岸田政権は8月下旬から僅か4か月で、原発の運転期間上限60年を撤廃し60年以上の運転を可能にする新たな規制の枠組みや新増設の容認、原発再稼働の促進など、これまで歴代の政権が抑制的に対応してきた原発政策を一挙に大転換しました。
この間、原子力規制委にもその役割に大いに疑問符が付く対応が見られた上に、規制委の事務局に当たる規制庁が独断的に経産省と「事前調整」をしていたことも判明しました。
河北新報がこの「事前調整」について深堀りする記事を出しましたので、「詳報」として紹介します。
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<ニュース深掘り>
「事前調整」が規制を骨抜きに 政府の原発政策大転換
河北新報 2023/1/9
政府は原発の長期運転や新増設を容認する方針を決め、原子力規制委員会は60年超の運転を可能にする新たな規制の枠組み案を了承した。岸田文雄首相が運転期間の延長を検討するよう指示してからわずか4カ月で国の原子力政策は大きく転換した。スピード決着の裏側には、規制委事務局の原子力規制庁と経済産業省の「事前調整」があったことが判明。東京電力福島第1原発事故を教訓にした「推進と規制の分離」が有名無実化している。(東京支社・桐生薫子)
「面談は経産省側から原発政策の検討状況について伝達を受ける場。協議や調整、擦り合わせと呼ばれるような行為はない」
規制庁で昨年12月27日にあった定例記者会見。黒川陽一郎総務課長の逃げ口上は2時間にも及んだ。
両省庁による事前調整は、NPO法人原子力資料情報室(東京)への内部通報で発覚した。岸田首相が原発政策の見直しを表明した翌日の7月28日から約2カ月の間に、非公開の面談を7回重ねた。記録は残さず、9月に退任した更田豊志前委員長、後任の山中伸介委員長への報告も怠った。
驚いたのは、規制庁職員が8月末に「頭の体操」(黒川氏)として環境省向けに作成した内部資料の存在だ。運転期間の上限規定を削除する原子炉等規制法改正の段取りを具体的に記載。「老朽プラントの増加が見込まれ、さらに安全規制を強化」と規制委が検討する内容も先取りしていた。
そもそも規制委は福島事故の反省から独立性の高い「3条委員会」として発足した。規制庁はその事務局に過ぎず、規制委の議論を誘導する越権行為は許されない。原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「切り離したはずの規制と推進が一体化している。福島事故の反省に真っ向から挑戦するものだ」と指摘する。
規制委は12月28日の会合で、原子力を推進する官庁との面談は記録に残し原則公開する方針を決めた。山中氏は記者会見で「透明性に欠ける部分があった」とする一方、「面談が検討スピードに影響したとは思わない」とも述べた。
規制委は60年超の運転を可能にする制度の見直しを急ぎ、年末のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議に間に合わせた。岸田首相は4日の年頭記者会見で「国民の命や暮らしを守るため、待ったなしの課題」として取り組んだ事例の一つにエネルギー政策の転換を挙げた。
国の原子力委員会で委員長代理を務めた鈴木達治郎長崎大教授(原子力政策)は「新増設や寿命延長は未来の話であり、喫緊の電力不足解消には直結しない。拙速と言わざるを得ない」と首をかしげる。
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)のバックエンド対策が抜け落ちているとも指摘。昨年、26回目の完工延期となった使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)に触れ「もはや日本原燃に運転する資格はない。核のごみは各サイトに乾式貯蔵する方法もあり、国会で調査機関をつくるなどして核燃サイクルの見直しを図るべきだ」と話す。
昨今の電力需給逼迫(ひっぱく)を免罪符にした政策転換はあまりに唐突だ。23日召集予定の通常国会には原子炉等規制法改正案が提出される見込みで、議論の行方を注視する必要がある。
[原発の40年60年ルール]原子炉等規制法は原発の運転期間を「原則40年、規制委が認めれば1回に限り最長で20年延長できる」と定める。東京電力福島第1原発事故の翌年の法改正で上限規定を設けた。政府は規制委の審査などによる停止期間を除外し、運転開始60年を超える稼働を可能にする方針を決定。規制委は運転開始30年以降は10年以内ごとに設備の劣化を審査することで、事実上60年超運転を認める新たな規制制度案を了承した。