元経産官僚の古賀茂明氏が掲題の記事を出しました。
河野デジタル相は、今後A Iシステム用電源として急速に発電量を増大させる必要があるので、原発の再稼働や新設が必須だと訴えました。自身が「脱原発」を封印した理由を釈明できる好機と考えたのかも知れません。
しかし再生エネに比べ発電コストが高い原発を使うのはあり得ないことで、諸外国ではA Iシステム用の電源には「再生エネ+蓄電設備」を用いるのが常識になっているということです。
再生エネの欠点は24時間安定した発電量が確保できないことで蓄電設備が必須です。ところがその価格がこのところ急激に安くなり、原発の発電コストを大幅に下回ったためです。
日本では原子力ムラの総帥である経産省はいまも見掛け上原発が安いかのような欺瞞を行っていますが、経済界はすでにそのゴマカシを見抜いています。
8月に公表された共同通信の主要企業111社へのアンケートによると、「政府のエネルギー基本計画」の見直しで、盛り込んでほしい事項の1位(複数回答)は「電源構成の再エネ比率拡大」59%、2位が「送配電網・蓄電設備の導入目標設定」30%だったのに対して、5位が「原発の新増設」17%、6位が「原発の建て替え」13%でした。
全ては「再生エネの拡大」を妨害し、「送配電網への蓄電設備導入」などをサボることで、「原発こそが自分たちの生きる道」としてきた経産省の責任であり、それこそはいまや「世界の非常識」になっています。経産省は何よりもまず、「原発重視」の考え方を根本的に改めるべきでしょう。
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敦賀原発2号機の再稼働「不合格」で明白になった活断層の危険性 日本の原発推進派の主張は“世界の非常識”だ
古賀茂明 AERA dot. 2024/9/3
8月28日、日本原子力発電の敦賀原子力発電所2号機(福井県)について、原子力規制委員会は、原子炉建屋直下の断層が活断層である可能性が否定できないとして、再稼働の前提となる審査に不合格とする審査書案をとりまとめた。
わかりやすく言えば、再稼働を認めないということだ。このような判断は、規制委ができて以来初。今後、パブリックコメントの手続きを経て正式に不合格となる見込みだ。
原電は審査を再申請する意向だが、規制委は、敷地内や周辺に100以上の断層があり、その再評価が前提だとしているので、再稼働が認められることはほぼないと見られ、廃炉に向かうしかなくなるだろう。
この2号機を巡っては、原電による審査資料の約80カ所の無断書き換えや約1300カ所に及ぶ誤記が発覚し、審査が2回中断された。そもそも、そんな酷いことをする会社に原発を動かす資格などない。不正が見つかった時点で、審査を終了すべきだった。
原電は、国内で唯一の原発専業企業だ。大手電力9社が出資してその資金で原発を建設し、電力を電力各社に販売して収益をあげてきた。
しかし、保有していた原発4基のうち2基はすでに廃炉が決まり、福島の事故後停止したままの残り2基のうち1基が今回廃炉とほぼ決まった。
残る1基、茨城県の東海第二原発も再稼働の見通しは立たず、廃炉に追い込まれる可能性さえある。
現在、原電は、東京、関西、中部、北陸、東北の大手電力5社と電力販売契約を結んでいて、原発が稼働していないにもかかわらず、なぜか「基本料金」の支払いを受け続けている。この先716億円と見積もられた敦賀2号機の廃炉費用が発生すれば、これも電力会社に負担してもらう必要がある。
電力会社が支払っている基本料金や将来の廃炉費用などは、電力料金に転嫁される。全部私たちがそのツケを負い続けるわけだ。
これはどう考えても正当化できない。
今すぐに、原電の原発すべてを廃炉にする決定をして、原電を清算すべきだろう。
■タブー視になった「廃炉」という言葉
敦賀原発に限らず、日本中どこに活断層があってもおかしくないことは、大きな地震があるたびに思い知らされてきた。今年初めの能登半島地震でも活断層の怖さを多くの人が認識したばかりだ。
