29日のしんぶん赤旗に福島原発の元作業員の実名告発記事が載りました。
汚染水タンクからの度重なる水漏れ事故の根底には東電のコスト削減策があり、それに無理な工程の短縮が重なって生じています。
支払われる工事費が削減されれば業者としては工事1件ごとの関与人員を減らすしかありません。そこに無理な工期の短縮が要求されるので、結局本来の作業手順から逸脱したごまかしの作業を行うしかなく、それが結局漏水につながっているということです。
以下にロイター通信の、「福島第一原発作業員の現状『違法雇用』と『過酷労働』」と題する問題提起の記事とともに紹介します。
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原発汚染水タンクずさん管理 元作業員 今度は実名で告発
人減らしのなか工期優先 悪化する作業環境
しんぶん赤旗 2013年10月29日
放射能汚染水の漏出、海洋への流出が繰り返される東京電力福島第1原発。本紙1日付1面で「汚染水タンク、ガムテープでふた」と匿名で告発した元作業員が、今回は実名で証言しました。
沖縄県在住 上地剛立さん
証言したのは昨年7月から年末まで、沖縄県から福島第1原発の収束作業についた元作業員の上地剛立(うえち・よしたつ)さん、48歳です。大成建設が元請けの2次下請け作業についていました。半年間の原発作業のなかで、汚染水漏れの原因が「東電のコスト削減」にあることを実感しています。
さび止め厚塗り
東電が「コスト削減」策として競争入札を強化するなかで、目立ったのが人員削減でした。「人減らしのなかで工期が優先され、作業環境が悪化した」
昨年10月のことです。タンクの底板のボルト・ナットのさび止め剤を塗る作業でした。この作業は、ボルトなどの油分を確実にふき取る(脱脂)ことが重要です。油分があると、さび止め剤をはじいてしまい「ピンポール(気泡)」ができます。ここがさびれば腐食の原因になり、汚染水の漏出につながる、といいます。
現場ではこのピンポールをごまかすためにさび止めの厚塗りが指示されました。上地さんは「厚塗りは乾燥に時間がかかり、生乾きで水分が付着するとさび止めが溶け落ちて結局、腐食につながる」と指摘します。
こんな経験もしました。「冬の雪の日だった。さび止めのほとんどが雪で流された。汚染水漏出の一因となったのではないか」
人員削減と工期優先は作業員の健康被害をもたらしています。
ひどい耳鳴りに
上地さんがタンク内で底板のコンクリート角の削り作業(ケレン清掃)をしているときでした。「ガーン、ガーン、ガーン」。突然、タンク上部で始まった、柄が1メートルほどある工事用の大型ハンマーで打ちつける上蓋の組み付け作業。
「打音は沖縄で聞かされる米軍のジェット戦闘機の爆音よりも長く続き、拷問を受けたような衝撃音に襲われた。耳から脳まで響くすさまじい音で気が狂いそうになった。全面マスクでの作業中で、耳をガードできず、それ以来、ひどい耳鳴りに悩まされている」
耳鼻科に受診した結果、高音部分が聞こえない「感音性難聴」と診断されました。
上地さんはいま、元請けの大成建設に労災申請をしています。
診断書をにぎる手に力をこめて言います。「安倍首相は汚染水漏れについて『状況はコントロールされている』『ブロックされている』といったが、コントロールされているのは原発事故の実態を隠すこと、ブロックしているのは廃炉と再稼働反対を求める国民の声だ」 (山本眞直)
福島第一原発作業員の現状「違法雇用」と「過酷労働」
ロイター 2013年10月27日
高濃度の放射線にさらされている東京電力福島第1原子力発電所の廃炉・除染現場で、作業員を蝕むもうひとつの「汚染」が進行している。不透明な雇用契約や給料の中抜きが横行し、時には暴力団も介在する劣悪な労働環境の存在だ。
東電や大手建設会社を頂点とする雇用ピラミッドの底辺で、下請け作業員に対する不当な取り扱いは後を絶たず、除染や廃炉作業への悪影響も懸念されている。
「原発ジプシー」。 福島第1原発をはじめとする国内の原発が操業を開始した1970年代から、原発で働く末端労働者は、こんな呼び名がつくほど不当で不安定な雇用状態に置かれてきた。電力会社の正社員ではなく、保全業務の受託会社に一時的に雇用される彼らの多くは日雇い労働者で、原発を転々としながら、生計を立てる。賃金の未払いや労働災害のトラブルも多く、原発労働者に対する待遇改善の必要性はこれまでも声高に叫ばれてきた。
しかし、福島第1の廃炉および除染現場では、こうした数十年に及ぶ原発労働者への不当行為が改善されるどころか、より大規模に繰り返されている可能性があることが、80人余りの作業員、雇用主、行政・企業関係者にロイターが行った取材で浮かび上がってきた。
福島第1では、800程度の企業が廃炉作業などに従事し、除染作業にはさらに何百もの企業が加わるという、過去に例のない大掛かりな事故処理が続いている。現場の下請け作業員は慢性的に不足しており、あっせん業者が生活困窮者をかき集めて人員を補充、さらに給与をピンハネするケースも少なくない。下請け企業の多くは原発作業に携わった経験がなく、一部は反社会的勢力にも絡んでいるのが実態だ。
