元経産官僚の古賀茂明氏が題記の主旨の記事を出しました。
古賀氏は各原発で実効性が問題視されている「原発災害避難計画」について、現在の規制基準では言及されておらず、原子力規制委員会がノータッチのまま再稼働に漕ぎつけていると述べました。
原発事故時の「深層防護」の仕上げの「第5層」で規定される「住民被爆の防止」に関して、最高の審査機構である規制委が避難計画に全く関与しないなどあり得ないことで、海外では全て規制委に相当する機関がそれをチェックしています。
当ブログでもその点を当初から指摘し、「厳格にチェックすればOKを出せる原発がなくなるから逃げたのでは」と推測していました。
規制委がノータッチとなった理由は違っていましたが、規制委がチェックすれば稼働OKが出せなくなるという点では古賀氏と一致していました。
古賀氏は、全国の原発立地自治体が作った避難計画を、作成した自治体自身が「絵に描いた餅」であることを承知していると述べています。
マヤカシであると知っていながら作りあげ再稼働を実現してきたのですから推して知るべしで、事故時に実効性がないのは当然のことです。
古賀氏は26日から始まる通常国会で野党はこの問題を重点的に取り上げて、避難計画を規制委の審査対象に含めるように法律の改正案を提出するところまで踏み込むことが必要だとしています。
改正案が成立すれば現在稼働中の原発を含めて、おそらくほとんどの原発を動かすことが認められなくなる筈だとして、この問題を真正面から取り上げれば必ず原発を止めることにつながると確信していると述べています(ただこの場合「連合」と深い関係にある立民党の動きが非常に問題となります)。
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(15.1.3)原発再稼働の現行要件は極めて不十分
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能登半島地震でマスコミが映さない原発の「不都合な真実」 ずさんな避難計画を隠そうとする政府と電力会社
古賀茂明 AERA dot. 2024/1/16
先週に続いて、あまり知られていない原発の「不都合な真実」をもう一つ紹介しよう。
それは、原発周辺住民などのために作られている原発災害避難計画は原子力規制委員会の「審査」を受けていないということだ。
【写真】これでも大丈夫? 原発近くの道路にできた大きな亀裂はコチラ
普通の人は、国が再稼働を認めるからには、ちゃんとした避難計画があり、その計画は、政府が言うところの「世界最高水準の」基準に従って規制委が審査していると思うだろう。だが、実際には全く違う。規制委は、避難計画にはノータッチなのである。
したがって、ほぼ全ての計画が全くいい加減な「なんちゃって避難計画」になっている。信じられないかもしれないが、それが真実だ。
今回の能登半島地震では、地震と津波、火災による家屋の被害とともに、広範囲に及ぶ道路が、土砂崩れ、亀裂、陥没、隆起などで寸断された。津波で港が被害を受け、海岸が隆起した地域もあった。
そのため、人や物の移動が陸路でも海路でも困難になったり、長時間孤立したりする地域も出た。
先週のコラムでも書いたとおり、北陸電力志賀原発では大事故は起きなかったが、想定を超えた揺れが確認されたり、そのほかにもいくつかの重大なトラブルが起きたりして、また、敷地内の道路などで亀裂や段差が生じたという報告もなされた。
原発事故につながるような大きな地震があれば、こうした事態になることは誰でも予想できる。
当然のことながら、それに対応するための対策がとられているはずだ。
では、具体的には、どのような対策があるのだろうか。
原発災害の際の避難計画は、各自治体が策定することになっている。そこで、志賀原発が立地している「志賀町原子力災害避難計画」をネットで検索してみた。平成29(2017)年11月付の資料だ。
読んでみて呆れたのだが、避難手段を記載した箇所の冒頭に、
「避難にあたっては、災害の状況に応じ、自家用車をはじめ、自衛隊車両や国、県、町の保有する車両、民間車両、海上交通手段などあらゆる手段を活用する」
と書いてある。要するに、主たる移動手段は「自動車」としているのだ。ご丁寧に自家用車で避難できない人はバスで運ぶとまで書いてある。避難ルートは国道・県道などとし、警察・消防が避難誘導を行うそうだ。
笑い話のようだが、笑い事ではすまない。ことは多数の人命に関わる問題なのだ。
こんな杜撰な計画を真面目な顔をして住民に提示している志賀町はとんでもない自治体だと思う人もいるかもしれない。志賀町の町長も町会議員も町役場の職員も本気でこの計画で大丈夫だと考えていたのだろうかということが疑問に思えるだろう。
しかし、全国の原発立地地域の自治体が作った避難計画は概ねこの程度のものだ。実は、彼らもこんな計画は絵に描いた餅であることはよく知っている。しかし、原発を動かさないと地域にお金が入ってこないので、やむなく作っているということだ。
彼らから見れば、それも住民のために仕方なくやっていることなのだろう。
逆にいうと、住民のためにやむなくやっていることで後から責任を問われるのは割に合わないと思う自治体の長も多い。
そこで、国が助け舟を用意した。
内閣総理大臣が議長を務め、全閣僚などからなる「原子力防災会議」という、閣議とほとんど同じメンバーの政治的な集まりでお墨付きを与える仕組みを整えたのだ。これにより、避難計画はおかしいと言われても、「いえいえ、これは総理大臣のお墨付きを受けたものです」と反論できる。責任逃れにはうってつけだ。
そういう仕組みになったのは、民主党政権下で原発規制を作る時に、あえて、避難計画を規制委の審査の対象外としたことによる。
だが、そんなおかしなことをしたのはなぜか?