日本で活断層がない場所を言い当てることは、科学的に困難だといわれるが、敦賀のように危ないところで原発建設が認められたのはなぜかといえば、原発建設という結論ありきで、あとは電力会社が出してきた資料をもとに政府が無理して建設を認めてきたからにすぎない。
原電内部でも、これ以上無理して原発を動かすべきではないと考える人もいるはずだ。しかし、「廃炉」という言葉を発することは、原子力ムラではタブーになっている。
一度始めたら止められない。日本人の悪弊がここでも支配している。これまで、それを破る勇気がなかったために、どれだけ大きな失敗を繰り返してきたのか。
その教訓を思い出してほしい。
ここで世界に目を転じてみよう。今や、世界中で再生可能エネルギーのコストが原発を遥かに下回る状況になった。蓄電池の価格も劇的に下がり、太陽光や風力のような変動する再エネでもこれと組み合わせれば安定電源になるし、コストも十分に他の電源を下回る状況になった。脱原発は夢ではなく、具体的な計画さえ作れば実現できる次元の話になったのである。
実は、それは誰でも知っている世界の常識。それが常識になっていないのは、日本だけだ。
世界をリードする米GAFAMなどの巨大テック企業は、脱炭素を主要な経営目標に掲げており、今後巨大なAIデータセンターなどを建設する際に、この脱炭素目標と整合的な計画を作る。
例えば、米アップルは2030年までに、自社のみならず、取引先の温室効果ガス排出「スコープ3」(サプライチェーン、輸送、製品の使用、廃棄など、自社の管理外の発生源による事業運営に起因する温室効果ガス)までを含む供給網全体で、排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。
米グーグルも30年までにデータセンターやオフィスで使う電力をすべて再生可能エネルギーとする方針だが、データセンターの電力需要増でこの実現に黄信号が点っている。
米アマゾンも、25年までに100%再生可能エネルギーで自社事業を運営する予定だ。スコープ3の脱炭素目標は40年だが、サプライヤーなどには、すでに炭素排出量データの報告・排出量削減目標の設定を要求していると報じられている。
米マイクロソフトは、創業者ビル・ゲイツ氏が原発推進派であるため、脱炭素に原発を活用することに問題はないとすると思われるが、多くのテック企業は、新たなプロジェクトを計画する際に、再エネ電力の調達をセットで考える傾向がかなりはっきりしている。
■的外れな日本の姿勢
日本は再エネ導入が主要国の中でも最も遅れているが、今後、国境を超えたバリューチェーンの中で生きるためには、これらテック企業の要請に応えて再エネ電力を確保することが非常に重要な課題となっている。
それはかなり前から認識はされていたが、最近のAIブームは当初の想定外で、再エネ電源の奪い合いがすでに始まった。日本企業は、慌てて対策を取ろうとしている状況だ。
そんな中で、岸田文雄首相は、「脱炭素のためには原発だ!」という掛け声をかけている。自民党総裁選を前に、河野太郎氏が脱原発から原発容認に舵を切り、同じく脱原発だった小泉進次郎氏も追随する姿勢だ。
しかし、これは全くピントはずれである。なぜなら、まず、今ある原発の再稼働はそう簡単には進まない。規制委の審査が必要だし、それを通っても、地元の同意を取り付けるのは極めて困難だ。再稼働できるとしても、何年かかるかわからない。
政府は、原発の新増設で対応などと寝ぼけたことを言っているが、新増設には15年から20年はかかるし、政府が期待をかけるSMR(小型モジュール炉)などはコスト的にペイしないことがはっきりしていて、電力会社でさえ、腰が引けている。
こうした現状から見れば、最も現実的でしかも最もコスト的に安いのが再エネと蓄電池の組み合わせで安定的な脱炭素電源を確保する方策である。
