日刊ゲンダイの24日号に、泉田裕彦県知事の直撃インタビューが載りました。
テーマは全て柏崎刈羽原発の再稼動問題に絞ってありますので、この問題についての知事の考え方は従来通りで一貫していることが良く分かります。
以下に紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[注目の人直撃インタビュー] 泉田裕彦氏 (新潟県知事)
日刊ゲンダイ2013年10月24日
「東京電力はお金と安全とどちらを優先する会社なのか」――。
今年7月、広瀬東電社長にこう迫っていた新潟県知事が、9月末、柏崎刈羽原発6・7号機の安全審査の申請を条件付きで認めた。このまま再稼働へ一直線なのか。それでいいのか。本人を直撃し、真意を聞いた。
―東電の安全審査の申請を認めました。単刀直入に聞きます。知事はひよったのですか。
泉田 「東電は『原発の安全性について第三者の目を入れたい』、噛み砕いて言えば、『自分の設備に自信が持てない』旨の発言をしていたんです。甘利大臣も『事業者の目の届かない問題点を(第三者が)洗い出した方がいい』と言われていた。地元からも『不安だから早めに第三者の目を入れてくれ』という声が、それはたくさんありました。7月に東電は、県に相談なく(再稼働を)申請しようとしましたが、それから2カ月半やりとりし、最後は『県と相談する』と明言した。(県が条件としていた)第2ベント(排気装置)を設置する提案もあったので、(審査を)止めておく理由はありません。ただし、住民の命と安全と財産を守るという条件付き。さらに審査を受けることも仮承認という形にしていますので、議論した結果『これでは健康を害する被曝をしてしまう』となれば、審査の承認は無効です」
―条件をクリアできなければ無効ですか。ならば、なぜ「再稼働へ前進」というようなマスコミ報道になるのでしょうか。
泉田 「報道では、本来伝えるべきことを伝えてもらえないんです。(9月の)広瀬社長とのやりとりはフルオープンでした。そこで、福島の事故の検証をしなければ、また同じことを繰り返すと、申し上げた。3月11日の地震当日に福島原発はメルトダウンしていたんですよ。しかし、東電は5月15日までメルトダウンを認めなかった。冷却材を喪失すれば2時間でメルトダウンするというのは、普通の運転員だったら誰でも知っている基本中の基本です。それにもかかわらず、メルトダウンを2カ月も認めなかったのは、どういう理由なのか、誰がウソをつくよう指示をしたのか。事実を明らかにしてくれと(会談で)言ったのですが、(こういう話は)報道してもらえない。切り取りで報じられる。メルトダウンのウソの検証と解明が、東電が信頼できる会社になる第一歩。それがなければ再稼働の議論にはならないんじゃないでしょうか」
―いま原子力規制委員会がやっている安全審査以前の問題ですね。
泉田 「そもそもあれは安全審査じゃない。規制基準適合審査なんです。そしてその規制基準は、一定の確率で事故が起きるという基準です。事故が起きても『我々は起きる前提でご説明していましたから、基準には合ってたんです。責任はありません』と言うために審査をやっているとしか言いようがありません。規制委員会には設備班と断層班しかないんです。世界の標準は『住民の命と健康をどう守るか』なのに、田中委員長は『そこは私たちの仕事ではない』と言う。無責任以外の何ものでもありません」
―それでも、泉田知事が審査を認めてしまったので、このままベルトコンベヤーのように、適合OKになって、再稼働へ流れていく懸念があります。
泉田 「そこは一番重要なところなんで、正確に伝えていただきたいんですが、フィルターベントは放射能を放出する装置ですから、健康に影響ある被曝をするような装置はOKできません。したがって、これから避難計画との整合性や機器の性能もチェックする。つまり住民の健康が守れないということが明らかになれば、今回の申請の承認は無効です。県の了解を取れない限り、ベントの運用ができないということは、稼働できないということなんです。ご懸念のようなことはないと思っています」
―東電はそういう状況にもかかわらず、14年4月の再稼働を前提に収支計画を出し、銀行に伝えると一部で報道されました。県との信頼関係を裏切ることになりませんか。
泉田 「仮にそういうことなら、やっぱり東電は住民の安全より、お金のことばかり考えているということでしょう。福島の廃炉や汚染水、賠償問題を抱えて、原発の安全な運用なんてできるんでしょうか。社長の頭の中が『どうやってお金を借りようか』で一生懸命だったら、安全に意識が行かないじゃないですか。原子力発電所に責任を持つ体系をどうつくっていくのか。その過程で東電には問題があるのならば、当然、破綻処理も含めて体制を整備することが先じゃないかと思います」
―原子力規制委員会の田中委員長が「個性的な人ですね」と言ったり、知事を変人扱いする空気もあります。圧力を感じることは?
泉田 「感じますよ。車でつけられたことがあります。プロの運転手さんはわかるんですよね。『あれ、つけられている』と。高速でね、パーキングエリアに入ってすぐ出るんですよ。普通、パーキングエリアに入ったら、(降りて建物の)中に入っていくじゃないですか。こっちがパーキングエリアを出ると、一緒に付いて出てくる。どこまで行っても、小道に入っても付いてくる。薄気味悪かったですね」
―そういうことがあると、圧力にひるみませんか。
泉田 「知事としてやらないといけないことは、住民のみなさんの安全と生命と財産を守ること。07年の中越沖地震の時、柏崎刈羽原発の東電のサイトと連絡が取れなくなりました。ホットラインのある建物が地震で歪んでドアが開かず、入れなかったというのですが、地震の際、事故は複合で起きるわけだから、ホットラインが使えないと困ると、かなり言ったんです。もう知事、そろそろいいんじゃないかという話も多々ありましたけど、断固としてやってくれと言った。そうしたら造ってくれたのが免震重要棟なんです。あわせて、福島にも免震重要棟を造った。完成したのが、東日本大震災の8カ月前でした。だからあの時、私がひよって、言うべきことを言わなかったら、あの福島に免震重要棟はなかったんですよ。免震重要棟がなかったら、いま東京に住めないんじゃないですか。口をつぐんでしまえば、同じ事故が起きたときに不作為の責務を負ってしまう。『変人』と言われようと、言うべきことは言っていきます」
―知事には住民の安全と生命と財産を守る責務があると何度もおっしゃいますが、総理大臣にも国民の安全と生命と財産を守る責務がありますよね。
泉田 「例えば、2時間くらい時間をもらって、じっくり『こういうことです』とレクさせてもらえば、伝わると思うんですよ。でも組織って、都合の悪い情報を上げているのかというと、そこはわからないんですよね。いろんな人から直接話を聞いて判断しないと、正しいと思って結果として間違った判断をする可能性は、否定できません。それから、(国が仕切る)原子力災害特別措置法と(自治体が自然災害に対応する)災害対策基本法、これが別体系になっているんです。法律を一本化してくれ、という話を前の平野防災大臣にしました。民主党政権は『見直します』とずっと言ってくれてたんです。ところが政権交代したら、古屋大臣は、YESと明示的に言ってくれないんですよ」
―もう一度原発事故が起きれば、法律的に見ても再び混乱することになるのですね。
■いずみだ・ひろひこ 1962年新潟県加茂市生まれ。京大法卒、87年通産省。資源エネルギー庁、産業基盤整備基金総務課長、岐阜県新産業労働局長などを経て、04年10月新潟県知事。現在3期目。