国の核燃料サイクルの柱と位置づけられています。
高浜原発や福島第一原発などの4基で実施されましたが、おととし3月の原発事故の影響で4基は停止するなどしていて、海外からのMOX燃料の輸送も中断されていました。
関西電力は、ことし4月、MOX燃料を積んだ輸送船をフランスから日本に向けて出港させていて、輸送船は、27日午前7時すぎに高浜原発の岸壁に到着しました。
そして、船内に放射性物質が漏れていないかを確認するため放射線量を測定したあと、MOX燃料20体を入れた輸送容器3機を船から下ろす作業が行われました。
関西電力は、輸送容器3基を原発に運び込みました。
関西電力は、高浜原発の3号機でMOX燃料を使う考えで、来月、原発の新たな規制基準が施行されるのに合わせて、運転再開に向けた原子力規制委員会への申請を行うことにしています。
舞鶴市長「再検証を」
市のほぼ全域が福井県の高浜原子力発電所から30キロ圏内に含まれる京都府舞鶴市の多々見良三市長は「MOX燃料の安全性について再検証しなければ使用は容認できない」と述べ、国の原子力規制委員会に対し、安全性の再検討を求める考えを示しました。
また、「舞鶴市と立地自治体並みの安全協定を結んでいないなかでは、手順として違うのではないか」と述べ、立地自治体並みの安全協定を早急に締結するべきだと改めて強調しました。
福井県「国の方針出た段階で判断」
MOX燃料の到着について、福井県安全環境部の櫻本宏部長は「今回のMOX燃料の輸送は、関西電力の責任において判断されたと理解している。燃料の輸送と発電とは完全に別の問題で、関西電力から具体的な話も聞いていないので今後、どうするのか示してもらいたい」と話しました。
そのうえで、「福井県としては、今後、国がプルサーマルをどうするのか方針を明確に示した段階で改めて検討したい」と話しました。
関西電力「安全優先に進めていきたい」
高浜原発へのMOX燃料の搬入作業を終えた関西電力原子力事業本部の水田仁副事業本部長は「東日本大震災の影響で国の核燃料サイクルが不透明な状況が続き、原子力を取り巻く環境に非常に大きな変化がでたなか、地元をはじめとする関係者の理解が得られ、輸送が実現できたということに改めて感謝したい」と述べました。
そのうえで、「資源の少ない日本にとってプルサーマルの重要性は高まっており、安全を最優先に今後もプルサーマルを進めていきたい」と述べました。
また、今回到着したMOX燃料を実際に高浜原発で使用する時期については、「新しい規制基準の審査や国のエネルギー政策の議論の状況などを踏まえ、地元の理解を前提に総合的に判断していきたい」と述べ、明言を避けました。
プルサーマルの経緯
資源が少ない日本では、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜたMOX燃料を再び原発の燃料に利用する核燃料サイクルの実現を、国が目指してきました。
しかし、当初、柱となっていた高速増殖炉は「もんじゅ」の事故で開発のめどが立たなくなり、平成9年からは、MOX燃料を通常の原発で利用するプルサーマルが核燃料サイクルの中心に位置づけられました。
ところが、MOX燃料は通常のウラン燃料に比べ、原子炉を止めるときに使う制御棒の効きが悪くなるなどの特徴があり、安全性を疑問視する声が上がりました。
また、その後、MOX燃料のデータの改ざんや東京電力のトラブル隠しが相次ぎ、地元の同意がなかなか得られず、プルサーマルの開始は大幅に遅れました。
結局、おととしの原発事故までに実施できたのは、▽九州電力の玄海原発3号機、▽四国電力の伊方原発3号機、▽関西電力の高浜原発3号機、▽東京電力の福島第一原発の3号機の4基にとどまりました。
なぜ実施するのか
国などがプルサーマルの実施を目指す背景には、国内的な事情と国際的な事情があります。
国内的な問題は、原発から出る使用済み核燃料がたまり続けていることです。
各地の原発の使用済み核燃料を受け入れている再処理工場を巡っては、地元青森県などと電力会社の間で「再処理事業が著しく困難になった場合、使用済み燃料を施設外に運び出す」という覚書が交わされています。
このため、仮に青森県が新たな運び込みを拒否したり、運び出すことを求めたりすると、各地の原発では、使用済み燃料を保管しているプールが満杯になって、運転できない事態に陥ることから、再処理事業を進めるためにMOX燃料を使うことが求められています。
また、国際的には、使用済み燃料から取り出したプルトニウムは、燃料だけでなく核兵器の原料にもなるという問題があります。
日本が保有するプルトニウムの量は、再処理を委託しているイギリスとフランスに保管されている分も含めて、合計でおよそ44.3トンに上っています。
これは長崎型の原爆およそ5500発を製造できる量に相当するとされ、およそ20年間で4倍余りに増えています。
核兵器の原料にもなるプルトニウムは、必要以上に持たないことが国際的に求められているため、このまま保有している量が増え続ければ、海外から批判が出かねない状況になっています。
プルサーマルをどう実施?
全国では、12基の原発が来月8日に新しい規制基準が施行されたあと速やかに再稼働に向けた安全審査を申請する見通しです。
このうち、原発の運転再開と同時にプルサーマルも行おうとしているのは、▽四国電力の伊方原発の3号機、▽九州電力の玄海原発の3号機の合わせて2基で、▽関西電力の高浜原発の3号機4号機、▽北海道電力の泊原発の3号機の合わせて3基も、「運転再開後に時期を検討したい」としています。
しかし、プルサーマルを実施するためには、新たな規制基準に基づく国の原子力規制委員会の審査を受けることや地元自治体の了解が必要で、現段階では具体的な見通しは立っていません。
プルサーマルを柱とする核燃料サイクルは、おととしの原発事故の影響も受けていて、依然、不透明な状態が続いています。