太陽光パネルのコストが劇的に低減したことは周知のことだが、現在起きているのは、蓄電池のコスト低減である。私も最新データを見て驚愕したが、蓄電池の低コスト化のスピードは想像を絶するもので、再エネ+蓄電池のコストは、原発と比べると、問題にならないくらい安くなった。最近出ている世界の各種調査機関による電源別のコスト比較では、原発が高すぎて話にならないので、比較表から原発が除かれるものまで出てきた。
日本は、AIの世界で大きく遅れてしまった。もはや、欧米企業との競争だけでなく、アジア諸国とも競争しなければならない状況である。アジア諸国の売りは、豊富な水力発電や今後急拡大させる計画の再エネ電力である。それを武器にAIデータセンターの誘致に力を入れているのだ。
今や、「脱炭素に原発で」というのでは、世界の笑い者になるだけだ。
ここまで説明したことを理解すれば、この窮地を脱するためには、数年で再エネを急拡大する必要があるということはご理解いただけるだろう。しかし、政府の動きは鈍い。
■日本が東南アジアの国々に後れをとる未来も
実は、経済界では、そのことにかなり危機感が高まっているようだ。
今年8月に公表された共同通信の主要企業111社へのアンケートでこんな結果が出ていた。
「政府のエネルギー基本計画(今年は3年ごとの見直しの年にあたる)の見直しで、盛り込んでほしい事項は(複数回答)」という問いに対して、回答の1位が、「電源構成の再エネ比率拡大」59%、2位が「送配電網・蓄電設備の導入目標設定」30%だったのに対して、5位が「原発の新増設」17%、6位が「原発の建て替え」13%だった。
つまり、原発よりも再エネを増やしてというのが経済界の明確な意図である。それも、電源構成の比率(現在の原発の30年度目標は20~22%)でも再エネが増えるような明確な目標を設定してくれということ、さらに、発電量のふれが大きい再エネを活用するためには、送電網を拡充して地域間の電力融通を強化するとともに蓄電設備を増強することをただ「やる」というのではなく、明確な「目標値」を設定せよということだ。
政府が、「原発で」と言っているのでは話にならないという経済界の苛立ちが読み取れる。
再エネを急いで拡大するには、太陽光と蓄電池による電源開発が最も簡単だ。しかし、今、太陽光に反対するキャンペーンが全国で拡大している。電力会社と経済産業省の原子力部局のタイアップによるものだ。マスコミも自民党議員もこれに乗って大騒ぎしている。
こうしているうちに、日本は、AIデータセンター建設競争で東南アジアの国にも遅れてしまうだろう。
先日、日本で最も信頼できる原発専門家の一人と話していると、彼は、上述のような日本の状況を指して、「世界中で、日本だけが、夢物語の世界に生きているようだ」と言っていた。
さらに、もう一つ面白い指摘があった。東日本大震災以降20基以上の原発の廃炉が決まったが、一つの発電所の中で全ての原発が廃炉になったところは、東京電力の福島第一・第二原発以外にはないということだ。
全ての原発の廃炉を決めると、その地域への補助金が止まる。それではその地域が生きていけないので、安全性や経済合理性などとは関係なく、政治的理由だけで、存続を言い続けなければならないからだ。
稼働期間を40年から60年に延ばす審査について、審査期間が長引いたらその分運転期間も延ばして良いという規則変更も、原発を動かさず稼働延長の審査も全く進まないままの原発が40年を経過しても延々と補助金を流し続けようとする目的があったのは明らかだ。
原電の敦賀原発でもこれと同じことが起きている。だから、絶対にダメだとわかっていても、補助金を流し続けるために再稼働申請を繰り返すわけだ。
これは、誰も通らない過疎地の道路を延々とつくり続ける公共事業と同じではないか。
地域住民の生活保障のために原発を稼働できなくても廃炉にせず、再稼働すると言い続ける。
一方で、原発延命を優先して再エネの発電を抑制し、結果的にAIデータセンター建設競争やサプライチェーンの脱炭素化の波に乗り遅れて、産業競争力を一段と衰退させる。
そんな愚行は、もういい加減やめるべき時だ。