東電旧経営陣の刑事訴訟における控訴審で、3名に刑事責任がないとされた件について、東京新聞が2008年時点で3名の経営陣が出席した2回の会議を中心に、当時どこまで明らかになっていたのかについて公判時の証言を整理しました。
経営陣が「長期評価」の信頼性に疑問を持つのは論外だし、「津波」の危険性について彼らが真剣に取り組もうとしなかったことも明らかです。それなのに無罪とは、検事役の弁護士が「結論ありきの判決」と批判したのは理解できるところです。あれだけの膨大な被害を与えても誰にも責任がないのであれば、やはり原発は危険極まりないものと言わざるを得ません。
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巨大津波対策を決断できた東電旧経営陣が「御前会議」で話し合った結果…「予想外の結論に力が抜けた」
東京新聞 2023年1月20日
一審に続き、巨大津波の根拠となった国の地震予測「長期評価」の信頼性を認めず、東京電力の旧経営陣3人の刑事責任を否定した二審判決。一連の公判では、東電内部で巨大津波への対策の必要性が検討されながらも、先送りされた実態が明らかになった。旧経営陣らには対策を決断できる機会が何度もあったが、いずれもリスクに向き合わなかった。
事故の3年前の2008年2月、3人を含む幹部がそろった「御前会議」で、長期評価に基づいて暫定的に試算した結果、「7.7メートル以上」の津波が襲来する可能性が報告された。従来想定(最大5.7メートル)を上回るが、3人はいずれも「報告は記憶にない」などと一審の法廷で証言した。
◆防潮堤工事に数百億円…「研究しよう」
その後の詳細な計算では「最大15.7メートル」と、東日本大震災時に福島第一を襲った津波高さ(推定約13メートル)に近い値が出た。08年7月の社内会議で、原発の事故対策の実質的な責任者だった武藤栄元副社長(72)に対し、地震津波担当の社員らが、防潮堤などの工事には4年の歳月と数百億円の工費がかかることを説明。武藤元副社長は「研究しよう」と述べ、先送りした。
この場にいた社員は、一審の法廷で「対策を進める方向だと思っていたので、予想外の結論に力が抜けた」と悔やみ、武藤元副社長は「適切な手順であり、先送りと言われるのは大変心外」と反論した。二審判決は、武藤元副社長の判断を「不合理とは言えない」とした。
◆「懐疑的」「当てにならない」で先送り
事故2年前の09年2月、御前会議で再び巨大津波が話題に。地震津波対策を担当する原子力設備管理部長だった故吉田昌郎氏=事故時の福島第一原発所長=が、「14メートル程度の津波が来る可能性があると言う人もいて」と発言した。
勝俣恒久元会長(82)は法廷で「(発言は)懐疑的に聞こえた」。武黒一郎元副社長(76)も、この会議から数カ月後に15.7メートルの津波の試算結果を知ったとした上で「『長期評価は当てにならない』とも聞かされた」と証言した。
対策が先送りされたまま、約2年後、東日本大震災による巨大津波が原発を襲った。(小野沢健太)