それは、避難計画を規制委の審査対象とすれば、専門家のチェックが入り、その結果、承認される避難計画は皆無となる。なぜなら、大きな地震で原発災害が起きた時、道路などが寸断されるリスクがない地域などなく、その場合、住民を短時間のうちに避難させることが不可能だからだ。つまり、まともな避難計画は作れないということを意味している。
仮に、規制委が避難計画を審査することになれば、どう考えても、承認されるとは考えられない。つまり、日本の原発は全て止まり、廃炉にするしかなくなる。
しかし、当時原発規制について協議していた与党民主党と野党自民党には共通の利益があった。自民党は原発利権を守りたい。民主党は最大の支持基盤である連合(電力総連など原発関連の有力な組合を傘下に有する)の支持を失いたくない。両者の思惑が一致して、原発を動かすために避難計画を規制委の審査対象外としてしまった。
避難計画を規制委の安全審査の対象外とすることは、極めて不合理である。
第一に、住民の避難ができない可能性があるのであれば、原発から放射能が漏れることは絶対に許さないという安全基準にしなければならない(それは原発を禁止するのと同義である)。
第二に、避難はできても時間がかかるということであれば、その時間が経過するまでの間は事故があっても放射能が漏洩しないような設計にしなければならない。メルトダウンは稼働中なら2時間で起きる。フィルターベント(事故の際、原子炉格納容器内の圧力が高まって破損する恐れが生じた場合に、フィルターを通すことで放射能の濃度を下げたうえで蒸気を外部に逃がす装置)で放射能を外に放出するまでの時間を長くするためには、格納容器や原子炉建屋の容積を大きくする必要がある。避難にどれくらい時間がかかるかがわからなければ、設計基準が決められないはずだ。
いずれにしても避難計画と設計基準は論理的に切り離せないのだ。
米国では、住民の避難ができないケースが想定されれば、原発の稼働は許されないという規制になっている。
現に、ニューヨーク州のロングアイランドに新設されたショアハム原発が、1984年に完成したものの、稼働直前になって避難計画に難ありという理由で稼働が許されず、一度も動かないまま廃炉にされた。東京電力柏崎刈羽原発や志賀原発と同じ沸騰水型の出力約80万キロワットで、建設コストは60億ドルにも上ったが、住民の安全の方が優先された。これが正しい原発規制のあり方だ。
日本の原発規制は極めて歪んでいる。原発再稼働が全ての前提になっており、再稼働の妨げになるものは、考慮しないということが平気で行われているのだ。規制委は、住民の安全を守るためではなく、原発を動かすことを第一目的とした機関となっている。これは、規制委ができた時からわかっていたことだ。
2012年当時、最大の課題は、福島事故の完全な収束であった。具体的には汚染水の処理問題が喫緊の課題だった。しかし、規制委は、規制基準の策定を最優先し、最低2年は必要と言われる中で約半年という短期間で規制基準を作った。これは、規制基準がないと審査ができず、原発再稼働ができないからだ。その結果、汚染水問題は放置された。
今回、志賀原発で大事故が起きなかったのは本当に幸いだった。だが、それで喜んでいるわけにはいかない。
現にさまざまなトラブルが原発内で生じ、また周辺道路も一時通行ができなくなった。震源が少しずれていれば、もしかすると大惨事になっていたかもしれない。
住民の反対で頓挫した珠洲原発の建設計画も、当時は地震でも大丈夫だという話だった。もし、計画が実現して珠洲で原発が稼働していたら、壊滅的な被害が生じ、周辺住民は避難できず大惨事となっていたことだろう。
今回の地震に際し、マスコミには当初、原発周辺の現場に足を運んで取材する様子が見られず、1月5日ごろになるとようやく写真などが報じられるようになったが、報道としては極めて小さな扱いでしかなかった。
忖度しているのかなと思ってテレビ局の複数のディレクターなどに聞くと、驚くべきことに、スタッフで原発のことを気にかけていた人はほとんどいなかったという話だった。原発にカメラを出そうと提案をしても、人手もカメラも足りない中で、原発にカメラを出してどうするのだと言われるだけだと最初から諦めたという人もいた。忖度でもなんでもない。ことの重大性の理解がないのだ。報道の劣化が如実に表れた場面である。その結果、原発関連のニュースは今も極端に少ないという状況が続いている。
これは、政府や電力会社にとっては嬉しい話だ。
今頃、志賀原発では、敷地内で亀裂や段差の修復や故障した機器の復旧が進んでいるだろう。周辺道路の修復も優先して行われるはずだ。
その結果、1カ月も経たないうちに、志賀原発は、一見何事もなかったかのような外見に戻る。2月になれば、北陸電力の方から、現地を撮影してくださいという案内があるかもしれない。大被害を出した能登半島地震でも、ほとんど無傷だった志賀原発という絵が流れれば、原発再稼働に追い風が吹く。
1月26日から通常国会が始まる。そこで、野党には、この原発の問題を重点的に取り上げてもらいたい。その際、避難計画を規制委の審査対象に含めることを提案し、法律の改正案を提出するところまで踏み込むことが必要だ。
政府の側にそれを拒否する理屈はない。今までは、国民が知らなかっただけだが、今回はこの問題に関心を集めることができる。千載一遇のチャンスである。
そして、避難計画が規制委の審査対象になれば、現在稼働中の原発を含めて、おそらくほとんどの原発を動かすことが認められなくなるはずだ。
ただ、心配なことがある。それは、電力労組や原発メーカー関連の組合などを傘下に置く連合が立憲民主党に圧力をかけることである。今のところ、同党は、今回の地震を受けて、避難計画を規制委の審査対象に加えよという話はしていない。
先週指摘した原発の耐震性の問題よりも、はるかにわかりやすく、反対する理屈がほとんど考えられないこの問題を取り上げた方が勝算がある。
脱原発には反対でも、まともな避難計画を作れということに反対する人は少ないだろう。
私は、この問題を真正面から取り上げれば、必ず原発を止めることにつながると確信している。