2023年4月22日土曜日

原子炉 経年劣化監視試験片(テストピース)不足 検査方法に課題

 原発用の原子炉などの60年超運転を可能にする改正法案の審議が行われています。テレビ朝日が問題点を報じました。
 伴信彦・規制委は『制度論』ばかりが先行して“60年超え”をどう審査するのかがまだ決まっていないと述べました。石渡明・規制委員は「経年劣化の管理は事業者がやるもの」と述べましたが、方法論を確立する責任は規制委にある筈です。
 電力中央研究所の新井拓研究参事は「60年への運転期間延長申請で2回の試験を行うと、原子炉用のテストピースが足りなくなる」と述べています。要するに40年超に向けてはあと1回分しか残っていないということで、その後の20年間、そしてさらにその先の耐久性をどう確認する積りなのか不明です。
 いずれにしても設備の耐久性について確認する検査方法の見通しが立たないのに、延長が可能なように法制度だけは決めてしまったということです(テストピース1回分がまだ残っていたことも不思議です)。
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『監視試験片』足りないかも…
“心臓部”経年劣化の検査に課題も 原発『60年超』へ
                      テレビ朝日系(ANN) 2023/4/21
原発回帰を鮮明にした岸田政権。60年を超える運転を可能にする改正法案の審議が21日も行われています。
大きな議論になっているのが“老朽原発”の延命策です。新たなルールは、現在の『原則40年・最長でも60年』から停止期間は除外して、その分だけ長く運転できるようにするというものです。しかし、まだ残されたままの問題があります。
原子力規制委員会・伴信彦委員:「『制度論』ばかりが先行してしまって、特に“60年超え”をどう(審査)するのが後回しになってしまって
原子力規制委員会・石渡明委員:「経年劣化の管理は、事業者がやるものでしょ。規制委員会がやるものじゃないですよね」
“寿命が延びた”原発を、原子力規制委員会がどう審査していくのか。その具体的な内容が、まだ決まっていません。原子力規制庁などによりますと、長期運転の課題は大きく2つ。『経年劣化』と『設計の古さ』です

経年劣化をめぐっては、過去に、劣化した配管から高温の蒸気が噴出。作業員5人が死亡する事故が起きています。こうした経年劣化で、最も懸念されるのが“原発の心臓部”圧力容器です。
原発を運転すると、圧力容器の中では、核分裂が起こり、壁の強度が、原子レベルで影響を受けます。
圧力容器の劣化試験は、各電力会社が行いますが、電力中央研究所では、それに関連した研究をしています。
材料の劣化は、長さ5センチの“監視試験片”を使って調べています。圧力容器と同じ材料でできた金属片を、定められた時期に取り出して測定。ハンマーを金属片に振り下ろし、劣化具合を測ることで、現在だけでなく、将来の圧力容器の劣化も予測します。安全性を見るための重要な検査ですが、今後の継続に課題があるといいます。
電力中央研究所・新井拓研究参事(60年への)運転期間延長申請で、2回の追加試験を行うと、(監視試験片の)数が足りなくなる可能性も考える必要がある」
金属片は、どの原発でも数回分しかないため、運転期間が延びると不足する可能性があります。対策として、一度、使った金属片の再利用などが、現在、検討されているという状況です。
そしてもう一つの課題が、数十年前に作られた原発の設計の古さ。規制委員会の更田前委員長が、設計の古さの具体例として挙げるのが、福島第一原発の事故です。中でも、“非常用復水器”は、水蒸気を水に戻して原子炉を冷却する装置。しかし、当時、ほとんど使われていない古いタイプで、本来、必要な訓練の設備もありませんでした。

原子力規制委員会・更田豊志前委員長:「東京電力は、1号機のIC(非常用復水器)がついたシミュレーターは廃止していて、1号機の運転員も2号機、3号機のシミュレーターで訓練していた」
緊急時の訓練が十分でなかったことが、メルトダウンを早めた可能性もあるとみられています。
原子力規制委員会・更田豊志前委員長:「普段使なくて、事故のときにしか使わない装置の、作ったときの“意図”が、運転員に正確に伝わっているか。これも含めて“設計の古さ”」
規制委員会は、こうした古い設計や問題に対して改良を求める『バックフィット』という制度を持っています。しかし、更田氏が強調するのは、問題そのものを“どうやって見つけるか”が重要だということです。

原子力規制委員会・更田豊志前委員長:「40年、50年、60年と長く使う炉に対して、『改善を強制すべき問題だ』と気づく。そこは仕組みがない。それをどうしようかというのが、まさに今の議論
しかし、その議論を始める前に、規制委員会は延長の枠組みだけを承認しました
「スケジュールありき」との批判も出るなか、延長に賛成した委員からも、疑問の声が上がっています。
原子力規制委員会・杉山智之委員:「これ言っちゃっていいのかなというところはあるが、我々これ(60年超運転)を決めるにあたって、外から定められた締め切りを守らなければいけない。急かされて議論をしてきた。そもそも、それは何なんだと」


「原発60年超運転」国民向け資料公表 原子力規制庁、1カ月遅れ
                            毎日新聞 2023/4/19
 国会で審議中の原発の60年超運転を可能にする法改正案に関連し、原子力規制委員会事務局の原子力規制庁は19日、新たな規制制度について国民向けに「わかりやすく説明する」ために作成した資料をホームページ上で公表した。当初は3月中の公表予定だったが、約1カ月遅れとなった。

 資料は表紙を除き13ページ。前半で、原発の安全審査の目的や内容を説明。後半では運転期間が60年を超えて「高経年化」した原発で劣化が進む仕組みや課題などを記載し「これまでの制度の運用実績や経年劣化に関する科学的知見から、60年超の劣化についても、科学的根拠をもとに厳格な審査ができると考える」としている。ただ、具体的な審査項目は規制委で今後検討するため、資料は状況に応じて更新するという。
 規制委は2月、運転期間を原則40年、最長60年とする「40年ルール」を改め、60年超の運転を可能にする新制度を盛り込んだ原子炉等規制法の改正案を多数決で了承。閣議決定後、国会で審議されている。規制委内で意見が割れたことを受け、岸田文雄首相は2月、関係閣僚に「国民の不安を払拭(ふっしょく)するため、国会審議などを通じてしっかりと説明できる準備を進めた上で法案の閣議決定を行うべきだ」と指示していた。
 資料は、規制委ホームページ( https://www.nra.go.jp/NuclearRegulation/discussion_aging_reactor.htmlにPDFファイル「運転開始から長期間経過した発電用原子炉の安全性を確保するための規制制度の全体像について」として掲載されている。【土谷純一】