<不透明な雇用記録>
(本項は省略)
<慢性的な人手不足と緩い法規制>
こうした労働トラブルが続発する背景には、福島第1原発の廃炉や除染作業で現場労働者が不足し、なりふり構わない人員調達が行われているという実態がある。
作業現場では、雇用の発注者である東電の下に鹿島や大林組といった元請け、さらに7層を越す下請けが連なり、複雑な業務委託ピラミッドが出来上がっている。その末端には会社登記すらない零細企業も存在する。
同原発では現在、約8300人を超す作業員が登録されているが、東電では廃炉事業を急ぐため、2015年までに少なくとも1万2000人を動員する計画を立てている。汚染水対策として緊急性が高まっている凍土遮水壁の建設要員を含めると、その数はさらに膨れ上がる見通しだ。
「これだけの人員を導入して、果たして東電が彼らの安全を守れるのか、考える必要があるだろう」と日本原子力研究開発機構安全センターの中山真一副センター長は東電の現場管理能力に疑問を投げかける。
緊急度が増している除染や廃棄物処理を推進する法的措置として、2011年8月30日に議員立法による「放射性物質汚染対処特措法」が公布され、昨年1月1日から施行されている。しかし、厚生労働省によると、この法律は、除染作業などを行う業者の登録や審査を義務付けておらず、誰でも一夜にして下請け業者になることが可能だ。
多くの零細企業は、原発を扱った経験がないにもかかわらず契約獲得を狙って群がるように応札し、さらに小規模な業者に作業員をかき集めるよう依頼している、と複数の業者や作業員は証言する。
今年上半期に福島労働局が除染作業を行っている388業者を立ち入り調査したところ、68%にあたる264事業者で法令違反が見つかり、是正勧告した。違反率は昨年4月から12月まで行った前回調査の44.6%から大きく増加した。違反の内容は割増賃金の不払い、労働条件の不明示から作業の安全管理ミスまで多岐に及んでいた。
(中 略)
<避けられない下請け依存、届かない監視の目>
末端作業員への搾取がなくならない福島第1原発の実態について、雇用ピラミッドの頂点に立つ東電はどう考えているのか。
同原発の廃炉や地域の除染に必要な時間と作業量があまりにも大きく、自社だけでは人員も専門技術も不十分で、下請けに任せるしかない、というのが同社の現状だ。 同社は下請け作業や雇用の実態まで十分に監視できていないと認める一方、下請け業者は、作業員の酷使や組織的犯罪への関わりを防ぐ措置を実施していると強調する。
あっせん業者による給料の横取りを防ぐために、雇い主と管理企業が異なるような雇用形態は禁止されているが、東電が昨年行った調査では、福島第1の作業員の約半数がそうした状況に置かれていた。同社は元請け会社に労働規制の順守を求める一方、作業員の疑問に答えるため、弁護士が対応する窓口も設立した。さらに、厚生労働省による労働規制の説明会を下請け業者向けに開いたほか、6月には、新しい作業員に対し、不法な雇用慣行を避けるための研修を受けるよう義務付けている。
待遇改善が進まない背景には、東電自体が金融機関と合意した総合特別事業計画の下で厳しいコストカットを要求されているという現実がある。同社はすでに2011年の震災後に社員の賃金を20%削減した。業務委託のコストも厳しく絞りこまれており、結果的に下請け労働者の賃金が人手不足にもかかわらず、低く抑え込まれているという現実を生んでいる。ロイターがインタビューした福島第1の現場作業員の日当は平均で1万円前後で、一般の建設労働者の平均賃金よりはるかに低い。
賃金や雇用契約の改善のみならず、現場での作業の安全性が確保されなければ、廃炉や除染事業そのものが立ち行かなくなる懸念もある。今年10月、作業員が淡水化装置の配管の接続部を外した際に、作業員計6名が高濃度の汚染水を浴びる事故が起きた。8月には作業員12名が、原子炉からがれきを取り除いていた際に被ばくした。
こうした事故の続発を受け、原子力規制委員会の田中俊一委員長は、不注意な過ちを防ぐには適切な監督が重要だ、と指摘。現時点で東電は下請け業者に作業を任せ過ぎている可能性があると述べている。
福島労働局によると、通常の業務委託は2次か3次の下請けぐらいまでだが、福島原発の廃炉や除染事業については、膨大な作業量を早急に処理すべきという社会的な要請が強く、下請け企業を大幅に増やして対応せざるを得ない。雇用者が下請け企業や作業員をしっかりと選別できないという現状の解決が最優先課題という。
「下請け構造が悪いとはいえない。労働者が全然足りない状況にあるということが大きな問題だ」と同局の担当者は指摘する。「廃炉や除染事業にヤクザの関与を望む人は誰一人いないはずだ」。(文中、敬称略)
(Antoni Slodkowski、斉藤真理;編集 北松克朗、石黒里絵、田頭淳子)